霊仙山でテーブルランドの大絶景を見ました
3月18日午前10時・・・
先週は小秀山の急ぎの執筆活動でほとんど眠っていなかった水城涼真だが、週末にゆっくり休むことができて週が明けた。今はまったりした時間を過ごせるのだが、次に行く山の計画を立てていた。すると部屋のチャイムが鳴ったので「はーい」と返事をして玄関のドアを開けると、白いパーカーに黒いチェック柄のスカート姿の若宮朱莉が立っていた。
水城涼真「朱莉ちゃん、どないしたん?週末に登る霊仙山のことやなさそうやな」
若宮朱莉「全く別のお話なんだけど、ちょっとお邪魔してもいいですか?」
水城涼真「ええよ」
実は週末の23日に鈴鹿の霊仙山に行く予定になっており、そこは若宮朱莉の父親の登山計画ノートの予定に書かれてる山である。残雪期が見所だという水城涼真の意見もあって天気予報でも快晴だという日を選んだのだ。ちなみに、若宮朱莉は職業柄なのか、水城涼真に対してあまり敬語を使わなくなっていた。
水城涼真「それで話って何なん?」
若宮朱莉「たしか志帆ちゃんって今年卒業だよね?」
水城涼真「21日に卒業式みたいやけど、まだ就職が決まってないから困ってるんよ」
若宮朱莉「志帆ちゃんはどうしても美容師の道に進みたいのかな?」
水城涼真「どうなんやろ!?俺にはよーわからんのやけどメイク道具とかも結構揃えてるみたいやから、美容師だけにこだわってるわけでもなさそうな感じはするわ」
若宮朱莉「昨日の夜、天音さんとSNSでお話したんだけど、天音さんと仲のいいヘアメイクさんが人手不足で困っているらしくて、見習いでもいいから誰か来てほしいみたいなの。そこで志帆ちゃんはどうかなって思ったんだよ」
水城涼真「それはええ話やと思うけど、志帆の意見も聞いてみんとわからんな」
若宮朱莉「それはもちろん。ただね、一つ問題があって、見習いとして働くってなったら東京に行かないといけなくなるの」
水城涼真「あっそういうことになるんか。でもまあ志帆が行きたいっていうんやったら構わんけどな。そのための貯金もしてあるし」
若宮朱莉「今って隣の部屋に志帆ちゃんいるよね?わたしも一緒にいるから聞いてみようよ」
水城涼真は202号室に繋がっているワイヤレスインターホンを鳴らすと、隣の部屋からバタバタと音が聞こえてきて水城志帆が201号室へやってきた。
水城志帆「お兄ぃ、いきなりなんや?あっ!あかりん、おはようございます」
水城涼真「ちょっと大事な話があるから、こっちに来て座れ」
水城志帆「なんや改まって・・・」
水城涼真「お前、天音琴美っていう女優さん知ってるか?」
水城志帆「そんなん知ってるに決まってるやん!めちゃくちゃ有名やし」
水城涼真「朱莉ちゃんが説明したほうがよさそうやから頼むわ」
若宮朱莉は「わかった」と言って、天音琴美の仲のいいヘアメイクさんのことを詳しく説明した。すると水城志帆は真剣な表情をしながらも目が輝き出した。
水城志帆「そんなところにわたしが見習いに行けるんですか?しかも天音琴美さんって・・・」
若宮朱莉「ただ、業界のヘアメイクさんのお仕事は大変だし、途中で投げ出さないって約束できるんだったら、天音さんにちゃんとお願いするよ」
水城涼真「天音さんがごちゃごちゃ言って志帆をいじめるようなことがあったら、俺がもう山には連れていかんって逆に脅してやればええ」
若宮朱莉「涼真さん、それはめちゃくちゃだよ。でも天音さんはすっごく優しい人だから大丈夫」
水城志帆「お兄ぃ、いつから天音琴美さんと知り合いなん?」
水城涼真「もうかれこれ半年以上前やな。それから何回か山に連れていってるわ」
若宮朱莉「それで志帆ちゃん、この話どうかな?なかなかこういうチャンスってないと思うの」
