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下りは怖く登りは楽しい鷲峰山行場巡り

10月17日午前11:40・・・


この日は若宮朱莉が出演している情報番組の記念日ということで、午後4時まで仕事はオフであった。水城涼真と若宮朱莉はその時間を利用して登山ショップへ一人用のテントとシュラフ、シュラフカバーを購入しに行っていた。二人は駐車場からアパートへ戻っていくと、慎重160cmくらいで、あごくらいまでの長さの茶髪ボブヘア、くせ毛を活かしたウェーブがかかっており、二重瞼で鼻筋が通っていてシャープな顔立ちをした年齢は40代半ばくらい、白いシャツにグレーのジャケットと膝下スカートのまるでキャリアウーマンのように見える女性がアパートの入口に立っていた。その女性を見た若宮朱莉は「お母さん・・・」と呟いてアパートの入口まで歩いていった。


本条真由美「わたし、明里の母で本条真由美と申します。あなたが水城さんですか?」

水城涼真「はい。わたしがこのアパートの大家で水城涼真と申します」

本条真由美「明里、もう満足したでしょ?そろそろ東京に戻って本格的に芸能活動をしなさい」

若宮朱莉「お母さん、わたし、東京に戻る気はないの。ずっとここで暮らしてお父さんと同じように生きていくの」

本条真由美「ずっとって・・・水城さん、明里との将来は考えていらっしゃるんでしょうね?」

水城涼真「将来ってどういうことですか?」

本条真由美「結婚のことです!」

水城涼真「そんなこと全く考えていませんよ。登山仲間としてずっと一緒にやっていくことは考えてますけどね」

本条真由美「なんて無責任な人なんでしょう。明里が一生独身のままでいいとおっしゃるのですか?」

水城涼真「そんなことは言ってません。今後、朱莉ちゃんにいい人が現れて結婚するってなったら、それは祝福するつもりですよ」

本条真由美「明里、お母さんはね、あなたが芸能界に入って頑張るっていうから、大学を諦めて芸能事務所に入ることを承諾したのよ。それなのにお父さんと同じように登山に夢中になる生き方をするなんて、お母さん悲しいわ」

若宮朱莉「それは申し訳ないと思ってる。でも、わたし、はじめて自分の生きがいというものを見つけたの。お父さんの遺志を継ぎたいの!」

水城涼真「ちょっとこんなところで立ち話もなんですから、続きは私の部屋で話してください」

若宮朱莉「涼真さん、ありがとうございます。でも、これはわたしと母の話ですから続きは二人で話します。お母さん、103号室のわたしの部屋に入って!」

本条真由美「わかったわ」

若宮朱莉「話が終わりましたら涼真さんのところへ報告に行きます」


そのまま若宮朱莉と本条真由美は103号室へ入っていった。201号室に戻った水城涼真は一体どんな話になるのか心配になって落ち着かず、執筆の作業も手に付かなかったので動画アニメを見ていた。しばらくアニメを見ながら気を紛らわせていて午後13時20分過ぎに突然部屋のチャイムが鳴った。で水城涼真は「はーい」と返事をして玄関のドアを開けると本条真由美が一人で立っていて「水城さん、少しお話よろしいですか」と言った。水城涼真は「あっはい、どうぞ入ってください」と言って本条真由美を部屋に入れて玄関のドアを閉めた。水城涼真が二人分のお茶をテーブルに置くと二人は向かい合って座て話がはじまった。


本条真由美「アパートの前では失礼なことを申しまして申し訳ありません」

水城涼真「いえいえ。お母さまのお気持ちもわかりますから大丈夫です」

本条真由美「先ほど明里と話をしましたが、これからは夫の遺志を継いで生きていくんだと頑なに言っておりまして、相当な決心をしているのだと思いました」

水城涼真「たしかに私の登山仲間に入ると言ってた時もかなりの覚悟があるって感じていました」

本条真由美「そんなところも明里は夫に似てしまったんだと思いました。こう見えて私も登山インストラクターをしていた時期がありまして、昔は夫と明里の3人でときどき登山に行っていました。ところが、夫と明里は登山道で登れそうな岩や尾根があると私の注意も聞かず勝手に登ったりして新しい景色が見えると喜んでいました。そんな明里の好奇心旺盛なところは本当に父譲りだといえます。それに比べて私は自然をまったり満喫するだけで満足ですので、あまり危険なことはしたくないタイプです。芸能界に入り夫が他界したことで、もう登山に興味を持つことはないだろうと思っていましたが、まさか今になって夫と同じことをする生き方をしたいと言い出すとは思いもしませんでした」

