第4話 フィリアと兵士
あの兵士を助けてから一日が経った。
私はどうしても昨日のことが気になってしまい、再びベルナ村へ向かっていた。
ちゃんと無事なのか、少し様子を見ておきたかったのだ。
ベルナ村へ着くと私はまず昨日お世話になった店へ向かった。
扉を開けると、昨日の店主がすぐに気付いた。
「おう、嬢ちゃん!」
大きな声でそう言うと、店主は驚いたように目を丸くする。
「また来てくれたのか」
「昨日はありがとうございました。おかげで助かりました」
私が頭を下げると、店主は豪快に笑った。
「礼を言うのはこっちの方だ」
そう言いながら、奥から包みを二つ持ってくる。
「ほら、これ持ってけ」
包みを開くと、中には魚と肉が入っていた。
「えっ、そんな……」
私は慌てて首を振る。
「昨日のお礼だ。嬢ちゃんがいなかったら、あいつ危なかったからな」
「でも、お礼を言うのはこちらです」
すると店主は肩をすくめた。
「いいんだよ。お互い様ってやつだ」
そして少し照れくさそうに言う。
「そういや名乗ってなかったな。俺はダグっていうんだ。今後もよろしくな」
「私はフィリアです。こちらこそです」
「おう、よろしくなフィリア」
軽く手を振るダグに、私は小さく頭を下げた。
「それじゃあ、私は兵士さんの様子を見てきます」
「ああ、あいつなら治癒院にいるぞ」
ダグに見送られながら、私はその場を離れた。
◇
ベルナ村の治癒院は、村の奥にある小さな建物だった。
中へ入ると、薬草のような匂いがほんのり漂っている。
奥の部屋をのぞくと、昨日の兵士がベッドに横になっていた。
「お加減はいかがですか?」
私が声をかけると、兵士はゆっくりと顔をこちらへ向けた。
そして私の姿を見て、少し驚いたような表情になる。
「……嬢ちゃん?わざわざ来てくれたのか」
その声には、どこか嬉しそうな響きがあった。
「お元気そうでよかったです」
「これも嬢ちゃんのおかげだ」
兵士は軽く笑う。
「改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
そしてゆっくり体を起こした。
「俺の名前はリックだ」
「フィリアです」
「フィリアか。いい名前だな」
少し照れくさくなりながら、私は話を続けた。
「昨日のことなんですが……どうしてあんな場所で倒れていたんですか?」
するとリックは、少し真面目な表情になった。
「俺は王国の偵察兵なんだ」
その言葉に、私は思わず目を瞬かせる。
「最近、魔族の動きが少し不穏でな、命を受けて国境付近まで様子を見に行っていたんだ」
しかし、そこで問題が起きたらしい。
「少し近づきすぎたみたいでな、魔族の斥候に見つかった。そしてそのまま襲われて……あとは逃げるのに必死だった」
命からがら逃げ続け、気付けば人間の領域まで戻っていた。
「そしてベルナ村の入口で力尽きた……ってわけだ」
私は少しだけ背筋が寒くなった。
魔族…。この世界には、そういう存在がいる。
でも――
(まあ、魔法がある世界だし)
逆にいない方が不自然かもしれない。
そんなことを考えていると、リックがふと思い出したように言った。
「そうだ」
懐から小さな袋を取り出す。
「昨日のお礼だ」
袋の中には、一枚の金貨が入っていた。
「えっ!?そんなの受け取れません!」
私は慌てて手を振る。
しかしリックは首を横に振った。
「俺の気が済まない、命を助けてもらった礼だ」
そう言われてしまうと断るのも難しい。
「……それじゃあ、ありがたく」
私は金貨を受け取った。
でも正直、貨幣価値がよく分からない。
「帰ったらカインに聞いてみようかな……」
小さくつぶやく。
その瞬間だった。
「今、カインって言ったか?」
リックが急に身を乗り出した。
「そいつ、片足がない奴か?」
「え?はい」
私はうなずく。
「あいつは今どこにいる?!」
「ア、アルカ村にいます」
するとリックは、しばらく黙り込んだ。
そして――
ぽろりと涙をこぼした。
「そうか……あいつ、生きてるのか」
私は思わずぽかんとする。
どういうことだろう。
二人に何か関係があるのだろうか。
リックは涙を拭きながら笑った。
「よかった……」
しばらくして、私は立ち上がった。
「それじゃあ、私はそろそろ帰ります」
するとリックが言った。
「俺も明日にはここを出ていいらしいんだ。明日、アルカ村に行くよ」
そして少し笑う。
「カインには伝えてくれ。腐れ縁のリックが行くってな」
私は微笑みながら頷いた。
「分かりました」
ベルナ村を出ると夕方の風が少し涼しかった。
そして、私はアルカ村へ向かって歩き出した。




