スクープ騒動で雨降って地固まりました
8月8日午前10時過ぎ・・・
ずっと猛暑日が続く中、水城涼真は8月5日に海へスキンダイビングへ行った時に撮影した写真の加工をしていた。もちろんそのスキンダイビングには若宮朱莉と有本淳史も同行していた。今回は雑誌に掲載するのではなくお盆前にアウトドアウォーカーのサイトで配信するものである。そんな作業をしていると、スマホの着信音が鳴った。それは全く知らない番号からの着信だったので、水城涼真は少しおどおどしながら電話に出てみた。
蒲田博之「もしもし水城涼真さんのお電話で間違いないですか?」
水城涼真「はい」
蒲田博之「わたくし、大日テレビの番組企画部長をしております蒲田と申します。来月の富士山ロケに関してお電話させていただきました」
水城涼真「ああー!はいはい」
蒲田博之「ロケ日は9月6日から8日までの三日間でフィックスされました。そこで水城さんにスケジュールを組んでいただくということで承知しております。ただ、少し問題がございまして、6日の午前中、天音琴美さんは別件のお仕事が入っております。ですので60時間枠となってしまうのですが、午後から移動してということになりますので、もう6日は使えないと考えております」
水城涼真「えっと60時間枠は全然問題ありませんし、6日は午後から富士吉田口五合目まで移動してください。東京からやと3時間もあれば行けると思いますんで、16時から17時頃こっちと合流して山小屋かホテルに宿泊すればええんです」
蒲田博之「しかしそれですとかなり無駄な時間が増えませんか?」
水城涼真「無駄な時間なんてありませんよ。そこから今回の登山がはじまるんです。五合目で宿泊しておけば高山病対策にもなりますし、それなりのコミュニケーションもとれます。初めてお会いしていきなり登山開始みたいのは絶対に駄目なんです」
蒲田博之「それもそうですね、わかりました。ではこちらは6日の午後から富士吉田口五合目に移動しておきます」
水城涼真「宿泊施設の予約はどうなってます?」
蒲田博之「八合目の山小屋の予約はとれました。五合目の宿泊施設の予約はこれから入れるつもりです」
水城涼真「あと、若宮朱莉のマネージャーさんが撮影の時だけ出演者にザックを持たせるみたいな話してましたけど、そんなこと絶対に駄目ですよ。いくらスタッフがおるからといっても、みんな自分のことは自分でせんといけませんし、なんかあった時にザックは背負っていませんでしたなんてことになったらそれこそ問題ですから」
蒲田博之「それはもう十分に承知しております。天音琴美さんも若宮朱莉さんも登山をされる方なので自分のザックは背負っていただきます」
水城涼真「それではスケジュール表をきっちりまとめて蒲田さんに送らせていただきますので、メールアドレスをお聞きしてもええですか?」
蒲田博之「水城さんのブログにあるお問い合わせからメールアドレスを送っておきますね」
こうして富士山登山の予定が完全に決まった。
8月20日午前11時30分・・・
忙しかったお盆の時期が過ぎて、水城涼真と若宮朱莉は二人で登山用品のアウトレット商品が置いてある少し遠い登山ショップに向かっていた。今回は冬山装備を揃えるという目的である。その登山ショップはどの季節の商品も置いてある大型店で、時期外れだからこそアウトレット商品が充実しているのではないかという狙いであった。登山ショップに向かって車を走らせていると若宮朱莉が「ところで・・・」と呟いた。
若宮朱莉「涼真さんって全国の山に登っていると聞きましたが、関東周辺の山もですか?」
水城涼真「もちろん!登った数としては関西周辺の山の次に関東周辺の山が多いよ。丹沢なんて縦走したし、奥多摩三山もやけど谷川岳や武尊山、日光白根山なんかも登ったな」
若宮朱莉「すごいですね!それによく関西からそれほどの山を登りましたよね」
水城涼真「数年前な、仕事で東京の中野に二年住んでたんよ。その時はもう毎週のように山に行ってたな」
若宮朱莉「ええーーーーーーっ!涼真さん中野に住んでいたのですか!?わたし、中野区に住んでいるっていいましたよね?」
水城涼真「でも中野って結構広いし話題にすることもなかったからな」
若宮朱莉「中野のどこに住んでいたんですか?」
水城涼真「中野駅の南口やね」
若宮朱莉「マルイがあるほうですね。ちなみにわたしは北口でした。でもどうして中野に住んでいたのですか?」
水城涼真「えっとね、まず家賃が他の区に比べて安いってこと、中央特快やホリデー快速が中野駅に停車すること、新宿に近くてすぐに小田急線に乗れること、環七で練馬にもすぐ行けることかな。俺の登山ライフで中野っていう場所は絶好の場所やったんよ」
