大峰神秘の高原・神仙平と七面山
9月22日・・・午前5時
目覚まし時計が鳴って起床した水城涼真と若宮朱莉は目覚めのコーヒーを飲んでいた。今日の奈良県十津川村の天気は快晴で最高気温は28℃と絶好の登山日和だ。水城涼真はトーストで食パンを10枚ほど軽く焼いて角切りにするとジップロックの中へ入れた。その後、若宮朱莉は冷蔵庫の中から昼食にする食材を出して自分のザックに入れた。2人は全ての準備を終えるとザックを背負って駐車場へ向かった。駐車場で車のトランクにザックを積み込むと若宮朱莉が助手席に乗ると岸部駅へ向かって車を走らせた。
午前5時45分に岸部駅のホテル前にあるコンビニに到着すると水色のザックを背負ってピンクの長袖Tシャツにグレーのトレッキングパンツ姿の天音琴美が待っていた。水城涼真と若宮朱莉は車から降りて「天音さん、おはようございます」と挨拶をすると、天音琴美が「涼真さん、朱莉ちゃんおはようございます」と言って車のトランクにザックを積み込むと後部座席に座った。続いて吹田駅に向かって車を走らせた。
午前6時前に吹田駅に到着すると有本淳史が喫煙所でタバコを吸いながら待っていた。水城涼真は車から降りて「あっちゃん!」と少し大きな声で呼びかけると、有本淳史はタバコの火を消して赤いザックを背負いながら走ってきた。有本淳史は車のトランクにザックを積み込むと缶ビールとおつまみの入った紙袋を持って後部座席に座って「おはようっす」と挨拶した。そして水城涼真は神仙平のアプローチに向かって車を走らせた。
天音琴美「あっちゃん、やっと一緒に山に行けるね!」
有本淳史「これでやっと約束が果たせるわけやね」
天音琴美「今日は4人じゃん。約束はあっちゃんと二人きりで山に行くことだから違うもん」
有本淳史「もう、その約束勘弁してもらえへん?」
天音琴美「ダメ!ちゃんと二人で山に行かないと嫌だもん」
天音琴美は有本淳史の座っているほうに近づいて寄り添った。
有本淳史「琴美ちゃん、もう少し離れてくれへんかな?」
天音琴美「別にいいじゃん・・・」
水城涼真「なんか後部座席の2人はイチャついとるな」
若宮朱莉「あはは、後ろは別の世界なんだよ」
有本淳史「涼真さん、琴美ちゃんもう酔ってるんすか?」
水城涼真「あっちゃんに酔ってるみたいやな」
そんな話をしていると車は近畿自動車道に入り南下していった。有本淳史は「琴美ちゃん、ちょっと離れてな」と言って紙袋の中から500mlの缶ビール一本とおつまみのさきいかを出してきた。プッシューという音とともに缶ビールの蓋を開けて飲みはじめた。
天音琴美「あっちゃんだけずるい!あたしにも飲ませてよ」
有本淳史「しゃーないな、一本だけやで」
有本淳史は紙袋の中から500mlの缶ビール一本を取りだして天音琴美に渡した。天音琴美も缶ビールの蓋を開けると有本淳史のほうを見て「乾杯!」と言って飲みはじめた。
水城涼真「なんか後部座席で宴会がはじめられてるで」
若宮朱莉「天音さん、飲み過ぎないように注意してくださいね」
それからしばらくすると車は近畿自動車道から南阪奈道路を経て奈良県に入ると京奈和自動車道を南下していった。
水城涼真「あっちゃんと天音さん、高速降りたところのコンビニに行く予定やけど、行動食と飲み物だけ買えばええよ。今日は気合入れてチーズフォンデュの材料と具材持ってきてるから、お昼はみんなでそれ食べよ」
有本淳史「涼真さん、気合入ってきたんっすね」
天音琴美「山でチーズフォンデュなんて作れるんですね。楽しみです!」
そして京奈和自動車道の五條インターチェンジを出たところにあるコンビニへ立ち寄った。先ほど水城涼真が言ったように有本淳史と天音琴美はちょっとした行動食と水だけを購入した。
午前7時30分・・・道の駅・吉野路大塔
