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わたしが父の遺志を継ぎます

7月7日午前8時50分頃・・・


水城涼真は朝早くに目を覚まして執筆活動をしていた。今日は七夕だが、残念なことに雨が降っていた。天気予報ではこれから数日間は雨が続くとのことだが、気圧配置を見ても梅雨前線がしばらく停滞することは明らかであった。そうやって天気図を眺めていると部屋のチャイムが鳴った。水城涼真は「はい」と言って玄関のドアを開けると、昨日と同じく上下とも黒いジャージ姿の若宮朱莉がニッコリとしながら「おはようございます」と言った。昨晩のウェルカムパーティーが終わった後で「登山装備を揃えるから朝の9時頃に部屋に来てほしい」と伝えていたのだ。


水城涼真「おはよう。じゃあ中に入ってもらえる?」

若宮朱莉「では、おじゃまします」


水城涼真は周囲を確認するとさっさと玄関のドアを閉めると、若宮朱莉が昨日と同じテーブルの位置に座った。


若宮朱莉「あの、今日はわたしの登山装備を揃えるというお話でしたが、涼真さんも一緒に買い物に来ていただけるのですよね?」

水城涼真「そうなんやけど、その前に二つだけ質問ええかな?」

若宮朱莉「はい、どうぞ」

水城涼真「朱莉ちゃん、いきなりこっちに引っ越してきたけど仕事は大丈夫なん?」

若宮朱莉「大丈夫です。大阪の情報番組出演は来週からになりますので週末はオフになっています。マネージャーに気づかれるのは時間の問題ですが、できるだけ休日はオフにしてもらう予定です」

水城涼真「わかったわ。じゃあ、もう一つの質問するわな。早速になるんやけど明後日の日曜日に一緒に山に行ってみる?」

若宮朱莉「是非ご一緒させていただきたいですが、たしか明後日も全国的に雨ですよね?」

水城涼真「そうなんやけど、実は雨がよく似合う山に取材に行くんよ」

若宮朱莉「雨の似合う山!?ですか・・・」

水城涼真「大峰の行者還岳ってところなんやけど、大峰山脈というのは雨降ってなんぼ、ガスってこそ幻想的で魅力のある場所で、苔地帯も素晴らしいところなんよ」

若宮朱莉「大峰山脈!それって父の登山計画ノートにもよく書かれていた単語・・・しかも、そんな幻想的で魅力があるなんて聞いてしまうと行きたくなりました!!!」

水城涼真「あと、これから朱莉ちゃんも覚えんといかんのやけど、日曜日の行者還山周辺の天気図を見ると梅雨前線が少し北上して予想降確率が30%くらいになるから、土砂降りは避けられそうなんよ」

若宮朱莉「なるほど・・・そうだ!ちょうどレギュラー入りになった情報番組には気象予報士さんがいますので、お天気のことも詳しく聞いて勉強しておきますね」

水城涼真「気象予報士に直接聞けるのはええな。あと、その時は俺の登山仲間も誘ってみるけどそれは大丈夫?」

若宮朱莉「大丈夫です。涼真さんの登山仲間にはお会いしたいです!」


そんな話をしていきながら水城涼真は日曜日の日程について説明していった。しかし、それより先に登山装備を揃えなければならない。しかも、はじめての登山が雨天時ということもあって、晴れた日よりも少し難易度は高い。


水城涼真「いきなり雨天時の登山ということもあって、今日中に登山装備を揃えなあかんのやけど登山道具って思ってるより高いよ?金銭的に大丈夫?」

若宮朱莉「えっと、貯金は300万円くらいありますが、その半分くらいの範囲内であれば大丈夫です」


貯金が300万円くらいと聞いた水城涼真は心の中でかなり驚いた。半分くらいの範囲といっても150万円になる。全国的に有名なタレントとはそういうものなのかと感じながらも、芸能界のことにあまり詳しくないということもあって、金銭的なことについてはよくわからなかった。


