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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第26話『3人目の主人公』

「おい」


 今まで黙っていたルシュフェルが口を開いた。


「そこの殺しておけ」


「了解……旦那さんは?」


 そこの、とはマナのこと。殺そうとしていたマナを他の人に任せる。その理由は──。


「──挑発に乗ってやる」



 ──大剣を一振。いくら大きいとはいえ、三人との距離は数メートル。届くはずはない……のだが、ここは異世界。そして相手は規格外。

 一振の斬撃は空気をも切り裂き。大剣の射程外であるはずの三人の場所まで斬撃は届いた。


「──うぉあ!?」


 横に薙ぎ払われた飛ぶ斬撃を三人は転けるように回避。まさに紙一重。ちょっとでもタイミングがズレていれば上半身と下半身が分断されていた。


「飛ぶ斬撃って……アニメみたいでかっこいい!」


「言っとる場合か!? はよ逃げるぞ!」


 すぐさま立ち上がってダッシュ。次の手を警戒していたルシュフェルは予想外の逃走に少し呆気に取られる。


「誰がまともに相手するかよ! お前、俺たちが言ってたこと忘れたか!?」


「俺らみたいな雑魚が真正面から馬鹿正直に戦うとでも思ったかマヌケ!」


「追いかけられるもんにゃら来てみなさぁい! 美少女のかわちいお尻を追っかけられる機会なんてそうそうないかもよぉ?」


 全身と顔を使って煽りながら卵を二投目。なかなかの精度でルシュフェルに命中──する前に卵を腕で払った。


 コケにしている。馬鹿にしている。誰の目から見ても明らかな事実だ。

 今までこんなにも煽られた姿を見たことがなかったのか、近くにいたアローラは笑いを堪えずにはいられなかった。


「ふ、ふふっ、あの子たち、凄いわねぇ! あはは! 初めて見たわ。旦那さんに卵ぶつける子なんて!」


「……」


「ひゃ、そんな怒らないでよ……」


 無言の圧力に笑っていたアローラも静かになる。


「ほら。行ってきなさいな旦那さん。さっさと行かないと……あの子たちに負けちゃうかもよ?」


「……ふん」


 峰を肩に担ぎ、ルシュフェルは歩き出す。その先は三人が逃げた方角だ。そして目線は三人の背中にある。

 走る三人に対して歩くルシュフェル。強者の余裕だろうか。それとも──。



 ルシュフェルが去り。残されたのはアローラと死体を抱えたマナ。

 邪険に扱われたとてルシュフェルはアローラの上司。言われた命令は必ず遂行しなければならない。


「──まぁ、命令されたことですし、ね」


 今度こその決着。仕舞っていたナイフを取り出して戦闘不能となっているマナへと向ける。


「悪く思わないでね。貴女との戦い。楽しかったわよ──」



 ──稲妻の如き閃光がアローラに襲いかかった。

 右へ左へ降り注ぐ連撃連打。誰かも分からないままギリギリで対処し、バックステップで距離をとる。


「……今日はよく横槍をされるわね」


「──なら、諦めたらどうだ?」


 ──村長だ。普段のおちゃらけた雰囲気はどこへやら。タレ目気味だった目は刃物のように鋭く尖っている。


 村長はマナの方へ目をやった。

 血だらけのマナ。下半身のないフデロ。絶望していたマナの表情から察して、フデロはもう……。

 目を瞑り、ほんの少しだけ気持ちを落ち着かせ──また前を向く。


「親より先に死んだか。バカ息子め……」


 子供時代のフデロが記憶を駆け回る。あんなに小さかった子どもが、今や娘を庇って死ぬほどに成長した。

 何も思わないわけじゃない。心の中はかなり揺れているし、ボロボロだ。


 だが──それで泣き崩れて許される立場でも状況でもない。

 愛息が残した最愛の孫を。マナを。今は守り抜くことに注力する。

 それがフデロへの手向けでもあった。


「悪いが、この子は愚息が残した唯一の孫なんだ。奪われては困る」


「そう。なら残されたお孫さんすらも奪われた時の顔は、さぞ美しいんでしょうね」


 刃の反射と瞳の眼光が共鳴する。その姿が終末のような紅空に驚くほど似合っていて──。


 ──と思ってる内に後ろから飛び蹴りが走ってきた。


「──無視するなよ爺さん!」


 戦闘機並のスピードから放たれる強烈な飛び蹴りを剣でいなしながら反撃。

 曲芸師のような動きで回避したノールは音もなく着地し、アローラを睨む。


「おい! そこの爺さんはアタシんのだぞ! 横取りすんなよ!」


「私は取らないわよ。後ろのマナって子を殺したいだけ」


「じゃあ手ェ出すな!」


「はいはい。だったらちゃんと押さえててね」


「はは、両手に花ってやつだな。いささかトゲが多い気もするが」


 二対一。形勢は不利。そこら辺の兵士なら加勢しても人員の無駄。ただでさえ手が回っていない兵士を無駄に減らすのは得策とは言えない。

 それならばやるべきことは一つ。──この手練二人を同時に一人で相手する。


「あと三十分……二十五分くらいか。さっさと来てくれよ先生……!」



* * *



 場所は平原。隠れる場所などどこにもない開けた大地にて。三人の命をかけた戦いが幕を開けていた──。


「うぉぉぉ──!?」


 愉快なポーズで地面にダイブ──三人がいた場所には綺麗な斬撃跡が残っている。


「おわぁぁぁ──!?」