五條インターチェンジから国道168号線を30分程南下していくとカーブの多い山道に入った。この付近からは道幅も狭くなってくるのであまりスピードが出せない。助手席の若宮朱莉と後部座席の天音琴美は少し眠っていた。山道を上がっていったところで道の駅・吉野路大塔に到着した。この道の駅は釈迦ヶ岳に行く途中に立ち寄った場所で、大塔コスミックパーク「星のくに」という天文台があることで有名になっている。眠っていた若宮朱莉と天音琴美も目を覚まして車から降りた。さすがの水城涼真も前回同様にここまでの運転は少し疲れたので車から降りて自動販売機で缶コーヒーを購入した。
天音琴美「ここって釈迦ヶ岳に行った時に休憩した道の駅だよね」
若宮朱莉「そうですね。天文台がある道の駅でしたね」
天音琴美「そういえば朱莉ちゃん、車の免許取ったんだよね?おめでとう!」
若宮朱莉「ありがとうございます。先週、三角点山に行くときに運転してみましたが、涼真さんみたいに上手くできませんでした」
天音琴美「あははは、涼真さんってかなり山道の運転上手だからね。でもやっぱ慣れかな」
若宮朱莉「天音さんもそう思いますよね!釈迦ヶ岳に行ったときの林道とか、わたしにはあんな運転出せません」
天音琴美「あたしもさすがにあの林道であんなにスピード出せないよ。あれは涼真さんがおかしいと思ってたほうがいいかも」
若宮朱莉「それからときどき夜に山道を走って練習していますが、やっぱりまだ怖いです」
天音琴美「無理して運転しなくてもいいと思うよ。危ないからね」
若宮朱莉「涼真さんにもそう言われましたが、もう少し上手くなりたいです」
天音琴美「あとは慣れだからがんばってね」
そこに水城涼真がやってきて「そろそろ出発しよか」と言った。そして喫煙所でタバコを吸っていた有本淳史も戻ってきたので車を発進させた。道の駅から国道168号線をさらに南下していって奈良県十津川村に入ったところで左折して県道235号線に入った。
水城涼真「ここからいくつかの集落を通っていくんやけど、またそれが長いんよ」
若宮朱莉「こんなところで暮らしている人もいるんだね」
県道235号線は道路というよりほぼ林道で道が狭くカーブが多い。舟ノ川沿いに一つ目の集落を通過するとまた細い道になり二つ目の集落へと続いていく。もちろんこんな道ではスピードが出せないのでそれなりに時間がかかるのだ。
午前8時45分・・・アプローチポイント
最後の集落を通過してさらに進んでいくと沢に出る直前のところで道路が無くなっていた。水城涼真はその場所の路肩へ車を駐車すると「着いたで!」と言った。みんな車から降りるとトランクから自分のザックを取りだして背負った。
天音琴美「集落がたくさんあったけどここまで長かったね!」
若宮朱莉「うんうん、本当に長かったですね!ところで涼真さん、どこにも登山口なんてなさそうだけど、どこから登るの?」
水城涼真「沢の向こう側に林道が見えるやろ。まずはあの林道を歩いていくんよ」
天音琴美「この沢を渡るんだ。転ばないように注意しないとだね」
水城涼真「最初に言っとくけど、林道歩きはかなり長いから覚悟しといてや」
天音琴美「林道はどのくらい続くのですか?」
水城涼真「7kmくらいかな。まあ2時間くらい歩かなあかんわ」
有本淳史「時間もかかるみたいなんで、そろそろ出発しますか」
そうしてみんな歩き出した。まず沢を渡って対岸の林道に入ると黄色い車止めゲートのようなものがあり、七面山登山口まで3.8kmという道標が設置してあった。まずは七面山の登山口までは登りとなっているが、林道はところどころ崩壊していて足元はガレ場なのでとても歩きにくい。水城涼真はペースダウンしながらゆっくりと登っていったが、高度を稼いでいくにつれてみんな「暑い」と言い出した。最高気温は28℃で山の中だとさらに涼しいと計算してレインジャケットを着ていたが、この林道の登りで汗が出てきたのだ。標高900mにさしかかったところで、林道はつづら折れになっていて、樹林が伐採されているので直射日光を浴びることになった。