水城涼真「朱莉ちゃんがお父さんと同じ感性を持っているって気づいたんは最近のことみたいですが、それまでは特に芸能活動くらいで他に楽しみはなかったみたいですよ。それで私が登山の楽しみ方を教えてしまったんですけど、知ってしまった以上もう戻れないんじゃないですかね」


ここで本条真由美は少し涙を流し始めた。


本条真由美「明里にはもう以前のように戻れとはいいません。ただ、私は明里が夫と同じ道に進んで同じ結末を迎えてほしくないのです。明里はまだ若いですし、結婚もですが人生これからなのです。夫に続いて明里までいなくなってしまったら私はもう生きていく自信がなくなります」

水城涼真「お母さま、私の登山スタイルは『必ず生きて無事に家に帰ること』を基本にしてます。もちろん自然相手ですから何が起こるかはわかりませんが、あらゆることを想定して私らは訓練もしてますし、常に命がけで登山をしてます」

本条真由美「それでも毎年山で命を落としている人がいますよね。それに水城さんはかなりレベルの高い登山をしていると明里から聞きました」

水城涼真「たしかに普通では考えられない登山をしていますが、逆に気を緩めることはありません。これは私が以前執筆した記事の一つなんですが、遭難事故が起こる主な原因って下山時の油断なんですよ。あと一歩で登山の工程が終わるってところで油断してしまい、気を緩めた時に起こっています。全ての原因がそうとはいいませんが、安全で低レベルの登山道であっても遭難事故は起こります」

本条真由美「それは一理ありますね。ロッククライミングでもトップまであと一歩というところで気を緩めて滑落する人も多くいました。しかし、それでも命を落とすことはありますよね?」

水城涼真「そうなった時は仕方ありません。それは朱莉ちゃんが自分で決めた道での結果ですので、それに対して誰も咎めることはできません。もちろんそうならないように私らも全力でサポートします。それに私や登山仲間もその可能性があると常に意識はしています」

本条真由美「そうですね・・・わかりました。もうこの件に関して私は口出ししません。水城さん、明里のことをよろしくお願いします」

水城涼真「はい。私も責任を持って朱莉ちゃんのサポートをしていくつもりです」


そこで本条真由美は白いカバンの中から少し大きめのメタリックシルバーの腕時計を出してきた。


本条真由美「あと、この時計なんですが、これは明里が登山に興味を持った時に夫がプレゼントしようとしていたものです」

水城涼真「ちょっとその時計見せてもらえますか?・・・有名ブランドで、高度計に気圧計、コンパス、温度計まで搭載されていますね」

本条真由美「明里が高校を卒業したときに購入したものですので、かなり古くなって今は動かなくなっています。メーカーに修理を出してみたのですが、部品がなく修理できないとのことでした。もし、水城さんがあらゆるルートで修理してくださいましたら、良いタイミングで明里にプレゼントしてあげてください。もちろん修理代は私がお支払いします。時計の裏側には小さいですが夫のイニシャルが入っています」

水城涼真「わかりました。ではこの時計は朱莉ちゃんに内緒でお預かりしておきます」

本条真由美「ありがとうございます。では、私はそろそろ東京に戻るわね」


そう言って本条真由美は部屋を出ていった。それからしばらくして若宮朱莉が201号室にやってきたが、水城涼真が「お母さんから朱莉ちゃんのことをよろしくお願いしますって言われたわ」と言った。それを聞いた若宮朱莉はホッとした表情をしながら103号室へ戻って仕事に行く準備をした。



10月18日午前9:30・・・


今日は朝から10月28日から一泊二日で行く双門ルートについて、水城涼真の部屋で若宮朱莉と山行予定スケジュールや装備の確認をしていた。ただ、迷ヶ岳で遺品が見つかったことから水城涼真は若宮朱莉の父親が歩いたルートがいまひとつわからなかった。


若宮朱莉「涼真さん、何か悩んでいることでもあるんですか?」

水城涼真「いや、今度行く双門ルートやけど、お父さんがどういうルートで行ったのかがいまいちわからんのよな」

若宮朱莉「ルートにこだわりはありませんが、父が滑落した場所に行くのは少し抵抗があります」

水城涼真「迷ヶ岳に立ち寄った後、お父さんはどういうルートをとったのかが謎なんよ。たしかに迷ヶ岳から双門ルートに戻る尾根はあるんやけど、この尾根を通った人の記事って一つしかなくて、かなり大変やったみたいやから、このルートはないと考えたるとやっぱザンキ平肩からピストンしてるとしか思われへん」

