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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第2話『目が覚めたら森の中でした』

 ──時間はまた元に戻り。不破は森の中で途方に暮れていた。


「……なわけないよな」


 冷静に考えてみてほしい。どうしてこれが異世界になるのだ。森なんて歩けばどこにでもある。ここが異世界である根拠がない。


「山の中……今は昼。ちょっと寝て時間が経ってるから十五時くらいかな」


 お昼ご飯は機内食。美人のキャビンアテンダントさんから貰った『シューマイ弁当』を腹に入れている。

 まだ腹には残っているようで、食料の心配をする必要はないだろう。


 しかしそれも時間の問題。救助を待つのもアリだが、いつ来るか分からない救助なんて待ってられない。まずはこの森から脱出を目標とするとしよう。


「ふっふっふ……俺のサバイバル術を舐めるなよ。ディスカバリーチャンネルで予習はバッチリだぜ」


 遭難した時に生命線となるのは『水』の存在だ。人は水を飲まなければ三日しか生きていられない。食料は十日ほど。

 探すのは水の在り処。川でも池でもなんでもいい。水源を確保しなければ。



* * *



 歩き出して早三分。不破の心は早くも折れそうになっていた。


「……やばい」


 ジワジワと不安が体を蝕んでいく。気丈に振舞っていたのは無意識に不安を隠すためだった。

 歩き始めてしまえばメッキは剥がれて朽ちて落ちていく。


「お母さん、心配するだろうな……あと兄貴も」


 頭に浮かぶのは家族の姿。母親は笑って自分を見送ってくれた。兄貴は『土産は寄越せよ』と言うだけだったが。

 迷惑ばかりかけてきたが、今回が一番迷惑をかけてしまうだろう。泣いている姿が目に浮かんできて心が沈んでしまう。


 ──ダメだ。遭難した時に大事なことはナイーブにならないこと。鬱になってしまえば一人じゃ立て直せなくなる。


「そうだそうだ! 楽しいことを考えよう!」


 不破には最高に楽しみなことがある。それは二日目。カンカン照りのビーチで──彩葉の水着を見ることである。


「綺麗なんだろうな……可愛いんだろうな……はぁ」


 ダメだ。好きな人の水着姿を思い浮かべてもナーバスが治らない。

 むしろ次の日を迎えられるのかすら怪しくなってきた。


「ちくしょう……なんで、なんでこんな目に──」



 ふと、草を踏む音が聞こえてきた。

 音の方向は真ん前。カサカサとゴキブリが這うような妙に不快な音。


「──」


 飛びつきたかった。飛び出したかった。しかし飛び出そうにも飛び出せない理由がある。


 こんな森の中に人間がいるのだろうか、という疑問があるからだ。

 圧迫感を感じるようなこの森に人間が住んでいるのか。ここで簡単に考えつくのは野生動物。狼に野犬にイノシシ、最悪の場合はクマに会うことだ。


 もしも人だったとして相手が友好とは限らない。北センチネル島のように人喰い部族かもしれないし。


「……いや現代日本でそんなことは無いか」


 野生動物にしろ人喰い部族にしろ。こんな場所で会う奴はろくなのじゃない。このままスタコラサッサと逃げるに限る──。



 ──固まった。逃げようと思った脚が固まってしまった。


「……は? え?」


 その理由は音の主を見てしまったからだ。狼でも野犬でも猪でも熊でも人喰い部族でもない。異常な生物を。

 熊というにはスタイリッシュ。狼ならば二足歩行はおかしい。──昔話でもよく聞く怪物。『ウェアウルフ(人狼)』のような生き物がそこにいた。


 狼の長いマズル。暗黒の毛並みに筋骨隆々な肉体。熊くらいの巨大な体躯。

 それはウェアウルフとしか言えない見た目。そして見るからに敵対的な生き物であった。


「……ぁ」


 人は恐怖に直面した時、動けなくなることがある。

 不破も例外ではない。ウェアウルフという空想上の生き物を目の前にして体が固まってしまったのだ。


 黒いウェアウルフは不破をじっと見たまま動かない。敵対の意思がないのか──それは無いことを、口から流れている涎で証明していた。



「ガァウ!!」


 低い唸り声。と同時に狼が飛びかかってきた。


「うぉあ!? 会話! まず会話から!」


 固まっていた体が反射的に動く。巨大な体躯は不破の横スレスレを通り過ぎた。


「がルルル……」


「……ぁ、あ、はぁ!?」


 ──と、ここで思考が戻ってきたようだ。さっきまでの無駄な時間を振り返り、過去の自分を殴りたくなる。

 しかし時すでに遅しとはこのこと。ウェアウルフの双眼は不破の姿を見事に捉えている。


 死ぬのか。死んでしまうのか。死ぬような思いはつい先程したと思うが。人生で最高に濃密な数時間と胸を張って言えてしまう。

 どうせ……死ぬなら。抵抗してやる。さっきのような不可抗力の落下じゃない。殺ろうと思えば殺れる。


 地面にあった小枝を拾って立ち上がり、ウェアウルフへと先端を向けた。


「この野郎……や、やってやるよ……」


 ──人はパニックになると思考回路がめちゃくちゃになる。

 この場合、不破の頭から『逃亡』の文字が消え去り、『殺害』の文字が支配していたのだ。


「グルルルァァァ!!」


「う、うぉぉぉぉ!!」


 これは『勇気』ではなく『無謀』という。二倍はあろう体格差の敵と相対し、あまつさえ攻撃しにかかるとは。愚策も愚策だ。

 減速する視界。鈍る思考。走馬灯がチラチラと顔を覗かせる。その時だった──。




「──『マージ・フレア(集約の焔)』」


 ──人狼を貫く焔の矢が発射されたのは。

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