岩登りをして信頼されているんだと感じました
7月19日午前9時30分頃・・・
蒸し暑い日が続く中、水城涼真は朝から執筆活動をしていた。今日は気分転換に倉田悠というまだ十代の女性声優が歌うアニメソングを流していた。そんな中、いきなり部屋のチャイムが鳴ったので水城涼真は「はーい」と大きな声で返事をした。するとドアが開いて若宮朱莉が「おはようございます」と言って入ってきた。水城涼真はすぐさま音楽を止めて「入ってきて」と言った。
若宮朱莉「うふふ、、、聴いちゃいましたよ。涼真さんって若くてキュートな女の子が好きなんですね」
水城涼真「何を根拠に言ってるんや?」
若宮朱莉「さっき流れていたのって倉田悠ちゃんの曲じゃないですか。たしかに実際に会ってみるとお人形さんみたいに可愛らしいですからね」
水城涼真「いや、可愛らしいとは思うけど俺はただ彼女の声が好きなだけで、他のアニソンとかも聴くし・・・って実際に会ったことあるんや?」
若宮朱莉「二度ほどお仕事をご一緒させていただきましたし、プライベートでも少しお話しましたよ。よろしければ倉田悠ちゃんのサインをもらってきましょうか?」
水城涼真「そんなもんいらんわ!ポールマッカートニーのサインやったら欲しいけどな」
若宮朱莉「さすがにそれは無理ですよ。涼真さんって音楽好きなんですか?」
水城涼真「めちゃくちゃ好きやで!俺、昔バンド組んでて最後はギターとボーカルをやってたからな」
若宮朱莉「そうなんですね。涼真さんの歌聴いてみたいです!」
水城涼真「洋楽ばっか歌うけど、まあ機会があったらカラオケでもいってみよか!?」
若宮朱莉「カラオケいいですね~でも、わたし歌うのは苦手なんですけどね・・・」
水城涼真「あははは、朱莉ちゃんはリズム感なさそうやからなあ。それより今日きてもらった本題を話すわ」
若宮朱莉「はい」
水城涼真「もう暑くて限界やからさっさと沢登りに行きたいねんけど、その前にロープワークとか岩登りの勘を取り戻す訓練のために一度ロッククライミングに行こうと思ってるんよ。朱莉ちゃん、いきなりなんやけど岩登りはどう?」
若宮朱莉「ロッククライミングですよね?わたしにはまだイメージできませんが沢登りの訓練ってことであればしてみたいです!」
水城涼真「まあ、もう装備は揃えてるからな。その器具の扱いを覚えてたら登山技術もあがるし、ある意味楽しいとは思う」
若宮朱莉「それならなおさらしてみたいです!!」
水城涼真「じゃあ22日の土曜日に奥立山ってところに行く予定やけど大丈夫?」
若宮朱莉「土日は基本的に予定をあけていますので大丈夫ですよ」
水城涼真「あと、もう一人の登山仲間も呼んでるから、また話してな!」
若宮朱莉「わかりました。なんだかワクワクしてきました!」
そういう話をして22日の土曜日に岩登りに行くことになった。若宮朱莉にとって行者還岳に行って以来の登山活動になる。
7月22日午前6時頃・・・
かなりテンションがあがっている若宮朱莉が201号室の前で待っていた。水城涼真は少し大き目な赤いザックを抱えながら、40mのロープや10本くらいのヌンチャクやいくつかのカラビナとATCを持って部屋から出ててきて「おはよう」と言った。二人はさっさと駐車場へ向かってトランクに荷物を積んだ。今日の登る山は奥立山という大阪府河内長野市にある、あまり人に知られていない山である。荷物を積み込むと若宮朱莉を助手席に乗せて出発した。まずは30分ほど先にある最寄りの吹田駅に向かって、もう一人の山仲間を迎えに行くことになった。
水城涼真「朱莉ちゃん、テンションが高いみたいやけど、岩登りやロープワークは人の命に関わっているということをよく覚えててほしい」
