第33話『ヤンキーとかいう生き物』
始まりました第二章。不破たち主人公は一旦休憩。新しい主人公たちの視点になります。最初は現実世界での話ですが、次の話でまた異世界に戻りますから安心してください
赤髪のオールバック。百八十を超える体格に、九十を超える体重。鍛え抜かれた体と刻まれた傷は誰しもを恐れさせた。
それが彼──『遠藤大地』であった。
幼い頃に両親は事故で死亡。親戚の家をタライ回しにされ、グレてしまった大地は、常に喧嘩に明け暮れていた。
来る日も来る日も人を殴り、蹴り、傷つけた。殴る度に人は離れていき、蹴る度に大地の目の前から消えていく。
それが普通だった。普通だと思っていた。このまま誰にも愛されず、理解もされず。こうやって生きていくのかと。そう思っていた──。
「──おい、それ地毛か?」
気まぐれで高校に来てた時だった。
出席日数が足らない、と教師に迫られ、無理やりやってきた大地。特にやる気もなく、机の上に足を置いていた時。突如として横から話しかけられたのだ。
見た目と性格、その経歴も相まって、クラスで話をしてくれる相手はいない。業務的な話をする時も、みんなオドオドしててまともに話すことはない。
そんな時に話しかけられたので、大地は少し驚いた。
「……あ? んだよ」
相手は──『田中栄角』という男子学生だ。
綺麗な七三分け。丸メガネに童顔。比例するように背丈も低めな、見ただけで分かるほどの真面目男である。それか典型的な陰キャ。
「だーかーらー。それは地毛か、って聞いてんだ」
「見て分からねぇのか? 染めてんだよ」
「はぁ? 君さ、この学校は髪染めたらダメっての知らねぇの?」
なんだコイツは。見た目の割に容赦のない物言いに大地はイラッとする。
「うるせぇなぁ、俺の勝手だろ」
「その勝手がダメなんだよ。ほら、見てみろここ」
胸ポケットから取り出した生徒手帳。そこに書かれた校則の一覧表を大地の前に突き出す。
「いいか? この学校に入ったからにゃ、校則ってのは守らなきゃならない。言わば法律と同じなんだよ。君、法律守らねぇのか?」
「法律と規則は違ぇだろ。法律は絶対だけど、規則はあくまでも絶対じゃねぇ。守る守らないは本人次第ってやつだ」
「……君、意外と頭いいんだな。てっきり算数もできない馬鹿だと思ってた」
「あぁ!?」
立ち上がり、威嚇。昔ながらの言葉で言うと、メンチを切る大地。
体格も大きい。そして顔も怖い。おまけに性格も声まで怖いときた。なのに──栄角は怯みすらしない。
睨んでくる大地を睨み返す勢いで前へと足を出す。
「俺が髪を染めたからって、お前になんか損でもあるのか? あ?」
「僕の評価が下がる」
「……は?」
「君は知らないだろうが、僕はこのクラスの委員長だ。それに生徒会の副会長でもある。おそらく次期会長の座も近い。つまりこの学校の『顔』ということだ」
ダイナミックに。大袈裟に。大地の周りを大足で歩きながら、栄角は街頭演説をするかのように話す。
「そんな学校の『顔』たる僕のクラスに。君みたいな『昭和から持ってきたみたいな古臭いヤンキー』が居るってなったら、僕の評価が下がるだろう? そうなったら僕にとって損になる」
「……じ、自分勝手なこと言いやがって」
「君が聞いてきたんだろう。『お前になにか損があるのか?』って」
「っ──このっ!」
あまりにも腹の立つ物言いに堪忍袋の緒が切れた大地は栄角の胸ぐらを掴みあげる。
「お前、あんまり舐めてっと──」
「──逃げたな」
「……あ?」
胸ぐらを掴まれ、殴られる一歩手前。しかし栄角はニヤリと笑っている。
「言葉での討論で暴力に走るのは『自分が負け』と言っているようなものだ。確か君は……喧嘩では負けなし、とか聞いたが?」
「何が……言いてぇ」
「暴力に走ったら、君の負けだ。君は僕みたいな『チビ』で『陰キャ』な僕に負けたことになる。僕は顔が広いからねぇ。それに陰湿な性格をしてる。だからこのことを広めちゃうかも。『不良の遠藤大地くんは、チビで陰キャの田中栄角に負けちゃった』って」
