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白髪岳の静寂で素朴な雰囲気が大好き

9月12日午後14時30分・・・


秋雨前線の影響で外は雨が降っている。昼食を終えた水城涼真は先日の富士山ロケで本八合目から撮影した夜景写真の加工をしていた。この写真は来年の6月号にコラムとして掲載されることになっているが、今週中にアウトドアウォーカーの編集部へ送ることになっている。二枚の写真加工を終えたところで一息入れると、スマホに着信音が鳴った。すぐさま電話に出てみるとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだった。


片瀬彩羽「水城さんお疲れ様です。今少しお時間大丈夫でしょうか?」

水城涼真「片瀬さんお疲れ様です。一息入れたところなんで大丈夫ですよ」

片瀬彩羽「今回は緊急でお願いしたいことがございましてお電話させていただきました」

水城涼真「緊急ですか?」

片瀬彩羽「はい。実は比良山地の執筆をお願いしていた方が交通事故を起こしまして骨折して入院となってしまいました。まだ校正もはじまっていませんので掲載は諦めるという方針で決まりました。そこで水城さんにその空きがでた四ページの執筆をお願いしたいのです」

水城涼真「そういうことでしたら引き受けますが、具体的に比良山地のどの山へ行けばええんですか?」

片瀬彩羽「あっいえ、今回『読図をマスターしよう!』というコンセプトですので、それに見合う山であれば比良山地でなくても構いません」

水城涼真「なるほど。ということはバリルートを含ませても問題ありませんね?」

片瀬彩羽「はい。ただし、あまり難しく危険なルートは避けてください」

水城涼真「わかりました。それで納期はいつなんでしょうか?」

片瀬彩羽「25日までにお願いできないでしょうか?その分写真や地図を大きくして文章量を減らしていただいて構いません」

水城涼真「わかりました。なんとかやってみます」

片瀬彩羽「また無理を言って申し訳ありませんがよろしくお願い致します」


電話を切った後、あまり読図の勉強になり難しく危険なルートではないバリルートといえば、あの山しかないと水城涼真は確信していた。納期が25日ということは、今週末には取材に行って、残りの一週間で執筆作業を終えないといけない。そんなことを考えながら週間天気予報で週末の天気を調べてみた。すると秋雨前線は週末にかけて南下していき16日と17日の天気は晴れで残暑が厳しくなるとの予報であった。早速、水城涼真はスマホのSNSチャットで「今夜、仕事から帰ってきて落ち着いたら俺の部屋にきてほしい」と若宮朱莉にメッセージを送っておいた。



9月12日午後20時50分・・・


水城涼真はシャワーを浴びた後、二本の缶ビールを持ってテーブルに座ってまったりしていた。すると部屋のチャイムが鳴ったので、水城涼真が「はーい」と少し大きな声で返事をすると玄関のドアが開いてジャージ姿の若宮朱莉が「こんばんは」と言って部屋に入ってきた。水城涼真が一本の缶ビールを差し出すと若宮朱莉は「ありがとうございます」と言ってテーブルに座った。


水城涼真「朱莉ちゃん、富士山に登ってみてどうやった?」

若宮朱莉「日本最高峰に登った達成感はありました。ただ、一回登っておけばいいかなって感じがしています。涼真さんがおっしゃっていたように、富士山は見る山なんだなってことがよくわかりました」

水城涼真「そっか、やっぱそうなるわな・・・」

若宮朱莉「でも、天音さんと出会えて仲良しになれたのはとても嬉しいです」

水城涼真「それは俺もよかったと思うわ。剣ヶ峰で抱き合ってたもんな」

若宮朱莉「あははは、あれは演技ではなくお互いの正直な感情でしたからね」

水城涼真「ところで、今週末は連休やけど予定は入ってる?」

若宮朱莉「連休最終日の18日は東京でお仕事になっています」

水城涼真「ということは16日と17日は空いてるわけやな?」

若宮朱莉「はい。でも18日は朝一番の新幹線ですので17日は早く寝ないといけません」

水城涼真「じゃあ16日でええんやけど、本格的な読図の勉強を兼ねて丹波の山に行けへん?」

若宮朱莉「丹波の山ですか?どんなところか想像できないんですが・・・」

水城涼真「白髪岳って言ったらわかるかな?」

若宮朱莉「白髪岳って父の登山計画ノートに記載されていた山でしたよね!?」

水城涼真「そうなんやけど、そのノートには白髪岳としか書いてなかったからどのルートで登る予定やったんかはわからんのよな。順番はかなり前後してるし、今回は読図の勉強も兼ねてって別の目的もあるからどうかなって思ったんよ」

