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前鬼ブルーは秘境の地を意味していました

7月26日午後19時30分頃・・・


大阪の某テレビ局で情報番組の仕事を終えた若宮朱莉が「お疲れ様でした」と挨拶して自分の楽屋前に戻ると、マネージャーの井野口晃が「朱莉ちゃん、今日もお疲れ様でした。ちょっといいかな?」と声をかけてきた。若宮朱莉は「はい。じゃあ、楽屋の中でもいい?」と言うと二人は楽屋に入っていった。そして若宮朱莉はテーブルの前にあるソファーに座ると井野口晃は口を開いた。


井野口晃「朱莉ちゃんが登山をはじめたってことで、お仕事の話が一つあるんだけど富士山に興味はない?」

若宮朱莉「それってわたしが富士山に登るってこと?」

井野口晃「そう。山ガールで有名な女優の天音琴美さんと一緒に登る企画なんだよ。収録予定日は9月初旬、72時間枠、もちろん登山ガイドをつける予定なんだけどどうかな?」

若宮朱莉「それだと登山ガイドはまだ決まってないのね?」

井野口晃「うん。朱莉ちゃんがこのお仕事を引き受けてくれてから探す予定だよ」

若宮朱莉「じゃあ山岳ガイドは水城涼真さんでいい?それならこのお仕事を引き受けるよ」

井野口晃「朱莉ちゃんはどうしてあの人にそこまで拘っているの?」

若宮朱莉「わたしは涼真さんの登山スタイルをたくさん学びたいって思ってるからなの」

井野口晃「うーん、まあ登山ガイドは水城さんにお願いしてもいいんだけど、企画スタッフが一番重要視してるのは高山病みたいだから、それだけはハッキリ伝えておいてほしい」

若宮朱莉「わかった、ちゃんと伝えておくね。ところで井野口さんは毎日新幹線で通ってきているの?」

井野口晃「まさか、そんなことしたら僕の体力が持たないよ。大阪事務所が借りてるマンションがあって、そこに住まわせてもらっているんだよ」

若宮朱莉「そうなんだ。わたしのためにごめんなさい」


こうして若宮朱莉は富士山の登山ロケを引き受けた。



7月26日午後22時00分頃・・・


シャワーを終えた水城涼真は冷蔵庫から一本の缶ビールを出してきてテーブルの前に座った。今日は執筆活動はしなかったが、土曜日に行く次の取材となる大峰山脈の前鬼川遡行の下調べをしていて少し疲れていた。ビールを飲みながら少し落ち着いていると部屋のチャイムが鳴った。水城涼真は「誰やこんな時間に!?」と呟くと玄関のドアを開けた。するとジャージ姿の若宮朱莉が白地にピンクの水玉模様の入った防水ザックを持っていた。


若宮朱莉「こんばんは。こんな時間にごめんなさい。ギリギリでしたが涼真さんのおっしゃったとおりの防水ザックが届きましたが、これでよかったでしょうか?」

水城涼真「あーこれで十分やわ。まあ29日までに届かへんかっても俺がザック貸してあげたんやけど間に合ったんやったらよかった」

若宮朱莉「でもこのザックって25リッターで少し小さいのですが大丈夫ですか?」

水城涼真「それは大丈夫。俺はロープとか入れるからもう少し大きいザックやけど、朱莉ちゃんはそこまで荷物ないからな」

若宮朱莉「それならよかったです。29日の前鬼川の沢登りが楽しみです!!ところで、涼真さんにお話したいことがあるのですが、少しおじゃましてもいいですか?」

水城涼真「ん?まあこんなところで立ち話するのもあれやし、どうぞ入って」

若宮朱莉「ではおじゃまします」


そうして二人は201号室に入っていった。そして水城涼真が冷蔵庫から缶ビールを一本出してきて「朱莉ちゃん、夜やからこれどうぞ」とテーブルの上に置くと若宮朱莉は「ありがとうございます」と言って缶の蓋を開けた。