若宮朱莉「その迷ヶ岳ってどんなところですか」

水城涼真「大峰でも奥深いところにある超秘境の地といえばええんかな、人が入り込まない大苔地帯になってるんよ。しかも苔の質もぜんぜん違う」

若宮朱莉「それは絶対に見てみたいです!!!」

水城涼真「そうやな。屋久島とはちょっと違うけど、迷ヶ岳に立ち寄る価値はあるからスケジュールに組んでおくわ」

若宮朱莉「はい。でも、父が命を落とした場所に行くのは、やっぱりちょっと怖いというか複雑な気持ちです。今のわたしでも行けるのでしょうか?」

水城涼真「今の朱莉ちゃんなら行けるよ。それより、最近岩登りの勘が少し鈍ってると思うから、今週の土曜日、空いてればちょっと軽く訓練に行こうか」

若宮朱莉「土曜日というと21日ですね。土日は空けていますが、どこへ行くのですか?」

水城涼真「京都府にね鷲峰山という山があって金胎寺から行場めぐりってのがあるんよ。距離は短いけど結構スリルある岩場やからちょうどいい訓練になると思うわ。鎖があるからロープはいらんし、ヘルメットとザックだけ持って来ればええ。ただ秘境とかそういうところでもないから期待はせんようにな」

若宮朱莉「わかりました。訓練ということであれば行きます!」

水城涼真「その帰りにこってりドロ系のラーメン店があるんやけど、そこで昼食とって帰ろうかと思ってる」

若宮朱莉「こってりドロ系ラーメン・・・じゅるっ、楽しみです!」

水城涼真「あはははは、朱莉ちゃんの胃袋を一回見てみたいわ!じゃあ6時30分にアパート前に集合な!」

若宮朱莉「りょーかいでーすっ!」


そうして21日の土曜日に鷲峰山にある行場巡りに行くことになった。



10月21日午前6時30分・・・


水城涼真がアパートの入口に行くと既に白いヘルメットをザックにつけた若宮朱莉が待っていて「おはようございます」と言った。水城涼真も「おはよう、じゃあ駐車場に行こうか」といって、二人は駐車場へと向かった。


門真市から国道1号バイパスに入り第二京阪自動車道・枚方東インターチェンジの手前で右折して国道307号線を東へ走らせていると少し過眠をとっていた若宮朱莉が起きて質問してきた。


若宮朱莉「変なことをお聞きますが、涼真さんって彼女さんはいなかったんですか?」

水城涼真「高校生の頃に何人かの女の子と付き合ったけど、いつも3ヵ月くらいで別れてたな」

若宮朱莉「3ヵ月って結構短いですね。相手と合わなかったとかですか?」

水城涼真「いや、どれも俺が悪かってん・・・」

若宮朱莉「涼真さんが悪かったってどういうことですか?」

水城涼真「カッコ悪い話になるんやけど、俺、中学2年生の時に本気で好きになった女の子が現れてな、その子に3回告白したんやけど3回ともフラれてしまったんよ。それからずっとその女の子のことが忘れられへんまま、他の女の子と付き合って忘れようとしたんやけど、やっぱり気持ち的に無理やってん。まあ本格的に登山をはじめて2年くらいしてからもう未練は断ち切れたんやけどな。そう考えると8年も想い続けてたんやなって思うわ」

若宮朱莉「ぜんぜんカッコ悪くないですよ。8年も想い続けていたなんてすごく一途だと思いますし素敵ですよ!」

水城涼真「一年前やったかな、買い物してたらその女の子が子供を抱いて歩いてたんやけど、あれはちょっとショックやったけどな」

若宮朱莉「それはショックですね。でも、涼真さんにそんなラブストリーがあったなんてちょっと意外でした」

水城涼真「まあ昔の話や・・・ってもうすぐ着くで!」


鷲峰山の参道入口が見えてくるとその手前の林道の路肩が広くなった場所があり、ちょうど車一台分のスペースが空いていたのでそこに駐車した。二人は車から降りると、金胎寺の境内に入り入山料300円を支払い行場巡りの時間と名前を記載した。まずは先に鷲峰山をピークハントすることにした。

