八ヶ尾山でルーファイ訓練をしました
4月3日午後10時10分・・・
シャワーを浴び終えた水城涼真はビールを片手にパソコンの前で落ち着いてた。そこでチャイムが鳴ったので「はーい」と返事をすると、いきなりドアの鍵が開いて若宮朱莉が入ってきた。水城涼真は突然鍵が開いたことに驚くと、若宮朱莉が「こんばんは」と言って部屋に入ってきた。
水城涼真「なんで朱莉ちゃんが俺の部屋の鍵を持ってるんよ?」
若宮朱莉「えへへ、志帆ちゃんから涼真さんのことをお願いされて鍵を渡されたの」
水城涼真「あいついらんことしよってからに・・・」
若宮朱莉「お付き合いしてるんだから、このくらいいいじゃない。それとも後ろめたいことでもあるの?」
水城涼真「いや、別にないけど・・・一応入る前にはチャイム鳴らしてや」
若宮朱莉「それはわかってる。ところで、今日は何かわたしに話があったんだよね?」
水城涼真「せやせや、あんな今週6日の土曜日は空いてる?」
若宮朱莉「空いてるよ。どこか行くの?」
水城涼真「連続になるけど、お父さんの登山計画ノートに書かれてる多紀連山の八ヶ尾山に行こうかと思ってな」
若宮朱莉「八ヶ尾山!行く行く!!」
水城涼真「ただし、今回は朱莉ちゃんのルーファイ訓練のために行くから基本的にGPSは使用禁止にする」
若宮朱莉「そんなに難しいルートなの?」
水城涼真「ちょっとややこしいところがあるんやけど、もしもの時は俺がサポートするから」
若宮朱莉「わかった。予習しておきたいから八ヶ尾山の地図だけ印刷してもらえない?」
水城涼真「既に用意してあるからそこのテーブルの上から一枚持って帰り!」
若宮朱莉「はーい。ありがとうございます」
こうして6日は多紀連山の東側に位置している八ヶ尾山に行くことになった。
4月6日午前6時30分・・・
今回は近場ということもあって少し遅い時間の出発となった。水城涼真がアパートの入口に行くと既に若宮朱莉がザックを背負って待っていた。お互いに「おはよう」と挨拶すると2人とも駐車場へ向かった。トランクに荷物を詰め込んで若宮朱莉は助手席に乗ると車を走らせた。近場といっても車で片道2時間はかかる距離である。
水城涼真「朱莉ちゃんは車の免許取らへんの?」
若宮朱莉「免許取りたいんだけど、こういうお仕事してるとなかなか時間がないの」
水城涼真「そっか・・・でも、今後のことも考えたら今のうちに取っといたほうがええと思うんやけどな」
若宮朱莉「それって、わたし達が結婚してからってこと?」
水城涼真「いや、そういうわけやないけど、もし俺になんかあった時に朱莉ちゃんが免許持ってたら便利やろ?」
若宮朱莉「たしかにそうだね。だったら免許取りに行こうかな」
水城涼真「井野口さんに相談してみたら?」
若宮朱莉「うん。次会った時に相談してみる!マネージャーにはもう一つ話しておきたいことがあるしね」
水城涼真「もう一つ話しておきたいこと?」
若宮朱莉「そう・・・えっと、涼真さんとお付き合いしてること」
水城涼真「ええーーー!そんなこと話したら井野口さんショック死するんちゃう?」
若宮朱莉「だって、わたしは真剣なんだし、このことはマネージャーには隠しておきたくないの」
水城涼真「それにしても早すぎるって!まだまだ先の話なんやし、今すぐやなくてもええやろ」
若宮朱莉「涼真さんはまだまだ先の話って言ってるけど、それはいつのことになるの?」
水城涼真「まあ3年から5年後くらい・・・かな」
若宮朱莉「どうしてそんな先になっちゃうの?わたしはいつでもいいと思ってるし、今年結婚してもいいじゃない」