若宮朱莉「はい。ロープワークは人の命を預かる役目をしないといけないのですね」
水城涼真「いきなり朱莉ちゃんに、そういう役目をしろとはいわんけど、一つ間違ったら一発でアウトやからね」
若宮朱莉「わかりました。かなり危険なことをするという覚悟をしておきます」
吹田駅に到着すると、黒髪でツーブロック刈り上げにアップバングのセンター分けで目はキリっとして鼻筋が通っていて、唇はスッとしたダイヤモンド形の顔立ちをした身長175cmくらいの黒い長袖Tシャツに白いキャラクターのTシャツを着用して半パン姿の男性がタバコを吸いながら、赤いザックを背負って車のほうへ向かってきた。誰が見てもかなりのイケメン男子に見えるが、それこそが水城涼真のもう一人の登山仲間である有本淳史だった。
水城涼真はすぐにトランクを開けて、車から出て「あっちゃん、久しぶりやね!」と言った。有本淳史は助手席のほうを見ると「涼真さんの彼女さんっすか?」と言った。水城涼真は「いや、ちょっとわけありの子で連れていくことになったんよ」と答えた。そういう二人の会話を見ていた若宮朱莉は助手席から出てきて、すぐに有本淳史のほうへ行き「あ、あの、涼真さんの登山仲間になりたいと思っている本条明里です。今日はよろしくお願いします」といって頭を下げた。それを見た有本淳史は「涼真さん、この人ってもしかして芸能人の若宮朱莉さんですか?」と聞いた。それに対して水城涼真は「そうなんやけど、詳しい話は車の中で話すからみんなさっさと乗って!」と言った。有本淳史は後部座席に乗って、若宮朱莉は助手席に乗るとすぐに車を走らせた。そして、水城涼真は若宮朱莉の経緯や詳しいことを有本淳史に説明した。
有本淳史「ついに涼真さんは芸能人にまで手を出したってわけっすよね?」
水城涼真「人聞きの悪い・・・あっちゃん、俺は芸能人とか興味ないし、まだこの子が仲間になれるかどうかもわからんのよ」
有本淳史「冗談っすよ。でも、若宮朱莉さんの意気込みや登山に関する考え方は僕らに近いものがあるんとちゃいますか?」
水城涼真「それはそうなんやけどね」
そこに黙りこんでいた若宮朱莉が口を開いた。
若宮朱莉「有本淳史さんは女性におモテにならないですか?」
有本淳史「そういう意識をしたことはないっす。なんでそう思ったんですか?」
若宮朱莉「かなりのイケメンだと思うからです。そういう意識もないのでしょうか?」
有本淳史「う~ん、恋愛とかそういうことに全く興味ないっすからね。あと山仲間になりたいのであれば敬語もなしで、僕のことはあっちゃんと呼んでくれいいのでよろしく」
若宮朱莉「なるほど。では遠慮なく、あっちゃんはおいくつで何の仕事してるの?」
有本淳史「今は26歳のフリーターで、高層ビルの清掃業をしてるっす」
若宮朱莉「どうして涼真さんの登山仲間になったの?」
有本淳史「ただ、涼真さんと登山活動をするのが楽しいからかな」
若宮朱莉「そうですか。でも涼真さんから命を預けてもらえるほど信頼されているように思います」
有本淳史「そうなんかな!?それはこれまでの経験があるからやと思うっす」
そういう話をしているとすぐに目的地に到着した。三人は車から降りるとトランクからロッククライミングの道具を取り出して、ヘルメットやハーネスなどを装着して準備をした。三人の準備が整ったところで、ここから10分の山道を歩いていくと、最初の岩場へ到着した。断崖絶壁の岩場で高さは10mほどだが、まずはこの岩を登っていくことになる。この岩場はホールドできる場所がたくさんあるので、そこまで難易度が高いとはいえない。まずは有本淳史がビレイヤーになり、水城涼真がトップで登っていくことになった。岩を登る時、水城涼真は若宮朱莉に岩登りの基本を教えていった。
