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第8話 あなたにもう一度歩いてほしくて

フィリアは丸一日、ベッドから起き上がれなかった。


理由は簡単だ。昨日、アルカ村中の坂道という坂道にスロープを作りまくったからである。


「……やりすぎた」


額に手を当てながら、ゆっくり体を起こす。

頭の奥がずきずきと痛んでいた。MPを一気に使いすぎた反動らしい。


体も少し重い。


「うぅ……」


それでも腹は減る。

なんとかベッドから降り、ふらふらと居間へ向かった。


居間ではマリアばあちゃんが朝食の準備をしていた。

焼いたパンの香ばしい匂いが部屋に広がっている。


「あら、おはよう」

「おはよう……」


フィリアは頭を押さえながら椅子に座った。

ばあちゃんは苦笑する。


「顔色が悪いねぇ」

「うん…頑張りすぎたみたい……」

「昨日は大仕事だったからね」


ばあちゃんは皿を並べながら言う。


「でも村のみんな喜んでたよ」

「ほんと?」

「ああ。坂が歩きやすくなったってさ。年寄り連中が大騒ぎだった」


フィリアはほっと息を吐いた。


「それならよかった……」


昨日の苦労も少し報われた気がする。


「あとで私も見に行ってみる」

「無理しなさんなよ」

「大丈夫」


フィリアは軽く笑った。


朝食を食べ終える頃には、頭痛もだいぶ落ち着いていた。


フィリアはさっそく村へ出る。

昨日作ったスロープを確認するためだ。


坂道。

家の入口。

畑へ続く小道。


どこへ行っても村人たちが声をかけてくる。


「フィリアありがとう!」

「助かってるわよ!」

「この坂、本当にいいわ!」


さらには野菜や果物などのお礼まで渡された。


「こんなにもらっていいの?」

「いいんだよ!」

「助けてもらったんだからな!」


一通り見て回ったが、スロープはどれも問題なく使われていた。

壊れているところもない。


「うん、大丈夫そう」


フィリアは確認を終えると川辺に向かっていた。

アルカ村の近くを流れる小さな川。

さらさらと水が流れ、静かな音を立てている。


鳥のさえずり。

頬を撫でる柔らかな風。


「はぁ……気持ちいい……」


のどかな景色を眺めながら、ふと思う。

スキルを手に入れてから、ずっと考えていることがあった。


カインの義足。


カインは片足を失っている。

今は歩行杖で歩いているが、どうしても不自由そうだった。


実は今まで義足の生成に何度も挑戦していた。


だが結果はすべて失敗だった。

木材を使っても形にならない。


(等級が足りないのかな……)

(それとも材料?)


原因は分からない。

そして、今日も試してみるつもりだった。


フィリアは個人記録(ハンドブック)を開く。


淡い光が現れ、本の形を作る。

そしてスキル欄を見た瞬間――


「え?」


思わず声が出た。


福祉創具:3級


「ええっ!?」


昨日まで4級だったはずだ。前回よりも級が上がるのが早い。

フィリアは少し考えた。


(なんで……?)


そして、ふと気づく。


「……スロープか」


昨日は村中に大量のスロープを作った。


坂道。

家の入口。

畑の入口。


かなりの数だった。


「それで上がったのか」


大変だったが、やってよかったと思った。


さっそく、フィリアはスキル説明を読む。


3級:身体機能を補助する基本的な補装具や移動支援具の生成が可能


「これだ」


フィリアは確信した。

今まで義足が作れなかった理由はスキルの等級が足りなかったからだ。


フィリアは立ち上がり、近くにあった木材を集めた。

そして、そこへ手をかざすと淡い光が木材を包み込んだ。


一瞬、光が揺らぐ。

フィリアは思わず息を呑んだ。


(お願い……)


次の瞬間。

木材がゆっくりと形を変え始めた。

削られ、組み合わされ、一本の形へと整っていく。


やがて光が消える。


そこに現れたのはフィリアがこれまで待ち望んでいたもの。

一本の木の脚だった。


昔、テレビで見た海賊が使っていた義足に似た形。

いわゆるペグレッグと言われるものに近い。


「……できた」


本当はもっと人の脚のようなものを作りたかった。

だが、この材料とスキルではこれが限界なのだろう。


「まあ、最初はこんなものかな」


フィリアはステータスを確認する。


消費MP1000


「うわ」


思わず声が出た。今までで一番大きい消費だった。


「今のレベルだと……一日一個が限界かな」


またMPを使い切って寝込むのはごめんだ。


フィリアは義足を持ち上げ、カインのところへ向かった。

 

カインは家の前にいた。

フィリアが近づくと不思議そうに眉をひそめる。


「それ、何だ?」


フィリアは義足を見せた。


「義足だよ」

「……?」


その聞きなれない言葉にカインはさらに眉をひそめた。


「簡単に言うと、脚を失った人の代わりに使う脚だよ」

「脚……?」


どう見てもただの木の棒だ。

カインはまだ半信半疑だった。


フィリアは笑う。


「実際に付けてみた方が早いね」


そう言ってカインの脚に装着する。


「立ってみて」


カインは恐る恐る立ち上がる。

ふらふらするが、杖なしで立つことができている。


そして一歩踏み出す。体がぐらりと揺れるが倒れない。


もう一歩。さらにもう一歩。

カインは歩いていた。


しかも杖なしで。


「……」


急にカインはその場で立ち止まった。


「カイン?」


カインは顔を伏せていた。

肩が小さく震えている。


カインは泣いていた。

大粒の涙がぽろぽろと地面に落ちる。


「……歩ける」


かすれた声だった。


「また……歩ける」


戦場で脚を失ったあの日からもう二度とこの感覚は戻らないと思っていた。


カインは涙を拭う。

フィリアは静かに笑った。


「慣れればもっと歩きやすくなるよ」


カインはうなずいた。

そしてすぐに外へ歩き出す。


「ちょっと練習してくる」


まだぎこちないが、確かに歩いている。

その顔は真剣だった。


けれど、どこか笑っているようにも見えた。

フィリアはその背中を見ながら、小さくつぶやく。


「頑張れ」


心の中で、そっと応援していた。

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