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素敵な想い出になった有子山城跡デート

9月20日午前11:00・・・


先日行ったトンガリ山から白髪岳の縦走に関する記事をまとめていると、スマホに着信音が鳴った。少し手が離せない状態であったが、執筆を中断して電話に出てみるとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだった。


片瀬彩羽「水城さんお疲れ様です。今少しお時間大丈夫でしょうか?」

水城涼真「お疲れ様です。今は大丈夫ですよ」

片瀬彩羽「先日緊急でお願いした案件ですが、納期までに間に合いそうでしょうか?」

水城涼真「はい。予想以上に執筆が進んでいますので、明後日には入稿できると思います」

片瀬彩羽「それは助かります!水城さんはもう慣れていらっしゃいますので、初稿と再校はこちらでやっておきます」

水城涼真「ありがとうございます」

片瀬彩羽「ところで、11月号で夜景登山の記事を掲載することになりまして、連続になってしまうのですが執筆をお願いできないでしょうか?」

水城涼真「ページ数はどのくらいなのでしょうか?」

片瀬彩羽「見開き2ページ×4ですので8ページになります。ただ、どのくらいの夜景スポットを紹介するのかにつきましては頭を悩ませてるところです」

水城涼真「そうですね。昨年のようにたくさんの夜景スポットを並べて掲載するだけですと面白味がありませんでしたからね」

片瀬彩羽「そうなんですよ。今年は何か変わったことをしたいと考えております」

水城涼真「では、見開きの右側に夜景を紹介して、左側はその街並みや観光スポットを少し紹介するというのはいかがでしょうか?夜景の紹介っていつも山の上から見た夜景写真だけ紹介してますが、街の様子なんかも入れとくと、もっと夜景の見方が変わると思うんですよね。ちょうど先日大津京の夜景を撮影しましたし、歴史を感じる風情ある街並みと夜景みたいなタイトルで4つの夜景を掲載するのはどうですか?」

片瀬彩羽「それは面白いですね!でも、他の三つの取材は大変じゃないですか?」

水城涼真「星のや京都の夜景写真も撮影しておりますが、嵐山付近の観光地に関してはそちらで調べていただいて、奈良県の万葉展望台・藤本山は夜景と明日香村の街並みも撮影していますので、残るは有子山城跡だけ取材に行ってきますよ」

片瀬彩羽「わかりました。とても面白い企画だと思いますので早速企画部に提案してきます」


一旦電話を切ってから10分程すると再び片瀬彩羽から電話がかかってきて「先ほどの水城さんの案が通りました。嵐山付近の観光地に関しましてはわたくしどものほうで調べておきます。ちなみに納期は10月20日でお願いします」と言って企画が通った。


これで兵庫県出石町へ取材に行くことが決まったが、今回はただ山に登って夜景を撮影するだけではなく出石町の観光地巡りをしなければならない。水城涼真はパソコンの前に座って兵庫県豊岡市の週間天気予報を開いた。すると9月23日は少し秋雨前線がかかっており降水確率30%という予報になっていたが、24日の午前3時には前線は南東へとさがって予報では降水確率0%で快晴となっていた。ほどよく雨が降ったあとの快晴とはまさに夜景日和なので、水城涼真は24日に取材へ行くことにした。早速、登山仲間である樫田裕と有本淳史に電話をかけて誘ってみたものの、二人とも予定があるから行けないということであった。あとは若宮朱莉を誘うだけになったが、水城涼真は「これやと単なるデートやん」と呟いた。



9月20日午後21:40・・・


水城涼真は103号室へ向かいチャイムを鳴らして「朱莉ちゃん、ちょっといい?」と少し大きな声で呼びかけた。すると103号室のドアが開いてジャージ姿の若宮朱莉が出てきた。


若宮朱莉「涼真さん、どうかしましたか?」

水城涼真「夜分遅くにごめんな。来週日曜日の24日なんやけど、なんか予定ある?」

若宮朱莉「特に予定はありませんがどこか行くんですか?」

水城涼真「その日、朝から俺とデートせえへん?」

若宮朱莉「えっ、デートですか!?あの、えっと、、、わたしデートなんてはじめてで何着ていけばいいのか悩んじゃいます」

水城涼真「やっぱ言い方がまずかったかな。夕方からナイトハイクするから登山服でええ。ただ、そのあと温泉に入る予定やから、着替えは持ってきといたほうがええわ」

若宮朱莉「もしかして取材ですか?」

水城涼真「そう、兵庫県の出石町ってところに行くんやけど、昼間は観光地巡りと名物の出石そばを食べて、夕方からナイトハイク、それから温泉に入って帰りは福知山でこってりドロ系ラーメンを食べて帰る予定やねん。今回は登山仲間が行かれへんみたいやから朱莉ちゃんと二人になるんよ」

