主要人物紹介
自己紹介をしておこう。俺の名前は秋葉巧。ここ、私立七草学園高等部の2年生だ。趣味は神社参拝で得意科目は歴史と地理。生徒会役員なんてことをやっているが、概ね普通の高校生だ。普通じゃないところも少しあるが、それは追々話すことにしよう。とりあえずは生徒会だ。
俺は生徒会室の扉を開いた。中には、6人の学生がいた。
「遅いわよ。まったく、どこでさぼっていたのよ」
この、後ろで髪を結い、吊り目をさらに吊り上げて俺を睨んでいる女は恵比寿洋子。俺と同学年で、俺がこの学園の中等部に転入してからずっと同じクラスの腐れ縁だ。
「屋上にいたんだよ。校内放送があったらしいな」
「ああ、まったく、こういうことはやめて欲しいもんだ」
そう言ったのは渋谷明彦先輩。生徒会副会長で、テニス部のキャプテンでもあり去年には2年生で全国のベスト4までいっている。その実績と貴公子的外見、にもかかわらず、ある理由で校内の女子には人気がない。同じ理由から男子には避けられている。
「理由があるのよ」
そっけなくそう言った、室内で一番背の低い美少女が馬場久菜先輩。生徒会長だ。外見に合わない、クールなおひとだ。
俺はイスを引き、色白で巻き毛の男の隣に座った。こいつは原正志。2年生だ。中身は軽くて付き合いやすい奴だ。こいつとは高校からの付き合い。同学年で同じ生徒会をやっているってこともあり、俺はこいつとつるむ事が多い。ちなみに俺とは反対の正志の隣は恵比寿。この位置関係には少しだけ理由がある。
俺がイスに座るのを待っていたかのように紅茶が置かれる。新橋美異だ。こいつは生徒会唯一の1年生。
「いや~、甲斐甲斐しいねえ。巧くん、果報者だね~」
そう言って、八重歯を見せて俺を見上げているのは岡地留美先輩。淡い色の髪を左右で結び、ぴょこんと尻尾のように振っている。ある意味、この人は俺の天敵だ。
「ほら、留美。席に着きなさい。始めるわよ」
岡地先輩は馬場先輩にそう言われると、顔に笑みを浮かべたまま俺から離れてイスに座った。
「それで、なんなんです?」
馬場先輩は答えず、リモコンのスイッチを押した。コの字型に置かれた机の中央に映像が浮かぶ。トリビジョン(立体テレビ)だ。
映像は今朝のニュースだ。それは、俺たちの通う七草学園のある憶良市でのニュースだった。見出しは「憶良市で怪死体。悪魔狩りの再現か?」。
昨夜未明、10台のフリーター5人の死体が中央公園で発見された。死因は5人とも失血性ショック死。死体には針で刺されたような無数の刺し傷があったらしい。ニュースのキャスターはその死体の不可解さを表向きは神妙に、実際には面白おかしく話していた。「一刻も早い犯人の逮捕を祈っています」の決まり文句でそのニュースは終わり、トリビジョンは消された。
偶然、だとは思うが、全員の視線が岡地先輩に集まった。岡地先輩は2度ほど瞬きをして、慌てて手と首を横に振った。
「私じゃないよう!最近は我慢してるもん!」
「あ、いや、わかっています。岡地先輩なら血だけ、なんてことをせずに骨までしゃぶるでしょうから」
「う~!いやな言い方!……そのとおりだけど」
「それで、このニュースなんだけど……」
「いや、わかりますよ。いつものパターンなんでしょう?」
「だね。それで、くーちゃん。対象者はわかっているの?」
「話が早くて助かるわ」
話を遮られた馬場先輩は少々不満そうに岡地先輩を見た。ちなみに「くーちゃん」は岡地先輩の馬場先輩に対する呼び名。
「対象者は2年A組の飯田恵」
俺はその名前に聞き覚えがあった。確か、ショートカットの大人しい娘だ。
「俺のクラスだ。恵比寿、あいつ、今日学校来てたか?」
「え?知らないわよ、そんなこと」
「今回は2年生の3人にやってもらうわ」
「了解です。授業が終わり次第教室に行ってみて、今日登校していなかったら放課後寮に行ってみます」
恵比寿は淀みなくそう言った。
ここ、七草学園は全寮制だ。
「放課後ではなく昼の間に寮に行って。早退の手続きはもうしておいたから」
馬場先輩はこういう強引なところがたまに出る。
「くーちゃんくーちゃん! わたしは?」
「留美は留守番。美異も明彦も、通常に過ごしていてくれればいいわ。でも、一応心には留めておいて」
「ああ、わかった」
「はい」
タイミングよく4限終了のチャイムが鳴る。俺たちは席を立った。
「おっし、恵比寿、正志、昼飯前に済ませよう」
俺たちは連れ立って生徒会室を出た。
2年A組は教室棟の3階だ。教室はもう昼休みになっており、和やかな空気が流れていた。
恵比寿は机を付けて弁当を食べている女子の集団に言った。
「ねえ、今日って飯田さん、来ている?」
仕切り魔でえばり屋の恵比寿はこのクラスではリーダー的存在だったりする。
「飯田さん?そういえば今日は来ていないね」
「私、寮が一緒だけど今日は朝から見ていないよ」
「えっと、あなたって、確か第2女子寮だったよね。ありがとう。私と秋葉、早退して午後の授業出ないから、先生に伝えておいて」
「なに?今からデート?」
「そんなんじゃないって」
恵比寿は和やかに女子に手を振って、教室の外で待っていた俺と正志のところに戻ってきた。
「今日は休んでるって」
「そうか。じゃあ今から寮まで行こう。第2女子寮なら歩きでもそう遠くないな」
第2女子寮は確か学校から歩きで10分ほどの距離にある。俺と恵比寿は歩き出した。が、なぜか正志がついて来ない。
「おい、正志、どうした?」
「……なあ、巧。今から第2女子寮に行くんだよな」
「?それがどうした?」
正志はいきなり俺の手を強く引くと、耳元で呟いた。
「ばかやろう! 女子寮だぞ! 女子の寮!」
「ほら、なにやってるのよ!」
「おう!今行く」
正志は恵比寿の呼びかけに何事もなかったように答えた。俺は少々呆然とした後、にやける口を抑えて2人の後を追った。