水城志帆「もちろん喜んでお受けしたいですけど、わたしが東京に行ったらお兄ぃが一人になるし、それに引越しするにもお金がかかるやろうし」
水城涼真「お前のためにずっと貯金してたから心配あれへん。ただ、仕事して軌道に乗ったら後は稼いだ金で生活はやりくりしてくれ」
若宮朱莉「それにお兄さんはもう一人じゃないから心配しなくてもいいよ」
水城志帆「一人じゃないってどういうことですか?」
水城涼真「いや、朱莉ちゃんっていう登山仲間も近くにおるから・・・」
若宮朱莉「涼真さん、志帆ちゃんにはハッキリ言っておくべきです。あのね、わたしと涼真さんは結婚を前提にお付き合いすることになったの」
水城志帆「ええええええええええーーーーーーーーー!?お兄ぃとあかりんがぁ?」
若宮朱莉「これは絶対に内緒でお願いね!」
水城志帆「お兄ぃ、あかりんやで!あかりんと結婚するつもりなん?」
水城涼真「まあ、将来的にそのつもりやけど、まだまだ先の話や。それより、お前は東京に行くんやな?」
水城志帆「お兄ぃとあかりんがそこまで言ってくれるんやったら東京に行って修行してくるわ。こんなチャンス普通はあれへんもん!」
若宮朱莉「じゃあ今夜にでも天音さんに伝えておくね!」
そうして水城涼真の妹である志帆はワクワクしながら部屋に戻っていった。その夜、若宮朱莉が天音琴美とSNSでの通話で水城涼真の妹の話をした。そしてその次の日には天音琴美が仲良くしているヘアメイクさんと話をして水城志帆の東京行きが決定した。
3月23日午前5時・・・
目を覚まして今日の米原市の天気予報を見ていた水城涼真は快晴であることを確認して安心していた。ザックを背負って玄関から外へ出た。アパートの入口まで行くと既に赤いソフトシェルジャケットにグレーのトレッキングパンツ姿の若宮朱莉が待っており「おはよう」と挨拶した。2人はそのまま駐車場へ行って荷物をトランクに積み込むと車に乗って京都方面へ向かった。今日は京都方面に行くので逆に樫田裕を迎えにいくことになっている。
若宮朱莉「今日は久しぶりに父の登山計画ノートの予定に書かれている山に行くのよね?」
水城涼真「そうや。霊仙山は残雪期のこの時期にいくのが一番ええんよ。テーブルランドで最高の景色が見れると思うわ」
若宮朱莉「テーブルランドってよくわからないけど、すごく楽しみ!」
水城涼真「まあ行ってからの楽しみやな」
若宮朱莉「地図を見た感じ、今日はそんなに難しいルートではなさそうだね」
水城涼真「ただの一般的な登山道やわ。今日は景色を楽しむだけやな」
若宮朱莉「そういえば、今日は樫田君にわたし達の関係のことを話すの?」
水城涼真「そのことやったらもう俺が通話で樫田君とあっちゃんに話してるから大丈夫や」
若宮朱莉「涼真さん、やること早いね」
水城涼真「俺こういうことはさっさと話ときたいねん。登山仲間やしな」
そんな話をしていると、樫田裕の自宅前のコンビニ到着した。コンビニ前には既に水色のソフトシェルジャケットに黒のトレッキングパンツ、緑色のザックを背負った樫田裕が待っていた。水城涼真は車から降りて「おはよう」と言うと樫田裕は「おはようございます、そしておめでとうございます!」と言った。樫田裕はトランクに積み込むと後部座席に座った。水城涼真は「樫田君、おめでとうはまだ早いで。まだまだ先の話やで」と言って車を発進させた。
若宮朱莉「樫田君、ありがとう。でもわたしは涼真さんから一生離れる気はないの」
水城涼真「朱莉ちゃん、そういうことまで宣言せんでもええから」
樫田裕「涼真さん、朱莉ちゃんはホンマに離れる気ないんとちゃいます?」
水城涼真「まあ時期がきた時におめでとうって言ってくれたほうがええわ」