若宮朱莉「今回はルートや順番に拘りはありません。読図のお勉強も兼ねてということであれば是非連れて行ってほしいです!!」

水城涼真「白髪岳の頂上は360度の眺望が広がってるんやけど、大峰とはまた違う魅力があるんよ。ちょっと都会育ちの人には理解しずらいかもしれんけどな」

若宮朱莉「今のわたしがどれほど理解できるかわかりませんが、絶対に行きたいです!!!」

水城涼真「わかった。今回はトンガリ山という山に登って白髪岳まで縦走するルートやから事前に天気や地図を調べておいてな。じゃあ16日の朝6時にアパート入口で待ち合わせでええかな?」

若宮朱莉「はい。楽しみにしています!!」



9月16日午前5時50分・・・


いよいよトンガリ山から白髪岳へ縦走する日となった。天気はかなりの快晴だと思われる。朝の6時出発の予定だったが、既に若宮朱莉は準備して外で待っていた。水城涼真は2枚の登山地図を印刷して磁北線を引くと、ザックを背負ってアパートの入口へと向かった。


水城涼真「朱莉ちゃん、おはよう」

若宮朱莉「おはようございます」

水城涼真「とりあえず駐車場へ行こか」


二人は駐車場でトランクに荷物を詰め込んで助手席に若宮朱莉が乗り込んだ。水城涼真はそのまま運転席に座ると印刷した登山地図の一枚を若宮朱莉に渡した。


水城涼真「今日の山行工程は丹波槍と呼ばれるトンガリ山に登って、そこから白髪岳という山へ縦走して下って行く予定なんやけど、少しここでお勉強しとこか」

若宮朱莉「ここでお勉強ですか?」

水城涼真「まず、俺が赤線で引いたラインが今日の予定コースやけど、正規の登山ルートではないんだよ。それに白髪岳の表記はあるけど、トンガリ山の表記がないやろ?」

若宮朱莉「本当にないですね。それに50mごとでしょうか。太い線に数字が書いてありますが、これは標高でしょうか?」

水城涼真「ご名答!登山地図はいろいろあるけど、これは二万五千分の一の地図で一番わかりやすいんよ。今回は適当に車をどこかに駐車するけど、まずはこの鳥居の形をしたところ、つまり神社から入山して、トンガリ山はちょうど620の地点になるんやけどわかる?」

若宮朱莉「この部分ですね。丸く囲まれているピークがトンガリ山なのでしょうか?」

水城涼真「物分かりが早くて助かる。そ等高線は10m刻みになっているんだけど、ちょうど標高120mほど登ったところあたりから、高いところから低いところまで等高線が張り出しているのがわかる?つまり、ここから尾根道になるってこと。あと、こっち側をみてほしいんやけど、逆に低いところから高いところまで等高線が張り出しているのがわかるかな?これが谷ってことになるんよ。谷は沢筋もそうなんだけど、自分は一番低いところにいて、周りは高くなっている場所になる」

若宮朱莉「なるほど。なんとなくわかります。尾根は周りより高い位置だと勉強しましたが、谷はその逆で周りが高くなっているわけですね」

水城涼真「そう。今日はGPSは使わずにこの地図とコンパスだけで読図をマスターしていってほしい。実践のほうがわかりやすいから」

若宮朱莉「なるほど。このトンガリ山から白髪岳までは、いくつもピークがある尾根道が続いていますね」

水城涼真「うんうん。それを読図しながら今日は歩いていこうって思ってるのと、今日は朱莉ちゃんに先頭を歩いてもらう。じゃあ出発するわ」

若宮朱莉「えっと、これだと最後は尾根から谷に下るのですね。なんとなくわかってきました」


水城涼真は車を発進させると、しばらく無口でいた。しばらく車を走らせて高速道路の手前に着くと若宮朱莉が「自動販売機に寄ってもらってもいいですか?」と言った。たしかに何も飲み物など用意してなかったので、高速道路に入る手前にある自動販売機の前に車を止めた。若宮朱莉は「ごめんなさい。すぐ戻ってきます」と言って車から降りると無糖のストレートティのペットボトルを二本持って車に戻ってきた。若宮朱莉は「涼真さんもどうぞ」といって、ペットボトルを差し出すと水城涼真は「ありがとう」と言ってカップフォルダーにペットボトルを入れた。その後、高速道路に入ると若宮朱莉が「ふぅ~」と安心したかのような表情で呟いた。