水城涼真「そんなにはいらんねんけど、なんでもかんでも高いものを買えばええってもんでもなくて、その辺をうまいこと考えて買っていかなあかんのよ」

若宮朱莉「なるほど、たしかに安く手に入れたいですね」

水城涼真「とりあえず汗で蒸れない吸水速乾のインナーやアウターを揃えていくんやけど、まずは下着から3セットほど購入してほしい」

若宮朱莉「あの・・・お恥ずかしい話になりますが、下着はたくさん持っていまして、それだと駄目ですか?」

水城涼真「俺は男やからよくわからんのやけど、特にデリケートな部分に関しては女性のほうが蒸れやすいんとちゃう?」

若宮朱莉「そうですね。たしかに汗をかくロケがある時なんかはかなり蒸れます」

水城涼真「長い工程の登山で蒸れたまま放置したら菌が繁殖するし、それが冬やと体が冷やされる原因にもなるんよ」

若宮朱莉「それは絶対に嫌です!じゃあ涼真さんにお願いします」

水城涼真「いや、さすがに女性の下着を一緒に買いにいくのは恥ずかしいわ。俺が大型の衣料品店に連れていくから、それだけは朱莉ちゃんが一人で買ってきてほしい。あと上は抵抗なければスポーツブラなんかがええかも」

若宮朱莉「あはは、涼真さんにも恥ずかしいことってあるんですね。わかりました、吸水速乾の3セット購入してきます」


ここで笑っていた若宮朱莉が急に難しい表情になって何か考え込んでいた。そんな姿をみた水城涼真は気になっていたが次の話をせずに待っていた。しばらく沈黙状態が続くとようやく若宮朱莉が口を開いた。


若宮朱莉「あのですね、また少し恥ずかしい話をしてもいいですか?」

水城涼真「いいけど、さっきの下着のこと?」

若宮朱莉「いえ、そうではなく生理のこと・・・です」

水城涼真「あーーーそれを言い忘れてたな。俺、以前に女性の生理と登山に関する記事を書いたことあるから大丈夫やで」

若宮朱莉「それなら安心しました!わたしは生理になってもそこまで体調を崩すことはありませんが、登山ではどうすればいいのかよくわかりません」

水城涼真「大体でええんやけど、周期はわかるよな?」

若宮朱莉「ある程度ならわかります」

水城涼真「生理中やったり登山中になりそうな時はあらかじめ登山仲間に言っておいてほしいねん。恥ずかしい気持ちはわかるんやけど、それやったらお互い気を遣わんですむし、朱莉ちゃんも気が楽になるやろ?」

若宮朱莉「たしかにそうですね!恥ずかしがって我慢するほうが辛いですし・・・その時はあらかじめ伝えておくようにします」

水城涼真「それと、そういう時は痛み止めと鉄剤は持ってきてほしい。特に生理中は血液を大量に失うから鉄分補給しておいて貧血にならんようにせなあかん」

若宮朱莉「わかりました」


それからインナーの長袖シャツとタイツ、Tシャツをそれぞれ2セット、アウターのワイシャツ、靴下、トレッキングパンツの長ズボンと半ズボンに関しては少し離れた場所にあるレディース専門の作業着店で購入、登山ショップでは妥協できないもので、レインジャケットはゴアテックスもしくは同等のもの、ヘッドライトは200ルーメン以上のものを二つ、トレッキングシューズはソールが柔らかくて比較的フットの軽いもの、40リットル程度のザック、そしてヘルメットを購入するように説明した。


水城涼真「じゃあ俺は車を出してくるから、朱莉ちゃん着替えてきてアパートの前で待っといて!」

若宮朱莉「はい。すぐに着替えてきます」


そういって若宮朱莉が部屋から出ていくと水城涼真も着替えてすぐに駐車場へ向かい、父親が残してくれた遺産の一つである紺色のコンパクトカーを出してアパートの前で待っていた。しばらくすると濃い紫色のリュックを背負いながら、すらっとしたジーンズに白とピンクのTシャツ、スクエア型の黒縁伊達メガネをかけた若宮朱莉がやってきた。


若宮朱莉「お待たせしました」

水城涼真「じゃあ車に乗って!」

若宮朱莉「おじゃまします」


若宮朱莉が助手席に乗ると、まずは近くの衣料品店まで車を走らせた。水城涼真は人気タレントを車に乗せているという意識は薄かったが気になったことがあったので聞いてみた。


