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あなたと生涯を共にしたいです!小秀山より・・・

2月28日午前11時・・・


執筆活動がなく部屋でまったりとしていた水城涼真はアニソンを流しながら山の情報を調べていた。そんな時に突然スマホの着信音が鳴った。その電話に出てみるとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだった。


水城涼真「片瀬さん、お疲れ様です。今日はどうかしましたか?」

片瀬彩羽「お疲れ様です。実は至急水城さんにお願いしたいことがございましてお電話させていただきました」

水城涼真「また至急のお願いですか?」

片瀬彩羽「なんども申し訳ありません。来月発売予定の4月号なんですが、今シーズンの残雪期の登山特集の4ページに空きがでてしまいまして、早急にこの4ページの記事を執筆をお願したいのです」

水城涼真「なるほど。他に執筆される方はどこの山を選ばれているのでしょうか?」

片瀬彩羽「主に関東の奥多摩や丹沢などの山が多いのですが、関西だと金剛山が決まっています」

水城涼真「それだと長野県あたりの山を執筆する人はいないということなのですね?」

片瀬彩羽「長野県は昨年に美ヶ原と霧ヶ峰を紹介していますので、今回はそこを外していただきたいのです」

水城涼真「では、私のほうは小秀山を紹介して執筆します」

片瀬彩羽「小秀山?はじめて聞いた山ですが、長野県の山ですか?」

水城涼真「山頂からはでかでかと御嶽山が見えていて、そのすぐ近くに避難小屋があって宿泊できるんです。その避難小屋も含めて紹介すればいいのではないかと思います」

片瀬彩羽「おぉーさすがは水城さんですね。ではその山でお願いします。もちろん取材費や交通費もこちらがお支払いします」

水城涼真「それで納期はいつなんですか?」

片瀬彩羽「できれば3月13日までにお願いしたいです。もちろんそれなりの報酬もお支払いします」

水城涼真「わかりました。では取材の日程を決めて行ってきます」

片瀬彩羽「ありがとうございます!」


電話を切った後、水城涼真はカレンダーを開いて取材日をいつにするか考えていた。



午後22時10分・・・


シャワーを浴び終えて缶ビール一本飲みながらテーブルでまったりしてると部屋のチャイムが鳴った。水城涼真は「朱莉ちゃん、入って!」と少し大きな声で呼びかけると、玄関のドアが開いてジャージ姿の若宮朱莉が「おじゃまします」と言って入ってきた。


水城涼真「こんな時間に呼び出してごめんな」

若宮朱莉「いえいえ。どうしました?」

水城涼真「実は雑誌の取材で来月の3月8日金曜日と9日の土曜日、一泊二日で岐阜県の中津川にある小秀山に登りに行こうと思ってるんよ。朱莉ちゃん、8日の金曜日は仕事やんな?」

若宮朱莉「8日の金曜日はお仕事ですね。情報番組の出演だけですけど・・・」

水城涼真「うーん・・・土日にしてもええんやけど、小屋泊する人が多くなるから平日がよかったんやけどしゃーないな」

若宮朱莉「平日だと小屋には誰もいらっしゃらないのですか?」

水城涼真「そうなんよ。小屋を独占できて朱莉ちゃん2人でいろんな話もできるからな」

若宮朱莉「もしかして今回は涼真さんとわたしの2人で登るってことになるのですか?」

水城涼真「そういうことになるな。他、誰も行かれへんみたいやからな」

若宮朱莉「うーーーん・・・それなら有休を使いましょうか?情報番組は比較的お休みしやすいです」

水城涼真「芸能人に有休休暇なんてあるん?」

若宮朱莉「わたしはの雇用形態は事務所の社員になっていますので有休は使えますよ。それに金曜日は政治経済の話題が中心になっていますので、わたしの出演時間も短いのです」

水城涼真「なるほど。じゃあ、明日にでもそのことをマネージャーさんに話しといて」

若宮朱莉「わかりました。有休もたっぷり残っていますので大丈夫だと思います」


この次の日の夕方に若宮朱莉はマネージャーである井野口晃に3月8日の金曜日は有休休暇にしてほしいと言った。井野口晃は最初のうちは反対していたが、若宮朱莉が有休休暇をとるのははじめてのことであったので承諾せざるを得なかった。そして井野口晃は情報番組のプロデューサーにこの話をすると意外とあっさり「金曜日は若宮さんの出番は少ないのでお休みしていただいても構いませんよ」と言った。これで若宮朱莉は3月8日はに有休休暇をとることができた。