水城涼真「岩登りの基本となるのは三点支持で、三つの手足の置き場をしっかり確保することを意識しながら登っていくことなんよ」
若宮朱莉「はい。三点支持ですね」
水城涼真「あとはできる限り腕の力で登ろうとしないで、まるで階段を登るような感覚で足で登っていくように意識していくことやな」
若宮朱莉「うまくできるかわかりませんが、三点支持と足で登っていくような意識をしながら登っていくようにします」
早速、水城涼真は岩場を登り始めたが、その速度はかなり早かった。この岩は何度も登っているので水城涼真にとっては簡単な登りであった。続いて、水城涼真は岩場の上に支点を作ってビレイやーになり、続いて登ってくる有本淳史の確保をした。岩場に取り付けているヌンチャクを外しながら、有本淳史もかなりのスピードで登ってきた。水城涼真は「ヌンチャクありがとう」と言って受け取ると、最後はいよいよ若宮朱莉が登ってくることになった。
水城涼真「朱莉ちゃん、ちゃんとロープを装着したカラビナのネジはロックしてるよね?」
若宮朱莉「はい、大丈夫です。ではお願いします!」
さすがに初心者ということもあって、若宮朱莉は手や足の置き場に戸惑いながら登ってきていた。途中で足の置き場がわからず途方に暮れていたところで水城涼真が「朱莉ちゃん、そういう時は左足と右足を瞬時に切り替えるんだよ」と言った。右足を岩場に乗せているため、左足の置き場がないという状況だった。この状況だと三点支持のうち左足を岩の上に置けば右側の岩場には足の置き場がある。恐怖心から足の置き場を瞬時に切り替えるということはかなり困難なことだったが、若宮朱莉は「えいっ!」といって、瞬時に足の置き場を左足を切り替えたのだ。そして、右側の岩場に足を置いて時間をかけながら登ってきた。
水城涼真「朱莉ちゃん、お疲れ様。初心者にしてはよくできたと思うわ」
有本淳史「彼女、はじめてにしてはなかなかやりますね」
若宮朱莉「左右の足の切り替えは本当に怖かったですが、登れてよかったです」
続いて、次の岩場を登ることになる。少し休憩した後、今度は水城涼真は若宮朱莉にエイトノットの結び方からATCでのビレイヤーのやり方を必死に教えていた。水城涼真「ロープをこうすればロックがかかって、滑落を防ぐことができるんだよ」といって若宮朱莉に説明すると、水城涼真は少し岩場に登って「よし、今から滑落するからロックしてみて」と言うと、若宮朱莉が「や、やってみます!」と少し怯えた口調で言った。そして水城涼真は「いくで!」と言ってわざと飛び降りると若宮朱莉は見事に滑落をロックした。ほっとした水城涼真が地上に降りると「あとはロワーダウンやけど、ATCのロック解除を徐々に行っていくようにするんやけど、ゆっくりロープを緩めながら降ろしてしくようにする」と言った。若宮朱莉は「こんな感じですね」とコツをすぐに掴んだようだった。水城涼真は万が一のためにバックアップシステムも構築しておいた。実際に若宮朱莉がビレイヤーになって水城涼真が岩を登り、ロワーダウンをして降ろしていくことができた。
水城涼真「とりあえず基本的なことは覚えたみたいやね」
若宮朱莉「ちゃんとできていたのかわかりませんが、ありがとうございます」
ここで水城涼真が「ちょっとトイレに行きたいので席を外す」と言った。
有本淳史「なかなかがんばってるっすね」
若宮朱莉「でも、まだまだ涼真さんになかなか認めてもらえていないというか、信用されていないかも」
有本淳史「そんなことないと思うっすよ」
若宮朱莉「どういうこと?」
有本淳史「信用していない人にビレイヤーやロワーダウンさせたりしないっすよ」
若宮朱莉「そうなの!?これはただの練習だからじゃない?」