若宮朱莉「ところで志帆ちゃんの引越しを29日にしたのはどうしてなの?」
水城涼真「引越しの準備も時間かかるやろうし、東京の地理を覚えるのも時間がかかるやろ。たしか4月2日から仕事がはじまるんやろ」
若宮朱莉「それにどうして錦糸町なの?」
水城涼真「家賃が安いのとお茶の水で中央線に乗り換えもできるしな。たしか仕事場も20分くらいでいけるやろ」
若宮朱莉「そういえば涼真さんは東京にもある程度詳しかったね」
樫田裕「でも錦糸町って治安が悪いとか言われてません?」
水城涼真「大阪の治安に比べたら全然マシやと思うわ」
若宮朱莉「それに数年修行したら大阪に戻ってくると言っていましたもんね」
そんな話をしていると多賀サービスエリアに到着した。3人は車から降りてフードコートへ入っていった。さすがにまだ誰もお腹が空いておらず、コーヒーを飲みながらまったりと休憩をしていた。ここで15分程休憩するとさっさと3人は車に乗り込んだ。そのまま車を走らせて北陸自動車道とのジャンクションがあったので北陸自動車道へ入ってすぐ米原インターチェンジで高速道路を下りた。そこから国道21号線(中山道)を東に進んだところにあるコンビニに立ち寄った。
水城涼真「今日は各自昼食と行動食と水を購入して。俺はカレーにしとくわ」
若宮朱莉「わたしも今日はカレーにするね。一度、涼真さんが作ってたカレーを食べてみたいと思っていたの」
樫田裕「それやったら僕もカレーにしときますわ。あっゴーゴーカレーがあるやないですか。朱莉ちゃん、これ2つ入りやから分けて買わへん?」
若宮朱莉「ゴーゴーカレーっての金沢でしたっけ?買います!」
水城涼真「俺はLEE20倍にしとくわ」
樫田裕「涼真さん、ホンマ辛いの好きですよね?」
若宮朱莉「LEE10倍は食べたことあるけど、超辛かったのに20倍ってすごい」
3人はご飯のパックと水2リットルのペットボトルを購入してコンビニを出た。その先から県道21号線(多賀醒井線)に入って南下していった。醒井養鱒場を過ぎて林道をひたすら走らせて行った。
午前8時30分・・・榑ヶ畑登山口(標高約390m)
駐車場がいっぱいで少し離れた場所に駐車した。3人は車から降りて登山準備をはじめた。今日は人が多いので若宮朱莉の正体に気づかれる可能性が非常に高い。だからといって伊達メガネをしたりサングラスをかけたりせず、バレたら仕方がないくらいに思っていた。そこから登山スタートとなり、最初は少し暗い樹林帯の中を進んでいった。ちなみにこれから登る霊仙山は鈴鹿山地の最北に位置しており、花が多い山として花の百名山にも選ばれている。特にこの時期は福寿草が見れるとのことで多くの登山者が訪れている。
樹林帯を歩いていると廃集落跡地が見えてきた。ここは明治12年に坂田郡が発足、榑が畑村となって明治22年に醒井村榑が畑となり、昭和31年に息郷村と米原町が合併し米原市となった。石垣の範囲は広く、かつては50戸から270戸を超える人々が暮らして、小学校分校や郵便局、酒屋などもあり、林業の生産などで生計を立てていたという。そして村民は町に出て田畑を作りに行くようになり、徐々に人工は減って昭和35年頃に廃村となった。
この廃村をあとにして尾根まで登っていくとコル部にあたり、二合目となっている汗拭峠に到着した。まだ大して登っていないのになぜ汗拭峠と呼ばれているのかというと、それは帰路でその意味がわかる。そこからさらに三合目、四合目と登っていき苔むしたいい感じの道が続いていった。そして五合目に到着するとはじめて北側の眺望が少し開けていた。
若宮朱莉「涼真さん、なんか普通の登山道がずっと続いているだけなんだけど、最高の景色ってまだなの?」