水城涼真「朱莉ちゃん、その程度の変装でバレへんの?」

若宮朱莉「意外にバレないんですよ。一般の方からすると似た人がいる程度にしか思われません。東京でも普通に電車に乗っていましたがバレてしまったことないんですよ」

水城涼真「そうなんや。まあ大阪やと余計に人気タレントがこんなところにいるわけないって思うかもしれんな」

若宮朱莉「そうなんですよ。下手にサングラスとかして変装に執着してしまうほうがバレちゃうと思います」


その後、計画通りに衣料品店、レディース専門の作業着店で予定していたものを購入することができた。特にトレッキングパンツとTシャツに関しては若宮朱莉がすぐに気に入ったものがあったのでスムーズに買い物ができた。時刻は既に正午を過ぎていたが、水城涼真と若宮朱莉の二人は近くの登山ショップへ足を運んだ。ここの登山ショップはアウトレット商品も扱っていて、商品によっては格安で手に入れることができる。アウトレット商品を見ていると若宮朱莉は水色と紺色のツートンカラーになっているレインジャケットが気に入ったようで、サイズを確認して買い物かごに入れた。その他、ヘッドライトは200ルーメン以上のもの、42リットルの茶色いザック、ヘルメットは気に入ったデザインのものを買い物かごに入れた。トレッキングシューズに関しては、水城涼真と一緒に選んだソールの柔らかいものにした。水城涼真がフットの軽いソールの柔らかいものを選んだ理由は、初心者にはスニーカーと同じ感覚で扱いやすく自由度があるのと、長時間の尾根道に歩行には有利だと考えたからだ。もちろん雪山になると話は変わってくるのだが、その時は冬用の靴を購入すればいいのだ。


若宮朱莉「予想よりずっと格安で手に入れることができました。他に必要なものってありますか?」

水城涼真「それやったらクライミング道具と沢装備も買っておこうか」

若宮朱莉「クライミング道具ですか?」

水城涼真「お父さんの登山計画ノートには沢登りもあったから、お金に余裕があるんやったらもう買っておいたらええと思うわ」


水城涼真と若宮朱莉はクライミング装備が並んでいる場所へ向かい、登山ショップで詳しそうな店員を呼び出した。そして「この子のサイズに合うハーネスを探しているんですが、ちょっと合わせてもらいませんか?」と聞いてみると店員は「そうですね。結構細身の体型をしていますので、こちらのハーネスなどいかがでしょうか?」と白に少しピンク柄のついたハーネスを持ってきた。


水城涼真「その恰好のままでいいから、これを履いてみて」

若宮朱莉「こうでしょうか?」


店員はハーネスのベルトを少し閉めて「サイズ的にはぴったりですね」と言った。


水城涼真「よし!ハーネスはそれでええ。これも買っておいて!」

若宮朱莉「これ、何に使うものなのでしょうか?」

水城涼真「これは岩登りや沢登りの時に使う安全確保をするときの器具といえばええんかな」

若宮朱莉「なるほど・・・」

水城涼真「あとは適切なカラビナ2つ、ATCとスリングも適切なやつ入れておくわな」

若宮朱莉「よくわかりませんので、涼真さんにお願いします」

水城涼真「ATCというのはビレイという人を確保したり、岩を下降するときに使う道具で、それに必要なのがカラビナ。スリングというのは強度のあるテープ状になった紐のことで岩登りや沢、登山などいろんな場所で使われてるんよ」

若宮朱莉「こういった道具を購入するということは、わたしを岩登りに連れていってもらえるということですか?」

水城涼真「そうなるな・・・沢登りに行くんやったら、まず岩登りをして慣れなあかんから」

若宮朱莉「わかりました。これで終了なら早速レジに行ってきます!」


買い物が終わると荷物を車に積み込んでさっさとアパートへ車を走らせていた。しかし、二人とも昼食をとっていなかったのがお互いのお腹がグーッと鳴っていた。


水城涼真「お昼過ぎてもうたけど、どっかで飯でも食って帰ろか」

若宮朱莉「そうですね。わたしもお腹ペコペコです」

水城涼真「朱莉ちゃん、なんか食べたいものある?」

若宮朱莉「う~ん・・・こってりしたラーメンとかですね」

水城涼真「岩湧山で体型維持とか言ってたわりに、そんなもん食べたいんや?」

若宮朱莉「お昼だけはガッツリ食べるようにして、その代わり夜は特別な時にしか食べないです。大阪にあるかわかりませんが、わたしは横浜家系ラーメンが大好きなんですよ」

水城涼真「家系は俺も好きやで!ちょうど、この帰り道に家系ラーメン店があるからそこ寄っていこか」

若宮朱莉「大阪にも家系ラーメンがあるんですね。じゃあ、そのラーメン屋でお願いします」


そんな話をして二人は帰り道の途中にある家系ラーメン屋に立ち寄った。若宮朱莉は麺大盛の味濃いめ油多めで注文したが、それにはさすがに水城涼真も少し引いてしまった。夜は食べないといっていたが、昼間だけで一日の摂取カロリーを超えているのではないだろうか。その後、若宮朱莉はスープまでも飲み干すとニッコリしながら「やっぱり家系ラーメンは最高ですね!」と言った。


