クリスマスデートは武甲山で天の川夜景
12月15日午後11時20分・・・
年末で執筆活動も忙しくなっていた水城涼真は、アウトドアウォーカーの編集部との打ち合わせの日程をいつにするか考えていた。いつもは電話やメールなどリモートで仕事のやり取りをしているのだが、年に一度だけ東京へ出向いて顔合わせも含めて雑誌社や編集部と打ち合わせをしなければならない。もちろん交通費や宿泊費などは雑誌社が支払うことになっているが、毎年日程だけがなかなか決まらない。そんなことを考えていると、スマホの着信音が鳴って、電話に出るとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだった。
片瀬彩羽「水城さん、こんにちは。お世話になります片瀬です」
水城涼真「片瀬さん、こんにちは。こちらこそお世話になっております」
片瀬彩羽「先日お預かりした時計の件でお電話させていただきましたが、今は大丈夫でしょうか?」
水城涼真「はい、大丈夫です」
片瀬彩羽「実は同じ時計の液晶が壊れているジャンク品を見つけたのですが、そのジャンク品の電子回路は全く壊れていませんでしたので、知り合いに頼んで電子回路の交換をしていただいて、お預かりしていた時計が正常に動きました」
水城涼真「それはありがとうございます!!それで修理にかかった費用はどのくらいですか?」
片瀬彩羽「ジャンク品の時計の購入費用が4000円で電子回路の交換に8000円かかりましたので12000円です。それとK.Hのイニシャルの横にR.Mのイニシャルも入れておきました」
水城涼真「そこまでしてくださったんですね。本当にありがとうございます!」
片瀬彩羽「それでこの時計をそちらに送りましょうか?」
水城涼真「送ってもらっても構わないんですが、どのみち近いうちにそちらの雑誌社へお伺いしないといけませんよね?その時に時計を受け取って修理費をお支払いするのはいかがでしょう?まだ日程は決まっていませんが・・・」
片瀬彩羽「そうですね。来週23日の土曜日なんですが、この日は私も含めて社員のほとんどが出勤日となっておりますのでいかがでしょうか?」
水城涼真「23日の土曜日は私も空いています。では、その日にそちらへ伺わせていただきますね」
片瀬彩羽「了解しました。では来週23日の土曜日、清水とともにお待ちしております。
水城涼真「どうして清水さんがここで出てくるんですか?」
片瀬彩羽「清水がまた水城さんに会いたいと言っていましたので・・・ふふふ」
水城涼真「また飲みに拉致られるだけだと思いますが、よろしくお願いします」
若宮朱莉の母親である本条真由美から預かった時計が無事に修理できたのだが、それを若宮朱莉に渡すタイミングをいつにするかが問題であった。
12月19日午前9時50分・・・
この日、少し寝坊した水城涼真はコーヒーを飲みながら執筆活動に励んでいた。そこでチャイムが鳴ったので水城涼真は「朱莉ちゃん、入って!」と大きな声で言った。実は昨日の夜、SNSのチャットで10時前に部屋へ来てほしいと若宮朱莉に伝えていたのだ。玄関のドアが開くと若宮朱莉が「お邪魔します」と言って部屋に入ってきた。
水城涼真「わざわざ部屋まで来てもらってごめんね」
若宮朱莉「いえいえ。それでどうかしましたか?」
水城涼真「朱莉ちゃん、来週24日の日曜日は仕事入ってる?さすがにクリスマスイブやから入ってるとは思うけどな」
若宮朱莉「えっと、わたし22日の最終の新幹線で東京に移動するのですが、23日から24日の午前中まで仕事が入っています」
水城涼真「それやと24日の午後は空いてるってことなん?」
若宮朱莉「空いてはいますが、25日の13時までには大阪に戻らないといけません」
水城涼真「忙しいんやな。でも、25日の朝、新幹線に乗れば間に合うわけやな?」
若宮朱莉「そういうことになりますが、24日の午後には大阪に戻る予定にしています」
水城涼真「じゃあ、24日の午後は俺に付き合ってもらえない?」
若宮朱莉「どういうことでしょうか?」
水城涼真「俺も23日は東京の出版社まで行って打ち合わせせなあかんのよ。ちょうど朱莉ちゃんも東京に行くわけやから、それやったらちょっと連れて行きたいところがあるねん」