水城涼真「そう焦りな!七合目から一気に世界が変わるから楽しみにしとき」
樫田裕「ホンマ、七合目から雰囲気変わりますよね」
若宮朱莉「父が何を見たかったのか、まだイメージできないんだけど、とにかくがんばるね」
水城涼真「よし、立ち休憩もしたし、朱莉ちゃんがうるさいからさっさと七合目まで登ろか」
若宮朱莉「わたし、うるさく言ってるつもりはないんだけど・・・」
そこから六合目に到着すると、雪が解けてぐちゅぐちゅした泥道の急斜面がはじまった。ここはつづら折れに登って行くようになっている。この登りは感覚的に長いのだが、3人はなんとかこの斜面を登り切った。
午前9時20分・・・七合目~避難小屋(カルスト台地)
斜面を登り切った3人は七合目の手前で青空の下、解放感溢れるテーブルランドの台地を見て驚愕した。残雪もあり、ところどころの木には霧氷が残っている。ここはとても標高1000mの山ではとても見ることができないような壮大な景観を生み出しているのだが、これはカルスト地形と呼ばれるもので、この他に有名なところで山口県の秋吉台などがある。台地が石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で形成されていて、長年の雨などによって侵食され溶け残った石灰岩があちこちに突出していて創的な景色を生み出している(ピナクル)。そして、テーブルランドと呼ばれる不思議な山容も、このカルスト台地特有の自然現象から生まれているのだ。
若宮朱莉「こ、これは・・・とても素晴らしい景観!まるで別の世界にいるみたい!!!わたし、こんなの初めて見ました」
水城涼真「朱莉ちゃん、近づいたらもっと迫力あるで!」
若宮朱莉「そうだね。じゃあ進んでいこ!って樫田君は?」
水城涼真「樫田君はテンションが高くなったら、あちこち走り回って撮影しにいくんよ。避難小屋に行くことはわかってるから俺らだけで行こか」
若宮朱莉「わたしもここからは撮影しながら歩いていくね」
そうして撮影しながらのスローペースでテーブルランドを歩いていって、なんとか九合目となる経塚山(標高約1040m)に到着した。しかし樫田裕はまだ遠くで撮影していた。水城涼真は「樫田君!!」と大きな声で呼んでみると、樫田裕がこっちを向いたので手を振った。そして水城涼真と若宮朱莉は避難小屋のほうへ行った。
避難小屋は少し薄暗かったが何人かの登山者がいた。水城涼真はジェットボイルに水を入れて、パックのご飯をジップロックに入れるとカレールーとご飯を一気に入れて温めはじめた。
若宮朱莉「今回は父がここで何を見たかったのかがすぐにわかりました。この素晴らしいカルスト台地、しかも涼真さんが残雪期を選んだ理由もよくわかりました。これは是非父に見て欲しかった景色です・・・」
水城涼真「お父さんの登山計画ノートの予定もちょうど残雪期やったしな。でも、朱莉ちゃんが見たんやから、ちゃんと遺志を引き継いでることになるよ」
若宮朱莉「それもそうだね・・・本当に涼真さんのおかげだよ」
そこに樫田裕が走って避難小屋に入ってきて「お待たせしました。朱莉ちゃん、さっそくカレー作ろうや」と言った。
樫田裕がカレーの準備をしてジェットボイルにカレーとジップロックに入れたご飯を投入して温め始めた。火力を少し大きくしていたこともあって、水城涼真のカレーと同じくらいの時間に出来上がった。3人はカレーをたべはじめると若宮朱莉が「本当にゴーゴーカレーの味だね。でもちょっと辛いかも」と言った。そんな話をしていると、避難小屋にいた登山者の一人がこっちへやってきて「あの、タレントの若宮朱莉さんですよね?」と声をかけてきた。若宮朱莉は慣れた口調で「いえ、違いますよ。よく似ているとは言われていますが別人です」と答えた。するとその登山者は「これは失礼しました」と言ってその場を去った。