ちなみに鷲峰山じゅぶせんは和束町と宇治田原町にまたがる標高682mの山である。山頂付近には北大峯という修験道の拠点として多くの寺社が立ち並んでいる。金胎寺の東側には「行場めぐり」の道があり、10か所以上の名前のつく岩場や滝がある。岩場の基礎的な登山技術が必要になるのだが、スリルを味わえるということで一部の人からは人気がある。鷲峰山の最高峰は空鉢峰くはちのみねと呼ばれ、鎌倉時代の宝篋印塔ほうきょういんとうがあり国の重要文化財にも指定されている。


ピークハントを終えた二人は金胎寺の境内に戻り左側の看板に記載されている行場入口へ入っていった。境内を出ると登山道になり、しばらくはなだらかな道が続く。


若宮朱莉「涼真さん、ずっとなだらかな登山道が続いていますけど、岩場なんてあるんでしょうか?」

水城涼真「まあ、そう焦りなさんな。いきなり急斜面の下りになるから覚悟しときや」


なだらかな登山道を20分ほど歩いていると行場の辻という分岐点に到着した。水城涼真は「さあここからやで。左回りでいくんやけど、帰りは右側から登ってくることになる」と言った。


そこから少し下りになると東覗という看板が見えてからは突然急斜面の下りになった。ロープは設置されているものの、スローペースで下っていくしかなかった。続いて西覗という古い看板の先からは急斜面に追い打ちをかけるがごとく滑りやすい落ち葉だらけとなっていた。


若宮朱莉「涼真さん、この下りはかなりキツイですね。残地ロープも信用できません」

水城涼真「焦らず一歩ずつ下って行かんと一発で膝が笑ってしまうからな。残地ロープはバランスとる程度に掴めばええんやけど、鎖があったらそっちのほうを信用すればええ」

若宮朱莉「岩場じゃないところのほうが持つところがなくて怖いです」

水城涼真「そこはトラロープしかないから、木を掴んでいくんよ」


行場入口から40分程すると今度は胎内潜という岩のトンネルに到着した。ここまでくると滝の音が大きく聞こえてきたので下りが終わるのは近い。二人は胎内潜のトンネルの中を通り、少し下ったところで千手の滝に到着した。


若宮朱莉「すごい急斜面の下りでしたね。行場入口からもう45分も経っているいるんですか!?わたし、少しですが膝が笑っています」

水城涼真「じゃあここで15分ほど休憩しよか。膝が笑ってるんやったら足伸ばして、しっかり水分補給してな」

若宮朱莉「はい。下ってきた分、登らないといけないんですよね?」

水城涼真「そうやけど、今回は登りのほうが早いかもな。なんせあの落ち葉がかなりうざかったからな」

若宮朱莉「登りはずっと岩なんですか?」

水城涼真「ほとんど岩場やな」



午前9時50分・・・


水城涼真「朱莉ちゃん、膝はどう?」

若宮朱莉「なんとかおさまりました」

水城涼真「じゃあここから少し沢を下ったところに五光の滝っていうのがあるんやけど、5分もかからんからちょっと移動しよか」

若宮朱莉「はい」


千手の滝から少し沢を下ると五光の滝という巨木に囲まれた小さな滝があった。水城涼真は「ここから登りになるから、念のため5分ほど休憩しながらこの滝でマイナスイオンを浴びておこか」と言った。一度膝が笑ってしまうと、完全に治るまで時間がかかるので少しでも休憩しておこうという考えなのだ。その後、わずかな休憩であったが、若宮朱莉の膝の動かし方が少し改善しているようだったので二人は出発した。


少し山を登って行くと鐘掛というほぼ垂直な岩場に着いた。ここは巻道があって無理に登るなと言われているのだが、若宮朱莉は「先に登っちゃいます」といって鎖を握りしめながらなんとか登っていった。水城涼真も後を追うように登っていき「朱莉ちゃん、よーあれ登ったな」と少し褒めるように言った。すると若宮朱莉は「少し怖かったですけど、三点支持を意識して登りました」と答えた。それからいくつか急斜面の小さな岩場を登っていくと、今回の最難関ともいうべきの高さ8mほどの巨大一枚岩が現れた。この岩はさすがにロープがあっても厳しいので右側の巻道で登ることにした。ところが巻道でも岩登りとかわりなく、かなりの高度感があって滑落したら大けがだけではすまない。そんな岩を登っているにもかかわらず若宮朱莉は「超楽しい!」と大きな声で叫んでいた。二人が岩の上まで登ると若宮朱莉は「景色もいいし、気持ちいい風が吹いてますね」と言ったので水城涼真は「朱莉ちゃん、高いところは怖くないんやな」と言った。その後は急斜面であるがいくつかの簡単な岩場を登っていき、午前10時45分過ぎに最初の分岐点である行場の辻まで戻ってきた。


