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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第30話『戦いの終わり』

「──その剣は収めてもらおうか」


 ──歩く音がする。服が、鎧が擦れる音がする。剣が左右に振れる音がする。

 ただそれだけ。オーラや殺意のようなものは一切感じられない。だが──ルシュフェルはその一言だけで剣を振るのを止めた。


 ゆっくりと大剣を担ぎ、背後に立っていた男へと目を向ける。


「『傲慢』のルシュフェル、だね」


「……」


 それはとても戦う人間とは思えないほど美しい男だった。

 ガラスのように透明で艶やかな髪。宇宙のような煌びやかな青紫の瞳。筋肉はあるが、どこか華奢な印象にさせる体。


 持っている剣は一本のみ。見た目だけ見れば、とてもルシュフェルには対抗できそうにないような、そんな印象にさせる優男。

 ──そんな男にルシュフェルは今まで以上の殺意と警戒を見せていた。

 並大抵の兵士なら気絶するほどの殺意。その殺意を受けてもなお、男は眉一つ動かさない。


 男はルシュフェルの殺意をモロに受けながらゆっくりと口を開いた。


「名乗らせてもらおうか。僕は──フューエル・ノッチ。ガロウ様直属の騎士団『ラプター』の団長をしているものだ」



* * *



「しつこいわね。無理は良くないわよ? おじいちゃん」


「馬鹿……言うな。まだまだ現役だ……!」


「ははっ! そうでなくっちゃな!」


 村長の体はボロボロだ。肩と腕、脚と腹部にナイフが刺さっており、顔と胴体には複数の打撃を喰らった痕がある。

 呼吸も不規則。強がっていても真っ直ぐに立つことすらままならない。──それでも剣を杖として立ち上がった。


 後ろにはマナ、そして村人がいる。今いる兵士じゃ、目の前の二人を止めることはできない。

 今動けるのは自分だけ。村人を、そして孫を守れるのは自分だけ。ならば倒れることなど許されるはずがない。


「お、ぉおおぉお……!!」


 残りの寿命全てを使ってでも戦う。それが村長として最後に残された使命なのだ──。



 その時──空が割れた。

 赤黒く染まっていた空に真っ黒のヒビが入り、空全体へと広がっていく。


「あー。マジか」


「旦那さんが負けたってことは無いでしょうし、となると……」


「──遅せぇよ、先生」



 ──遠方から雷撃がやってきた。

 質量を持った雷はアローラとノールを焼き尽くそうと蛇のようにうねりながら突撃してくる。

 二人はそれを回避。元いた地面には大きなクレーターが出来上がった。


「お久しぶりですね、ハリソン殿!」


 雷を放った張本人──ガルシアが村長の隣に立った。

 その後ろから何人もの兵士たちがゾロゾロとやってくる。兵士たちは敵兵を次々と制圧。数は一気に逆転。形勢も逆転し始めた。


「これまた随分とボロボロですね! いい気味です!」


「……正直になんでも言う癖は直しておけと言わなかったかガルシア」


「ちゃんと直してますよ! これでも半分ほどしか本音は言ってません!」


 魅力的な好青年みたいな見た目でズケズケと言うガルシア。村長は安心したような、呆れたような顔でため息をついた。


「ちょっとぉ、どうする?」


「領域も割られちまったしなぁ。……仕方ねぇ。逃げるか」


「了解」


「ははは! 逃げるとは面白い冗談だ! 君たちはここで捕まり、拷問にかけられるんだ!」


 笑顔で怖いことを言うガルシアに助けてもらってるはずの村人たちすら恐怖する。

 ──アローラとノールは特に表情を変えることなく胸元から『紫色の宝石』を取り出した。


「私痛いのは嫌いなの」


「アタシもだ! てなわけで、撤退させてもらうぜ!」


 宝石を握り潰す。──すると後方。何も無かったはずの空間に黒色の穴が発生した。


「また暇な時にでも殺し会おうぜ!」


「次はこうはいかないわよ。また会いましょうね。──マナちゃん」


 ガルシアが咄嗟に雷魔法を放つ──しかし二人の方が速かった。黒色の穴へと飛び込み、雷が当たる直前に穴は虚空へと消え去った。



 空は何事も無かったかのように晴れ晴れとしており、美しい星の大群が佇んでいる。

 村の消火は既に行われていたようで、半壊した家屋や畑が周りに広がっていた。


「……はぁ」


「災難でしたねハリソン殿! まさかナイトメアが襲ってくるとは!」


「マナとフデロは……」


 言われるよりも早く衛生兵がやってきていた。気絶しているマナを支え、半身を失っているフデロを見て歯を食いしばっている。