3月6日午後22時20分・・・


仕事から帰ってきてベッドに横たわっていた若宮朱莉は天音琴美のSNSの通話ボタンを押してコールした。するとすぐに天音琴美が通話に出た。


若宮朱莉「天音さん、こんな時間にごめんなさい」

天音琴美「別にいいよ。朱莉ちゃん、どうしたの?」


若宮朱莉は明後日8日から9日までの一泊二日で水城涼真と2人で山に行くことを説明した。もちろん8日は平日で宿泊予定の小屋には誰もいない可能性があって2人きりになってしまうことも話した。


天音琴美「一泊二日で登山か・・・いいなあ」

若宮朱莉「それはわたしも楽しみなんですが、小屋で2人きりになったら意識しちゃいそうです。杓子山で天音さんがわたしの結婚したい人は涼真さんだって言ってくださってから、ずっとそのことが気になっていました」

天音琴美「もう自分の気持ちをハッキリ伝えたほうがいいんじゃないかな?結婚は言い過ぎだからずっと一緒に居たい人ですみたいな」

若宮朱莉「うーん・・・なんだか恥ずかしいです」

天音琴美「恥ずかしい気持ちはわかると、ハッキリ言ってしまったらスッキリすると思うからがんばって!」

若宮朱莉「涼真さんがどう答えるかも怖いです。はぁ?とか言われてしまったら気まずくなります」

天音琴美「涼真さんはあーみえて朱莉ちゃんのことをとても可愛がってるように見えるから、ちゃんと受け入れてくれると思うよ」

若宮朱莉「そうでしょうか?」

天音琴美「うん。大丈夫だと思う。言い方だけは朱莉ちゃんがもう少し考えてみないといけないけどね」

若宮朱莉「わかりました。もう少し考えてみます。今日はありがとうございました!」

天音琴美「あたし、朱莉ちゃんのこと応援してるからがんばってね!」


この夜、若宮朱莉は水城涼真にどういう言葉で自分の気持ちを伝えようか考えていてあまり眠れなかった。



3月8日午前5時


水城涼真と若宮朱莉はアパートの入口で合流すると「おはようございます」と挨拶をして、そのまま駐車場のほうへ歩いて行った。トランクにザックなどの荷物を詰めると車を走らせた。名神高速・吹田インターチェンジから京都方面へ向かっていき、そのまま北陸自動車道のジャンクションを過ぎると名古屋方面へと車を走らせた。外は快晴でどんっとそびえ立つ伊吹山の山容も見ることができた。


水城涼真「伊吹山、雪少ないなあ。大丈夫かな?」

若宮朱莉「あれが伊吹山ですか・・・台形みたいな形をした山ですね」


そこから東名高速道路に入って車を走らせていると小牧ジャンクションから中央自動車道へ入っていった。それから40分程車を走らせたところにある恵那峡サービスエリアに立ち寄った。時刻は既に午前8時30分を過ぎていた。


水城涼真「あーーー疲れた。ここで朝食でもとってまったり休憩しよか」

若宮朱莉「涼真さん、運転お疲れ様です!」


2人は車から降りると、フードコートのフロアへと入っていった。そして若宮朱莉は「もうお腹ペコペコだったんですよね」と言いながらラーメン店のメニューをみていた。水城涼真もあっさりしたラーメンが食べたくなっていたので一緒にラーメンのメニューを見ていた。そして若宮朱莉は味噌ラーメンに唐揚げとライスのセットを券売機で購入して、水城涼真は富山ブラックを単品を券売機で購入した。