若宮朱莉「涼真さんって東京のことにも詳しいですね」
水城涼真「いや、そこまで詳しくないよ。代官山とかもやけどオシャレな店とかしらんし」
若宮朱莉「それは涼真さんらしいです!わたし中野に住んでいましたけど、そういう視点で見たことなかったです」
水城涼真「まあ普通はそんな視点で見ることないからな。ってか、途中に美味しいカレー屋があるんやけど、お昼はそこでええかな?カレー嫌いやったら別の店にするけど」
若宮朱莉「はい、美味しいカレー食べてみたいです!カレーが嫌いな人なんて見たことありませんよ」
途中で車を停めて二人はスパイシーカレーのお店に入っていった。そのカレーのルーはインドカレーの定番という感じで辛みとトマトの酸味を効かせており、かなりスパイスに拘っていることがわかる。一口食べるとピリッとしているのだが辛さはスッと消えて残らない。またターメリックライスとの相性も抜群で本当に美味しいインドカレーなのだ。
カレーを食べ終えて満足した二人は再び車に乗って登山ショップへ向かった。そして到着したのは大型ショッピングモールの駐車場だった。休日だったのだが郊外ということもあり、あまり混雑はしていなかった。
水城涼真「朱莉ちゃん、アウトレットやけど冬用の登山装備は高いから覚悟しといてな」
若宮朱莉「はい。一応30万円持ってきましたが大丈夫でしょうか?」
水城涼真「そこまでいらんよ。でもせっかくやから山スキーの靴も買っておこか」
若宮朱莉「スキー板はいらないんですか?」
水城涼真「板は俺が何本か持ってるから貸すし、今シーズンは靴だけあれば大丈夫やわ」
若宮朱莉「わかりました」
二人は登山ショップに入って冬用の装備を揃えていった。買い物に2時間を要したがアウトレット商品も含めて次の装備を購入した。
ハードシェル上下セット(アウトレット)
ソフトシェルジャケット(アウトレット)
アルパインブーツ(アウトレット)
オーバーグローブと厚手のウール手袋および靴下
12爪アイゼンと6爪アイゼン(アウトレット)
ロングゲーター(アウトレット)
ピッケル(アウトレット)
ストックとワカンのセット(アウトレットのセット割)
山スキー兼用ブーツ
大凡25万円くらいかかってしまったが、その3割はアウトレット商品ではない山スキー兼用ブーツにコストがかかってしまったのだ。
8月22日午後14時30分頃・・・
雑誌の執筆を終えた水城涼真は平日でありながら、のんびりと部屋で過ごしていた。そんな時、一本の電話が入った。電話に出るとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだったのだ。
水城涼真「片瀬さん、お疲れ様です。執筆に何か問題がありましたか?」
片瀬彩羽「執筆には問題ありませんでしたが、もしかして水城さんはタレントの若宮朱莉さんとお付き合いされていたりしますか?」
水城涼真「はぁ?何のことかよーわからへんのですが、どういうことですか?」
片瀬彩羽「最近、登山ショップから水城さんと若宮朱莉さんが出てきたところを、ある雑誌社にスクープ写真を撮られていたようなのです」
水城涼真「たしかに若宮朱莉さんとは登山ショップに行って買い物をしましたが、それがなんか問題あるんですか?」
片瀬彩羽「若宮朱莉さんといえば、突然大阪に引越ししたという情報もあって、最近では大阪の情報番組でレギュラー出演されているようですが、住んでいる場所が水城さんと同じアパートという情報も耳にしました。これはどういうことなんでしょうか?」
水城涼真「いや、それにはいろいろと事情があるんですけど、別に付き合ったりとかそういうのじゃないですよ」
片瀬彩羽「そのことでマスコミが騒いでいますので注意してください。水城さんも今ではアウトドア業界では有名な人になっていますので、今後の執筆活動に影響がでる可能性があるかもしれません」
水城涼真「やましいことなんて何もありませんのでご心配なく」
それで電話を切ったがこれは少しまずいことになったかもしれないと水城涼真は思った。このアパートにマスコミが押し寄せてくるようなことになれば、住民にも迷惑をかけてしまうことにもなりかねない。しかし、そう思った矢先に外ではたくさんのマスコミ関係者が押し寄せていた。そして、部屋のチャイムが突然鳴ったのだ。玄関のドアをあけるとマイクを持ったマスコミ関係者がどっと押し寄せてきたのだ。
記者女性A「あの、アウトドアウォーカーで有名な水城涼真さんでいらっしゃいますよね?若宮朱莉さんとはどういったご関係でしょうか?」
水城涼真「あんた、いきなり人の家のチャイムを鳴らして名乗りもせずに、そんな質問してくるってどういうことや?」