若宮朱莉「涼真さん、待って!もう暑いからジャケット脱ぐね」
天音琴美「あたしも暑いからジャケット脱ぎます」
水城涼真「せやな。俺も汗ダクダクになってきたから脱ぐわ」
有本淳史「僕は薄着なんでこのままでいいっす」
それぞれジャケットを脱いで汗を拭きとるとさらに林道を登りだした。つづら折れの林道はなかなか終わらず、まだ序盤でありながらみんな精神的に疲れてきた。ようやくつづら折れの道が終わった先で樹林帯に入るとはじめての分岐点があり道標が見えた。その分岐点こそが七面山登山口であり、林道を登りはじめて既に1時間経っていた。
若宮朱莉「ここから登山道になるの?」
水城涼真「いや、下山の時はここから出てくるけど、このままさらに林道を歩いていくんよ」
天音琴美「ふぅー・・・そういえばまだ1時間しか経ってなかったですね」
水城涼真「ここで距離的にちょうど半分くらいかな。あとはさっき登ってきた分、沢までくだっていかなあかん」
若宮朱莉「えぇーせっかく登ってきたのにその分下るの!?」
水城涼真「まあ全部やないけど、標高の半分くらいは下るかな」
天音琴美「あーもう・・・登った分の標高返して!って感じするよね」
有本淳史「琴美ちゃん、駄々こねるんやったら置いていくで」
天音琴美「あっちゃんの意地悪!あたし、がんばるもんっ」
水城涼真「まあ、ちょっと先の広い場所で少し休憩してからいこか」
みんな少し先の少し広くなった場所で小休憩をすると今度は林道を下りはじめた。しばらく下っていくと土砂崩れによって完全に林道が寸断されていた。そこで水城涼真は「ここトラバースしていくけど、浮石に注意してな」と言って土砂の上を横切っていった。若宮朱莉に続いて天音琴美が「よくこんなところを歩くね。あたしだったらここで引き返すかも」と呟きながら土砂の上をトラバースしていった。そこから15分程林道を下っていくと樹林の間から山の中腹に高原地帯が広がっている景色が見えた。
若宮朱莉「もしかしてあそこが神仙平なの?」
水城涼真「そうやで。俺らは今からあそこに行くんよ」
天音琴美「あんなところへ行くのね・・・まだまだ遠いね」
水城涼真「いや、見た目は遠そうやけど意外ともう近いんよ」
有本淳史「林道終点まであと30分くらいですかね」
そんな話をしながら林道をひたすら下っていった。
午前10時50分・・・林道終点
林道は下りが終わるとカラハツソウ谷から沢に沿って続いていた。そして林道を歩きはじめて約2時間で七面谷に出たところで林道終点地点に到着した。そこは広いガレ場になっており辺りを見渡すと沢と樹林帯しかない。
水城涼真「やっと林道が終わったから、ここで15分程休憩しよか」
天音琴美「もうこの先に道がなさそうだけど、ここからどっちへ行くんでしょう?」
若宮朱莉「天音さん、地図を見るとどうもそこの樹林帯に入ってカラハツソウ谷に沿って無理矢理登っていくようです」
天音琴美「なるほど、ここからはバリエーションルートってことね」
水城涼真「そもそも神仙平が正規やないというか、登山者だけが知ってるような場所やからな」
若宮朱莉「でも神秘的な高原ってワクワクしてきた!」
天音琴美「そうだね。大峰の高原ってだけでも楽しみ!」
有本淳史「琴美ちゃんは完全に大峰にハマってるんやない?」
天音琴美「そうかも。あまり人がいないひっそりとした神秘的なところに惹かれちゃってるね」
有本淳史「関東にもそういうところあるんやない?」
天音琴美「あるかもだけど、そういう山ってなかなか行けないのよ」
水城涼真「大峰のこの独特の雰囲気の山は他にないと思うわ。ただ、関東にもひっそりとした山はあるけどな」
