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第4話 フィリアと兵士

あの兵士を助けてから一日が経った。

私はどうしても昨日のことが気になってしまい、再びベルナ村へ向かっていた。


ちゃんと無事なのか、少し様子を見ておきたかったのだ。


ベルナ村へ着くと私はまず昨日お世話になった店へ向かった。

扉を開けると、昨日の店主がすぐに気付いた。


「おう、嬢ちゃん!」


大きな声でそう言うと、店主は驚いたように目を丸くする。


「また来てくれたのか」

「昨日はありがとうございました。おかげで助かりました」


私が頭を下げると、店主は豪快に笑った。


「礼を言うのはこっちの方だ」


そう言いながら、奥から包みを二つ持ってくる。


「ほら、これ持ってけ」


包みを開くと、中には魚と肉が入っていた。


「えっ、そんな……」


私は慌てて首を振る。


「昨日のお礼だ。嬢ちゃんがいなかったら、あいつ危なかったからな」

「でも、お礼を言うのはこちらです」


すると店主は肩をすくめた。


「いいんだよ。お互い様ってやつだ」


そして少し照れくさそうに言う。


「そういや名乗ってなかったな。俺はダグっていうんだ。今後もよろしくな」

「私はフィリアです。こちらこそです」

「おう、よろしくなフィリア」


軽く手を振るダグに、私は小さく頭を下げた。


「それじゃあ、私は兵士さんの様子を見てきます」

「ああ、あいつなら治癒院にいるぞ」


ダグに見送られながら、私はその場を離れた。



ベルナ村の治癒院は、村の奥にある小さな建物だった。

中へ入ると、薬草のような匂いがほんのり漂っている。


奥の部屋をのぞくと、昨日の兵士がベッドに横になっていた。


「お加減はいかがですか?」


私が声をかけると、兵士はゆっくりと顔をこちらへ向けた。

そして私の姿を見て、少し驚いたような表情になる。


「……嬢ちゃん?わざわざ来てくれたのか」


その声には、どこか嬉しそうな響きがあった。


「お元気そうでよかったです」

「これも嬢ちゃんのおかげだ」


兵士は軽く笑う。


「改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


そしてゆっくり体を起こした。


「俺の名前はリックだ」

「フィリアです」

「フィリアか。いい名前だな」


少し照れくさくなりながら、私は話を続けた。


「昨日のことなんですが……どうしてあんな場所で倒れていたんですか?」


するとリックは、少し真面目な表情になった。


「俺は王国の偵察兵なんだ」


その言葉に、私は思わず目を瞬かせる。


「最近、魔族の動きが少し不穏でな、命を受けて国境付近まで様子を見に行っていたんだ」


しかし、そこで問題が起きたらしい。


「少し近づきすぎたみたいでな、魔族の斥候に見つかった。そしてそのまま襲われて……あとは逃げるのに必死だった」


命からがら逃げ続け、気付けば人間の領域まで戻っていた。


「そしてベルナ村の入口で力尽きた……ってわけだ」


私は少しだけ背筋が寒くなった。


魔族…。この世界には、そういう存在がいる。


でも――


(まあ、魔法がある世界だし)


逆にいない方が不自然かもしれない。

そんなことを考えていると、リックがふと思い出したように言った。


「そうだ」


懐から小さな袋を取り出す。


「昨日のお礼だ」


袋の中には、一枚の金貨が入っていた。


「えっ!?そんなの受け取れません!」


私は慌てて手を振る。


しかしリックは首を横に振った。


「俺の気が済まない、命を助けてもらった礼だ」


そう言われてしまうと断るのも難しい。


「……それじゃあ、ありがたく」


私は金貨を受け取った。

でも正直、貨幣価値がよく分からない。


「帰ったらカインに聞いてみようかな……」


小さくつぶやく。

その瞬間だった。


「今、カインって言ったか?」


リックが急に身を乗り出した。


「そいつ、片足がない奴か?」

「え?はい」


私はうなずく。


「あいつは今どこにいる?!」

「ア、アルカ村にいます」


するとリックは、しばらく黙り込んだ。


そして――

ぽろりと涙をこぼした。


「そうか……あいつ、生きてるのか」


私は思わずぽかんとする。

どういうことだろう。

二人に何か関係があるのだろうか。


リックは涙を拭きながら笑った。


「よかった……」


しばらくして、私は立ち上がった。


「それじゃあ、私はそろそろ帰ります」


するとリックが言った。


「俺も明日にはここを出ていいらしいんだ。明日、アルカ村に行くよ」


そして少し笑う。


「カインには伝えてくれ。腐れ縁のリックが行くってな」


私は微笑みながら頷いた。


「分かりました」


ベルナ村を出ると夕方の風が少し涼しかった。


そして、私はアルカ村へ向かって歩き出した。

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