水城涼真「今年って・・・それはいきなりすぎるって!朱莉ちゃんは今売れっ子のタレントなんやし、結婚なんかしたら仕事減るんとちゃうの?」
若宮朱莉「わたし、アイドルじゃないんだし、結婚したからって今のお仕事は減らないよ」
水城涼真「朱莉ちゃんはいつ結婚してもええってことか・・・まあ、結婚したからって何も変わるわけでもないんやけどな」
若宮朱莉「わたしは堂々と涼真さんと一緒に居たいって思ってるの」
そんな話をしながら車を走らせていた。実は水城涼真と若宮朱莉はこの年に結婚することになってしまうことになるのだが、この時はそんなこと予想もできなかった。それから車を1時間程走らせてアプローチとなる筱見四十八滝入口に到着した。
午前8時30分・・・筱見四十八滝入口
筱見四十八滝入口に到着して2人は車から降りて登山準備をはじめた。昨日の雨で登山道はかなり濡れていた。筱見四十八滝はかつて丹波修験道の行者が修行の場としていた場所で、現在は登山道になっている。今回はGPSの使用禁止ということで、若宮朱莉は地図とコンパスを出してルートの確認をしていた。まずは1時間の滝めぐりコースを終点まで行く。まずは手洗滝と肩ヶ滝を過ぎるとちょっとした岩場になった。
水城涼真「雨で岩場が滑りやすくなってるから注意して登っていきや」
若宮朱莉「はい!」
岩場は予想以上に滑りやすかったが、若宮朱莉はなんとか登っていくことができた。続いて水城涼真は滑りやすい岩場にも慣れていることからスルスルと登っていった。そして長滝という道標があったが、その滝には立ち寄らず進んでいくと、さらに滑りやすい鎖が設置されている岩場になった。この岩場は滑りやすかったが鎖が設置されていることもあって意外と登っていくことができた。さらに登山道を進んでいきシャレ滝を通り過ぎると大滝に到着した。
若宮朱莉「涼真さん、もう40分くらい歩いてるから、ここで一旦休憩にしよ」
水城涼真「朱莉ちゃん、ホンマ慣れてきたな。時間的もここで休憩するのがベストやねん」
若宮朱莉「最初に地図を見て休憩するならこの大滝かなって思ってたよ」
水城涼真「休憩時間の場所もちゃんと考えて行動せなあかんからな」
若宮朱莉「まだ山頂じゃないけど、父はこの滝めぐりの過程も楽しみにしていたんだって思う」
水城涼真「そうやな。ここはアスレチック感のあるルートやしな」
大滝で15分程休憩をした後、2人は先に進んでいった。それから登山道を進んでいくと道標が立っており『筱見四十八滝終点』と記載されていた。ここからは多岐連山の周回コースになり一の滝と二の滝があったのだが、そこはスルーして先に進んでいった。そして今まで一番長いとされる鎖が設置されている岩場の登りになった。高さ5m程の岩場だが滑り落ちたら完全にアウトである。若宮朱莉は「ここも先に登っていくね」と言ったが、水城涼真は「この岩は特に滑りやすいから注意して登っていきや」と言った。若宮朱莉は鎖を掴みながら三点支持を意識しながらゆっくりと岩場を登っていった。続いてさすがの水城涼真も注意しながら岩場を登っていった。
午前9時35分・・・登山道のないルーファイ
岩場を登り詰めると今度は踏み跡もない樹林帯の中に入った。その先に多岐連山の周回コースの道標が設置されていたが、目的の八ヶ尾山は周回コースから離れた場所に位置している。若宮朱莉は地図とコンパスで方角を確認すると「ここは周回コースを離れて真っすぐだね」と言った。水城涼真は既にここのルートを把握しているので黙って若宮朱莉の後を着いていった。するとその先ではじめて八ヶ尾山の方向を示した道標が立っていた。その道標に従って進んでいくと、完全に道なき谷の登りとなった。だんだん不安になってきた若宮朱莉は何度も地図を確認しながら進んでいったが、もはやどこをどう歩いていけばいいのかわからなくなってきた。