記者女性A「申し訳ありません!わたくし、デジスポーツの赤井と申します。水城さん、若宮朱莉さんとお付き合いされているのですか?」
水城涼真「なんか知らんけど、なんで俺が若宮朱莉と付き合ってるって話になってるんですか?全く意味がわからんのですが、どういうことですか?」
記者男性A「あなたが若宮朱莉さんと一緒に買い物に行っていたというスクープ写真があります。お二人はどういったご関係なのでしょうか?」
水城涼真「あんたも失礼な人やな。名乗りもせずにどういった関係とか失礼やろ?」
記者男性A「失礼しました。わたくしは毎朝フラッシュ雑誌の上里と申します。何が目的で一緒に買い物されていたのでしょうか?」
水城涼真「なんちゅーアホな質問してくるんや!登山ショップで一緒に買い物してて、どういう目的かくらい考えたらわかるやろ!?」
記者男性B「わたくし、エレテレビ芸能レポーターの辻沼と申します。若宮朱莉さんが突然、大阪にのこのアパートに引越しされたのは、水城さんと深い関係になるためではなかったのでしょうか?」
水城涼真「深い関係って意味がわからんし、本人がそうしたいっていうから俺はアパートの大家として承諾しただけですわ。それ以上でもそれ以下でもあれへんし、妙な勘ぐりはやめてもらえますか?」
記者女性B「わたくし、芸能レポーターの蒼と申します。水城さんは若宮朱莉さんのことをどう思っていらっしゃるのですか?正直にお答えください」
水城涼真「ただの登山仲間としか思ってませんよ。もうええ加減にしてもらえますか。ここでみなさんにハッキリ言っておきますけど、このアパートには他の住民も住んでますし、こうやって押しかけられると迷惑なんです。それにどんな報道されるかわかりませんけど、私のことを水城涼真と公表するのも辞めてもらえますか?もし、従わないのであればプライバシーの侵害で訴えますよ」
記者女性B「では若宮朱莉さんとはやましい関係でないと言い切れるわけですね?」
水城涼真「ハッキリと言い切りますよ。やましいことなんて何もありません!みなさん、ご近所迷惑になるので、もう帰ってもらえますか?」
水城涼真はそう言ってドアを閉めた。これは少しまずいことになったかもしれない。若宮朱莉のほうはどうなっているのか部屋にテレビがないので状況がわからないが、このアパートに大勢のマスコミが押しかけてくるようなことになれば厄介なことになる。心配になった水城涼真はマスコミが少なくなったところで202号室へ向かいチャイムを鳴らすとすぐに妹の志帆が出てきた。
水城志帆「お兄、これどないするつもりなん?」
水城涼真「とにかくあがらせてもらうで!即効でテレビつけてほしい」
水城志帆「今から若宮朱莉さんの記者会見が行われているみたいやで」
水城涼真「お前、見てたんか!」
水城涼真は妹の部屋に上がりこんでテレビで記者会見をしている若宮朱莉の発言を聞いた。テレビ越しではあるが、若宮朱莉がたくさんのマスコミの前で記者発表をしていた。
記者女性C「若宮さん、大阪に引越しした本当の理由をお答え願えるでしょうか?」
若宮朱莉「わたしの父が単身赴任で大阪に住んでいて関西周辺で登山をしていました。わたしはその父の遺志を継ぎたいと思ったからです」
記者男性C「東京からわざわざあのようなアパートに住んだ理由をご説明ください」
若宮朱莉「あのようなアパートという言い方は辞めていただけないでしょうか。住んでいる方に失礼ですし、わたしはあそこが一番いいと思ったので住むことにしたのです」
記者男性D「一緒に買い物をしていた男性ですが、特別な関係というわけではないのでしょうか!?詳しく聞かせていただけないでしょうか?」
若宮朱莉「あの男性はわたしにとって同じ登山仲間で尊敬している人に過ぎません。特別な関係というわけではありません」
記者男性E「しかし、二人で車に乗るような関係だと言われても否定はできませんよね?」
若宮朱莉「そこは否定しません。ただ、あの男性の人は、わたしが登山用品の購入をするためにアドバイスをいただいただけです」
記者女性D「若宮さんは登山に興味をお持ちなわけですね?どうしてあの男性の方の登山仲間の関係になった理由をお聞かせください」
若宮朱莉「あの男性の人はとても登山に詳しい人で、わたしは登山仲間としてたくさん学んでいきたいと思っています」
記者男性F「全く別の質問になりますが、今後、東京でのお仕事はどうされるおつもりですか?」
若宮朱莉「東京にはときどき行くようにします。芸能活動を引退することは考えていません」
記者女性E「若宮さん、正直にお答えしていただきたいのですが、あの男性と恋愛関係になる可能性はあると思いますか?」