話し込んでいると午前11時を過ぎていたので休憩を終えて出発した。林道終点から樹林帯に入っていくと、まずは踏み跡すらない山道をカラハツソウ谷に向かって斜め上へと登っていった。そして左手に沢が見えるとそれに沿って突きあげていくように直登していった。
午前11時30分・・・神仙平
カラハツソウ谷に沿って急斜面を登って標高1250m付近にさしかかったところで見上げた先の空が見えた。その先へと登っていくと樹林帯を抜けて一気に素晴らしい高原地帯が広がっていた。その高原地帯こそ神仙平であり、あまり人が入り込んでいないシーンとした神秘的な雰囲気が漂っている。後ろを振り向くと深い谷を中心に南西側の山々が連なっている光景が広がっている。この突然の景色の変化に若宮朱莉と天音琴美は少し驚愕していた。
若宮朱莉「なにここ!?こんなところに高原地帯が広がってるなんてすごい!!」
天音琴美「いきなり景色が変わったからびっくりしちゃった」
水城涼真「ここはまだ斜面が急やからもう少し登ってなだらかなところで休憩しよか」
そこから標高1300mを越えた付近まで登っていったが、若宮朱莉と天音琴美は何枚も高原地帯の景色を撮影していた。水城涼真は立ち止まりながら周囲を見渡していると、草のない少し窪んだ場所を発見して「あの窪んでるところで昼食にしよか」と言った。そしてその窪んだ場所に移動すると、そこで水城涼真はザックからアルミシートを取りだして敷いた。他のみんなもザックを下ろすと靴を脱いでアルミシートに上に座った。
水城涼真と若宮朱莉はザックの中から大量のチーズフォンデュの素となるチーズと具材が入った大きなタッパー、大量の角切りされた食パンが入った袋、少し底の深いチタン製の鍋、チタン製のフライパン、2つのガスバーナー、バーベキュー用の鉄串数本をそれぞれ取りだした。まずは水城涼真が鍋の中に大量のチーズと水を入れるとガスバーナーで温めはじめた。次に若宮朱莉がガスバーナーでフライパンを弱火で温めた。
水城涼真「チーズが温まったらフライパンで具材を焼いて食べていったらええからな」
若宮朱莉「具材はこのタッパーの中に入ってるので自由に取って焼いてください」
それから10分程でチーズが溶けてくると弱火にして水城涼真が「そろそろ具材を焼いて食べていってや」と言った。すると有本淳史がザックの中から白ワインのパックを取りだした。
水城涼真「あっちゃん、白ワインなんてよー持ってきたな」
有本淳史「いや、チーズフォンデュって聞いたんで立ち寄ったコンビニで買ったんですわ」
天音琴美「あっちゃんだけずるい!あたしにもちょっとワインを分けて」
有本淳史「別にええよ。でも飲みすぎんようにな」
それぞれが具材をフライパンで焼いて鉄串に刺すとチーズをたっぷりつけて食べていった。ちなみに具材はソーセージ、竹輪、エリンギ、エビ、食パンである。
天音琴美「こんな高原地帯でチーズフォンデュ食べるなんてアルプスの少女ハイジを思い出しちゃう」
水城涼真「天音さん鋭いな。今回はハイジをイメージしたんよ」
若宮朱莉「わたし、チーズフォンデュを食べるのはじめてなんだけど食パンでもチーズたっぷりつけるとすっごく美味しい!」
天音琴美「本当に美味しいね!エリンギとチーズが合うなんて思わなかった」
有本淳史「やっぱチーズにワインは合いますな!」
天音琴美「さすがあっちゃん、ワインも美味しい!」
みんなで話をしながらチーズフォンデュを食べていると30分程で具材もチーズもなくなった。特に多かったソーセージと竹輪は若宮朱莉がパクパク食べてしまって売り切れてしまったのだ。それから後片付けをしながらまったりしていた。
天音琴美「ところで涼真さんと朱莉ちゃんって新婚旅行はしないんですか?」
水城涼真「朱莉ちゃんが行きたいっていうんやったら考えるけど今のところ予定はないな」
若宮朱莉「わたしは剱岳だけで満足していますよ」