ラーメン屋を出た二人は車に乗ってさっさと帰宅した。アパート前に到着すると黒いワゴン車がハザードランプを照らしながら停まっていた。それはまさに岩湧山を下った時に若宮朱莉を迎えにきた井野口というマネージャーの車であった。するとそのワゴン車から灰色のストライプを着た、身長165cmくらいのパーマをかけてふわっとしたやさしげなウェーブのかかった髪型に黒縁メガネをかけて、口髭と短めのあご髭の卵型の顔をした30歳くらいの男性が傘をさして降りてきた。若宮朱莉は「もうバレちゃったみたいです」と呟いた。その男性こそ若宮朱莉の専属マネージャーである井野口晃で、こちらへ向かって歩いてくると助手席の窓をノックした。水城涼真は助手席の窓を半分ほど開けると井野口晃が話しかけてきた。


井野口晃「朱莉ちゃん、こんな勝手なことされると困るよ。探すのにずいぶん苦労したんだよ」

若宮朱莉「大阪に引っ越したことはナイショにしててごめんなさい。でも、わたし勝手なことはしてないと思う」

井野口晃「僕に断りもなく勝手に大阪事務所を通して仕事を引き受けていたでしょ」

若宮朱莉「井野口さんに相談しても絶対に許してもらえないから、わたしの判断でそうしたの」

井野口晃「朱莉ちゃん、今の立場を改めて考えてほしい。君は全国的に有名なタレントなんだから東京でたくさんの仕事をするべきなんだ」

若宮朱莉「井野口さん、わたしはもう東京に戻る気はないの」

井野口晃「そんなわがまま言わないで僕と一緒に東京へ戻ろう!」


そんな二人の会話をずっと聞いていた水城涼真は「井野口さんでしたか、私はこのアパートの大家をやっております水城と申します。そんな話をここでするのはよくないと思いますし、ご近所迷惑にもなりますので、続きは私の部屋に入って話してくれますか?この少し先にコインパーキングがありますので、そこに車を停めたら201号室まで来てもらえます?」と言った。井野口晃は「それもそうですね、申し訳ありません。では車を停めてまいります」と言ってワゴン車のほうへ戻っていった。


水城涼真「朱莉ちゃん、とりあえず荷物を自分の部屋に置いたら俺の部屋に来てな」

若宮朱莉「わかりました。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」

水城涼真「これも大家の仕事やから気にせんでいいよ」

若宮朱莉「ありがとうございます。じゃあ荷物部屋に置いてきますね」


その後、水城涼真の部屋では若宮朱莉と井野口晃がテーブルに向かい合って座った。水城涼真は三人分のお茶を用意して、その二人の間に座った。


若宮朱莉「井野口さん、今回のことはわたしの意思で決めたの」

井野口晃「朱莉ちゃんには厳しいことを言うかもしれないけど、芸能界はそんなに甘い世界じゃないんだよ。今は東京でたくさんの仕事をこなしておかないと、この業界では生きていけなくなるんだよ」

若宮朱莉「たとえこの業界で生きていけなくなっても、わたしはそれでいいって思ってるよ」

井野口晃「そんなことになったら事務所も困るんだよ」

若宮朱莉「やっぱり、井野口さんは事務所や世間体のことしか考えていないのね。わたし、この業界が嫌になったわけじゃないけど、自分の生きがいを見つけたから、その道に進んでいきたいって思っているの」