水城涼真「行場巡りはどうやった?」

若宮朱莉「下りは怖かったですけど、岩登りは超楽しかったです!」



午前11時30分・・・


金胎寺の境内を出て駐車場所に戻った二人は車に乗り込むと南へと車を走らせた。本日最後の予定はこってりドロ系ラーメンのお店に行って昼食をとることである。ところが若宮朱莉はどこのラーメン店に行くか知らされてなかった。


若宮朱莉「涼真さん、最後に行くこってりドロ系ラーメンのお店ってどこにあるんですか?」

水城涼真「京都府木津川市ってところにある無鉄砲ってお店やで」

若宮朱莉「無鉄砲ってなんか聞いたことあります」

水城涼真「東京にも支店があるからな。レンゲが立つほどドロドロしたスープやし、相当なカロリーやから食べ過ぎんように注意したほうがええで」

若宮朱莉「そんなにドロドロしているんですか?さすがのわたしも間食できるか心配になってきました。でも今お腹ペコペコなんですよね」


京都府木津川市に入り、市街地から少し離れた場所にある無鉄砲総本店に到着した。時刻は既に12時15分という昼食時間になっていた。休日ということもあってお客さんは列をなしていたが、それでも12番目で約20分待ちということで後ろに並んだ。さすがの若宮朱莉は伊達メガネだけでなくマスクまでして変装していた。券売機でラーメンを選んでいると水城涼真はノーマルなとんこつラーメンのチケットを購入すると、若宮朱莉はとんこつチャーシューメンにごはん大を購入した。そして順番待ちをすること25分くらいで二人は店内に案内された。


水城涼真「朱莉ちゃん、それは食いすぎやって!完全にカロリーオーバーやで」

若宮朱莉「とんこつの匂いに負けちゃいました。それにこのラーメンってごはんがよく合いそうです」


店員さんがラーメンを運んでくると若宮朱莉は「めちゃくちゃ美味しそうじゃないですか!」と少し大きな声で言った。もはやスープはオレンジ色に近く背油がどっぷり入っていた。スープを一口飲もうとしてレンゲで救い上げようとするとゼリー状になっていて、そのままレンゲが立ってしまうほどドロドロしている。麺は中太ちぢれ麺でとんこつの旨味が凝縮したスープがよく絡んでとても美味しい。若宮朱莉は「これはいいですね!」と言って、どんどん麺を啜りはじめた。そして麺を半分たいらげると、スープに浸したチャーシューをごはんの上に載せて、ごはんにスープを混ぜると一気にご飯をたいらげてしまった。その姿を見ていた水城涼真はさすがに少し引いていた。二人とも麺を全て啜って食べ終えたが、さすがの若宮朱莉もスープまでは飲み干せなかった。



10月23日午前11:00・・・


水城涼真は若宮朱莉の母親である本条真由美から預かった時計を先週のうちにアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽に送っていた。片瀬彩羽は中古の時計やガーミンなどに非常に詳しく、趣味で中古の登山ギアを集めているほどのマニアである。水城涼真は送った時計が修理可能か確認するために片瀬彩羽に電話をした。


水城涼真「片瀬さん、先週送った時計ですが、なんとか修理できそうですか?」

片瀬彩羽「少し開けて中を調べてみたのですが、どうも電子回路がやられているようですので部品を交換すれば直せると思います」

水城涼真「メーカーに修理を依頼しても部品がないとのことなんですが・・・」

片瀬彩羽「そうですね、新しい部品は手に入れられそうにありませんが、このメーカーの時計は当時かなり出回っていましたので、ジャンク品を集めればなんとかなりそうです」

水城涼真「本当ですか!部品集めにかかる料金はお支払いしますので、なんとか直してもらえないですか?」

片瀬彩羽「ネットでもジャンク品が出回っていますので集めてみます。ただ、修理には一ヵ月以上かかってしまいますが大丈夫でしょうか?」

水城涼真「そのくらいなら大丈夫です。よろしくお願いします」


こうして本条真由美から預かった若宮朱莉にプレゼントするはずだった時計の修理はなんとかなりそうだ。しかし、どうして水城涼真はこの時計の存在を若宮朱莉に隠しているのか、今の段階では誰にもわからなかった。

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