若宮朱莉「涼真さんは丹波周辺の山がお好きなんですか?」

水城涼真「丹波の山はあんまり人気がないけど、絶景ポイントがあるんよ。それに丹波周辺の静かな雰囲気が好きなんよ。俺は人があまりしないことをしたいタイプやからね」

若宮朱莉「そうなんですね。今日の山も展望はいいのでしょうか?」

水城涼真「もちろん、展望はバッチリで丹波の山々を堪能できると思うわ」

若宮朱莉「なるほど。父が登ろうとしていた白髪岳がどんなものかを見るのも楽しみです」


その後、先日の富士山ロケの話で盛り上がっていると、トンガリ山の登山口に到着した。しかし、ここに車を停めてしまうと下山時にかなり道路を歩かないといけなくなるので、ここから800m程離れた広いスペースになっているところに駐車をして登山準備することにした。そして10分ほど登山準備をして車に鍵をかけて、午前8時20分にスタートとなった。


水城涼真「さて、早速登山地図を見てほしいんやけど、車を駐車してるのはここね」

若宮朱莉「なるほど、ちょうど、川が流れているすぐ近くってことですね」

水城涼真「このまま、この道路を南下していって、この鳥居のあるところが薬師堂っていうんやけど、まずはそこまで歩いていく」

若宮朱莉「わかりました」


そのまま10分ほど歩いて薬師堂に到着した。この薬師堂がトンガリ山の入山口となっている。ちなみにトンガリ山とは標高620mの尖峰で、丹波篠山市の四斗谷川沿いから北北西にひときわ目立つ三角の山、南側の八王子山からは槍ヶ岳のような山容で見えることから、一部の人達からは「丹波槍」と呼ばれている。

午前8時35分、薬師堂から入山すると最初はなだらかな登りになっていた。若宮朱莉は地図を見ながら「妙見宮跡まではなだらかな谷が続くようですね」と言いながら歩いていった。そして午前8時48分過ぎ、妙見宮跡に到着した。


若宮朱莉「涼真さん、ここからこの尾根に取り付くはずなんですが、見渡したところ尾根なんてありませんね」

水城涼真「ここちょっと複雑になってるんやけど、尾根は必ずあるからよー探してみて!」

若宮朱莉「わかりました」


若宮朱莉は必死になって尾根をさがしていたが、すると左側に祠があってその左側を回り込んだところに尾根があった。


若宮朱莉「涼真さん!この左側から尾根に登る道があります。ここから登るのが正解じゃないですか?」

水城涼真「朱莉ちゃん、ご名答!ちなみに気づかなかったと思うんやけど、この木に丹波槍の方向を示した小さなプレートがあったんよね」

若宮朱莉「本当ですね。ではここから尾根に登っていきましょう」


それから30分ほど尾根を登っていくと小ピークに登ったのだが、その先は下りになっていた。若宮朱莉は「ここってこのピークですよね?」と言ったので水城涼真は「そうやで」と答えた。すると若宮朱莉は「少しの距離ですが、このピークから一旦下った後、今度は等高線の幅が狭いので急登になるということで間違いないですか?」と言った。水城涼真は「すごいね、もうそこまでわかるようになったんや。その急登のところが、トンガリ山の尖った部分の登りなんよ」と答えた。その後、少しの距離だが急登を登っていった。そして薬師堂から約一時間ほどで標高約620mのトンガリ山の山頂に到着した。この山頂には小さな祠とトンガリ山(620m)と書かれたプレートがあった。ここから南側の展望は少し樹林に遮られていたが、北側の展望は開けていた。