水城涼真「朱莉ちゃん、朝からよーそんなに食えるなあ」

若宮朱莉「これでも少ないくらいですよ!エネルギー補給をしっかりしておかないと・・・」

水城涼真「たしかに行動食と水だけやからな。それでも夜は鍋焼きうどんやから楽しみにしといて!」

若宮朱莉「はい。楽しみにしています!」


ラーメンを食べ終えた二人はブラブラとサービスエリア内を歩いたり、水城涼真はコンビニで缶コーヒーを購入して椅子に座ってまたりしてた。10分程して寒くなってきたので二人は車の中へと戻っていって車を走らせた。恵那峡サービスエリアからしばらくすると、中津川インターチェンジを出て国道19号線を北上した。



午前10時10分・・・女渓谷キャンプ場


大阪から車で約4時間30分でアプローチとなっている女渓谷キャンプ場に到着した。駐車している車は一台もなく完全に2人だけの登山になってしまうことは明白であった。2人は車から降りてさっさと登山準備をはじめた。天気は快晴で気温も結構温かいので最高の登山日和である。水城涼真は70リットルのザック背負いながら2人は小秀山二の谷登山口のほうから入山した。まずは木の橋を渡るとその先から沢沿いに沿って木道で整備された道が続き階段を登っていった。木道にも5cm程の積雪はあったが、アイゼンを装着するほどでもなかった。ねじれ滝と和合の滝を経てどんどん木道を歩いていったが、そこからが少し長かった。


水城涼真「朱莉ちゃん、休憩入れないけど大丈夫?」

若宮朱莉「ずっと木道の道で歩きやすいので大丈夫ですよ」

水城涼真「もうこの沢筋の道飽きてきたわ。夫婦滝まで歩いたら休憩するつもりやから、もうちょいがんばってな」

若宮朱莉「はい!」


そんな話をしていて40分程経ったところで木の橋があってその向こう側に避難小屋が見えた。



午前11時40分・・・夫婦滝


木の橋を渡ったところに避難小屋があり、そこには「この先、急斜面が続き、岩登りがある中、上級者コースとなっています。軽装な人や体力に自信がない人は引き返しましょう」といった注意喚起が書かれた看板が貼られていた。ここで木道の道は終わって本格的な登山になるということである。しかし、水城涼真や今の若宮朱莉にとってそれは初級レベルのコースといった感じだろう。そして避難小屋にザックを置くとすぐ隣の夫婦岩を見に行った。夫婦滝はまだ少し氷瀑が残っているが水が流れていた。


若宮朱莉「この夫婦滝も厳冬期なら氷瀑になっているんでしょうね」

水城涼真「せやな。そろそろ雪解けの時期やし暖かくなってきたからな」

若宮朱莉「あの、涼真さん・・・あっいえ、何でもないです」

水城涼真「なんかあかりちゃん、今日は車の中でもあんましゃべらんかったけど考え事でもしてるん?」

若宮朱莉「正直に言いますと考え事をしていましたが、今は登山に集中していますので大丈夫です」

水城涼真「それならええけど、悩み事があるんやったら話聞くから話してな!」

若宮朱莉「ありがとうございます」


20分程休憩すると2人は先を進みだした。ここからはまず樹林帯の中の急斜面を登って行くことになった。トレースもなく気に巻きつけられたテープ頼りにルーファイしながら登っていく。少し息を切らしながらも夫婦岩の上部にある孫滝まで登ってくることが出来た。その先で鎧岩という巨岩があり、この付近から沢筋から尾根の登りになった。そこから第一展望台、第二展望台という道標が立っていたが今は樹林帯に覆われていていずれも展望はない。距離的にはこの辺りがちょうど中間地点になっていた。そして、そこから少し進んだところで今回のコースで一番難関といわれるカモシカ渡りの下に到着した。このカモシカ渡りは木の根っこの登りから上部は岩登りとなる。


水城涼真「ここは訓練も兼ねて朱莉ちゃんが最初に登って行けばええよ」

若宮朱莉「わたしがトップですね。がんばって登ります!」

水城涼真「クライミングの時の3点支持を意識するんと、登りきるまで油断せんようにな」

若宮朱莉「わかりました。じゃあ行きます!」


若宮朱莉は3点支持を意識しながらスルスルと登って行った。途中で「うわー、一気に眺望が良くなりました」と大きな声でいいながらも岩の上まで登り詰めた。続いて水城涼真がスルスルと登って行った。樹林帯を抜けたところで若宮朱莉が言ったように眺望が一気に開けた。最後まで登り詰めて若宮朱莉と合流すると「意外と簡単やったな」と呟いた。そして、その先を進んでいくと今回はじめての登山道分岐点に到着した。



