第5話 再会
朝のアルカ村は、いつもと変わらず静かな時間が流れている。
畑へ向かう村人たちの姿がぽつぽつと見え、遠くでは家畜の鳴き声が聞こえてくる。
穏やかで、どこかのんびりした空気が村全体を包んでいた。
そんな村の入口に、一人の男が立っていた。
鎧は外しているが、まっすぐに立つ姿勢や周囲を見渡す鋭い視線には、兵士らしい雰囲気が残っている。
リックは宣言通り、翌日アルカ村にやってきたのだ。
その姿を見つけたカインが、思わず足を止めた。
「……お前、リックか?本当に来てくれたんだな」
名前を呼ばれてリックはゆっくりと顔を上げる。
そして、目の前に立つ人物を見た瞬間、わずかに目を見開いた。
「……カイン」
二人の視線がぶつかる。
次の瞬間、二人は同時に歩き出していた。
いや、歩くというより、ほとんど走るような勢いで互いの距離を詰めていく。
そしてそのまま、強く抱き合った。
「お前……本当に生きてたのか。よかった…」
リックの声はかすかに震えていた。
「お前こそ…!」
カインも同じように声を震わせながら答える。
二人はしばらく離れなかった。
まるで、本当にそこに相手がいることを確かめるかのように強く抱きしめ合っている。
フィリアは少し離れた場所からその光景を見ていた。
なんとなく声をかけるのがためらわれるほど、二人の再会には特別な空気が流れていたからだ。
しばらくして、二人はようやく体を離した。
「まさかお前がアルカ村にいるとはな。フィリアから聞いたときは驚いたぞ」
リックが苦笑するように言う。
カインも小さく笑った。
「俺もまさかお前がまだ生き残っているとは思わなかったぜ」
そう言ってから、カインはふと私の方を振り返る。
「ああ、そうだ。フィリアもこっちに来いよ」
私は二人のところへ行くタイミングを見計らっていたので助かった。
「まさか、こいつまでフィリアの世話になるとはな」
「俺もまさかカインと繋がりがある嬢ちゃんだとは思わなかったぜ」
リックは私の方を見て、ゆっくりと頭を下げた。
「改めて礼を言わせてくれ、本当に助かった」
「いえ、そんな……、それに先日、お礼までいただいたので今回のことは本当にいいですから」
私は少し慌てながら首を振る。
でも、ふと気になっていたことを思い出した。
「それより……」
私は二人を交互に見た。
「お二人って、どういう関係なんですか?リックさんは腐れ縁と言ってましたが…」
するとカインは一瞬言葉を詰まらせた。
何か言おうとしたようだったが、うまく言葉が出てこないようだった。
その様子を見て、リックが代わりに口を開く。
「三年前の話だ」
リックは少し遠くを見るような目をした。
「俺たちは王国の兵士として、同じ部隊にいたんだ」
カインが静かにうなずき、リックはゆっくりと言葉を続けた。
「戦場にも何度も一緒に出たし、部隊の中でも俺たちは一番よくつるんでいた」
その言葉には、どこか懐かしさが滲んでいる。
「だが、ある戦いでカインは片足を失った」
そこでリックの表情が少し曇った。
私は思わずカインの足を見た。
今は私が作った歩行杖を使っているが、そこには確かに片足しかない。
リックは静かに話を続ける。
「その戦いから俺たちはなんとか王国には戻れた。だが片足ではもう戦場には立てない。だからカインは兵士を引退した」
カインは何も言わなかった。ただ静かに地面を見ている。
「……だがな」
リックは小さく息を吐いた。
「俺はそれを知らなかった」
私は思わず目を瞬かせた。
「俺が遅れて任務から戻ってきた時には、もうカインはいなかったんだ」
リックは少しだけ苦い表情を浮かべる。
「同僚に聞いて、やっと事情を知った」
そして声を少し低くした。
「カインは片足を失ったことで、自分には兵士としての価値がもうない…ここに居場所はないとだけ言って去ったんだってな」
カインは黙ったままだった。
その言葉を聞いて、私は胸の奥が少し痛くなった。
前世でも、似たような話を何度も聞いたことがある。
怪我や障害をきっかけに自分の価値を見失ってしまう人たちの話を。
リックは拳をぎゅっと握った。
「そして、このまま放っておいたらカインは自らの命を…って皆が心配していた」
その場の空気が一瞬重くなる。
私はふと思い出した。
ベルナ村の治癒院で、リックが涙を流していたことを。
「だから昨日、カインが生きているって聞いた時、すげぇ嬉しかったんだ」
リックは目の前にいるカインを見ると、また目に涙を浮かべていた。
そして、その言葉を聞いたあと、カインはリックに向かって深く頭を下げた。
「心配かけて、お前に何も言わずに去ったこと本当にすまなかった…」
リックは、カインに近づき、バンッと肩に腕を回した。
「全くだ。親友だと思っていたのに急に居なくなりやがって…でも、今こうして無事にお互い生きてまた会えたじゃないか。それはそれでいいと思ってる。だから許す」
カインは溢れる涙をそのままに、何度も「すまない」「ありがとう」と繰り返していた。
三年前、戦場で別れた二人は、こうして再び同じ場所に立っている。
そしてアルカ村には今日も変わらない穏やかな風が吹いていた。