若宮朱莉「あははは、それだと確かにデートですね。それならわたし、涼真さんとデートします!」

水城涼真「じゃあ出石町は遠いから24日の朝7時にアパート前に集合ね」

若宮朱莉「了解です。わーいっ涼真さんとデートだ!!!」

水城涼真「そないにはしゃがんでもええやろ」



9月24日午前7時・・・


軽く朝食を終えた水城涼真はアパートの入口へと歩いていった。外は雲一つない快晴で昨日降った雨のおかげで大気の状態も良好だった。アパートの入口には既に茶色いトレッキングパンツに青のインナーシャツの上に紺色のTシャツを着たポニーテール姿の若宮朱莉が待っていた。水城涼真は「朱莉ちゃん、おはよう」というと若宮朱莉はテンションを高めながら「今日のデートが楽しみにです!」と言った。


まずは中央環状線から国道176号線に入ると池田市の先で国道173号線を北上していった。車内は無言だったので水城涼真は何か音楽をかけようとすると若宮朱莉が「涼真さん、せっかくのデートですからお話しませんか?」と言った。


水城涼真「あんな、デートデートって言ってるけどそれは名ばかりやからな」

若宮朱莉「でもこれってデートじゃないですか。楽しく行きましょう!」

水城涼真「ところで、お父さんが山岳事故を起こした日っていつなん?登山計画ノートには日程が書いてなかったんよな」

若宮朱莉「ちょうど2年前の10月16日土曜日の16時頃でした。空中回路というところから滑落して頭を強打してしまって他界したとのことです」

水城涼真「なるほど。2年前っていったら、たしか10月末の土曜日に俺もそこに行ってるんよな。ちょっと途中で立ち寄った山があったんやけどな」

若宮朱莉「そういえば、一つだけ見つかっていない父の遺品があると聞きました。その時父と一緒に居た人の情報ですが・・・」

水城涼真「それは単に持ってきてなかったとかやなくて?」

若宮朱莉「はい。その日、父は必ず持ってきていたから間違いないとおっしゃっていました」

水城涼真「その遺品って何なん?」

若宮朱莉「父がずっと愛用していたヘッドライトです。わたしも見たことがあります」

水城涼真「もしかして、それって長方形の黒いヘッドライトやったりする?」

若宮朱莉「そうです!涼真さん、どうしてわかったのですか?」

水城涼真「朱莉ちゃん、明日の朝でええから、ちょっと俺の部屋まできてくれる?」

若宮朱莉「はい。でも突然どうかしました?」

水城涼真「ちょっとな・・・まあ、今日はデートを楽しもうや!」


国道からそれて県道を走っていると国道9号線に合流した。そして二人は何気ない会話をしていると京都府福知山市に入った。ここで二人はイートインのあるコンビニエンスストアで少し休憩をとることにした。コンビニの中には多くの人がいたのだが、伊達メガネをかけている若宮朱莉の存在に気づく人はいなかった。こんな田舎都市に全国的に有名な若宮朱莉がいるなど誰も想像つかないのだろう。その後、さらに車を走らせ国道426号線を北上して、ついに兵庫県出石町に到着した。



9月24日午前11時・・・


出石町に到着して24時間営業の駐車場に車を停めると、二人はまず辰鼓楼という日本最高年の時計台を見に行った。もちろん今回は取材ということもあって、水城涼真は出石町の街並みなど撮影していた。この辰鼓楼は明治4年に建設されて、当時は太鼓で時を告げていたという。明治14年に地元の医師が機械式大時計を寄贈してからは時計台として稼働しはじめた日本国内で二番目に古い時計台である。二人はそんな歴史を感じながら見ていると若宮朱莉が口を開いた。