午後14時40分・・・兜岩


登山道分岐から岩場コースで兜岩へ登っていったが、これが予想以上の急斜面になっており2人は息を切らしながら登っていた。水城涼真が「ここはペースダウンして登って行くのがええわ」と言ってワンテンポペースを落とした。青空の下で素晴らしい眺望が広がっていたが、もう霧氷はなかった。そんな中、じりじりと陽の光が差し込み汗がだらだらと流れてくる。スローペースで登っていて時間は少しかかったものの兜岩まで登ってくることができた。


水城涼真「ここでちょっと休憩しよか。とにかく暑いわ!」

若宮朱莉「はぁはぁはぁ、そうですね。でもここでは脱がないでおきます」

水城涼真「ここからはあと高原地帯を通って最後に小秀山のピークに登るだけやから、あと1時間ちょっとやわ」

若宮朱莉「いま見えてる山って何かわかります?」

水城涼真「いや、俺この辺の山には詳しくないからわからんけど、地元では有名な山なんやろうな」

若宮朱莉「それにしてもとてもいい景色ですね!」


2人は20分程休憩して息を整えたところで出発した。ここからはこまめなアップダウンがあるものの、なだらかな道が続く高原地帯になっている。どんどんと進んでいくと第一高原、第二高原と過ぎて行き、最後には第三草原を通り過ぎた。そして向かい側に樹林帯が見えてくると、その上には立派な山小屋が見えた。



午後16時10分・・・小秀山(標高1982m)


高原地帯を抜けて樹林帯に入るとちょっとした登りになった。それを登りきったところで今夜宿泊する山小屋である秀峰舎に到着した。水城涼真は先にその秀峰舎のドアを開けた。中は綺麗に整理されており、木製の床に棚が置かれていて、そこには毛布や銀マットなどが置かれていた。奥の広い部屋には大きなテーブルが置かれていた。この山小屋は無人でもちろん平日ということもあって人は誰もいない。2人この小屋の中にザックを置いて小秀山の山頂へ向かった。秀峰舎からすぐだったが小秀山(標高1982m)の山頂に到着した。


若宮朱莉「ここが山頂なんですね。向かい側に見えてる大きな山は何ですか?」

水城涼真「あれは木曾御嶽山で3000m級の山やな」

若宮朱莉「たしか数年前に噴火した山ですよね?」

水城涼真「そうそう。あそこはバックカントリーするのに最高の山やったんやけどな。今は規制があって山頂まで行かれへんのよ」

若宮朱莉「ここってまるで木曾御嶽山を見るための山って感じがしますね」

水城涼真「せやな。でもここまで迫力ある御嶽山を見れる場所も珍しいんよ」

若宮朱莉「あっ!このスマホで記念撮影をお願いしてもいいですか?」

水城涼真「ええよ。ちょうど御嶽山が入るようにちょい左に寄って!」


水城涼真が若宮朱莉の記念写真を撮影すると2人はさっさと小屋に戻っていった。



午後17時・・・秀峰舎で宴会そして若宮朱莉の告白


水城涼真は鍋焼きうどんを作る用意をしながら、テーブルの上に少し大きめのガスランタンを置いた。そして水城涼真と若宮朱莉はそれぞれザックの中から500mlのビール6本、合わせて12本を出して宴会の準備は整った。15分程で鍋焼きうどんはぐつぐつと煮えてきて鍋の蓋を開けると水城涼真は「さあ食べよ」と言った。2人はビールを持ちながら「乾杯!」といってビールを一口飲むと鍋焼きうどんを食べはじめた。若宮朱莉の食べるペースが早くうどんがあっという間になくなったので、水城涼真はうどんをさらに2玉鍋に投入した。