 また愉快なポーズで空中へダイブ──透明な空気にすらハッキリと見えるほどの衝撃波が三人の真下を通り過ぎる。


「ぎゃぁぁぁ──!?」


 またまた愉快なポーズで緊急回避──変則的な斬撃は髪先を削りながら飛んでいった。


 ……絵面はなかなかギャグだが、本人たちは至って真面目。

 斬撃に当たれば死。立ち止まれば死。あと気分を変えられて殺意を向けられても死。

 本人たちですら、何で死ぬかも分からないような状況。ふざけたポーズながらも三人は緊張感を絶やすことはなかった。


「やっべぇ!? 死ぬ!」


「これ痛み止めの効果切れたら俺ら死んだりしないよな!?」


「言うなよそれ! もう片腕は使えないのとか考えないようにしてるから!」


「うわぁーん! 痛み止めしてるのに呼吸がしずらい! 効果切れたら痛みで死んじゃう!」


「今のダイブで下手したら俺らも肋折れたかもな」


「だから言うなって! 考えたら怖くなるから!」


 ……やっぱり思ってるよりも三人は余裕がありそうだ。


 見えない斬撃を本能で回避し続ける三人。ルシュフェルは少しずつイライラしてきた。

 本気を出せば殺すことなど容易だ。相手は魔力すら持っていない子供三人。本気を出せば一呼吸すらせずに殺せる。


 だが──そんなザコ相手に本気を出すことは『傲慢』であるルシュフェルのプライドが許さない。

 あのザコに本気を出す。仮にそれで殺したとしても、ルシュフェルからすれば自身の敗北を言ってるようなものだ。


「……」


 ──このルシュフェルをコケにした。その罪は償わせなければならない。

 ──だが本気で殺すのは自分のプライドが許さない。


 三人がこれを狙っていたかは不明だ。しかしルシュフェルの心中ではこの相反する感情が入り乱れている。

 狙っていても、狙っていなくても。この感情にさせた手腕には脱帽と言わざるおえない。


「……ふん」


 しばらくぶりの苦戦が、まさかこんなザコ相手とは。世界はやはり広いものだ。自分が一番という認識を改めるつもりは一切ないが。



「なにか! 作戦はあるか!?」


「あるわけないじゃん! なんも考えてないよ!」


「強いて言うなら、平地は危ない! 森で戦う!」


 遮蔽物のない平地で逃げ続けるのは難しい。今は避けられているが、いずれ当たってしまうのは火を見るより明らかだ。

 走り続けるのも正直キツい。あのザコモブとの戦いで疲弊してる三人に残された体力はごく僅かであった。


「せめて呼吸さえ整えられたら作戦とか思いつくかも!」


「つーか疲れた! 休憩したい!」


「頼めば一時休戦とかしてくれないかな?」


「頼んでみるか? 俺は一秒で粉微塵にされる未来が見える」


 目的地の森までは数百メートル。それまで障害物すらない平地でルシュフェルの攻撃を避け続けなければならない。


「どうする……どうする……」


「瞬間移動は? 使って時間短縮とかは?」


「連続で使えないのはまぁいいが、着地の隙を狙われる可能性がある。綺麗に受身を取れる自信はあるか? 俺は無い」


「怪我さえなかったら完璧の自信あるよ!」


「彩葉ちゃん万全の状態でも無理でしょ。運動音痴だし」


 数メートルでも射程距離があったなら、いくらでもやりようがあるだろうが、残念なことに不破の使える瞬間移動は射程距離が一センチ。

 めり込みの反発力を使ったとしても後隙を狙われて終わりだ。


「髪の毛でなんかできない?」


「髪の毛……どうするの。あやとりでもして注意を引く?」


「それほとんど人間デコイだろ」


「同じように後頭部狙いの攻撃も通用するとは思えないしなぁ……」


 髪の毛でトラップを作るにしても、平地に設置するトラップなどたかが知れてる。

 後頭部狙いの攻撃も当たるとは思えないし、当たったとしてもダメージがあるかどうかすら怪しい。


 不破のスキルは使えない。彩葉のスキルも使えない。だったら残されたのは──。


「……でも俺のスキルじゃ、何も出来ないぞ」


 飛鷹のスキルは三分間の水中呼吸停止。水の中という制約があって使えるもの。しかも制約を守ったとして、使える能力は三分間だけ息を止めれるという使い所が微妙なスキル。

 このような状況下じゃどう足掻いても使いようがない。


「どうする……どうしたらいい……!?」


 使えるものをかき集めろ。考えろ。考え抜け。そしてこの状況を脱するのだ。


 道具はなし。現代知識も今の状況じゃ使えない。肉体はよわよわで。魔力とかいう不思議パワーも持っていない。

 持っているのは一つだけ。この世界に連れてこられた際に与えられたギフト。──スキルである。


 たとえハズレだったとしても。それは異能であるのだ。使用することのできる特殊能力なのだ。


「思いついてくれ……なにか──」



 ──せめて呼吸さえ整えられたら。


「──あ」


 成功するかは不明。仕様の裏をつく希望的観測の作戦なので失敗する可能性の方が高い。

 だが──飛鷹は思いついた。自らに与えられた恩賞であるスキル。ハズレだと思い込んでいたスキルの活用方法が。


「おい。中圧水筒は持ってるか?」


「え? あぁ。なんだかんだで持ちっぱだったなこれ」


「ちょっと貸してくれ」


「何するの?」


 手にした丸い水筒を見つめながら飛鷹はニヤリと笑って答えた。


「思いついたんだよ。二人みたいに──主人公の仲間入りをする方法がな」

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