若宮朱莉「クリスマスイブにですか・・・もしかしてクリスマスデートだったり!?」
水城涼真「まあクリスマスデートになるんかもな。ただ、まともなデートやないけど、俺が関東で一番好きな夜景を見せたいんよ」
若宮朱莉「涼真さんが関東で一番好きな夜景・・・それは是非見てみたいです!わかりました、クリスマスデートしましょう!!」
水城涼真「あと、サプライズもあるから楽しみにしといて!」
若宮朱莉「サプライズですか!?でも楽しみにしておきます。24日の午後12時前にはお仕事が終わりますが、どこで待ち合わせします?」
水城涼真「じゃあ24日の13時に東京駅八重洲口のグラントウキョウサウスタワーの入口付近でどう?」
若宮朱莉「サウスタワー前ですね。了解しました!」
水城涼真「当然やけど、登山道具とアイゼンは持ってきといてな」
若宮朱莉「わかりました」
これで水城涼真と若宮朱莉の変なクリスマスデートが決定した。
12月23日午後13時30分・・・
水城涼真はカジュアルスーツと登山服および登山装備を持って上京していた。登山装備に関しては駅のコインロッカーに預けておいた。雑誌社は京葉線の八丁堀駅が最寄りになっているのだが、面倒なので水城涼真はいつも東京駅から雑誌社まで歩いて行っていた。ガラス張りの大きなビルの中に入って一階の受付フロアから片瀬彩羽を呼び出した。しばらくするとエレベーターから白いシャツの上に黒のスーツを着こんで、黒いスカート、黒髪のロングヘアで身長は160cm程、ほっそりした目に鼻筋が通っていて引き締まった顔立ちをした片瀬彩羽がやってきた。見るからにキャリアウーマンという感じではあるが、普段はカジュアル系の服を着ているという。
片瀬彩羽「水城さん、お待たせしました。こちらへどうぞ」
水城涼真「では失礼します」
エレベーターに乗って13階のフロアで降りると編集部のフロアの隣にある会議室へ案内された。そして、雑誌社の中で地位の高い人達が顔合わせとして挨拶に来た後、片瀬彩羽がお茶を持ってきた。そこでこれまでの執筆や雑誌の掲載に関する反省会と今後の方針について話し合いが行われた。今後の方針といっても、雪山登山やバックカントリースキーの話がメインとなっていたのだが、片瀬彩羽の水城涼真に執筆活動を続けてほしいという気持ちが話の節々から感じさせられるような内容であった。そんな打ち合わせが2時間程続いていって今回の打ち合わせは終わりとなった。
水城涼真「ところで前々からお聞きしようと思っていたのですが、片瀬彩羽さんは登山とかされないんですか?」
片瀬彩羽「私はどちらかといえばオートキャンプやキャニオニングのほうをしています。登山はたまにするくらいですね」
水城涼真「なるほど、まあアウトドアにもいろいろありますからね」
片瀬彩羽「そうだ、例の時計をお返ししておきますね。この通り、ちゃんと動くようになっています」
水城涼真「本当にありがとうございました。ではこちらが修理代の12000円となります」
片瀬彩羽「たしかにお受け取りしました。ところで、ジャンク品を購入したときに、この箱と説明書が綺麗な状態で残っておりましたので、よろしければお使いください」
水城涼真「こんな綺麗な状態で箱まで残っていたんですね。遠慮なく使わせていただきます」
片瀬彩羽「ちなみにこの時計は誰かにプレゼントするものですか?」
水城涼真「そうですね。もともとは私ではなく別の人が娘にプレゼントしようとしていたものでした。それを今回は私からプレゼントすることになったわけなんです」
片瀬彩羽「それならその時計と箱を少しお借りて・・・少々お待ちください」
片瀬彩羽は時計と箱を持って会議室を出て行った。それから10分程経って戻ってくると時計は箱の中に入れられて赤い包装紙に包まれていた。
片瀬彩羽「こちら、プレゼントらしく包装しておきましたので、これをお渡しになればよいかと思います」
水城涼真「片瀬さん、今回は何から何までありがとうございます。本当に助かります!!」
時計を受け取ってそろそろビルから出て行こうと思っていた矢先に、通路からバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。そして、会議室のドアが開くとそこにはオレンジ色のダウンジャケットに白いパーカー、ベージュのズボンを履いた清水紗理奈が入ってきた。