水城涼真「朱莉ちゃん、うどん食べるペース早いわ!」

若宮朱莉「だってとても美味しいから食が止まりません」

水城涼真「それにしても今日はあんまりしゃべらんなあ。なんか深刻な事でも考えてるん?」

若宮朱莉「いえ、深刻なことではありませんので心配しないでください」


しかし、水城涼真が見ていると若宮朱莉のビールを飲むペースもいつもと比べると早いように思えた。しばらくすると鍋に入ったうどんは完全になくなってしまった。最後に2パックのご飯と生卵を入れて雑炊を作った。雑炊に関しては2人とも食べるペースが落ちたので、弱火にして酒のつまみとしてつついていく感じになった。気づくと若宮朱莉は既にビール3本を飲み干していたが、まだ酔っている感じでもなく何かを考え込んでいるようであった。


水城涼真「なあ、しつこいようやけど、朱莉ちゃんどないしたんよ?」

若宮朱莉「ごめんなさい・・・でも、もう今しかないと思いますので打ち明けます!」

水城涼真「もしかして俺のことで悩んでたん?」

若宮朱莉「そうです。わたし、一ヵ月くらい涼真さんに対する自分の気持ちを考えていました。好きって気持ちはありますが、それは恋愛感情ではないってことに気づきました」

水城涼真「なるほど・・・正直、朱莉ちゃんと登山するようになって恋愛感情を持たれると困るなって思ってたんやけどな」

若宮朱莉「でも、恋愛感情以上の気持ちを持っていることに気づきました。わたしにとって涼真さんは絶対に失いたくない人、離れたくない人、無くてはならない大切な人です」

水城涼真「そっか・・・えっと、俺どう答えたらええんかわからんのやけど・・・」

若宮朱莉「だから涼真さん、わたしは・・・あなたと生涯を共にしたいです!」

水城涼真「生涯を共にするって、なんかそれってプロポーズしてるように聞こえるで」

若宮朱莉「してるように、ではなくてしています。涼真さん、わたしと結婚を前提にお付き合いしませんか?」

水城涼真「結婚か・・・いままで考えたこともなかったからなあ。どないしてええんかわからんわ」

若宮朱莉「もちろんお付き合いしたとしてもこれまでの関係性を変えるつもりはありませんし、今すぐ結婚したいわけでもありません。ただ、将来のパートナーとしてわたしのことを見て欲しいのです」

水城涼真「うーん・・・でも、俺は子供なんてつくらんと思うし、これからも勝手気ままに生きていくと思うで?」

若宮朱莉「涼真さんがそういう生き方をするなら、わたしはそれに付いていきます。子供が欲しいわけでもありません」

水城涼真「朱莉ちゃん強いわ。そう言われると何も答えられへんやん」

若宮朱莉「正直、今もお付き合いしてるのと何にも変わらないじゃないですか。ただ、わたしとの将来を考えてほしいのです」

水城涼真「朱莉ちゃんとの将来か・・・なんかイメージできんなあ」

若宮朱莉「涼真さんはわたしのことをどう思っているのですか?」

水城涼真「せやなあ、なんかほっとけないというか・・・最近はめっちゃ可愛がってるなって思うことはあるけど、よーわからんわ」

若宮朱莉「わたし、一緒に山に行くようになってから涼真さんからの愛情をたくさん感じています。だから涼真さんにとってもあたしの存在は大切なものになっているのではないでしょうか」

水城涼真「言われてみたらそうかもしれんわ」

若宮朱莉「だから、わたしと結婚を前提でお付き合いしてください!」

水城涼真「うーん、、、わかった。結婚前提で付き合ってもええよ・・・ただ、俺は恋愛カップルのようなことはせーへんよ?」

若宮朱莉「やったぁ!ありがとうございます!!もちろん恋愛カップルのようなことはわたしもしたくありません。ただ、一つだけお願いがありまして、ときどきは涼真さんの胸で甘えさせてください」


こうして水城涼真と若宮朱莉は結婚前提でお付き合いをするという関係になった。若宮朱莉にとって水城涼真は父親のような存在であり、逆に水城涼真にとって若宮朱莉というのは可愛らしい娘のような存在であるのかもしれない。どちらにしてもお互いに大切な存在として想い合っていることは間違いなさそうだ。その後、ビールは切れて銀マットの上にシュラフを敷いて2人は眠ってしまった。