若宮朱莉「そのようなことは考えたこともありません。もし、わたしが恋したとしても特別な関係になるのは無理なことです」
記者女性E「どうして無理なことだと思うのでしょうか?」
若宮朱莉「あの男性がわたしを女性として全く見ていないからです。とにかくお騒がせしたことは謝りますが、わたしは今の生活を変えるつもりもありません」
このまま長々しい記者会見は続いたが、びっくりしたのは若宮朱莉が『もし、わたしが恋したとしても』ということについて水城涼真は少し戸惑っていた。この登山仲間の関係に恋愛は禁物といってもいいほどのポリシーは持っている。水城涼真は「ふんっ!つまらん記者会見やったわ」といって、妹の部屋から出て行った。
夜になって、若宮朱莉がアパートに帰ってくるとすぐに201号室へ向かった。チャイムを鳴らすと水城涼真は「はい」と言ってドアを開いた。すると涙を流していた若宮朱莉が目の前に立っていたのだ。水城涼真は「朱莉ちゃん、どうしたん?」と優しく声をかけると若宮朱莉は「わたしのせいで、本当にごめんなさい」と呟いた。水城涼真は「マスコミの連中は追い返したから大丈夫だよ。それより朱莉ちゃんも大変だったみたいやね」と声をかけた。
若宮朱莉「わたし、もうこのアパートから出たほうがいいでしょうか?」
水城涼真「こんなことくらいどうってことないから気にせんでええよ」
若宮朱莉「涼真さんにも迷惑かけたのではないですか?」
水城涼真「俺、芸能レポーターとかあんなマスコミは大嫌いやし、さっさと追い返したから大丈夫や」
若宮朱莉「わたし、ここに住んでいてもいいのでしょうか?」
水城涼真「もちろんや。こんなことでめげてたら、今後の登山活動にも耐えられへんようになるよ?」
若宮朱莉「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます。それにしても涼真さん、マスコミを追い返したなんてお強いですね」
水城涼真「あんな連中はクズとしか思ってないからな。それより次回はお父さんの登山計画ノートに書かれている一つ、大峰神童子谷の遡行やから楽しみにしといてな!」
若宮朱莉「はい、それはとても楽しみにしています!」
そこにまたチャイムが鳴ったので水城涼真は「はい」と言ってドアを開いた。そこにいたのは若宮朱莉のマネージャーである井野口晃だった。井野口晃は困った表情をしながら「水城さんっ!どうしてくださるのですか?」と少し怒鳴った言い方をした。
水城涼真「どうしてって、俺は何か悪いことでもしたんですか?」
井野口晃「こんなスクープ問題を起こして、もし朱莉ちゃんの仕事が減ったら、どのように責任をとっていただけるのでしょうか?」
水城涼真「なんでこんなことで朱莉ちゃんの仕事がなくなるん?俺らは何にも悪いことしてないし、マスコミにも朱莉ちゃんが記者会見で説明しましたよね?」
井野口晃「有名女性タレントが男性と二人で買い物をしていたことが問題なのです」
水城涼真「あんた、やっぱり朱莉ちゃんを商品としてしか見てないな。もうマスコミも追い返したし、終わったこととちゃいますか?」
井野口晃「今回は穏便に解決しましたが事務所側も大変だったんですよ」
水城涼真「それやったらもうええでしょ?事務所側が大変やったことなんて俺らには何の関係もありませんし、もう帰ってもらっていいですか?」
そこに若宮朱莉が「マネージャー、もう今日は帰ってください。記者会見で全て説明しましたし、何もやましいことはないとファンのみなさんにもわかってもらえたと思います」と言った。井野口晃は「しかし、今度から気をつけてください。また二人で買い物なんかしていたらスクープになりかねません」と言ってドアを閉めた。
水城涼真「だから俺は芸能界が嫌いなんよ。ただ男女で買い物しただけでバカ騒ぎしよって、ほんまアホばっかやわ!」
若宮朱莉「涼真さんが芸能界を嫌う理由はわかりますが、わたしは今のお仕事が大好きなんです。それだけはわかってくださいね」
水城涼真「まあそこは理解してるから大丈夫や。それより今回の騒動で逆に行動しやすくなったんとちゃうかな」
若宮朱莉「どういうことですか?」
水城涼真「俺らの関係が世間に知れ渡ったんやから、もう二人で買い物しようが登山しようがスクープにはならんってこと」
若宮朱莉「たしかに考えてみるとそうですね!まさに雨降って地固まるって言葉が当てはまりそうです」
水城涼真のいったとおり、今回のマスコミ騒動があったことで逆に二人が行動しやすくなった。つまり、二人で行動しているところを見られても、それはもうスクープネタにはならなくなってしまったのだ。そして次回はいよいよ若宮朱莉の父の登山計画ノートに書かれた一つである大峰神童子谷の遡行になる。