水城涼真「朱莉ちゃん、慣れてるなあ」
若宮朱莉「ときどきこういうことがあるんだけど、別人だって言ったら大抵の人は人違いと思うみたい」
樫田裕「そう考えるとやっぱ芸能人ってメンドクサイですね。プライベートもなにもあったもんやないやん」
若宮朱莉「もう慣れっこになってるから大丈夫」
3人はカレーを食べ終えると食後のコーヒーを飲んでさっさとスタートすることにした。
午前11時30分・・・霊仙山(標高1083m)・最高点(標高1094m)~稜線歩き
避難小屋から一旦下ると、いよいよ霊仙山の山頂を目指して登りがはじまった。ここは雪渓を登っていかないといけないのだが、アイゼンを装着していなくても壺足で十分登って行ける。若宮朱莉は周りの景色を見ながら「すごい!素晴らしい!!」と言いながら登っていた。下から見ると高いように見えたが意外と15分程で霊仙山(標高1083m)に到着した。この山頂からは琵琶湖が一望できて、北東側にはわずかに白山まで望むことができる。
若宮朱莉「涼真さん、このスマホで記念撮影をお願い」
水城涼真「ちゃあそこに立って、何枚か撮影しとくわ」
若宮朱莉「ありがとうございます」
水城涼真「続いて最高点に行こか」
若宮朱莉「最高点?山頂より高いところがあるの?」
水城涼真「うん、ただ景色は山頂のほうがええんやけどな」
そして3人は霊仙山の最高点に向かった。わずか5分もかからずに到着したが、最高点にはこれといった撮影場所はなかった。
水城涼真「ここから稜線を歩いていくけど、左側は崖になってるから気を付けて歩いてな」
そこからテーブルランドの縁ともいうべき稜線を歩いていった。右側を見ると霊仙山の谷がまるでアルプスのカールのような形容をしていた。そういう場所も撮影しながら歩いていると若宮朱莉が岩の間から咲いている黄色い花を見つけた。
若宮朱莉「こんなところにタンポポが咲いてるよ」
水城涼真「これはタンポポやなくて福寿草やな。今ちょうどその時期やねん」
若宮朱莉「そうなんだ。可愛らしい花・・・撮影しとこ」
その後、しばらく歩いていると近江展望台に到着した。
水城涼真「そろそろ1時間くらい歩いてるし、テーブルランドもこの辺で終わりやからここで10分程休憩しとこか」
若宮朱莉「もうテーブルランドが終わっちゃうのね。なんだか淋しいような・・・」
樫田裕「この山はテーブルランドから絶景まで楽しいこと盛りだくさんやったしな」
若宮朱莉「うんうん、すっごく楽しかった!!」
水城涼真「今度は冬に来ればええよ。また違う絶景が見えるから」
若宮朱莉「でも今回、霊仙山に登ってみて、わたしが似たのかもしないけど、本当に父と感性が同じなんだって確信を持つことができたよ」
水城涼真「朱莉ちゃんは本当にお父さんのことが好きやったんやなあ」
若宮朱莉「そうですね。でも、そんな父を継承している涼真さんのことも・・・」
水城涼真「まあそれは今言わんでもええがな。そろそろ出発しよか」
そこからはちょっとした急斜面でガレ場の下りになっていた。少しペースを落としながら落石に注意してくだっていたが、ここも意外と早く通過できた。そして樹林帯の中に入って下って行くともう誰も住んでいない落合の集落に到着した。この集落はまだ廃墟という感じでもなく、結構綺麗な家などが建っていた。集落からさらに下っていくと今畑登山口に出た。ここからは沢沿いの舗装道をひたすら北側へと進んでいき、汗拭峠まで歩いていくことになる。
午後14時40分・・・汗拭峠~榑ヶ畑登山口