3月9日午前5時30分・・・秀峰舎~下山


先に目覚めたのは水城涼真のほうで、すぐに小屋の中の片づけをしていると若宮朱莉が「おはようございます」と言って起きてきた。そして2人はさっさと小屋の中のゴミなどを回収しながら銀マットなどを元の場所に戻すと、水城涼真はお湯を沸かしはじめてコーヒーの準備をした。片付けが終わったところで、テーブルの前に座って2人はコーヒーを飲みはじめた。


若宮朱莉「涼真さん、あの、昨日の話なんですが、天音さんと樫田君にはお付き合いしたことを話してもいいですか?」

水城涼真「天音さんはわかるけど、なんで樫田君まで?」

若宮朱莉「そのお二人はわたしの悩みを真剣に聞いてくださいましたので・・・」

水城涼真「そうやったんや。それやったら樫田君とあっちゃんには俺から伝えとくから、天音さんには朱莉ちゃんが伝えておいて」

若宮朱莉「あっちゃんにも伝えておかないとけなかったですね。天音さんにはわたしほうから伝えておきますので、あとの二人はお願いします」

水城涼真「妹の志帆には内緒にしといてな。あいつミーハーですぐ騒ぎ出すから」

若宮朱莉「あははは、わかりました」


コーヒーを飲み終えると二人は小屋を出て下山を開始した。今にも天気が崩れそうだったのでさっさと歩き出した。下山は第三高原から兜岩を経て分岐点まで戻り、そこから三の谷登山口のほうへ下って行くルートであった。つづら折れの道をひたすら下って行くと途中に休憩適地があり「もう1時間半近く歩いてるからここで10分程休憩しよ」と水城涼真は言った。しかし、停まっているとだんだん寒くなってきたので、休憩時間を終える前に下山をはじめた。そこから40分程くだっていくと山の神(山の中の神社)まで下ってくることができた。ここから三の谷登山口を出ると登山道は終わって林道歩きになる。


水城涼真「ここからの林道がまた長いんよ」

若宮朱莉「どのくらい長いんですか?」

水城涼真「3km程やけど時間的には双門ルートの林道くらいかな」

若宮朱莉「うわーそれは思い出したくなかった・・・」


長いと覚悟しながらも2人は林道を歩きはじめた。雪解けしていることもあって結構スムーズに進んでいけるば、場所によっては非常に滑りやすいところもあったので注意しながら歩いていった。林道を歩いて30分程が経過すると緑色の柵をしたゲートがあった。そのゲートをこえた先でようやく乙女渓谷キャンプ場が見えた。時刻が午前9時30分を過ぎた頃に乙女渓谷キャンプ場に到着したが、土曜日ということもあって数名の登山者がいた。2人はさっさと駐車場のほうへ行ってアイゼンを外したりレインジャケットを脱ぐと、それらをトランクに荷物を詰め込んで車の中に入った。


水城涼真「帰りに温泉寄って帰ろか」

若宮朱莉「登山の後の温泉いいですね!」

水城涼真「あとまだ腹減ってない?」

若宮朱莉「まだ大丈夫です。昨日、鍋焼きうどんをたくさん食べましたから」


それから車を15分程走らせて国道257号線沿いにある日帰り温泉に立ち寄った。まだ営業時間がはじまったばかりだったので、温泉にも人がおらず一人風呂の状態になった。温泉で体を温めたところで車を走らせて中津川インターチェンジから中央自動車道を名古屋方面に向かって走らせた。