井野口晃「それは朱莉ちゃんの一時の感情だと思う。だからね、今の立場をもう少し考えて東京に戻ってきてほしい」

若宮朱莉「今の立場なんてどうでもいいし、どうなってもいい。わたしのこれからの人生は父の遺志を継いでいくって強く決心したの」

井野口晃「朱莉ちゃんはただ冷静さを失って意固地になっているだけのように思える。後で後悔しないためにも考え直してほしい」


この二人の話をずっと隣で聞き続けていた水城涼真はお茶を飲み干すと「ふぅー」とため息をつきながら口を開いた。


水城涼真「こんなくだらん話、いつまで続けるつもりなん?」

若宮朱莉「涼真さん・・・」

水城涼真「マネージャーの井野口さんだっけ?そもそもあんたの目的って何なんですか?」

井野口晃「それは朱莉ちゃんの全国的にも人気タレントという立場を維持させるために、東京で仕事のオファーをたくさん受けてもらいたいのです」

水城涼真「全国的に人気のタレントかもしれんけど、本人が自分の生きがいを見つけたって言ってんのに、それを否定する権利が井野口さんにあるんですか?」

井野口晃「そうはいいましても、朱莉ちゃんは芸能界で光り輝かせられることができる可能性を秘めています。私はその可能性を実現させたいと思っているだけです」

水城涼真「俺には芸能界がどんなもんかは知しませんけど、そんな可能性が秘められていたとしても、それは別に東京やなくてもできるんちゃいますか?」

井野口晃「それは一理あるとしても、やはり東京で仕事をしていただきたいです」

水城涼真「東京で仕事をしてほしいっていうのはあくまでにあんたの希望でしょ。一理あるとかいいながら、所詮は金儲けのための道具にしかみてないとしか思えませんね」

井野口晃「水城さんといいましたか?あなたは朱莉ちゃんに何かあって芸能活動ができなくなった時に責任を取っていただけるのですか?」

水城涼真「なんで俺が責任を取らないといけないんですか?朱莉ちゃんはもう未成年やないし、自分のことは自分で責任を取るべきなんとちゃいますか?」

井野口晃「どうも水城さんは芸能界のことを理解されていないように思います。朱莉ちゃんが芸能活動が続けられなくなると私や事務所がどれほどの責任を負うことになるか考えてみてください」

水城涼真「あんたの本音はやっぱりそれなんやな。それやったら、朱莉ちゃんが今の事務所を辞めたらそんな問題もなくなるやろ?」


若宮朱莉は少し難しい表情をしながら黙り込んでいた。芸能界の仕事に関しては好きでやっていることだが、今の事務所を辞めるということは全く考えていなかった。


若宮朱莉「涼真さん、わたしは芸能界の仕事はとても気に入っています。でも、無理強いされて東京に戻れと言われるなら今の事務所を辞めることにしました」

井野口晃「朱莉ちゃん、それは本当に言ってるの?」

若宮朱莉「井野口さんには悪いって思うけど、そうするって決めたわ」

井野口晃「ちょっと待ってほしい。だったら大阪事務所と今後の方針について話し合うから辞めるなんて言わないでほしい」

若宮朱莉「もちろん必要であれば東京まで行ってお仕事はするから、わたしが決心したことについては、好きなようにさせてほしい」

井野口晃「わかったよ。とりあえず、今日のところは失礼させていただきます。でも今後は大阪での仕事をする場合でも、必ず私を通すようにしてほしい。この業界ではマネージャーを通しておかないと後々問題がおきやすいからね」

若宮朱莉「それはごめんなさい。今後は井野口さんを通すようにする」


そういう話をして落ち着いたところでマネージャーの井野口晃は部屋を出て行った。話が終わって身体の力が完全に抜けていた若宮朱莉は小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。


若宮朱莉「涼真さん、わたしってやはり重荷になっていますか?」

水城涼真「重荷になってるとは思ってないけど、芸能界って面倒なことが多いんやなとは思ったわ」

若宮朱莉「わたしが芸能界で活動していることが問題であれば、引退することも考えるようにします」

水城涼真「まあ、そこまで考えんでもええけど、芸能界と登山活動をうまく両立させれるようにちゃんと考えていくべきやとは思うで!」

若宮朱莉「そうですね。わかりました」

水城涼真「それにしてもすごい決意表明したな。改めて本気度が伝わってきたわ」

若宮朱莉「涼真さんにはもう一度決意表明をしておきますね。わたしが父の遺志を継ぎます!」


若宮朱莉は真剣な眼差しで決意表明をしていた。その言葉に心打たれた水城涼真は心の中で「この子は面白いし、持って行き方によっては化けるかもしれん」と思った。


水城涼真「とりあえず嫌な事は忘れて、日曜日の行者還岳を楽しみにしとけばええわ」

若宮朱莉「そうですね。とても楽しみにしています!!!」


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