「それ言い方が悪いだろ!?」
「でも僕の勝ちだし。敗者は敗者らしく苦虫でも噛み潰してたらどう? 床の味を聞かせてくれよ。僕は生憎、舐めたことないんだよねぇ」
「て、めぇ……!!」
殴ろうとする──が、栄角は勝ち誇ったようにニヤニヤとしたままだ。
ぶん殴りたい。蹴り飛ばしたい。だがそれをしたら栄角の思い通りになる。何よりもそれが腹立つ。
大地は拳を引っ込めて、栄角を突き放した。
「……やっぱり。君はカス共の中でも、マシな方のカスだ」
「あ、んだと?」
栄角は胸元を整えながら話す。
「不良は総じてカスだ。ヤンキー漫画とか流行ってるが、あんなもん犯罪教唆にしか見えん。人を殴って、怪我させて。それの何がかっこいいのやら」
「それこそ人の勝手だろ。お前の言ってることが正しいなら、ボクシングとかの格闘技をやってるやつはどうなんだよ。そいつらもカスか?」
「当たり前だろ。カスだ」
清々しく言い切る栄角。
「格闘技なんて、やってる奴はカスだ。それを見て楽しんでるのもカスだ。当たり前だろ?」
「お前……それだと、お前の周りはカスばっかりにじゃん」
「あぁそうだ。僕の周りはカスばっかりだ」
またもや言い切る栄角。あまりにも強く言い切るので、大地も反論することができない。
「だから僕が上に立つ。この学校を卒業したら、次はこの日本だ。とっとと上に登り詰めて、『暴力』そのものを禁止にする」
「……お前、馬鹿だろ」
「何を馬鹿なことを。僕ほど頭のいい人間は他にいない」
栄角は大地に詰め寄った。
「さて、今回の勝負は僕の勝ちだ」
「勝負って……俺は負けた覚えはねぇぞ」
「僕の胸ぐらを掴んだ。言っただろ? 討論で暴力に走ったら、そいつの負けだ。つまり君は僕に負けたんだ」
何かを言い返そうとする。だが、いい反論が思い浮かばない。
「明日も出席しろ。その明日もだ。毎日学校に来い」
「は?」
「休日も暇なら来い。僕はどうせ毎日学校にいる。少しくらいなら相手をしてやる」
「ま、待てよ。何勝手なことを──」
「──逃げるのか?」
──栄角はまた腹の立つニヤケ顔を大地に向けた。
「敗者は勝者に従うのがこの世の常と言うものだ。歴史がそう言ってる。そして僕もそれに賛成だ。だから敗者の君は僕に従うべきだ」
「は、ぁ!? ふざけんな! なんでお前の言うことを──」
「──なら仕方ない。『遠藤大地は惨めに敗北したのにも関わらず、駄々を捏ねた』なんて噂を流すことにしよう」
「あ、な、おまっ、お前っ!」
「それが嫌なら学校に来い。どうせまともに授業を受けてないんだ。勉強なんてできないだろ?」
「う……うるせぇな」
図星を付かれて語彙が下がる。その様子を見て栄角は鼻で笑った。
「君はどうやら地頭はいいらしいからな。僕が勉強を教えれば、すぐに今の授業に追いつけるだろう」
「……な、何がしたいんだよ。お前」
「何度も言ってるだろう。僕は僕の評価を上げたい。君に構う理由なんてそれしかない」
腹が立つ。話をしててストレスが溜まる。ここまでイラつく人間は不良でもそう居ないだろう。
眉を震わせている大地に栄角はまたイラつく笑みを浮かべる。
「なんだ? もっと他の理由が良かったか? 『実は大地君のことが気になっててぇ……恋愛的に』ってな感じの?」
「は、ぁ!? ふざ、ふざけんな気持ち悪い!」
「例え話だよ。頬を赤らめるな、こっちまで気恥しくなる」
──大きな鐘の音。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「話は終わりだ。約束は守れよ? じゃないと──」
「──分かった! 来たらいいんだろ来たら!」
「それでいい」
栄角はメガネを整えながら、自分の席へと向かう。
「それじゃあまた明日も待ってるよ。大地君──」
そんな言葉を言い残して──。