水城涼真「朱莉ちゃん、結婚を前提にお付き合いするんやから、それそろ俺に対する敬語もやめていかなあかんな」

若宮朱莉「涼真さんは尊敬する人でもありますから難しいとは思いますが、徐々に慣らしていきます」

水城涼真「それにこれが世間にバレたらえらいことになるから注意せなあかんな」

若宮朱莉「そうですね。でも、今まで通りの関係を続けていくだけなんで、バレることはないと思います」

水城涼真「ちなみに俺は結婚式とかするのはごめんやからな。あーゆーイベントも大嫌いやねん」

若宮朱莉「あはは、涼真さんらしいですね。実はわたしも苦手だったりします」

水城涼真「標高3000m級の山の頂上で、登山仲間だけ呼んで結婚式するんやったらええけどな」

若宮朱莉「そんな結婚式場ありませんよ」

水城涼真「立山の頂上やとそれができるんやな。雄山神社の神主呼んで結婚式してる人おるんよ」

若宮朱莉「まるで天空の結婚式じゃないですか!しかも登山仲間だけ呼べるなんて・・・じゃあ立山で結婚式しましょう!!」

水城涼真「まあまだ先の話やけどな。とにかく朱莉ちゃんはまだ俺に対して堅苦しいところあるから、敬語からやめていって!」

若宮朱莉「はい、がんばってみます!」


高速道路を走らせて1時間半程経つと、時刻は午後13時を過ぎていた。さすがの水城涼真もお腹が空いてきたので名神高速道路・多賀サービスエリア下りに入って車を停めた。


水城涼真「朱莉ちゃん、そろそろ腹減ったやろ。ここで昼食にしよか」

若宮朱莉「うん。実はもうお腹ペコペコだったの」


2人は車から降りてフードコートに入って何を食べるか決めていたが、若宮朱莉が外にある中華料理のお店がいいとのことでそこに入った。メニューを見て店員さんを呼ぶと若宮朱莉は「炒飯セットに餃子ニ人前をお願いします」と言って、水城涼真は「炒飯セットをお願いします」と言って注文した。


水城涼真「朱莉ちゃん、食いすぎやろ!餃子三人前やで?」

若宮朱莉「いや、涼真さんももう少し餃子を食べるんじゃないかと思って」

水城涼真「まあ、俺も少しもらうけど、そんだけ食べて太らへんのがすごいわ」

若宮朱莉「運動した後だし、普段はあまり食べてないから大丈夫」


それから20分程して料理が運ばれてきた。若宮朱莉はよほどお腹が空いてたのか、がっつりと食べはじめた。水城涼真はセットの餃子を先に食べ終えると、若宮朱莉が単品で注文した餃子二人前をつまみだした。水城涼真は食べている間に満腹になってしまって単品の餃子が7個ほど残ってしまったが、若宮朱莉はそれも含めて全てたいらげてしまった。


水城涼真「朱莉ちゃんってどないな胃袋しとるんや。よー全部食べたなあ」

若宮朱莉「こういう時にガッツリ食べておかないと、体重維持してるといっても体が持たないから」


食後に少し話をした2人は店を出て車に乗ると帰宅していった。



午後22時30分・・・


登山の後片付けを終えた若宮朱莉はスマホを手にすると、天音琴美のSNSの通話ボタンを押してコールした。するとすぐに天音琴美が通話に出た。


若宮朱莉「天音さん、こんばんは。こんな遅くにごめんなさい。どうしてもお伝えしておきたいことがありまして・・・」

天音琴美「いいよいいよ。その様子だと涼真さんと何かあったのね?」


若宮朱莉は昨夜のこと、そして水城涼真と結婚を前提でお付き合いすることになったことを詳しく説明した。


天音琴美「やったぁーやったじゃん、朱莉ちゃん!あの気難しそうな涼真さんをよく説得できたね」

若宮朱莉「説得というより、わたしの気持ちを素直に伝えただけです」

天音琴美「涼真さん、最初は困っていたんじゃない?」

若宮朱莉「最初は困惑していましたね。でも、二人がお互いに大切な人だって想い合っているんですから結婚を前提にお付き合いしてくださいってお願いしました」

天音琴美「おめでとう!!本当によかったね。あたし、これからも朱莉ちゃんのこと応援するからね!」

若宮朱莉「ありがとうございます。こうして素直な気持ちを打ち明けることができたのは天音さんのおかげでもあります」

天音琴美「でも、みんなにバレないように注意してね」

若宮朱莉「今までと変わらない関係で続けていきますから大丈夫だと思います」

天音琴美「まあそれが一番いいかもね」


それから若宮朱莉と天音琴美は1時間程通話をしていた。


今回、若宮朱莉がこれからの人生の中で水城涼真を絶対に失いたくない存在だと強くアピールしたことで、水城涼真はいつの間にか若宮朱莉に対する愛情が芽生えていたということに気づかされたのだ。その二人の感情が重なり合ったことで結婚を前提としたお付き合いが成立したのだ。

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