「先生は……『傲慢』のところか。なら安心……だな」


「……副団長殿が死んだのはハリソン殿のせいではありません! あまり自責の念にはかられないでくださいね!」


「……それができりゃ、苦労はしねぇよ」


 安心する村人たちの顔を見ながら、村長は地面に大の字に倒れるのであった。



* * *



 フューエルは剣を抜きながらルシュフェルを睨みつけている。


「どうしても今の子たちを殺したいと言うのなら、先に僕を殺してからにしてもらおうか」


 その顔からは表情が一切読み取れない。今は怒っているのか、喜んでいるのか。はたまた悲しんでいるのか。

 しかし敵意だけはヒシヒシと伝わってくる。ルシュフェルは敵意に答えるように大剣を──。


 ──収めた。


「……やめておこう」


「珍しいね。君は『誰が相手でも叩き潰す』からこその『傲慢』ではなかったかな?」


「貴様を恐れているのではない。この世において一番の強者は我だ。我唯一人が最強だ。──だが」


 ルシュフェルは滝の下、川の方へと目を向ける。


「今回だけは破壊を止めよう」


「敬意というやつかな? それはありがたいことだけど──まさか逃げられるとは思っていないよね?」


「逃げるのではない。我は帰るだけだ」


 ルシュフェルが上空へと手をかざす。──ズッ、という重い音と共に、上空から巨大な何かが降ってきた。

 それは──大きな岩。正しく言うなら『隕石』であった。


「助けなければ、森一帯が消えるぞ。あの三人も死ぬ」


「……見直した僕が馬鹿だったよ」


 フューエルはすぐさま上空へと飛び上がり、隕石の方へと向かっていった。



 指の鳴る音と共に黒い穴が虚空から現れる。ルシュフェルはその穴に入る直前、三人が流されている方へと目を向けた。


「……」


 今回は初めてなことが多かった。

 顔に卵を投げつけられたり、煽られておちょくられたり、そんな相手に敬意を抱いたり。

 もう二度とこんな思いをすることは無いだろう。ルシュフェルはそう感じていた。


 だが──次はない。敬意を払うのは今回だけ。もし次があった時はそしたら──。


「──必ず殺す」


 言葉は誰にも聞こえることなく。黒い空間へと入るルシュフェルであった。



* * *



「……生きてる?」


「死んでる」


 ──三人は運良く川辺へと流されていた。全員仲良く陸地に背中を預け、ぐったりと空を眺めている。

 さっきまで空から隕石が降ってきていたような気がしたが、いつの間にか隕石は砕けてしまっていた。


「ここって……三途の川だっけ?」


「三途の川に隕石なんて落ちるかよバーカ」


「落ちることもあるだろ……三途の川だし」


 不破は両手両足が負傷。特に着地した際の両足は完全にへし折れて青くなっている。

 飛鷹もボロボロ。特に両手の皮は摩擦熱によって焼けており、手の奥の肉まで見えている。

 彩葉も満身創痍。折れた肋骨の本数は三人の中でも一番多く、内蔵にまで損傷は及んでいる。


「ねぇ、俺今両足どうなってんの?」


「聞きたい?」


「聞きたくない」


「じゃあ初めから聞くなよ」


「だって気になる……けど理解した瞬間、俺は耐えられない苦痛に襲われる気がする」


 誰も一歩も動けない。おそらく死神は首筋にまで鎌の刃を押し付けてるだろう。

 死の寸前──だが、三人ともどこか楽しそうであった。


「俺たち頑張ったよな……」


「うん。頑張った頑張った」


「日本史で私たち以上に頑張った人なんていないでしょ……」


 自分たちを虫ケラのように殺すことができるであろう相手に三十分の時間稼ぎをした。こんなの異世界に来る前の自分に言っても信じてもらえないだろう。

 動いて、傷ついて、死にかけて。それでやっと得たものは──満点の星空。それと最高の達成感であった。


「……今さ、死んでも悔いが残らないって思ったんだよ」


「……それで?」


「でもさ……やっぱりまだ死にたくないや」


「悔いが残らないのに?」


「それがだよ。冷静になって思い返してみると、俺って割と悔いが残ってんだよね」


「まぁ悔いが残ってない人間の方が珍しいからね」


 光り輝く流星が空に降り注いでいる。願い事は……考えてる余裕がない。


「……ちょっと休むか」


「私も。なんか息苦しいし」


「肋折れてるからじゃない?」


「言わないで。怖いから」


「……はーい」


 流星の雨を目に焼き付けながら、三人の瞼はゆっくりと降ろされていった。

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