清水紗理奈「やっほぃー水城さんっ!イブネ以来だね」
水城涼真「せっかく清水さんとは会わずにこっそり帰ろうと思っていたのにバレてしまいましたか」
清水紗理奈「なにをー!本当は会いたかったくせにぃー男らしくないじょ!」
水城涼真「いや、今日は片瀬さんとの打ち合わせだけでしたからね」
清水紗理奈「片瀬、水城さんと何の密会してたんだ?」
片瀬彩羽「密会じゃなくて仕事の打ち合わせよ」
清水紗理奈「それならいいけど、水城さんはこの清水紗理奈にメロメロだから忘れるでないじょ!」
片瀬彩羽「水城さん、もう清水をもらってあげてください」
水城涼真「そんな無茶言わんでくださいよ!」
片瀬彩羽「あはは、でも清水は可愛らしくて本当に性格のいい子ですよ」
清水紗理奈「そうなんだじょ。今なら50%オフなのだ!」
水城涼真「片瀬さん50%オフって意味わかりませんので通訳お願いします」
片瀬彩羽「私にもわかりませんが、お買い得ってことだと思います」
そこでフロアーから「清水さーん」という大きな声が聞こえてきた。清水紗理奈は「今日はこのくらいで勘弁しておいてやるじぇ。片瀬、明日のイブは飲みに付き合えよ」と言って会議室から走って出ていった。
水城涼真「清水さん、面白いんですが、話してると疲れてきます」
片瀬彩羽「私はもう慣れましたけどね」
水城涼真「それではこれで失礼します。お疲れ様でした」
そう言って水城涼真は雑誌社のビルを出ていった。
12月24日午後13時・・・
今日の天気は晴れ時々曇りといった感じだが、大気はとても綺麗な状態なので夜景日和といえる。東京駅八重洲口の近くにあるレンタカーショップでコンパクトカーをレンタルした水城涼真は、グラントウキョウサウスタワーの前に車を停車して待っていた。そこにニット帽をかぶって黒いマフラーを口元まで巻きつけていて、サングラスをかけて赤いソフトシェルジャケットに黒いトレッキングパンツ姿で茶色いザックを背負った女の子がやってきた。水城涼真は車から降りて「朱莉ちゃん」と呼びかけると「お待たせしました」と言って若宮朱莉は助手席に乗った。そして車を走らせて一ツ橋料金所から首都高速5号池袋線に入ると、若宮朱莉はサングラスを外してニット帽とマフラーを脱いだ。
水城涼真「そこまで変装せんとあかんの?」
若宮朱莉「さすがにあそこまで人が多いと伊達メガネだけではバレちゃいますから!大阪でも梅田や難波を歩く時はバレないように変装しています」
水城涼真「そういうところまで芸能人って大変なんやなあ」
若宮朱莉「もう慣れっこですけどね。それより、今日はどこの夜景を見せてくれるのですか?」
水城涼真「埼玉県秩父市の武甲山なんやけど、どんな夜景かは楽しみにしといて!」
若宮朱莉「まさか涼真さんと関東でデートすることになるとは思いませんでした」
水城涼真「まあデートっちゅーか、ただのナイトハイクなんやけどな」
若宮朱莉「それでも涼真さんが関東で一番好きな夜景が見れるので楽しみです!」
そのまま東京外環状線から関越自動車道に入って新潟方面へと車を走らせた。そして花園インターチェンジから国道140号線のバイパスに入って南西へと進んでいった。美の山トンネルを抜けて秩父市内へと入っていくと国道299号線に入ってすぐ右へ曲がって山のほうへ進んでいくと、道路沿いのあちこちに採掘場があった。
午後15時40分・・・一の鳥居・駐車場
東京から約2時間半で武甲山の登山口である一の鳥居の駐車場に到着した。ところどころに少し凍結しているところがあったので、できるだけ日陰を避けた場所に駐車した。ちなみにこれから登る武甲山は標高1304mの埼玉県秩父市と横瀬町にまたがる秩父市のシンボルとされている山であり、日本に百名山および花の百名山に選定されている。北面は石灰岩の採掘で大きく削られているため、独特のピラミッド型の山容をしている。また山名は日本武尊が東征の際に甲冑を奉納したという伝説に基づいて武甲山と呼ばれているともいわれている。
