エピローグ
俺の一日は早朝ランニングで始まる。
峠道を降り、駅前を通って山を半周、ハイキングコースの山道を突っ切って、運動公園までのコースだ。
都心に通うサラリーマンの通勤の間を通り過ぎながら、駅前のキオスクで蛍光電子盤を見た。流れているニュースは芸能人の離婚と政治家の収賄事件だった。
俺は足を止め、携帯で電子新聞を見た。
地方新聞の隅のほうにその記事はあった。
「都内私立高校の女子寮で爆発事故。数人の死者」
それだけだ。飯田もこの事故で死亡したと処理される。
俺はランニングを再開した。
「巧くん、おはよう」
「おはようございます!」
荒い息を吐き、毎朝すれ違うランニング仲間と挨拶を交わしながら山道を駆け抜ける。
いつもより速いペース、終点である運動公園に到着する頃には俺は肩で息をして、その場に座り込んだ。
「おはようございます、巧さん。今日は早いですね。短いコースを走ったんですか? 体調は大丈夫ですか?」
運動公園で待っていた新橋にタオルを差し出される。俺はタオルを受け取った。
これも毎朝のことだ。
「いや、いつも通りのコース。体調は、もう大丈夫だよ。今日は少し速く走ってみた」
俺は息を整えて立ち上がった。
運動公園を見渡す。
所どころに焼け焦げた後が残っている。昨日の、戦闘の後だ。
俺はその場でストレッチを始めた。
「気にすることはないと思いますよ」
「なんのことだ」
新橋の言っているのは昨日のこと、飯田恵の件だ。とぼけてみるが、新橋は優しい笑みで俺の視線を受け止めた。
いつもと違うペースで走ったことで気付いたのか、こいつ、たまに鋭くなるな。
「……ああ、わかっているよ」
俺は新橋にタオルを返してストレッチを続けた。
「特に仲がよかったってわけでもないしな。同じクラスになってまだ1月ちょっとだし……」
さらになにかを言おうとする俺に、新橋は俺の右手の小指を掴んで黙らせた。
「帰りましょう。芳樹さんの朝ご飯、できてますよ」
軽く小指を引かれる。
俺は、そのまま新橋に小指を掴まれたまま、寮に帰った。
お付き合いいただきありがとうございます。
ここまでがこの小説の導入部になります。
明日からは『正義』編が始まります。
どうか、懲りずにこのままお付き合いくださいませ。