天音琴美「涼真さんっていろんなところ知ってますよね。たまには本格的な登山じゃなくて旅行プランを立てて朱莉ちゃんの知らないところを案内してあげるのはどうですか?」
水城涼真「うーん、旅行プランいうても俺が知ってるのは山が基本やからな。観光地なら北海道が少しと福島県、長野県くらいしか知らんで」
若宮朱莉「北海道と福島県はちょっと遠いね。長野県はやっぱ山になっちゃうの?」
水城涼真「山いうても高原とか滝とか観光チックなところやな。あとは美味しい店をいくつか知ってるくらいやわ」
天音琴美「涼真さんが知ってる長野県のそういう場所を案内してあげるのもいいと思いますよ」
若宮朱莉「そういえば長野県って涼真さんと出会って登山しただけで、それまでは行ったことなかった」
水城涼真「朱莉ちゃんが長野観光したいんやったら旅行プラン立ててもええけどな」
若宮朱莉「わたし、自分の知らないところに行ってみたいよ。そういうところも父に似てしまったんだなって今思った」
水城涼真「じゃあ長野観光、ちょっと考えてみるわ」
天音琴美「朱莉ちゃん、よかったね!」
有本淳史「横からすんません・・・琴美ちゃんは人のことよりそろそろ自分の結婚を考えたほうがええんとちゃうかな?」
天音琴美「それならあっちゃんがあたしをもらってよ!」
有本淳史「いやーそれは困るわ」
水城涼真「あっちゃん、自爆しとるやん!」
ここで時刻が12時半をまわっていたので急いで出発することになった。天音琴美が「ここで記念撮影はできないね」と言うと若宮朱莉「斜面が急だから撮影ポイントがないですね」と答えた。神仙平をさらに登っていくと高原地帯が終わったあたりからかなりの急斜面になっていた。ここから大峰奥駈道の舟ノ垰までは距離が短いが標高150m程を登っていかなければならない。その登りで若宮朱莉と天音琴美はかなり息を切らしてしまったが、なんとか大峰奥駈道に合流して舟ノ垰に到着した。ここで少し立ち休憩をして息を整えて大峰奥駈道を南に進んでいき、楊子ヶ宿小屋の手前の分岐点から大峰奥駈道を外れて右の七面山のほうへ向かった。
14時20分・・・七面山(東峰:標高1624m、西峰:標高1616m)~アケボノ平
大峰奥駈道から七面山までは一つのピークがあるのだが、そこはトラバースして巻いていった。その途中で美しい苔地帯が広がっていて若宮朱莉と天音琴美は撮影していた。その先から七面山のピークへの標高100mの登りがはじまったのだが、かなりの急斜面になっておりコル部まで少し息が乱れた。そして14時20分過ぎに七面山の東峰(標高1624m)の山頂に登頂した。山頂は樹林帯に囲まれて看板がポツンとあるだけの単なるピークのような感じだったので、若宮朱莉と天音琴美がさっさと記念撮影だけして西峰を目指した。一旦少し下ってちょっとした鎖場を登り詰めると七面山の西峰(標高1616m)に登頂した。この山頂は登山道の途中にある単なるピークのような感じだったのでスルーして槍ノ尾のほうへ下っていった。
七面山の西峰から標高100mほど下っていくと笹の高原地帯が広がっていた。この高原地帯がアケボノ平と呼ばれる場所で、南側の眺望が広がっていて迫力ある釈迦ヶ岳や孔雀岳など山容を望むことができる。アケボノ平の光景を見た若宮朱莉と天音琴美は一気にテンションが高まったが水城涼真が「先に槍ノ尾をピークハントしておこか」と言った。さっさと槍ノ尾をピークハントしてアケボノ平に戻ってくると大休憩となった。
天音琴美「涼真さん、右側に見えている山が冬に登った釈迦ヶ岳ですよね?」
水城涼真「そうや、釈迦ヶ岳からもさっきの七面山とかこのアケボノ平が見えてたやろ」
若宮朱莉「そういえば見えていた。釈迦ヶ岳って岩肌がすごいんだね!」
天音琴美「あたし、今回の山行は絶対にブログに載せるって決めたよ。どこも素晴らしすぎるから勿体ない!」
有本淳史「また批判の声が殺到せんように注意やね」