若宮朱莉「涼真さん、もうどこをどう歩いていけばいいのかわからなくなってきた」
水城涼真「地図を確認して、どこを目指していけばええのか再確認してみ」
若宮朱莉「えっと、この先は・・・あっ!この先は稜線になってる。そこを目指せばいいんだ」
水城涼真「そうや。この付近はだだっ広くて精神的に不安になるところやねん」
若宮朱莉「わかった。ここのルーファイも大変で不安になっちゃったけどもう大丈夫」
そこからしばらく進んでいると稜線が見えた。そして稜線に登ると八ヶ尾山への道標があった。その道標の方角は左のピークに登るように記載されていたが、若宮朱莉は「わたしの感覚では右の方向のように思えるんですが、左のピークであってるの?」と聞いてきたので、水城涼真は「ここは方向感覚が麻痺するところなんよ。左のピークであってるわ」と答えた。そして2人は左のピークに登って下っていくと、今度も踏み跡のない少し細い尾根道を進んでいった。その先から連続する岩場を登り詰めると西ノ峰というピークに到着した。目の前には八ヶ尾山のピークが見えており、時間的にも休憩してもよかったのだが、あと少しなのでそのまま登っていくことにした。
午前10時20分・・・八ヶ尾山(標高678m)
西ノ峰から少し下って登り詰めると本日の目的地である八ヶ尾山(標高678m)に到着した。この山は多紀連山の中でもあまり人に知られておらず、山頂には誰もいなかった。
若宮朱莉「うわーここ360度の大パノラマ展望だね!」
水城涼真「ここは穴場の山やからな」
若宮朱莉「それに山が下に見えてるよ。父はこの景色が見たかったんだ・・・」
水城涼真「そうかもしれんな」
若宮朱莉「少し早いかもしれないけど、ここで20分程休憩しよう」
水城涼真「じゃあ俺コーヒー作るから行動食でも食べとこか」
水城涼真はザックの中からガスバーナーと水を出してきてお湯を沸かしはじめた。若宮朱莉は銀マットと2人分のコップをザックから出して用意していた。今回、水城涼真はドリップ式のコーヒーを出してきてコップに2人のカップお湯を注いだ。コーヒーを入れて2人は飲みはじめると若宮朱莉は少し水城涼真のほうへ寄ってきて肩を並べた。
水城涼真「朱莉ちゃん、近いって!そないにくっついてこんでもええやん」
若宮朱莉「誰もいないんだしいいじゃない。それに今父のことを思い出してて少し辛くなってきたから」
水城涼真「まあ、このくらいならええけど、ここから先、まだ厄介なところがあるから気を抜いたらあかんで」
若宮朱莉「まだそんな厄介なところがあるんだ」
水城涼真「それにしてもお父さん、よくこんな山知ってたよな」
若宮朱莉「そうだね。こんな山を見つけてくるところも涼真さんに似ていたのかも」
そんな話をしながらコーヒーを飲み終えた2人は後片付けをして下山の準備をした。下山は八ヶ尾山から南の尾根を下ってつまご坂登山口まで下って筱見四十八滝入口までもどっていくというルートになっている。2人は下山をはじめるとつまご坂登山口までは意外と登山道が整備されており、道に迷うことはなかった。地図やコンパスもほとんど必要なく40分程でつまご坂登山口まで下ってくることができた。
午前11時30分・・・弁天池~筱見四十八滝入口
つまご坂登山口から一旦道路に出て右へ歩いていき弁天池に到着した。ところがその先から踏み跡どころか登山道がないのだ。
若宮朱莉「涼真さん、ここから道がないよ?池の左側の樹林帯に入っていくのが正解なのかな?