水城涼真「久しぶりにトンガリ山に登ったけど、やっぱ丹波付近の雰囲気はいい感じやわ。静寂で山々連なってる景色がええ良い感じなんよ」

若美朱莉「この静寂な雰囲気の景色、わたしも好きです。これも非日常だと言えますね」

水城涼真「ここの良さがわかる人ってなかなかいないから、わかってもらえたんやったら嬉しいわ」

若美朱莉「あの北東方面にある一番高い山だけ、なんか山肌が違いますね」

水城涼真「あそこは山頂部分が岩場になってるからな。というより、あれが白髪岳なんやけどな。今日はあそこまで歩くんよ?」

若美朱莉「あんなところまで歩くんですか?結構距離がありそうですね」

水城涼真「読図のお勉強はこれからなんよ。まず、ここから一旦北側に下ってこのピークで右に曲がらないといかん。読図のお勉強開始やで」

若宮朱莉「はいっ!読図がんばります!!」


トンガリ山で5分ほど休憩して北側に標高50mほど下って、さらに10m登ったピークに到着した。もはや踏み跡が少しあったので迷いはしなかったが、若宮朱莉は読図をしながら北東へと進んでいった。若宮朱莉は一つ目のピーク、二つ目のピークと数えてながら必死に読図をしていたが水城涼真はあえて口出しせず、後ろからついていった。そしてP570を過ぎて順調に進んでいくと、そこから二つ目のピークで「ここで小休憩にしましょう」と言った。たしかにトンガリ山で休憩をとってから四十分が経過していたので、ここで休憩を入れるのはタイミング的にはバッチリなのだ。そういった時間配分までできるようになった若宮朱莉を見て水城涼真は内心では称賛していた。


若宮朱莉「もうすっかり踏み跡もなくなっちゃいましたね」

水城涼真「まあバリルートってこんなもんやで。歩きやすい尾根道やから楽やねんけどな」

若宮朱莉「地図とコンパスを使ってルートを歩いていくって、冒険しているようで楽しいです!」

水城涼真「せやな。それプラス地形も読めるようになったらもっとおもろいで」

若宮朱莉「がんばります!」


休憩を終えると再び若宮朱莉が先頭を進みだした。そして水城涼真も道を間違えたというP607地点のピークに立った。ここは四差路の尾根になっていて非常に方角を間違えやすいポイントでもある。


若宮朱莉「ここはえっと・・・北東なんだけど、尾根ぽい道がないですね。あれ、違うピークなのかな!?」

水城涼真「さあ、朱莉ちゃんが困ってる。このまま考えて正解が導きだせるんやろか!?」

若宮朱莉「あれ?道は間違ってないはずなのに北東の尾根がない・・・涼真さん、わたし間違っていたのでしょうか?」

水城涼真「間違ってはないんやけど、一つだけ見落としてるんよな。まあその地図やとちょっとわかりにくかったと思うわ」

若宮朱莉「見落としですか?」

水城涼真「実は俺もここで朱莉ちゃんと同じように迷ったからわかるわ。地図をよー見てほしいんやけど、このP607のピークに登る手前で北東の尾根に入ってるんよ。つまりこのピークには登ったらあかんってことやな」

若宮朱莉「たしかに地図でもピークの少し手前で折れてますね。もう涼真さんの意地悪!」

水城涼真「いや、これもええ勉強になったやろ。さあ、ちょっと戻って進んでいこか」

若宮朱莉「はい」


たしかにP607のピークから少し下ったところに北東に伸びる尾根の分岐があった。それから若宮朱莉の予想した道に行ってみた。まず、少し南東に下ってみると、尾根道らしきところがあった。若宮朱莉はコンパスを出すとその尾根道の方角を確認した。コンパスは東を示していたので、この方向で間違いないと確信できたのだ。水城涼真は「朱莉ちゃん、もう読図は完璧やね。これで合ってるよ」と言った。そこから標高50mほど下ったところで踏み跡すらなくなっていた。もう尾根道でもなんでもないような広い道に出たのだ。そこはまるで尾根道の行き止まりのようなところであった。


若宮朱莉「わたし、道を間違えたのでしょうか?ここから尾根道がないように思います」

水城涼真「尾根道は終わってないんやけど、広すぎてわからんだけなんよ。方向的にこれを登るのが正解」

若宮朱莉「これってほぼ無理矢理登る感じになりますよね?」

水城涼真「無理矢理というか、バリルートやからこういうのを無理矢理登らなあかんところもあるんよ」

若宮朱莉「そういえば、正規の登山ルートではなかったですね。がんばって登ります!」


その行き止まりのような登山道を無理矢理登っていくと、ようやく尾根道らしきところに辿り着いた。そして一つのピークに登った時、二人とも息を切らしていた。水城涼真「さすがにあの直登は今でもしんどい」と呟くと若宮朱莉は「はぁはぁ~で、でもなんだか冒険してるみたいで楽しいです」と言った。そのまま尾根道を進んで644mのピークの巻道を使うと、ついに標高689mのピークに辿り着いた。ここで正規の登山道と合流するが、さすがの二人ももうかなり息が切れていたので、ここで少し休憩することにした。