有本淳史「ただの練習やったとしても、滑落したら大参事やからね。信用してるからこそ任せたんやと思うっすよ」
若宮朱莉「それはそうかもだけど、そういう表情をしているように見えないの」
有本淳史「まあ、あの人は素直に感情表現できないところがあるからね」
若宮朱莉「なるほど・・・」
そこに水城涼真が戻ってきた。若宮朱莉は有本淳史の話を聞いて心の中で「涼真さん、わたしのこと信用してくれているんだ」と意識しながら目を輝かせていた。
水城涼真「あっちゃん、朱莉ちゃんに何か言ったの?」
有本淳史「何も言ってないっすよ」
水城涼真「まあいいや。さて、次が最後の岩登りになるんやけど、朱莉ちゃんリードしてもらう。支点の設置方法は説明したよね?」
若宮朱莉「はい。でもちゃんとできるか不安です」
水城涼真「ヌンチャクを6本渡しとくから、リードで登ってあそこに見える木を支点にすればいい」
若宮朱莉「わかりました。がんばります!」
若宮朱莉は6本のヌンチャクをハーネスに装着して、最後の岩場を登り始めた。高さ20mほどの岩場だが慎重に登っていった。この岩にはアンカーやハーケンが複数刺さっているので、ヌンチャクを装着しやすい初心者向けといってもいい。若宮朱莉は5mほど登った地点のアンカーにヌンチャクを装着してさらに登りはじめた。さっきよりも三点支持を意識ながらうまく岩場を登っていることはわかった。さらに10mほど登った地点のアンカーにヌンチャクを装着したが、少し怯えている感じがした。水城涼真が大きな声で「下を見ずに上をみながらゆっくりと登っていくようにせなあかん」と言った。若宮朱莉は「ごめんなさい、つい下を見てしまって怖いと思いました」と言った。そのまま上だけを見ながら登り始めると、今度はそこから3mほど登った地点にヌンチャクを装着して、さらに少し登ったところで再びヌンチャクを装着した。登る速度も遅くなってきたが、あともう少しで岩場の上に辿り着くことができる。岩場の直下で再びヌンチャクを装着して、少し立ち止まった。水城涼真は大きな声で「もう少しやけど岩の上に到着できるけど、登りきるまでは油断したらあかんで!」と言った。すると若宮朱莉は「はいっ!さっさと登ってしまいますね!!」と言って登りはじめた。そして、ついに岩の上まで登りきることができた。若宮朱莉は「岩の上に到着しました。早速支点の設置をします」と大きな声で言うと、スリングを2本の木に巻きつけて、その中心にロッキングカラビナを設置した。そして、ATCにビレイヤーのセッティングをしてロープを下に垂らして「準備できました」と大きな声で叫んだ。
水城涼真「じゃあ次は俺が登るから、あっちゃんは最後お願い!」
有本淳史「了解っす」
水城涼真はカラビナにロープを装着してさっさと登りはじめた。ヌンチャクを回収しながらサクサクと岩場を登っていく。若宮朱莉はロープを引いていきながらビレイヤーとしていつでも滑落した時にロックできるように意識していた。10分ほど過ぎて水城涼真は岩の上まで登ってきた。若宮朱莉は「さすがは涼真さん、かなりのスピードで登ってきましたね」と言うと、水城涼真は「ここは何度も登ってる場所やから単なる慣れだよ。だからといって油断したらあかんのやけどな」と答えた。そして、水城涼真は支点の設置の仕方やビレイヤーの装着などの確認をすると「設置方法に問題はないから、あっちゃんのビレイヤーも担当して」と言った。若宮朱莉は「わかりました。がんばります」といって有本淳史のビレイヤーもすることになった。ロープを下に垂らすと有本淳史はカラビナにロープを装着してさっさと登りはじめた。有本淳史の岩を登ってくる速度もかなり早く、今度は10分も経たないうちに岩の上まで登ってきた。
