第6話 フィリアの目標
ひとしきり涙を流した二人。
少しの沈黙のあと、リックはふっと表情を緩める。
「さてと……親友の無事も確認できたし、俺は王都に戻るわ」
「もう行くのか?」
「ああ。報告もあるしな。いつまでもサボってると上官がうるさい」
そう言って肩をすくめる。
カインは少し寂しそうに笑ったが、すぐに右手を差し出した。
「……気をつけろよ」
「お前もな」
二人は力強く握手を交わした。
それは、戦場で何度も交わしてきたものと同じ握手だった。
リックはそのまま村の出口へ向かい、途中でフィリアにも軽く手を振る。
「フィリア、助けてくれて本当にありがとう!」
「いいえー!無事でよかったです!」
元気よく手を振り返すフィリア。
リックは笑いながら歩き去っていった。
……はずだった。
だが、数歩進んだところで突然立ち止まる。
そして何か思い出したように振り返り、足早に戻ってきた。
「……カイン、ちょっといいか」
「ん?」
リックはフィリアに聞こえないよう、カインの耳元に顔を寄せた。
「お前さ……フィリアと付き合ってんのか?」
「はぁ!?」
カインの顔が一瞬で赤くなった。
「つ、付き合ってねぇよ!」
「本当か?」
「本当だ!!」
思わず声が大きくなる。
リックはニヤニヤと笑った。
「ふーん」
そして肩をぽんと叩く。
「じゃあ俺がアプローチしても問題ないな」
「なっ……!」
カインが言葉を失っている間に、リックは楽しそうに笑った。
「それじゃあな!」
そう言って今度こそ村の外へ歩き去っていく。
顔を真っ赤にしたカインは、去っていくリックの背中を睨んでいた。
(あいつ……!)
その様子を、フィリアが不思議そうに見ていた。
「カイン?」
「……なんでもない」
まだ顔が赤い。
フィリアは首をかしげた。
(なにかあったのかな……?)
そいて、その日はそれぞれの家に戻ることになった。
夜。フィリアはマリアばあちゃんの家の一室でベッドの上に座っていた。
そして、手のひらの上に意識を集中させる。
「――個人記録開示」
淡い光とともに目の前に半透明の本のようなものが現れる。
フィリア専用のステータス情報。
「さて……」
フィリアはページをめくるようにして、情報を確認していく。
何か新しい情報はないだろうか。
すると――
「あれ?」
スキル欄を見て、フィリアは目を丸くした。
そこにはこう書かれていた。
――――――――――――――
スキル
福祉創具
等級
4級
――――――――――――――
「えっ?」
思わず声が出る。
「この前までこれ5級じゃなかったっけ……?」
もう一度確認するが間違いない。
4級になっている。
そしてその下に、スキル説明が追記されていた。
フィリアはゆっくり読み上げる。
「5級:応急処置や簡易的な生活補助に用いる基礎的な福祉用具を生成できる」
今まで作ってきたのは、まさにそれだ。
歩行杖。
松葉杖。
だがその下には、もう一つ説明があった。
「4級:移動や生活の安全を支える環境補助具を生成できる」
フィリアは小さく息をついた。
「なるほど……」
どうやらこのスキルは、段階的にできることが増えるらしい。
(福祉のレベルが上がっていく……みたいな感じかな)
そう考えると、妙にしっくりくる。
「今後できること、増えそうだなぁ……」
だがすぐに、もう一つ疑問が浮かんだ。
「でも……どうやったら次の級にいくんだろ?」
フィリアはもう一度ハンドブックを見つめる。
すると、自分の名前の横に小さな文字があることに気づいた。
「フィリア Lv.3。ん?レベル……?」
フィリアは少し考えた。
そして、ふと気づく。
「……あ、もしかして……」
なんとなく理解した。
自分のレベルが上がると、スキルの等級も上がるのではないか。
それからこれまでの出来事を思い返す。
マリアばあちゃんに杖を作った。
ゴンじいに松葉杖を作った。
リックを担架で運んだ。
ついでにカインにも杖を…。
フィリアの中にもう一つの仮説が浮かぶ。
「生成したものを、誰かに使ってもらった時……?」
それなら辻褄が合う。
人を助ける。
その結果、自分のレベルが上がる。
そしてスキルも強くなる。
「なるほど……」
フィリアはなんとなく、自分の能力について理解した気がした。
そして同時に、胸の奥にある想いが少しずつ大きくなる。
この世界に来てから、ずっと感じていたこと。
それは――
この世界には福祉がない。
前世では当たり前だったもの。
義足。
リハビリ。
支援制度。
そして、必要としている人は確かにいる。
「だったら……私が作ればいい」
フィリアは静かに呟いた。
この世界にないなら自分が作る。
私にはこのスキルがある。そして前世の知識もある。
そのためには個人の力だけでは足りない。
組織が必要だ。
拠点が必要だ。
「会社……」
フィリアは少し考えて、笑った。
「いや、違うか」
前世の言葉で言うなら。
「社会福祉法人」
その言葉が、自然と口から出た。
フィリアはベッドの上で拳を握る。
「よし。私はこの世界に私なりの社会福祉法人を作る」
そして、その法人でこの世界に福祉を広める。
フィリアの新しい目標が静かに決まった夜だった。