水城涼真「朱莉ちゃん、体力は大丈夫?ここから下って白髪岳の登りは岩場になるよ」

若宮朱莉「大丈夫ですよ。でもさっきの無理矢理登っていった時のほうがしんどかったです」


そこで10分ほど休憩して、息を整えたところでいよいよ白髪岳の登りになった。鎖場が続く急登の岩場になっていたが、意外と簡単に登っていくことができた。そして標高721.8mの白髪岳の山頂に到着した。ちなみに白髪岳は関西百名山の一つで別名で丹波富士とも呼ばれている。頂上からはほぼ360度の視界が広がって丹波山地や盆地などを見渡せる。


水城涼真はザックからバーナーを取り出すとお湯を沸かしはじめた。若宮朱莉も新しく購入したジェットボイルを出してお湯を沸かしはじめた。二人でカップラーメンとおにぎりを食べながら立ち上がった。


水城涼真「朱莉ちゃん、こっち側の景色をみてほしいやんけど、ずっと山が続いてて右側に見えてる山は虚空蔵山という山なんよ。俺はこの素朴な雰囲気がめちゃくちゃ好きなんよね」

若宮朱莉「丹波の山々に囲まれたこの静寂で素朴な雰囲気、とても大好きです!都会では絶対に見れない景色ですよね」

水城涼真「そうやね。なんかここだけ別の世界にいるような感覚になるんよ」

若宮朱莉「それすごくわかります!本当にここは別世界ですよ。父はこの静寂で素朴な雰囲気のあるこの景色を見るのが最終目的だったんですね。今回もわたしがその遺志を継ぐことができたと伝えたいくらいです」


白髪岳をあとにして下り出した。最初は鎖場のある岩のトラバース地帯があったりしながら慎重に下っていった。水城涼真は「朱莉ちゃん、読図ができてたとしても次はどこの尾根を下ればいいかわからんと思うから、俺が先にいくわ」と言った。しばらく岩場を下っていくとわずかな細尾根が見えた。水城涼真は「この尾根を無理矢理下っていくで」というと若宮朱莉は「こんなところ下っていくんですね。これはたしかにわかりません」と言った。草木の間をかきわけながら下っていったが、若宮朱莉はだんだん不安になってきて「本当に道は合っているのでしょうか?」と言った。すると水城涼真は「地形をよくみてみると尾根になってるから間違いないはずや」と答えた。そのまま尾根を30分ほど下っていくとわずかな沢の音が聞こえた。そして、尾根の最後は無理矢理下って沢を渡ると林道の終点だと思われる場所へ辿り着いた。


水城涼真「あとはちょっと長いけど、この林道を歩いていけばすぐ駐車場所に到着するわ」

若宮朱莉「あんな尾根道、よく見つけましたね。これって最初に車を駐車したときにあった沢ですよね?」

水城涼真「そうやで。ちなみに俺が初めて行った時はどうしようかと試行錯誤しながら、この尾根道を見つけたんよ」

若宮朱莉「こういう無茶なこともするんですね。覚悟はしていましたが、はじめてのことでびっくりしちゃいました」

水城涼真「このくらいのことは日常的によーやってるよ。もっと無茶なこともするから覚悟しといてや」

若宮朱莉「覚悟しておきます!」


そんな会話をしているとあっという間に駐車場所へ到着した。水城涼真は「お疲れ様」と言うと、若宮朱莉は「お疲れ様でした。今回も本当に楽しかったです。それに読図もなんとかできるようになったみたいで、ありがとうございました」と言った。二人は荷物を車のトランクに積み込むとさっさと車を走らせて帰宅していった。帰宅中の車内で若宮朱莉が「わたし、丹波周辺の山が大好きになりましたよ。涼真さんの言ってた意味がわかった気がします」と言った。それを聞いた水城涼真は「それならよかった。丹波の山は近いし、手軽に行けるからまた行こうや!」と言った。


これで若宮朱莉の父の登山計画ノートに記載されている山を一つ制覇したことになるが、ここから先はさらに難易度の高い山となる。

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