水城涼真「あっちゃん、相変わらず早いね。ビレイヤーのロープワークがついていけなかったくらいやで」
有本淳史「いやいや、これは慣れっすよ」
水城涼真「さて、道具を片付けたら奥立山の山頂で飯でも食おうか」
若宮朱莉「山で食べるお昼ご飯ですね。とても楽しみです」
水城涼真「昼飯といっても、さっきコンビニで買ったカップラーメンとおにぎりだけやで」
三人はさっさと道具を片付けるとハーネスやヘルメットを装着したまま、奥立山の山頂まで歩いていった。山頂は岩場から5分ほど登ったところにあるが、樹林帯に囲まれた狭い場所でもはや山頂というより単なるピークといえる。しかし、狭いといっても平坦になっている場所があり、人はめったに来ることはない。そこにアルミシートを敷いて、手作りのアルミ板の上にバーナーを設置してお湯を沸かした。有本淳史はクッカーの中におでんの袋を入れて温めていた。
お湯が沸くと水城涼真は自分のカップラーメンと若宮朱莉のカップラーメンにお湯を注いだ。おにぎりを食べながらカップラーメンを食べていると、若宮朱莉が「山で食べるとどんなものでも美味しく感じますね」と言った。水城涼真は「まあ運動した後ってのもあるし、山の空気が綺麗だから美味しく感じるんだよ」と言った。
有本淳史「下山は懸垂下降でひたすら下る予定っすか?」
水城涼真「そのつもりだよ。ただ、最初の岩場はロープを回収できないから巻道を使って下る予定なんやけどね」
有本淳史「了解っす!あと、お湯をもう少し沸かしてもらってもいいっすか?ドリップ式のコーヒーを持ってきてるんすよ」
水城涼真「食後のコーヒーいいやん!」
水城涼真はお湯に水を注ぎ足してバーナーで温めていた。そして有本淳史はザックからドリップ式の高級そうなコーヒーと紙コップを出した。水城涼真は「俺は自分のシェラカップを出すので、もう一つの余りの紙コップがあるなら朱莉ちゃんに使ってもらってええかな?」と言うと若宮朱莉は「わたしも自分のカップを持ってきていますので大丈夫です」と言った。若宮朱莉はザックの中からチタン製のカップを取り出した。お湯が沸くと有本淳史はコーヒードリップにお湯を注いでそれぞれのカップにコーヒーを注いだ。
若宮朱莉「山でこんな高級なコーヒーを飲めるなんて贅沢ですね」
有本淳史「コーヒーにはこだわりがあるんですよ」
水城涼真「まあ、あっちゃんはいつもこだわりのあるコーヒーを持ってくるんよ。テント泊になるとコーヒーが大量の酒になるんやけどね」
三人がコーヒーを飲んで片付けると、今度は下りになった。さっき登った岩場の上まで歩いていくと、しっかりした木にロープを巻いてロープを垂らすと水城涼真は若宮朱莉に懸垂下降の方法を教えた。
水城涼真「若宮さん、こういう風にATCにロープをセッティングして、岩を下降していくわけやねんけど、コツは足元を見ながらロープをゆっくり緩めていって危険だと感じたらロックする。基本はロワーダウンと一緒なんやけど、とりあえず、ここでロープを緩めながら下れるかロックできるか試してみて!」
若宮朱莉「わかりました。えっと、こういう風にATCに二本のロープを設置してカラビナのネジをしっかりしめて・・・なるほど、ロープをゆるめながらゆっくり下降して、これでロックですね」
水城涼真「うん、それで無理せずゆっくり岩場を下降していくことやね」
若宮朱莉「わたしが一番でいいですか?早速、このまま下降していきますね」
水城涼真「うん、そのまま下降していけばいい。左手は軽く二本のロープを掴みながらね」
若宮朱莉は懸垂下降をしながら岩場を下っていった。コツをつかめたようですぐに下降していったが若宮朱莉は「これ楽しい!」といいながら下降していった。たしかに懸垂下降が楽しいという気持ちはよくわかる。さっさと若宮朱莉が下降して終わると「ビレイ解除しました」という声が聞こえた。ロープを引き上げて、続いて水城涼真が懸垂下降でさっさと下っていくと、最後に有本淳史が懸垂下降で下降した。