車から降りた2人は登山準備を終えると、さっさと出発して奥へと歩いていった。そして養魚場を通り過ぎると舗装された林道の道がひたすら伸びていた。ここではところどころ凍結している場所があったため、水城涼真は「できるだけ凍結してるところは通らんように注意して登っていってな」とアドバイスした。
少し長い林道の舗装道が終わって入山となった。辺りは薄暗くなってきたが、目を慣らすためにヘッドライトはまだ付けない。しばらくなだらかな植林地帯のなだらかな道が続くとこのコースの見所である不動の滝が見えたが、もう暗いのでさっさと通過した。さらに整備された植林地帯の登山道を登っていくと、つづら折れのような道になった。
午後16時50分・・・大杉の広場(標高約1000m)
登山道を登り詰めたところでベンチが設置されている広いスペースの大杉の広場に到着した。水城涼真は「ここで20分程休憩しよか」と言うと若宮朱莉は「はい」といってベンチに座ってペットボトルの水を飲みはじめた。この時点で辺りはすっかり真っ暗になっていたので、ついにヘッドライトの明かりをつけた。
若宮朱莉「涼真さん、もうすっかり真っ暗になっていますが夜景なんて見えるんですか?」
水城涼真「夜景と反対側から登ってるから、山頂まで登らんと見えへんのよ」
若宮朱莉「なるほど。さっきから丁石の石柱がありますが、何丁目で山頂なんですか?」
水城涼真「52丁目で山頂直下の御嶽神社やな」
若宮朱莉「さっき32丁目でしたからあと20丁ですね」
水城涼真「そうやな。ここからはガレ場のちょっとした急登やから足元気を付けて登ってな」
若宮朱莉「わかりました」
そうして休憩時間を終えるとヘッドライトをつけながら登り始めた。足元は歩きにくいガレ場になっており少しペースが乱されそうになる。大杉の広場から30分程登っていると48丁目の石柱が立っており、前方を見ると稜線が見えてきた。そこからさらに10分程登ると樹林帯を抜けて尾根と合流、分岐地点に出た。分岐から武甲山の山頂ほうへ少し歩いたところに、山頂直下にある無人の日本武尊が祀られてる御嶽神社が立っていた。
午後17時55分・・・武甲山(標高1304m)
御嶽神社からさらに登っていったところで武甲山(標高1304m)の山頂に到着した。辺りは既に真っ暗になっており、山頂の柵の向こう側には秩父市の夜景が広がっていた。その光景はまるで天の川といっていいほど魅力的な地形になっており、街の光はちりばめられた宝石のようにピカピカ光っているように見えていた。そのさらに向こう側には群馬県の市街地の夜景が東西に輝いている。
水城涼真「朱莉ちゃん、これが俺が関東で一番好きな武甲山からの天の川夜景やで!」
若宮朱莉「こ、これは素晴らしい・・・それにとても綺麗!!本当に天の川夜景ですね!!!」
水城涼真「関東には他にもいろんな夜景が見える山があるんやけど、俺はやっぱこの美しい夜景が一番なんよ」
若宮朱莉「こんな夜景を独占できるなんて、素敵なクリスマスイブになりましたね」
水城涼真「さて、ちょっと寒いから暖をとるために安物のワンポールテント設営するわ。テントは禁止なんやけどな」
若宮朱莉「はい。でもわたしはもう少しこの夜景を見ています」
水城涼真「朱莉ちゃんは夜景を見といてええよ。即効で設営できるから」
水城涼真はザックからコンパクトに収納されたワンポールテントとアルミシートを出してきて5分程で設営した。このワンポールテントは2人用で単なる風除けにしかならない。それから地面に座れるようにアルミシートを敷いて、入口を閉めるとガスランタンをつけた。そして東京駅構内で購入したショートケーキを4個とチタン製のカップを2つ、シナモンティをザックから出してきた。ガスランタンのおかげでポールテント内が暖まってきたところで、水城涼真は入口から顔を出して「朱莉ちゃん、そろそろ夕食にしよか。テントの中に入っといで!」と言うと若宮朱莉は「はーい」と言ってポールテントの中に入ってきた。
若宮朱莉「うわぁー中はめちゃくちゃ暖かいんですね」
水城涼真「ガスランタンは暖房器具の代わりになるんよ。豪雪地帯のテントの中でもTシャツ一枚で居れるくらいやからな」
若宮朱莉「そうなんですね。逆に暑いのでジャケット脱ぎますね」
水城涼真「今日はクリスマスイブってことやから、ショートケーキ2個ずつ食べながら、シナモンティを飲んで体を温めよ。外は氷点下5℃みたいやったから」
