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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第24話『再来のヒーロー』

 マナの体は家屋を突き破って奥へ奥へと押し込まれる。そして──石の外壁に叩きつけられ停止した。


「が……ふっ……」


 油断した。これは、ヤバい。

 刺されたのは腹部。腸の位置を切り裂かれた。血が止まらない。赤い血が服を侵食していく。


 立たないと。立たなければ攻撃がやってくる。座ったままでは反撃できない。魔力を練って対抗しないと。

 腹を抑えながら立ち上がり、魔力を──。


「あ──」


 ──死を宿すナイフは。マナの前までやってきていた。



「──ぬぅぅぅん!!」


 何本も迫ってきていたナイフはフデロの一振によって全て弾かれた。


「お父さん……!」


「逃げろと言っただろマナ!」


「だ、だって……」


「あら、また面倒な人が」


 ナイフを両手に。アローラは幽鬼のように揺れながら歩み寄ってくる。


「今度こそ逃げろマナ!」


「わ、私はまだ、戦える!」


「いい加減に──」



 ──マナの後ろに、男は立っていた。

 傲慢な態度は変わらず。男の手にある大剣も変わらず。

 その刃は上へと振り上げられ、鋭い銀光は──マナへと向けられていた。


 自分の子供が殺されようとしている。そうなった時、大半の両親はどうするだろうか。

 大方予想はつくだろう。騎士団の副団長であるフデロ。だがフデロは騎士団である前に父親であったのだ──。



* * *



「──え」


 突き飛ばされる衝撃を受け、マナは地面に転がる。


「お父さ──」



 ──さっきまで父親だったものがマナの足元に倒れていた。

 あるべき足がない。あるべき腰がない。あるのは腹から上。上半身だけしか残っていない。


「──傲慢。この我と向き合っている間に他の場所へ行くとは。なんたる傲慢、なんたる大罪よ」


 男──ルシュフェルは冷たく侮蔑するような視線で死体となったフデロを睨みつけていた。その視線に敬意などあろうはずもなく。

 ただただ見下し。ただただ軽蔑する。死人を、死者を。愚弄しかしていない顔であった。


 マナはまだルシュフェルの存在に気がついていない。倒れたフデロを見つめ、そっと抱き寄せる。


「おと……おと、さん……」


 死んだ。呼吸が止まっている。心臓が止まっている。抱き寄せたからか、足元に腸がポロポロと落ちてきた。

 死んだ。死んでいる。体が冷たくなってきている。体が硬くなってきているを

 死んだ。死んだ。なんで死んだの。なんで死んだのか。なんで──。


 ──私のせいか。


「へぁ、ぁは、は、あぁ、ああああ」


 さっさと避難していれば。さっさと逃げてれば。父は自分を庇わずにすんだ。死なずにすんだ。生きていたはずだ。

 生きていたはず……自分が居なければ。自分のせいで。自分のせいで──。


「ああああああああぁぁぁ…………!!」


 私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせいで──。


 ──父も。死んだ。



* * *



 ──フデロが死ぬ瞬間は、村人たちの目にも入っていた。


「──きゃぁぁぁ!?」


「フデ、フデロ!」


「おじさん!」


 あまりにも残酷な現実。子供には目を覆い、昔からフデロを知る人は口を覆う。

 衝撃。絶望。村人の表情に絶望が出るのに時間はかかるはずもなかった。


 それは──現代人の三人も一緒のことだった。

 自分よりも圧倒的に強く頼りにしていたマナが敗北し。そのマナや村人が頼りにしていたフデロが惨殺される。

 悪夢、それ以外に表現のしようがない。紅い空は現実感を無くすが、これは現実のこと。悪夢ではなく事実としての現実なのであった。


「副団長……!」


 それでも訓練された兵士たちは違う。震える脚を食いしばり、剣を握る。

 慕っていた副団長が死んだとしても。彼が残した任務は継続されている。


 ──この村の人は絶対に死なせない。


 誰も死なせない。自分の命に変えても村人は守る。

 副団長は命を懸けて娘を守った。なら自分たちも命を懸けて村人たちを守る。

 それこそが彼らにできる唯一の手向け。死んだ副団長の無念を晴らすためにできる行動であった。


「マナちゃんを連れて来ます」


「ここを動かないでください」


 一人の兵士を残して二人は死地へ。副団長が命を捨てても残したマナ。彼女を連れてくる。

 マナも村人の一人。兵士たちにとっては守る対象であった。



「ちょっとぉ旦那さん。私の獲物を横取りしないでくださいよ」


「貴様の傲慢な態度。直せと何度も言ってるであろう。俺にまた注意させるというのか」


「旦那さんにだけは言われたくないんですけど」


 発狂するマナを無視して二人は向かってくる兵士を見ていた。


「……傲慢。悪逆。この世には大罪を犯す者が多すぎる」



 ──恐怖が。全てを包み込む。


「──」