水城涼真「それで、俺に話したいことって?」

若宮朱莉「あの、涼真さんは天音琴美という女優さんを知っていますか?」

水城涼真「ん?どっかで聞いたことある名前やな」

若宮朱莉「わたしもお会いしたことがありませんので詳しい事は知らないのですが、芸能界にいる山ガール美女と呼ばれている人です」

水城涼真「ああー!雑誌でもときどき出てくる人やな。それで、その天音琴美がどうかしたん?」

若宮朱莉「えっとですね、その天音琴美さんとわたしが一緒に富士山に登るというテレビ番組の企画がありまして、そのロケの登山ガイドを涼真さんにお願いしたいんです」

水城涼真「それは俺に正式な仕事の依頼したいってことでええん?」

若宮朱莉「はい、そうです。マネージャーにもこの条件じゃないと引き受けないと伝えています」

水城涼真「そっかあ。それにしても富士山かあ~二度と登るまいと思ってたからな」

若宮朱莉「あはは、涼真さんは富士山嫌いですもんね」

水城涼真「別に嫌いというわけではないんよ。ただ、俺の中で富士山は登るんやなくて見る山っていう感覚なだけやで」

若宮朱莉「それはわかりますが、わたし一度は登っておきたいって気持ちはあります」

水城涼真「まあ、俺もそうやったから朱莉ちゃんの気持ちはわかるよ」

若宮朱莉「それでスタッフが一番重要視しているのが高山病とのことで、その対策を涼真さんに考えてほしいのです」

水城涼真「それは考えるけど、みんなわかっとかなあかんのは完全な高山病対策はないってことやな。どれだけ対策しても体質的になってしまう人に関しては防ぎようがあれへんのよ」

若宮朱莉「なるほど」

水城涼真「それに重要視するのはそれだけやなくて、登る前に少しはコミュニケーションをとっとく必要がある。朱莉ちゃんやその天音琴美も、いきなり会って挨拶だけして『さあ登りましょう』みたいなのは絶対したらあかん!」

若宮朱莉「たしかに!でも、この業界ではそういうことがよくあったりするんですよね・・・」

水城涼真「それとロケのスケジュールやけど、まさか一泊二日とかやないやろね?移動時間を考えたら二泊三日は必要になる」

若宮朱莉「まだロケ日が完全にフィックスしていませんのでハッキリ言えませんが、マネージャーが72時間枠と言っていましたから一泊二日はないと思います。さすがのわたしも一泊二日のスケジュールだとしんどいです」

水城涼真「その72時間の登山スケジュールは俺が決めるって条件も出しておいてほしい」

若宮朱莉「わかりました。おそらく番組の企画担当者と電話してもらうことになると思いますが、涼真さんの電話番号教えておいてもいいですか?」

水城涼真「教えておいていいよ。じゃあ俺が直接その企画担当者と話しておくわ!」



7月29日午前5時30分・・・


少し前から目を覚ましていた水城涼真は奈良県下北山村の天気をチェックしていた。太平洋高気圧に覆われて快晴、予想最高気温は32度ということで猛暑ではあるが最高の沢登り日和になる。しかし、これだけ気温が高い場合に気をつけなければならないのが夕立ちと雷で、水城涼真は午後14時から15時までには遡行を終えないと考えていた。

水城涼真が防水ザックと着替えなどが入った大き目のバッグを持ってアパートの入口に行くと、すでに防水ザックを背負いながら大きめの手提げバッグを持っている若宮朱莉が待っていて「おはようございます」と元気な声で挨拶をした。今日の若宮朱莉の服装は黒い長袖インナーシャツの上に紺色のティシャツを着て、黒いトレッキングタイツに茶色の半パンを履いている。水城涼真も「おはよう。朱莉ちゃん早いねえ、じゃあ駐車場まで行こうか」と言って二人はアパートを出た。

吹田駅に到着すると時刻はまだ午前5時45分と登山仲間の二人との待ち合わせ時間には少し早かった。


水城涼真「今さらなんやけど、朱莉ちゃんって泳げるん?」

若宮朱莉「泳げますよ。これでも中学生の頃一年間だけ水泳部にいました」

水城涼真「それなら安心やわ。まあ泳げなくても沢登りはできるんやけど、泳げたほうが楽しめるからな」

若宮朱莉「そうなんですね。はじめての沢登りが楽しみです!」

水城涼真「ちなみになんやけど、さすがにスキーはできんやろ?」

若宮朱莉「あまり上手くありませんがゲレンデを滑ることくらいならできます」

水城涼真「珍しいな。今の若い子ってみんなスノボーやってるイメージなんやけどな」

若宮朱莉「小学生の頃、よく父にスキー場へ連れていってもらったのですが、なぜかスキーを教わりました。みんなスノボーだったので、わたしもしてみたいって言ったことがありましたが、父は『明里も大人になったらスキーを覚えていてよかったと思う日がくるから』と言ってました」

水城涼真「それって、その時からお父さんは朱莉ちゃんがいつか登山に興味を持つってことがわかってたんとちゃうかな」

若宮朱莉「そうなんですか!?わたしは父と感性が似ていると気づいたのはごく最近でしたが・・・」

水城涼真「子供が自分と同じ感性を持ってるって親なら気づくと思うわ。スキーはどんな地形でも移動できるように設計されてるんやけど、ボードは滑走にだけ特化して作られてるから、雪山登山ではスキーのほうが有利なんよ」

若宮朱莉「父はそんな頃から今のわたしをイメージできていたなんて・・・あまりにも嬉しくて少し泣けてきました」

水城涼真「まあ、それやったら朱莉ちゃんをバックカントリーにも連れていけるわ!って二人が来たみたいやな」


水城涼真と若宮朱莉は車から降りて外に出ると、有本淳史と樫田祐がこちらへ向かって歩いてきた。そしてみんなが「おはようございます」と挨拶すると荷物をトランクに積み込んで有本淳史と樫田祐が後部座席に座った。そして車を走らせていると会話がはじまった。


若宮朱莉「あっちゃんに質問でーす!今日の沢登りで何度もヤマビル注意って言われたんだけど、そんなに危ないの?」

有本淳史「ただ血を吸われるだけでそんな危ないってことでもないっす」

若宮朱莉「でも血を吸われるのは嫌だなあ。ヤマビルの写真はみたけど、なんか気持ち悪い」

有本淳史「ちなみに、涼真さんの弱点は虫とヤマビルっす。鈴鹿の沢登りに行った時、涼真さんの靴にヤマビルが5匹くっついてて、涼真さん発狂してたからね」

水城涼真「あっちゃん、虫とヤマビルは俺の天敵やねん!」

若宮朱莉「5匹って、わたしだったら気を失うかも・・・今日行くところもそんなにヤマビルいるの?」

有本淳史「今日行くところはそんなにヒルはおらんから大丈夫」

樫田祐「ヒルは即効で撃退せんと駄目です。でも、ここまで増えたらもう絶滅はせんでしょうね」


それから一時間程車を走らせて、大峰に行くときはいつものと言われるコンビニエンスストアに立ち寄った。


水城涼真「ここで一旦休憩。今日はいつもの店員さんおるかな!?」

有本淳史「そんな気になるんでしたら、あの子に告白したらいいじゃないっすか?」

水城涼真「いや、ただ可愛らしいなって思ってるだけで恋愛感情なんてないから!」

若宮朱莉「今日こそは涼真さんお気に入りのその店員さん見てみたいです!」

樫田祐「涼真さん、あのゴミ捨てに来た店員さんがそうちゃいます?」

水城涼真「おぉー!今日はおったな」


水城涼真がいつもの店員さんといってるのは高校生くらいの少し茶髪でポニーテル、丸顔で目が少しクリっとしてスリムで身長は少し低めの女の子であった。その店員さん見たさに若宮朱莉ははしゃぎながらコンビニで買い物をしていた。

コンビニで休憩をとってから車を走らせて一時間半ほどで前鬼の駐車場に到着した。そしていよいよ若宮朱莉にとってはじめての遡行がはじまった。


若宮朱莉「めちゃくちゃ水が綺麗なんですが、すっごく冷たいです」

水城涼真「ここは標高600mほどあるから気温も水温も低くなってるんよ。さあ、じゃんじゃん遡行していこか」


それから日に照らされた沢の深い場所の水面がコバルトブルーに輝きだすと若宮朱莉は「うわーなんですかこれ!?」といって感嘆の言葉を発していた。入渓してから一時間ほど経った頃、沢のカーブを曲がると滝壺がコバルトブルーで輝いている二段の滝に到着した。


水城涼真「ここで休憩しよか。朱莉ちゃん、これが言ってたブルーの滝やで!」

若宮朱莉「すごすぎます!わたし、ロケで滝壺が緑の綺麗な滝は見たことあるけど、こんなブルーになっている滝なんて見たことなかったです」

樫田祐「僕ちょっと泳いできますわ」

水城涼真「ここも他のパーティーはおるけど、人があまり入り込まない秘境の地やから水が綺麗でブルーなんよ」

若宮朱莉「でもどうしてこんな綺麗なブルーなんですか?」

有本淳史「水質があまりにも綺麗で透明度が高いからブルーになってるのよ」

若宮朱莉「それにまるでサイダーみたい!そんなに綺麗ならここの水は飲めるの?」

有本淳史「一昔前は飲めたかもしれんけど、今は辞めといたほうがいいかも」

若宮朱莉「あっ!わたしも樫田君と同じく泳いできますね」


休憩後、左岸から岩場を登り二段の滝の上部に着くと今度は沢の水が滑らかな岩盤の上を流れる地帯になった。


若宮朱莉「なんかここも沢の水があちこちに流れていて広大で神秘的な場所ですね」

水城涼真「こういうところをナメ地帯っていうんやけど、沢靴でも滑るから注意して歩いてな」


その後は沢に飛び込んで岩場を登って岸に上がるなどを繰り返しながら遡行して、二段の滝から四十分程で箱状廊下に到着して少し休憩となった。この箱状廊下という場所は正面と向かって右側から滝が流れていてコバルトブルー滝壺があるといった箱状になっているゴルジュなのだ。


若宮朱莉「箱状廊下ってすごく不思議な感じがしますが、まさに自然の神秘って感じがします!!」


すると水城涼真が「朱莉ちゃん、ちょっとこっちに来てみ!」と言って二人は箱状廊下から少し登った。するとそこは四方八方に滝が流れていて若宮朱莉は「うわーどこ見ても滝だなんて、こんなところがあるんですね!」と驚いた。ここは沢の分岐点になっており少し離れた場所には三重滝がある。水城涼真は「自然によって創り出されたアートといえばええんかな」と言った。


小休憩が終わってさらにニ十分ほど遡行していくと垢離取場という登山道との分岐点に到着した。今回の遡行はここで終わりになり、昼食もここでとることになっている。みんなそれぞれがバーナーを出してお湯を沸かしながらカップラーメンの準備をしておにぎりを出していた。


若宮朱莉「ここで沢登りは終わりなんですよね?」

水城涼真「そうやな。なんか物足らんような表情してどないしたん?」

若宮朱莉「沢登りめちゃくちゃ楽しかったので、もう終わるのかって思いまして・・・」

水城涼真「朱莉ちゃん何言うてんの。ここから今度は童心に戻って楽しむねん。ちゃんと童心大臣のあっちゃんもおるしな」

有本淳史「童心大臣って何っすか!?まあでもここからが楽しみっすよ」

若宮朱莉「はあ、童心に戻るですか!?まだよくわかりませんが楽しみにしておきます」


みんな昼食を終えて片付けをしていた。ずっと陽の光を受けていたおかげでびしょ濡れになった服はすっかり乾いて、冷え切った体も温まっていた。それから若宮朱莉は樫田祐と何やら夢中で会話していたのだが、水城涼真は岩の上に登って大の字になって寝ていた。また有本淳史は垢離取場にあるエメラルドグリーンの滝壺に入って泳いでいた。一時間ほど休憩をして時刻が13時前になったところで沢を下っていくことになった。まず十分ほど沢を下った場所に落差5mほどの滝の上に着いた。


水城涼真「朱莉ちゃん、ここからスライダーで滑るんやで!」

若宮朱莉「スライダーですか?」

水城涼真「まずは童心大臣のあっちゃんに手本を見せてもらおか」

有本淳史「俺からっすか?まあいいですけど・・・」


有本淳史は滝の上に座って「ほいじゃあいきます!」と言って両手を広げながら滝壺に向かって滑っていった。そして滝壺から顔を出すと「最高っす!!」と大きな声で言った。それを見ていた若宮朱莉は目を輝かせながら「なにこれなにこれ!?めっちゃ楽しそう!!!」とはしゃぎだした。続いて樫田祐が「僕最後に行きたいんで、涼真さん次行ってください」と言うと水城涼真は「やっほぉいっ」と言いながら滑っていった。そして次は若宮朱莉が滑ることになった。


樫田祐「朱莉ちゃん、ここに座って滑るときにちょっと両手で体を前に出せば滑るから」

若宮朱莉「ちょっと怖いんだけどやってみるね」

樫田祐「一回やってみればすぐわかると思うわ」

若宮朱莉「じゃあいってみるね」


滑りだしたとたん若宮朱莉は「キャー」と声を発しながら滝壺に突っ込んで顔を出すと「これめっちゃ楽しい!!!」と大声で言った。若宮朱莉にとってはじめての自然の滑り台、つまり天然スライダー体験である。最後に樫田祐がニッコリとして両手を拡げながら滑っていった。

続いて左岸から岩を登ってきた場所だったが、わざと沢から高さが約3mほどの岩の上に立った。


若宮朱莉「涼真さん、あっちから岩を下らないのですか?」

水城涼真「そんなめんどくさいことせんでも、ここから飛び込んだほうが早いがな」

若宮朱莉「ええーーーーーーっ!?ここからですか?」

水城涼真「ここの沢は深いから全く問題あらへん」

樫田祐「じゃあ今回は僕が先に行きますわ!」


そういって樫田祐は岩から沢へドボンっと飛び込んだ。それを見た若宮朱莉は再び目を輝かせて「これも楽しそう!次、わたし飛び込んじゃいますね」と言って沢へ飛び込んだ。たしかにここでは飛び込み禁止とかないので、そういう体験をしたことのない若宮朱莉にとっては非日常感で溢れていた。そして水城涼真、有本淳史と飛び込んでいった。


箱状廊下を過ぎて10分ほど下ったあたりで、この前鬼川の遡行している人達の中で有名なジャンプ台のような岩があった。沢の底はかなり深くて、その6mほど上に大きな岩がある。水城涼真はそこの左岸側にザックを置いて「ちょっとここでショーを見よか」と言った。若宮朱莉は不思議な表情をしながら「ショーですか?」と呟いた。水城涼真は「あっちゃん、今回は前転サービス付きでお願いするわ」というと有本淳史は「OKっす!」と言ってジャンプ台となる岩へ登っていった。そして岩の上に立つと有本淳史が「5、4」とカウントダウンをはじめた。そのカウントダウンがゼロになると有本淳史は斜め上に飛び上がって前転宙返りをすると両手と足を揃えて頭から沢へ飛び込んだ。


若宮朱莉「あっちゃん、あんなことができるんだ・・・すごいっ!」

樫田祐「朱莉ちゃん、あっちゃんが頭おかしいだけやから真似はせんほうがいいで」

若宮朱莉「あれはさすがに真似できないよ」

樫田祐「じゃあ僕らは普通に飛び込みにいこか」

水城涼真「俺は去年飛び込んでるし、今年はもう寒いから二人だけで行っといで!」


若宮朱莉と樫田祐の二人はジャンプ台となる岩の上に到着した。まずは若宮朱莉から沢へ飛び込んで、最後に樫田祐が沢へ飛び込んだ。二人とも十分満足したという表情で岸に上がってきた。

その後、ナメ地帯で何ヵ所かのポイントでスライダーをした後、二段の滝の上に到着した。ここから岩を下るのだけは少しコツがいるのだが、ロープを出す人もいれば出さないで下る人もいる。そこで水城涼真は30mのロープを出して若宮朱莉に手渡した。


水城涼真「ここロープなくても下れるけど、せっかくやし練習も兼ねて懸垂下降で下っていき!あそこの太い木を使えばええんやけどセッティングは自分でしてな」

若宮朱莉「連結はエイトノットかオーバーハンドノットのどっちがいいですか?」

水城涼真「まあ距離は短いし朱莉ちゃん一人やから好きな方でええわ。末端にバックアップ付けておけば解けることはないやろ」

若宮朱莉「わかりました。じゃあ行ってきますね」


そうして若宮朱莉だけが懸垂下降をすることになって他の三人はさっさと岩場を下っていった。若宮朱莉はロープのセッティングをして懸垂下降で岩場を下った。そんな姿をみていた有本淳史が「彼女、もう完璧じゃないっすか」と言うと、水城涼真は「あとはもう慣れやね」と呟いた。ロープを回収した若宮朱莉は「ありがとうございました。懸垂下降も楽しかったです!」といって水城涼真にロープを返した。この二段の滝の下で最後の休憩をすると時刻は午後14時20分になっており、あとは遊ぶところはなく沢を戻っていくだけになった。そして午後15時過ぎに前鬼の駐車場まで戻ってきた。水城涼真は着替え用の簡易テントを出そうと思っていたが若宮朱莉は「面倒なので車の中で着替えます」と言ったので男性三人は外で着替えた。


水城涼真は帰りに焼肉でも食べようかと思っていたのだが車の中ではみんな疲れていたのかずっと眠っていたので吹田駅まで直行した。午後18時40分過ぎに吹田駅に到着して「お疲れ様でした」と挨拶を交わした後、樫田祐と有本淳史は帰っていった。


水城涼真「朱莉ちゃん、後半はかなり童心に戻ってたみたいやな」

若宮朱莉「もう一発で沢登りにハマっちゃいました!!あんな楽しいことが世の中にあったんだって思いましたよ」

水城涼真「それならよかったわ。景色はどうやった?」

若宮朱莉「景色も最高でした!前鬼ブルーは秘境の地を意味しているんだなって感じています」

水城涼真「まあそうやな。ところで今日はまともなもん食ってないから、アパートの近くにある美味しいお好み焼き屋にでも行く?」

若宮朱莉「美味しいお好み焼き屋!わたしもお腹ペコペコですし行きましょう!」


そんな話をしながら二人は近くのお好み焼き屋へ向かって行った。ちなみに二人が向かったお店のお好み焼きは外はパリパリして中はふわっと柔らかい大阪風である。特に豚モダンが人気だが、その他に牡蠣焼きや焼きそばなんかも美味しい。水城涼真は豚モダン、若宮朱莉はミックスモダンを注文した。


一日を十分に満喫した二人だったが、この後大変なことになるのだ。

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