若宮朱莉「涼真さん、わたし、懸垂下降は大好きです。次も先にいっていいですか?」
水城涼真「まあ、懸垂下降はみんな楽しいっていうからな。次が最後やけど、先にいけばええよ。うまくなればジャンプしながら下っていけるようになるよ」
若宮朱莉「はい!じゃあ、この木でセッティングして下降しますね」
若宮朱莉はすっかり慣れたようで、自分でロープの穂先を巻きつけると、ATCとカラビナにロープをセッティングして懸垂下降をしていった。
有本淳史「もう彼女は完璧に学んじゃないっすか?」
水城涼真「基本はおさえた感じやけど、まだロープの扱い方とかがわかってないな」
有本淳史「はじめてでここまでできたら十分じゃないっすか?」
水城涼真「まあね」
その後、若宮朱莉が下降して終わると「ビレイ解除しました」というと、水城涼真と有本淳史がさっさと懸垂下降で下降していった。ここでロッククライミングの装備を片付けることになった。若宮朱莉は「最後の岩場は懸垂下降できないんですか?」と訪ねると水城涼真は「次は木がなくて、捨て縄もないからロープを回収する場所がないから、ここで終わりなんよ」といった。装備を片付けると左側の登山道から岩の巻道を下っていき、登山道を下っていって車まで戻っていった。それぞれが荷物をトランクに積み込んで若宮朱莉が助手席、有本淳史が後部座席に乗り込むと車を走らせた。
若宮朱莉「あの、涼真さん・・・このロッククライミングってあくまで沢登り訓練なんですよね?」
水城涼真「まあ、そうやね。ロッククライミングに興味がないし、俺らも本格的な岩登りの靴でもないしね」
若宮朱莉「今日は楽しかったですが、腕がかなり疲れました」
水城涼真「ロッククライミングは足で登っていくのが基本なんやけど、はじめてやから、どうしても腕を使ってしまったんはしゃーないね」
若宮朱莉「でも、いろいろ教えてくれてありがとうございます。眠くなってきましたので、少し失礼します」
若宮朱莉がそういうと、助手席から寝息が聞こえてきた。さすがに今日は疲れたと思われる。それから10分後には若宮朱莉が完全に眠ってしまったところで、有本淳史が「いいんじゃないっすか?」と小さな声で呟いた。
水城涼真「あっちゃん、どういうこと?」
有本淳史「今日、一緒に岩登りをしてわかったんですが、若宮朱莉さんって相当な覚悟と根性があると思ったっす。登山仲間に入れてあげてもいいと思うっすよ」
水城涼真「どうやろうね。たしかに覚悟や根性はわかってるんやけど、もう少し様子を見てからやないとわからん部分もあるんよ。それに芸能活動もあるやろうしな」
有本淳史「涼真さん、やっぱ厳しいっすね」
そういう話をして車内は沈黙になった。そして、最寄りの駅に到着した。若宮朱莉が目を覚ますと「もう駅なんですね。あっちゃん、今日はとても楽しかったです。またよろしくお願いします」と言った。有本淳史はトランクから荷物を降ろしながら「また一緒にいこう」と言ってその場を去っていった。
そのままアパートの駐車場まで車を走らせると、車からそれぞれ荷物を降ろすと若宮朱莉が「今日はありがとうございました。わたし、涼真さんのことが少しわかった気がします」と言った。水城涼真は「俺のことが少しわかったってどういうこと?」と質問すると若宮朱莉は「わたしは岩登りをして信用されていると感じました」と言った。水城涼真は「いきなり何なん?」と言うと、若宮朱莉は「うふふ・・・今日は本当に楽しかったです」と言って103号室へ帰っていった。