 それは殺気であった。ルシュフェルが放った猛烈な殺意。巨大で、絶対で、悪意に染まった『死』そのもの。

 人が放てる上限を超えた殺意が二人の兵士に向けられる。


 あれだけ盛っていた兵士も殺意を受けて気合は消滅。その場に膝から崩れ落ち、失禁しながら震えはじめた。


「ひぃ。怖い怖い。旦那さん、それする時は事前に言ってくださいよ」


 ルシュフェルは無視し──目下で震えるマナに視線を向けた。


 自分に向けられてないと分かっていても死を連想するほどの殺意。間近で受けたマナは父親の死体を持って子犬のように震えていた。

 父親の意見を無視して戦い完全敗北。自分のせいで父親は死に。父親を殺した男の殺意のみで闘争心は完全に消される。

 なんて無様で。なんて馬鹿らしい。既にマナの心は再起不能なほどに折れていた。壊れて、砕けて、ボロボロに──。



* * *



 どうにもできない。この状況を打開する手が浮かび上がらない。


「……はは」


「終わり……かよ」


「せっかく生き残ったのに……」


 必死に戦って。必死に生きた。もう……十分だろう。

 マナですら倒せなかった奴を倒すことなんてできやしない。勝てるわけがない。


「ちくしょう……」


 思い出した。──最初からこの世界に希望なんてなかったのだ。何を勘違いしていたのだ。

 全部を救える力なんてなかった。ずっと弱くて。ずっと貧弱で。守ってもらってばっかりで。

 アニメや漫画のように強い力なんてない。チートスキルで無双なんてできないし。ヒーローのように格好つけて登場もできない。


 元から変わらなかった。異世界に来たところで変わるはずもなかった。

 変わらないまま、この場所で命を終えていく。無情な話だ。最悪のバットエンドだ。でもそれが現実だ。


 帰りたい。家に帰りたい。なんでこんなことになったのだろう。自分たちが何か悪いことをしたのか。

 していない。何も悪いことはしていない。もっと、自分たちよりも悪い人は沢山いる。いるはずだ。自分たちよりも酷い目に会うべき人間はいるはずだ。


「帰りたいよ……パパ……ママ……」


「なんでだよ……クソっ……」


 希望を与える英雄なんていない。夢を与えるヒーローなんていない。ここにあるのは絶望のみ。

 紅の空は晴れることなく。この地獄のような世界で命は消えてゆくのだろう──。



* * *



「──不破! 飛鷹! 彩葉お姉ちゃん!」


 ……ユウカ。アラン。ストア。三人が絶望している不破たちを揺らす。


「お願い! マナお姉ちゃんを助けてあげて!」


「……」


「不破ならできるでしょ! クマに襲われた時も守ってくれたもん!」


「私のこと、助けてくれた!」


 懇願だった。二桁にも満たない少年少女の懇願だった。

 三人は泣きながら頼んでいる。助けてあげてほしいと。──この絶望的な状況に抗ってほしいと。


 子供の頼みは断れない。だがそれも状況による。今の三人に何かを変える力など持ってなどいない。あるなら欲しいくらいだ。


「……無理だ。俺らにはどうにもできない」


「私たちを見てみてよ……みんなが簡単に倒せるような奴を相手に三人がかりで挑んでこれだよ? ……弱いの。すっごく弱いの私たち……」


「俺たちは……ダメだ。俺たちは……」


 顔を……見れない。子供の願いを。子供の頼みを。自分たちの弱さを理由に払いのけているのだ。

 恥知らずで厚顔無恥。こんな人間に誰が希望を向けるというのだ。誰が笑ってくれるというのだ──。


「──不破たちならできるよ!」


「そうだよ!」


 ──だが子供たちは頼みを止めない。弱音を吐いた三人に変わらず声を上げ続ける。


「……できる? そんな馬鹿な。俺らは……弱いんだよ。何も出来ないくせに、何かが出来るようなフリをしてただけなんだよ」


「ごめん……ね。ごめん……」


 情けない。情けなさすぎて涙が出てきた。もう止められない。ダムが決壊したかのように止められない──。



「──弱く、なんかないよ」


 ──ストアは言った。


「僕が転んでミカンクマに襲われそうになった時。彩葉お姉ちゃんは庇ってくれたでしょ? 不破は前に出てくれたでしょ?」


「ミカンを投げて助けを呼んだのは不破だよ! 不破がいなかったら思いつかなかった! 僕らだけじゃ思いつかなかった!」


「二人がいなかったら、私はあの時に死んでた! 絶対に死んでた! それを助けてくれたのは不破と彩葉お姉ちゃんだもん!」


 それだけじゃない。子供たちはこの一週間。三人がしたことを拙い言葉で羅列していった。


 ──暴れる魚を押さえつけたこと。

 ──転びそうになったのを支えてくれたこと。

 ──嫌いな食べ物をこっそり食べてくれたこと。


 後半になるにつれて若干弱くなっている気もするが……とにかく子供たちは話し続ける。

 気持ちが昂り、言葉に涙が篭もる。──この子達も限界だったのだ。


「他にも、他にもいっぱいあるんだよ?」


「不破たちは弱くなんかないよ!」


「そりゃ強くなんかないけど……弱いなんてことは無い。絶対に……!」


 泣いて。泣いて──手を握る。

 暖かくて、柔らかくて、優しくて。手の甲に落ちる涙が灼熱のように熱い。


「不破も飛鷹も彩葉お姉ちