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第3話 瀕死の兵士

この世界に転生してから、気がつけば一週間が過ぎていた。


アルカ村での生活は驚くほど穏やかで、毎日が静かに流れていく。

前世では仕事に追われて慌ただしい日々を送っていた私にとって、この時間はまるで夢のようだった。


とはいえ、何もしていないわけではない。


この一週間で私がやったことといえば、片足で歩くのが大変そうだったカインにマリアばあちゃんと同じ歩行用の杖を作ってあげたくらいだ。


「これ、すごく歩きやすいな」


カインはそう言って嬉しそうに杖をついていた。

どうやら気に入ってくれたようで、村の中でもよく使ってくれている。


……ただ。


私は少しだけ悩んでいた。


マリアばあちゃんの家に入り浸り、毎日ご飯までごちそうになっている。

このまま何もせずにお世話になり続けるのは、どうしても気が引けた。


だから私は思い切って聞いてみた。


「マリアばあちゃん、何か私にできることないかな?」


ばあちゃんはいつものように優しく笑った。


「そんなの気にしなくていいんだよ」

「でも私が我慢できないの」


そう言うと、ばあちゃんは少し考えてから頷いた。


「そうかい。それなら隣のベルナ村に食材の買い出しに行ってくれるかい?」

「それくらいならお安い御用だよ!」


私はすぐに答えた。


それに、村の外のことを知る良い機会でもある。

アルカ村に来てからまだ、私はほとんど外の世界を見ていなかった。


ばあちゃんからお金を受け取り、頼まれた食材を聞き取る。

私は手の中の硬貨を見ながら、ふと思った。


(早く自分でもお金を稼げるようにならないと)


ばあちゃんに全部頼るわけにはいかない。

少しでも恩返しができるように何か考えないと。


そう思いながら、私はベルナ村へ向かって歩き出した。



ベルナ村へは、歩いて二十分ほどで着いた。

村の入り口に近づいた瞬間、私は思わず目を丸くする。


「……賑やか」


アルカ村よりも人が多い。

家の数も多く、道には荷車を引く人や商売をしている人の姿も見える。


どうやらここには小さな市場のようなものがあるらしい。


私はばあちゃんに頼まれていた食材を思い出し、近くの店へ入った。

野菜、穀物、それから肉。

頼まれていたものをひと通り買い終え、袋を抱えて村の外へ向かう。


その時だった。

村の入り口の近くで誰かが倒れているのが目に入った。


「……え?」


よく見ると、鎧を着ている。

兵士だ。


しかも全身が傷だらけで、胸を押さえながら苦しそうに呼吸していた。


私は慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


声をかけるが、兵士は苦しそうに顔をしかめるだけで、言葉を発する余裕もなさそうだった。


……このままじゃ危ない。


「少し待っていてください!」


私はすぐにベルナ村の中へ引き返した。

さっき食材を買った店へ飛び込む。


「すみません!」


店主の旦那さんが驚いた顔でこちらを見る。

事情を話すと、旦那さんはすぐに動いた。


「おい、ちょっと来てくれ!」


近くにいた男たちを二人呼び、私と一緒に村の入り口へ向かう。

兵士の姿を見た旦那さんは眉をしかめた。


「こりゃひどいな……」


男の一人が言う。


「無理に動かすと危ねぇぞ」

「ここで応急処置(治癒魔法)してから運ぶしかねぇな」


しかし、旦那さんは困った顔をした。


「だがな……この村の治癒師は今外に出てていないんだ」


どうする。どうすればいい。

私は必死に考えた。


そして、思いついた。


「すみません、大きめの布と太い木の枝を二本用意できませんか?」


旦那さんは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。


「布なら店にある」


そう言うと、走って取りに行く。

一緒に来ていた男二人も言った。


「木の枝ならあっちの茂みにありそうだ」


二人はすぐに探しに行った。


数分後、全員が戻ってくる。

私はそれを受け取った。


そして静かに呟く。


福祉(ウェルフェア)創具(・クリエイト)


布と木の枝が光に包まれた。

数秒後、そこには簡易的な担架ができあがっていた。


男たちが目を丸くする。


「……おい、今何した?」


私は説明している暇はないと判断した。


「彼をゆっくりこの上に乗せてください」


男たちは頷き、慎重に兵士を担架に乗せる。


「持ち上げるときもゆっくりお願いします。そのまま治療できる場所まで運びましょう」

「分かった!」


男たちは担架を持ち上げ、村の治療院へ向かって走った。

治癒師はいなかったが、そこにいた職員たちが応急処置をしてくれた。


そのおかげで、最悪の事態は免れたようだった。

私はほっと息をついた。


アルカ村を出てから、だいぶ時間が経っている。

マリアばあちゃんも心配しているだろう。


私は静かに立ち上がった。


「では私はこれで……」


そう言いかけた時だった。


「嬢ちゃん」


弱々しい声が聞こえた。

振り向くと、あの兵士がこちらを見ていた。


「ありがとな」


かすれた声だったが、はっきりと聞こえた。


「また後日、お礼させてくれ」


私は首を横に振る。


「いえ、お気になさらないでください」


軽く一礼すると、私は急いでアルカ村へ向かった。



何とか日が落ちる前に村へ戻ることができた。

家の扉を開けると、マリアばあちゃんが立っていた。


そして次の瞬間――

ぎゅっと抱きしめられる。


「フィリア!」


ばあちゃんの声は少し震えていた。


「遅いから何かあったのかと思って、気が気じゃなかったよ」

「ごめんなさい」


私はすぐに謝り、今日あったことを全部話した。

ばあちゃんは静かに聞いていたが、最後に頷いた。


「そうかい。それはいいことをしたね」


そして笑う。


「今夜はごちそうにしよう」


そう言って、今日私が買ってきた肉を取り出した。

ばあちゃんはそれを贅沢に使って料理を作ってくれた。


テーブルに並んだ料理は、どれも温かくて美味しそうだった。

一口食べた瞬間、思わず声が出る。


「……おいしい」


ばあちゃんは笑った。


この世界に来てから。


いや、もしかすると、今までの人生の中で一番。

温かくて、美味しいご飯だった。

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