若宮朱莉「このショートケーキ、よく形が崩れませんでしたね」
水城涼真「店員さんにお願いしてラップを巻いてもらったんよ」
水城涼真はポットから2つのカップにお湯を注ぐとシナモンティを作った。そして2人で「メリークリスマス」と言ってシナモンティを飲みながらショートケーキを食べていた。
若宮朱莉「涼真さん、今日は素敵なクリスマスデートになりました。ありがとうございます」
水城涼真「喜ばれるのはまだ早いんやけど、満足してくれたんやったらよかったわ」
若宮朱莉「まだ何かあるんですか?」
水城涼真「ちょっとな・・・」
若宮朱莉「本当に暑くなってきましたので、わたし外に出て少し涼んできます」
そう言って若宮朱莉はジャケットを着てワンポールテントから出ていった。水城涼真はさっさと後片付けをするとザックの中から赤い包装紙に包まれた箱をポケットに入れた。
天の川夜景をバックにクリスマスプレゼント・・・
水城涼真はランタンを消すとワンポールテントから出た。そして若宮朱莉の隣に立つと「朱莉ちゃん、ちょっとこっち向いてほしいんやけどいい?」と言うと若宮朱莉は「はい」と言って2人は向かい合った。
水城涼真「朱莉ちゃん、実はお父さんと俺からクリスマスプレゼントがあるんよ」
若宮朱莉「父と涼真さんからのクリスマスプレゼントですか!?」
水城涼真はポケットの中から赤い包装紙に包まれた小さな箱を出して若宮朱莉に手渡した。
若宮朱莉「なんですかこれ!?開けてもいいですか?」
水城涼真「いいよ」
若宮朱莉は丁寧に包装紙を剥がして箱を開けた。すると箱の中にメタリックシルバーの腕時計が入っていて取り出した。
若宮朱莉「これは高度計機能を搭載した時計ですよね?」
水城涼真「高度計に気圧計、コンパス、温度計まで搭載されてる高機能な時計やで。時計の裏側を見てみ!」
若宮朱莉「K.Hは父のイニシャル、R.Mは涼真さんのイニシャルですよね!?どういうことですか?」
水城涼真「実はその時計は朱莉ちゃんが登山に興味を持った時にお父さんがプレゼントしようとしてたものなんよ。ところが、朱莉ちゃんが高校を卒業したときに購入したものやから、経年劣化で動かなくなったんよ。それでお母さんがメーカーに修理依頼をしたみたいなんやけど、もう部品がないから修理できへんって言われたみたい。それをこの前お母さんから、なんとか修理できへんかって言われて、俺がその時計を預かったんよ。そして俺がこういうことに詳しい専門家にお願いしてなんとか修理したってことやねん。まあ、俺からのプレゼントって意味も含むんでるってことで、図々しいけど俺のイニシャルも入れさせてもらったんやけどな」
それを聞いた若宮朱莉は目を真っ赤にしながら涙を流した。
若宮朱莉「そんなことがあって、この時計は父から涼真さんに継承されたプレゼントなんですね・・・」
水城涼真「まあそういうことになるんかな」
若宮朱莉は時計を手にしたまま水城涼真の胸に寄り添った。
若宮朱莉「うれしい、うれしい、うれしい、とてもうれしいです・・・これはわたしにとって最高のプレゼントです!」
水城涼真「ちょっと・・・」
若宮朱莉「わたし、涼真さんに出会えて本当に良かったです!!!」
水城涼真「朱莉ちゃん、そろそろ離れようか」
若宮朱莉「嫌です。しばらくこのままで居させてください・・・」
若宮朱莉は涙をポロポロと流しながら、ずっと水城涼真の胸に寄り添っていた。
若宮朱莉「父と涼真さんはわたしの人生を変えてくれました。わたし、一生涼真さんについていきながら父の遺志を継いでいきます。それにもう迷いはありません!」
水城涼真「うんうん」
若宮朱莉「あれ、なんでだろう!?涙が全然止まりません・・・」
水城涼真「気の済むまで泣いたらええよ」
若宮朱莉「はい・・・涼真さん、一つだけお願いしてもいいですか」
水城涼真「ん?」
若宮朱莉「父の継承者となった涼真さんがわたしの腕にこの時計をつけてください」
水城涼真「わかった」
水城涼真は若宮朱莉の左手首に時計をつけた。
若宮朱莉「ありがとうございます・・・この時計はわたしの宝物にします」
落ち着きを取り戻した若宮朱莉と水城涼真はポールテントとランタンを片付けた後、天の川夜景を後にして下山していった。