大洞谷の沢沿いをひたすら歩いていると最後に急斜面の登りになった。トラロープが設置されているが、あまり信用できないのでバランスを保つために掴むくらいにしか利用できない。3人はそこを登り切ってなんとか汗拭峠に戻ってくることができた。この時点で汗だく、息切れ状態になっていた。
樫田裕「ここ何回登ってもキツイですわ」
若宮朱莉「わたしもここの登りはしんどかった・・・」
水城涼真「整備するにしても、もっとつづら折れにするとか考えてほしいくらいやわ」
汗拭峠で息を整えると、いよいよ最初の榑ヶ畑登山口に戻っていくことになった。そして時刻午後15時5分、やっと榑ヶ畑登山口まで戻ってくることができた。3人はさっさと荷物をトランクに積み込むと京都・大阪へ向かって車を走らせた。帰りの車の中では若宮朱莉と樫田裕はぐっすり眠っていた。
午後22時30分・・・
登山道具を片付けてシャワーを浴び終えた水城涼真はスマホを手にすると天音琴美のSNSの通話ボタンを押してコールした。さすがに土曜日だから出ないだろうと思っていると5コールくらいで通話に出た。
天音琴美「もしもし、涼真さんが通話してくるなんて珍しいですね。どうかしました?」
水城涼真「いや、妹の志帆が天音さんのところでお世話になるって聞いて一応挨拶しとこかなって思ってな」
天音琴美「こちらこそ、わざわざ大阪から来て下さるなんてとても有難いことだと思っています」
水城涼真「妹の志帆はまだ美容院の専門学校を卒業したばっかなんやけど大丈夫なん?」
天音琴美「それは心配しなくても大丈夫ですよ。來未ちゃん、えっとあたしが仲良くしているヘアメイクさんがちゃんと面倒見るって言ってますから」
水城涼真「その來未ちゃんって人は天音さんの友達?」
天音琴美「高校以来の親友で、とても優しくていい子ですよ。今は立場上、あたしのほうが偉いみたいに思われてるけど、よく一緒に飲みに行ったりしています」
水城涼真「じゃあ、妹の志帆をよろしくお願いするわ。もしいじめたりしたら、天音さんはもう山に連れて行けへんことにするから」
天音琴美「いじめたりしませんよ。山に連れて行ってもらえないなんて、あたしにとって最悪なことですし大丈夫です」
水城涼真「芸能界は大変そうやからときどき体調も気にかけてやってな。あっちゃんとの縁を切りたくなければな」
天音琴美「涼真さん、今日はいろいろ脅してきますね。あっちゃんと縁を切るなんて絶対に嫌ですし、本当に大事にしますから安心してください!」
水城涼真「あははははは、まあ天音さんになら任せれると思ってるから、本当によろしくお願いしますわ」
水城涼真も直接天音琴美にお願いしておいた。
3月29日午前10時
今日は妹の志帆が東京へ行く日で、水城涼真と若宮朱莉が新大阪駅の改札口まで見送りにきていた。一応、202号室は妹の志帆がいつでも戻ってこれるように空き部屋にはせず、タンスや鏡台などは東京で購入することになった。
水城志帆「じゃあお兄ぃ、ちゃんと掃除とかせなあかんで」
水城涼真「わかってる。天音さんに会ったらよろしく言っといて」
若宮朱莉「志帆ちゃん、がんばって修行してきてね」
水城志帆「ありがとうございます」
水城涼真「それと、俺も仕事でよー東京に行くからその時は泊めてくれよ」
水城志帆「なんでお兄ぃと一緒に寝なあかんねん。ホテル代でてるやろ?」
若宮朱莉「わたしも毎週のように東京に行くから、その時は泊めてね」
水城志帆「あかりんやったらいいですよ」
水城涼真「ほら、新幹線もうくるみたいやから急いだほうがええぞ」
水城志帆「じゃあ東京に行ってきまーす!」
そうして、水城志帆は東京へ行った。これで水城涼真は一人になったので少し淋しい気持ちになったが、これから若宮朱莉が水城涼真の部屋に訪れることが多くなった。




