第2話 不幸中の幸い
翌日。私はマリアばあちゃんに連れられて、改めてアルカ村を案内してもらっていた。
もちろん、ばあちゃんの手には私が作った杖がある。
カツ、カツ、と軽やかな音を立てながら歩くその姿は、昨日よりもずっと元気そうだった。
「どうだいフィリア、この村は」
「いいところだね。空気もきれいだし、落ち着く」
「そうだろうそうだろう」
ばあちゃんは嬉しそうに笑う。
そして私たちは村の中央にある一軒の家の前に来た。
「まずはここだね」
そう言ってばあちゃんは扉を叩いた。
「ゴンじい!いるかい!」
扉が開き、中から白髪の老人が顔を出した。
「おお、マリア。朝から元気じゃのう」
「何が元気だい。あんたが朝から畑で無理するから腰が曲がってるんだろうが」
……あれ?
昨日あんなに優しかったばあちゃんが、めちゃくちゃ口調強い。
老人は苦笑した。
「相変わらず厳しいのう」
マリアばあちゃんは私の肩を軽く叩いた。
「この子が昨日言ってたフィリアだよ」
「ああ、あの倒れてた子か」
老人は穏やかに目を細めた。
「わしはこの村の村長をやっとるゴンドラじゃ。皆からはゴンじいと呼ばれておる」
「フィリアです。よろしくお願いします」
私は軽く頭を下げた。
ゴンじいは私の顔を見て、にこりと笑った。
「元気になったようでよかった」
そのあとも、ばあちゃんは村を案内してくれた。
小さな畑。
井戸。
村人たちが集まる広場。
そして最後に連れて行ってくれたのは、村の共同炊事場だった。
大きなかまどがあり、数人の女性たちが料理をしている。
「ここは村のみんながよく使う場所さ」
「へぇ」
確かに、村の生活の中心になっている場所のようだった。
こうして一通り村を案内してもらったあと、マリアばあちゃんは家へ戻っていった。
私は一人、村から少し離れた川辺へ来ていた。
水の流れる音が心地いい。
昨日のことを思い出す。
……あの声。
『個人情報を開きなさい』
あれは一体誰だったんだろう。
また聞こえるのだろうか。
それに――あの福祉創具。
名前からして明らかに福祉だ。
……いや、むしろピンポイントすぎる。
MPも回復している。
さっき個人記録を確認したら、また100に戻っていた。
考えても分からない。
それなら――
「もう一回試してみようかな」
私は近くに落ちていた木の枝を拾った。
そして軽く息を吸い、福祉創具を使用した。
次の瞬間。
枝が光に包まれた。昨日と同じ光。
そして光が消えた時、そこには――
「……できた、松葉杖」
私はそれを持ち上げた。
どうやら成功らしい。
個人記録を開くとMPは100 → 80となっていた。
「なるほどね」
杖が作れるなら、これもいけるんじゃないかと思ったのだ。
私は再び枝を拾った。
そして今度は違うものをイメージしてスキルを使用した。
……しかし、何も起きない。
光も出ない。
「あれ?」
私は首をかしげた。
今、作ろうとしたのは、まな板だった。
「なるほど、福祉に関係ないものは作れないってことか」
名前が福祉創具だもんね。
そういうことだろう。
こうして私は、スキルのことを少し理解した。
そして村へ戻ることにした。
すると。
「何だろう……?」
村が妙に騒がしい。
人が集まっている。場所は、ゴンじいの家の前だった。
私は急いで駆け寄った。
そこにカインがいた。
「カイン、何があったの?」
カインは振り向いた。
「ああ、フィリア」
少し困ったような顔をしている。
「ゴンじいが階段から落ちたんだ」
「え!?」
「足をやったみたいだな」
私は家の中をのぞいた。
ゴンじいが横になっている。
足はしっかりと固定されていた。
カインが説明してくれる。
「村に治癒魔法を使える奴がいてな。応急処置はしてもらった」
治癒魔法。
(……この世界、魔法あるんだ。)
私は初めて知った。
「命に別状はない。ただ、しばらく歩けないだろうな」
骨折、安静、そして歩行困難。
(……あれ?これ使えるんじゃ?)
そう思い、私は背中に背負っていた物を取り出した。
「ゴンじい」
私は松葉杖を差し出した。
ゴンじいは首をかしげた。
「これは?」
「歩くのを助ける道具です」
私は使い方を説明した。
脇で体を支える、体重を杖に分散する、ゆっくり足を出す。
ゴンじいは恐る恐る立ち上がった。
そして――
一歩。また一歩。歩けた。
「おお……」
ゴンじいが目を見開く。
「歩ける……!」
周りの村人たちがざわめいた。
「すごい……」
「そんな道具があるのか」
私は少し照れくさくなった。
ゴンじいは何度も頷いていた。
「フィリア、ありがとう」
その言葉を聞いた時。
私は改めて思った。
この笑顔、誰かの助けになれたときに抱くこの気持ち。
どこにいても私は福祉が好きだ。