水城涼真「ここが最後に厄介なところなんよ。まず地図を見て、どこに向かって行きたいのか考えてみ」
若宮朱莉「えっと・・・筱見四十八滝は一山超えた向こうにあるから、最初に目指すべきところはこのコルかな」
水城涼真「そうやな。そのコルがポイントになってるから、まずはそこを目指して登っていけばええねん」
若宮朱莉「ということは、左側の樹林帯に入って谷を最後まで谷をつめないで途中から左の方へ登っていけばいいんだ」
水城涼真「読図できてきてるようになってるやん。じゃあ朱莉ちゃんについて行くから先頭歩いてな」
若宮朱莉「じゃあ行くね」
弁天池の左側の樹林帯の中に入っていくと、登山道などなく倒木などでかなり荒れていた。若宮朱莉は目指していくコルの方向はわかっていたが、ルーファイに苦労していた。
若宮朱莉「涼真さん、本当にこんなところを登って行くの?」
水城涼真「それしか登る方法ないやろ」
若宮朱莉「これだと無理矢理登ってる感じじゃない」
水城涼真「そうやで。これから先も無理矢理登っていくようなところあるから、こういうところにも慣れておかなあかん」
若宮朱莉「わかった。がんばって登るね!」
水城涼真「直登せんでも、ルーファイしながら登りやすいところを登って行ってな」
2人はなんとか目的のコルへ登っていくことができた。そこからの下りは林業用のテープが巻かれていてわずかな踏み跡もあったので意外とスムーズに下っていくことができた。そして下った先で道路にでると右手に車を駐車した筱見四十八滝入口が見えた。
水城涼真「朱莉ちゃん、お疲れ様。今回はよーがんばったわ」
若宮朱莉「涼真さんのサポートがあったおかげでもあるよ」
水城涼真「腹減ってるやろうから、帰りに家系ラーメンでも食べて帰ろか」
若宮朱莉「家系ラーメンいいね~実はもうお腹ペコペコだったりするの」
二人は車に乗って帰りに家系ラーメン店に立ち寄って帰っていった。
4月10日午後20時50分・・・
大阪の情報番組の生放送が終わった後、若宮朱莉は楽屋に戻っていった。楽屋前にマネージャーである井野口晃が待っており「朱莉ちゃん、今日もお疲れ様と言った。
若宮朱莉「井野口さん、今日は大切な話があるので楽屋に入って!」
井野口晃「大切な話?じゃあ楽屋にお邪魔するよ」
そうして2人は楽屋に入ると若宮朱莉はソファーに座った。
井野口晃「朱莉ちゃん、大切な話って何?」
若宮朱莉「あの、井野口さんには言いにくいんだけど、わたし、結婚を前提でお付き合いしている人がいるの」
井野口晃「ええええええーーー、ちょっと朱莉ちゃん、それ本気で言ってるの?」
若宮朱莉「本気で言ってるよ。わたし、涼真さんと結婚しようって思ってるの」
井野口晃「朱莉ちゃん、それはかなりまずいよ。これからのお仕事に影響がでるよ」
若宮朱莉「どうしてまずいの?わたし、アイドルじゃないんだよ。わたしが結婚したからってお仕事に影響がでるとは思えないんだけど・・・」
井野口晃「それでも世間に知られたら大騒ぎになるし、売れっ子のタレントが結婚するとなればファンの方々の見方も変わってしまうんだよ」
若宮朱莉「わたしが結婚しても今までと生活は変わりません。結婚式も知り合いだけでひっそりするつもりだし、子供も作る気はないの。だから世間には黙っておけばいいだけじゃない?」
井野口晃「それはそうだけど、朱莉ちゃん、もう少し考えてみてほしい。わざわざ今すぐ結婚しなくてもいいんじゃない?」
若宮朱莉「井野口さんにそう言われても考えは変わりません。わたし、涼真さんと結婚しますし、それが駄目だとおっしゃるなら引退します」
井野口晃「そこまで言うならわかったよ。ただ現状維持でお願いしたいのと、このことは世間に内緒にしておいてほしい」
若宮朱莉「そこはわかっています。ただ、今涼真さんとわたしは結婚前提でお付き合いしているってことを井野口さんにはお伝えしておこうと思っただけだよ」
井野口晃「わかった・・・それでいつ結婚するの?」
若宮朱莉「それはまだ決まっていないんだけど、わたしは早く一緒になりたいと思ってるよ」
井野口晃はなんだか煮え切らない心境に陥っていたが、結婚を反対する理由がなく仕方なく承諾した。




