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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第二章『路地裏のネズミは眠れない』
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第40話『積もる話もありますが』

 ──時を遡ること前日。

 みすぼらしいホームレスたちは街の中を流れる『悪竜川』へとやってきていた。


 ここは様々な人の生活排水が流れており、ホームレスが住む下流は特に汚い。

 だがそれでもホームレスにとっては水。生きていくには欠かせないものだ。


「うぇ、今日も一段と汚ぇな」


「みんながうんこした後の水でもあるからな──お、ラッキー。高そうな食器発見」


「ずるいぞお前! 俺にも寄越せ!」


「早い者勝ちだよバァカ」


 彼らは童心に帰ったかのように水辺ではしゃぎながらバケツに水を組んでいる。

 ホームレスの中には怪我や事故で歩けなくない者も多い。その人のためにも比較的元気なホームレスは水を組んで持っていってあげているのだ。


 全員が社会から外れた孤独な者。だからこそ横の繋がりが重要だ。助け合いの精神──現代人が学ぶべきことがこの場所にはあった。


「クソっ……俺もなにか探さねぇと明日の飯がねぇんだよな」


 だが繋がりだけでは生きていけないのも事実。とある薄汚れたホームレスは血眼になりながら金目の物を探していた。

 そんな時──彼の目に大きな漂流物が映りこんだ。


「やったぁ! ラッキー!」


 誰に教えるでもなくそそくさと移動。漂流物を高らかに持ち上げて叫ぶ。


「これで俺も飯にありつけるぜやった──」



 ──固まる。なぜならそれは──人で会ったからだ。


「──うぇぇ!? 水死体! 水死体じゃねぇか!?」


「やっべぇ死体じゃん! しかも汚ぇ!」


「お前掴んだんだから処理しろよー」


「いや待てよ! ちょっ、お前ら手伝えって──」


 ピクリと。掲げていた人が動いた。よく見てみると呼吸もしている。


「生きてる! この子生きてるぞ!」


「生きてんのか!? このクソ汚い川に流されておきながら!?」


「早く陸に上げろ! 体が冷たいから低体温症かもしれない!」


 ただの日常が一転。流れてきた謎の少年によって、一時波乱が巻き起こったのだった──。



* * *



「──というわけだ。その後はここら辺のホームレスに助けられて今に至っている」


「だから臭ぇのかお前」


「デリカシーの欠片もないのかお前は」


 ダーリンから貰ったパンを貪りながら栄角はことの経緯を話していた。


「しかし……あれだな。地味だな」


「地味とはなんだ地味とは。危うく汚水に溺れて死ぬところだったんだぞ。人類の中でもトップクラスに嫌な死に方をするところだった」


「それはそうだけどよ。なんか波乱というか、なんというか。盛り上がりに欠けるというか」


「お前。そんなことを言うからには、なにか盛り上がりに満ちた物語を聞かせてくれるんだろうな?」


 丸メガネの奥で鋭く光る眼光。……相変わらず、あんまり怖くない。童顔なせいだろうか。


「そう言われると微妙だが……目が覚めたらあの人の家にいて。外を娘のレイってやつと散歩してたらイザコザに巻き込まれてグサッと脇腹を刺された……ってところだな」


「……お前」


 栄角の声が低くなる。


「──そのレイって子は可愛いのか?」


「あ?」


「そのレイって子は可愛いのか?」


「んだよ突然……まぁブスじゃねぇけどよ」


「羨ましいぞこの野郎!」


 突然の叫びにびっくりする大地。


「見てみろ僕を! この寂れたみすぼらしい場所で汚いホームレスと一日を過ごしたというのに……お前は! 可愛い女の子と二人で過ごしてただと!?」


「可愛いとは一言も言ってねぇだろ。ってか、お前その見た目とキャラで性欲あんのかよ」


「当たり前だ。この忌々しい童顔と低身長のせいで女性との交際経験がないんだ。歪むのだって当然だろう?」


「自分で言うのかよソレ……」


 そんな感じで話をしていると──ダーリンともう一人。茶色に変色しかかっている白髪の老人が二人の元へと歩いてきた。


「良かったなぁ大地。地元の友達に再会できて」


「友達じゃねぇ。知り合い未満だ」


「それ完全に他人じゃねぇか」


 大地と老人の目が合う。


「その人は?」


「僕が説明しよう。チャン・ログポーズさん。ここでは略してチンポ爺って言われている」


「略し方もっとどうにかならなかったのかよ。小学生が付けたあだ名みたいになってんぞ」


「近所の子供がそう呼んでいたから、ここでもそう呼ばれてるらしい」


「マジで子どもが付けたあだ名かよ」


「ちなみにチンポも本当に大きいそうだ」


「要らねぇ情報を付け足すな」


 チン……チャンはシワの多い顔をクチャっと潰しながら笑う。


「いやはや。びっくりしたぞ栄角よ。お前の同郷がここに居たとはな」


「しかも昨日の騒ぎの中心にも居たらしいぞ」


「ほほぅ興味深い……お前たちは何やら波乱を起こしそうだな。それも大きな波乱を」


 年老いた目が少しだけギラついた──ような気がした。


「? なんだ知ってたのかお前」


「隣で寝ていたホームレスが言っていた。『夜市で人が刺されたらしい』って。まさかとは思っていたが、よりにもよってお前とは予想できなかった。女連れとも予想はしてなかったが」


「どんだけ根に持ってんだよ」


 乱暴に水を飲み干しながら栄角は言い放つ。前々から分かってはいたが、こいつはかなり面倒なやつだ。


「ところで栄角の友人さんよ。故郷への帰り方は分かるか?」


「こいつが分かってねぇんだろ? なら俺が知ってるわけがねぇ」


「ならちょうどいい。二人でウォルトさんのところへ行ってみなさい。あの人なら何か知ってるかもしれんぞ」


「ウォルトさん?」


 疑問の声を出す大地にダーリンが口を挟む。


「この近くで骨董品店を営んでいてな。どうやら昔は世界各地を旅していたらしい。だからお前らの故郷にも訪れてるかもしれんぞ」


「……どうする田中」


「行くに決まってるだろう」


「でもお前なら分かってると思うけど……ここって俺らの知ってる世界じゃねぇだろ?」


「だからといって留まるのも得策じゃない。僕たちはこの世界のことを何も知らないんだ。帰る方法も必要だが、まずは小さなことでも情報を知る。それが帰還への第一歩だと僕は思うね」


「……お前が言うなら、そうか」


 二人は立ち上がる。


「連れてってくれ。そのウォルトって人のところに」

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