水城涼真「もう天音さんの登山技術は上がってるから大丈夫とちゃうかな」
天音琴美「あたしの登山技術が上がってるって本当ですか?」
水城涼真「うん。朱莉ちゃんもやけど天音さんは地形が読めるようになってきてると思うわ。前は地図だけ見て山に登ってたみたいやけどな」
天音琴美「そういえば山に登っていて自分が今どんなところを歩いているのかイメージできるようになっていますね」
若宮朱莉「そうですね。考えてみるといつこんな感覚が身に付いたんだろうって思います」
水城涼真「天音さんの言ってる考えられない登山をするには、嫌でも地形を読まんとあかんから慣れてきたんやろな」
天音琴美「朱莉ちゃん、釈迦ヶ岳をバックに一緒に記念撮影しよ!」
若宮朱莉「はい!お願いします」
水城涼真「じゃあ、ちょっと離れてアケボノ平も入るように撮影したるわ。そこに並んで!」
若宮朱莉と天音琴美は釈迦ヶ岳と孔雀岳のちょうど間くらいの場所に並ぶと水城涼真はそこから少し離れた場所に移動した。ちょうどアケボノ平の高原地帯が手前に広がり、その中央に若宮朱莉と天音琴美が並んでピースポーズをすると、水城涼真はその二人のスマホで数枚の写真を撮影した。
天音琴美「朱莉ちゃん、この写真もあたしのブログに載せていいかな?」
若宮朱莉「いいですよ!」
天音琴美「ありがとう。今回は朱莉ちゃんとの山行ブログにするね」
水城涼真「天音さん、せっかくやからあっちゃんとツーショットで撮影したら?」
有本淳史「僕は写真NGなんで遠慮するっすよ」
天音琴美「公開はしないからいいじゃん、一緒に撮ろうよ!」
若宮朱莉「あっちゃん、一枚だけなので撮ってあげてください」
有本淳史「じゃあ一枚だけですよ!絶対に公開せんといてよ」
そう言って水城涼真は有本淳史と天音琴美のツーショット写真を撮影した。時刻を確認するともう15時をまわっていたので、さっさとアケボノ平を後にした。
午後18時10分・・・アプローチポイントの駐車場所
本来はアケボノ平から一旦七面山の西峰に登って登山道と合流するのだが、その登り返しが面倒ということで無理矢理トラバースしながらピークを巻いていった。同じ考えをした人がいたのか、そのトラバースにはわずかな踏み跡が残っていた。そうして登山道に合流して七面山登山口に向かってまずは細尾根のちょっとした急斜面を下っていった。40分程経ってP1397に少し登り返して下っていくと七面尾の鞍部に到着した。ここには道標が設置されており七面山登山口まで35分と表示されていた。林道まで標高差約250mの下りなので35分というのは妥当かもしれない。そこから尾根を外れて林道に向かって下りはじめた。連続した下りになっているので膝が気になり途中で10分程の立ち休憩をした。そうして七面尾の鞍部から約40分程で七面山登山口まで戻ってくることができた。
若宮朱莉「また長い林道を歩かないといけないんだね。わたし、林道ってどうしても慣れないし嫌い!」
水城涼真「そんなん好きなやつおらんよ。慣れてるんはあっちゃんくらいやと思うわ」
有本淳史「僕は別に林道嫌いじゃないっすけどね」
天音琴美「あたしも別に嫌いじゃないけど歩いていて楽しいとは思わないかな」
水城涼真「俺はもう諦めて何も考えんと林道歩いてるけどな。まあここからは話しながらぼちぼち下っていこか」
そうしてみんな話をしながら林道を下っていった。そして少し薄暗くなってきた午後18時10分に林道が終わってアプローチポイントとなる駐車場所に戻ってくることができた。みんな車のトランクにザックを積み込むと車に乗り込んでさっさと帰宅していった。
それから数日後、天音琴美のブログに今回の神仙平と七面山の山行記録が公開された。それに対して批判の声はなく『こんなところ登るなんてすげー!』や『関西にこんなところがあるんですね』などの感心を寄せるようなコメントが投稿されていた。