若宮朱莉「涼真さん、せっかくだから手でも繋ぎながら観光します?」

水城涼真「アホか!そんなことしたら、それこそスクープになるで」

若宮朱莉「あははははは、それもそうですね。でも、今日はデートだからいいんじゃないですか?」

水城涼真「あんな、見た目はデートかもしれんけど、これでも俺は取材しとるねん!」

若宮朱莉「そうでしたね。気づいたら手を繋いでいましたみたいなのもいいかなって・・・うふふ、、、」

水城涼真「朱莉ちゃんってホンマ、ときどきそういうイタズラというか冗談言うよな」

若宮朱莉「えへへへ・・・」


続いて二人が向かったのは出石明治館であった。この出石明治館は明治20年代に建築された郡役所で、木造2階建てのレトロな洋館である。洋館の中は郷土資料館になっており、天気予報の創設者である桜井勉や出石の偉人などが展示されている。


水城涼真「なんか歴史を感じて浸ってしまったけど、朱莉ちゃん、暇やなかった?」

若宮朱莉「ぜんぜん暇じゃなかったですよ。わたし、仕事でこういう歴史ある場所にもロケに行くことがありますので勉強になっています」

水城涼真「もう12時まわっとるな。そろそろ出石そば食べにいこか」

若宮朱莉「そうですね。そろそろお腹空いてきましたのでいきましょう」


出石明治館を出た二人は出石そばのお店を探していた。お店はたくさんあったのだが、若宮朱莉が「出石そば食べ放題のお店がありますよ。あそこに入りましょう」と言ったのでその店に入った。まずは二人とも出石皿そば一人前5皿と生卵を注文した。10分ほど経ってそばが盛り付けられた5皿が運ばれてきたが、1皿でも結構な量だった。水城涼真はゆっくりとそばを食べていたのだが、気づくと若宮朱莉は3皿をたいらげていてツユの中に生卵を入れていた。それから間もなくして若宮朱莉は5皿をたいらげると店員さんを呼んで「次お願いします」と言った。水城涼真はまだ2皿目を啜っていたところだったのだが、若宮朱莉の早さに驚いていた。その後、若宮朱莉は10皿目をたいらげると「次のお皿と生卵の追加お願いします」と店員さんに言った。水城涼真は5皿で満腹になって、そば湯をつゆに入れてそば割を飲んでいた。結局、若宮朱莉は17皿をたいらげたあとにそば湯を飲んで「美味しかったです」と満足したような表情で言った。そして、二人は店を出ると今度は水城涼真が街歩きをはじめた。


水城涼真「朱莉ちゃん、ちょっとそば食べ過ぎちゃう?さすがに俺も引いたわ」

若宮朱莉「わたしなんてまだ小食なほうですよ。芸能界って結構大食いの人多いです」

水城涼真「そんだけ食ってよー体重維持とかできるよな?」

若宮朱莉「大阪に来てから、ちょっと食のスタイルを変えました。今のお仕事をしてると平日は昼食もほとんどとれませんので、土日にガッツリ食べておこうって思っています」


それから二人は出石永楽館や伊藤清永美術館などをまわった後、出石川のほとりや田園地帯を散歩していた。そうしているうちに時刻は午後15時を過ぎたので、二人は急いで駐車場へ戻っていった。


水城涼真「さて、今日のメインになってる有子山城跡に登ろか」

若美朱莉「はい」

水城涼真「今日は天候ばっちりで夜景日和やからトワイライトはかなり期待できるし、夜景ってもんの見方が変わると思うわ!」

若宮朱莉「出石町の夜景って想像つきませんが楽しみです!!」


これから二人が登ろうとしている有子山城跡は天正2年に山名祐豊によって標高321mの急峻な有子山に築かれたお城だが、天正8年に織田軍の羽柴秀吉の弟である秀長の攻撃を受けて落城して、山名氏も滅ぼされた。慶長9年に小出吉英によって山麓に出石城が築かれると有子山城は廃城となった。現在では遺構として主郭や曲輪などを見ることができる。


二人は登山準備を整えると道路を歩いていき登城橋を渡って出石城跡の中へ入っていった。城内の階段を登っていき朱塗りの鳥居が連なる参道を登った先にある有子山登山口に到着した。道標に記載されている遊歩道にしたがって少し登っていくと少し急斜面の尾根に取り付いた。


水城涼真「ここの尾根、ちょっと斜面がキツイから落ち葉で滑らんように注意して登ってな」

若宮朱莉「わかりました。それにしても結構長い尾根ですね」

水城涼真「まあ、登りのほとんどがこの尾根で登り詰めたら後は楽になるわ」

若宮朱莉「じゃあスローペースで登りますね」

水城涼真「朱莉ちゃん、先頭いき!滑っても後ろでフォローできるから」

若宮朱莉「ありがとうございます。ではお先に行きます!」


最近、若宮朱莉は登山の歩き方がわかってきているようで息を切らせない程度のペースで急斜面を登っていった。水城涼真は後ろから見守りながら一定のペースで登っていった。登山口から尾根を登り始めて20分程で二人は尾根を登り詰めた。若宮朱莉は「思ったより早く登れましたね!このまま先に進みます」と言った。途中で全国的でも珍しい7段の石垣からなる井戸曲輪があり、そこを通り過ぎると開けた場所に出た。ここは本丸と最大の曲輪である千畳敷との分岐点になっているのだが、今回は夜景撮影が目的なので本丸のほうへ行った。そして、石段を登ると有子山城跡(321.5m)の頂上に到着した。頂上には立派な東屋が設置されており、二人は東屋の中に入って休憩した。


水城涼真「日没までまだ30分くらいあるから、ちょっとコーヒーでも飲んで休憩しとこか」

若宮朱莉「ここって火気厳禁じゃないんですか?」

水城涼真「ポットにお湯入れてきたから大丈夫やで」

若宮朱莉「なるほど。じゃあいただきますね」


それから東屋でまったりしていると時刻は午後18時20分になっていた。水城涼真はザックの中から一眼レフカメラと三脚、若宮朱莉はスマホ用の三脚を取り出すと二人は撮影の準備をした。そして撮影の準備を終えて10分ほどするとトワイライトタイムになった。


有子山城跡からは青とオレンジのグラデーションをバックに出石町をはじめ遠く豊岡市までの夜景が広がっていた。眼下には出石町の碁盤目のような街並み、さらには流れる出石川と水田地帯がトワイライト色の青に染まり、その向こう側にはオレンジ色に染まった来日岳を中心に山々が連なるという立体的な夜景と化して見事なトワイライト夜景であった。もちろんこの美しい光景はこのトワイライトタイムの薄暗くなった時間帯限定でしか見ることができないのだ。


若宮朱莉「これはもう夜景というよりとても美しい風景ですね。わたし、こんな景色ははじめて見ました」

水城涼真「俺は夜景も風景の一つやと思ってるからな。夜景は都市部だけではないってことやわ」

若宮朱莉「あまりにも素晴らしい絶景ですので言葉を失いました。ちなみにあの真ん中にぽこっと出ている山は何ですか?」

水城涼真「あれは来日岳くるひだけやね」

若宮朱莉「涼真さん、わたしを口説くなら今がチャンスですよ!」

水城涼真「はぁ?」

若宮朱莉「こんな景色の中で告白されて、断れる女の子はいないと思いますよ」

水城涼真「・・・ってちょっと思考がとまったやないか!朱莉ちゃんはもっと登山のことを学ばなあかんやろ」

若宮朱莉「あはは、そんな真剣にならないでください。冗談ですよ、冗談」

水城涼真「わかっとるけど、最近、俺に対して冗談とかイタズラとか増えてきたな。まあ可愛らしいレベルやけど・・・」

若宮朱莉「えへへへ・・・」


トワイライトタイムが終わると撮影を終えてさっさと下山して駐車場に戻った。時刻は20時過ぎになっていたが、二人は着替えを持って近くにある温泉へ向かった。烏の行水ではないが、二人は30分程度で温泉から出てくると駐車場に戻り福知山市へと車を走らせた。



9月24日午後22時20分・・・


国道9号線を南東へ進んみ福知山駅のちょうど南側まで戻ってきた。ここで今回のデートの〆となるこってりドロ系ラーメンを食べに行くのかという疑問を水城涼真は抱いていた。若宮朱莉は昼間に出石皿そばを17皿もたいらげていたので、さすがにカロリーオーバーになるだろう。


若宮朱莉「涼真さん、こんなところに停車して何か考え事ですか?」

水城涼真「いや、朱莉ちゃんはまだ腹減ってないよな?」

若宮朱莉「お腹ペコペコですよ。たしかラーメン屋に行くって言ってませんでしたか?」

水城涼真「昼間あんなに食ってたのにまだ食べれるん?」

若宮朱莉「あれからずいぶん時間が経ってるじゃないですか。それに登山をして温泉にも入りましたからね」

水城涼真「そういえば平日はほとんど食べてないって言ってたな。じゃあドロ系こってりラーメン食べにいこか!?」

若宮朱莉「はい!体重維持のことならご心配なく!!」


水城涼真がラーメン屋の駐車場に車を停めると二人はラーメン屋に入っていった。二人が注文したのは一番こってりしたドロドロ系の特濃ラーメンであった。若宮朱莉にとって今日のカロリー摂取はあきらかにオーバーしているのだが、これも特別な日のになっているのだろうか。特濃ラーメンが運ばれてきて、若宮朱莉が麺をすすると「これはスープというよりゼリーですね。麺を持ち上げるのが重いです」と言いながら食べていた。このスープは濃厚な豚骨鶏ガラベースでありながら細麺を使用していてスープがよく絡むのだ。そして水城涼真はスープを残してしまったのだが、若宮朱莉は飲み干した。


その帰り、さすがに高速道路を使って帰宅したのだが、アパート近くの駐車場に到着したのが23時55分だった。駐車場からアパートに戻る途中で若宮朱莉が立ち止まって水城涼真のほうを見て「今日のデートはとても楽しかったです。わたしにとって素敵な想い出になりました」と言った。水城涼真は「それならよかったわ」と小声で言った。



9月25日午前10時30分・・・


昨日の帰りが遅くなってしまったせいか、水城涼真は少し寝坊をした。だからといって今日の作業はほとんどないので起床してからアニメを見てまったりしていた。すると部屋のチャイムが鳴ったので「はーい」と返事をすると、玄関のドアが開いてジャージ姿の若宮朱莉が入ってきてテーブルの前に座った。


若宮朱莉「昨日、涼真さんから明日の朝部屋に来るように言われましたのでお邪魔させていただきましたが覚えていますか?」

水城涼真「覚えてるよ。朱莉ちゃんに見せたいものがあるんやけど、ちょっと待ってな」


水城涼真は押し入れを開いて小さい収納ボックスの中から黒いヘッドライトを取り出した。


水城涼真「このヘッドライトなんやけど見覚えある?」

若宮朱莉「これは父が持っていたヘッドライトによく似ています」

水城涼真「実はこれな、お父さんが双門ルートで他界してから数日後に俺が迷ヶ岳ってところに登った時に落ちてたんよ。双門ルートからちょっと離れた場所で誰も行かんような場所やったし、ちょっと雨も降ってたから、俺が拾って持って帰ったんよ。一応、ブログとかSNSで落とし物の配信したんやけど、誰からも返事なかったからそのまま保管してたんよな」

若宮朱莉「そのヘッドライトってどこかに白いビニールテープが貼られていないですか?」

水城涼真「そういえば、後ろ側に白いテープが貼られててK.Hってイニシャルみたいなのがマジックで書かれてるわ」

若宮朱莉「ちょっと見せてもらってもいいですか?


若宮朱莉はヘッドライトを手にした。そしてその背面の書かれたイニシャルを見て涙を流した。


若宮朱莉「涼真さん、間違いありません。これは父の字です。父の名は本条和弘でしたのでイニシャルもK.Hです」

水城涼真「やっぱりそうやったか・・・昨日話を聞いててもしかしてと思ってたんよ」

若宮朱莉「まさか涼真さんが父の遺品を持っていたなんて、偶然というより奇跡にしか思えません」

水城涼真「じゃあ、そのヘッドライトは朱莉ちゃんが使えばええよ。200ルーメンやし、まだ全然使えるからな」

若宮朱莉「わたし、このヘッドライトは父の遺品として大切に保管しておきます」

水城涼真「そんなもん、大切に保管しとくより朱莉ちゃんが引き継いで使えばええ。登山道具は使ってなんぼやし、そっちのほうがお父さんも喜ぶと思うわ」

若宮朱莉「たしかに、それもそうですね。じゃあ、わたしが引き継いで使っていきます!」

水城涼真「それと、せっかくやから近いうちに双門ルートに行ってみよか」

若宮朱莉「今のわたしでも行けるのでしょうか?」

水城涼真「ただ、迷ヶ岳に立ち寄ったことがわかったから、同じルートで行くんやったら一泊二日の工程になるけどな」

若宮朱莉「父が命を落としたところなので複雑な気分ですが、いつかはわたしが全行程をクリアして父の遺志を継がないといけないとは思っています」

水城涼真「お父さんは一つだけ最大のミスを犯したんよ。これについては今度話すから!」

若宮朱莉「わかりました。わたし、がんばります!!!」


こうして若宮朱莉の父が命を落とした双門ルートに行くことがきまったのだが、まだハッキリした日程は決まっていない。

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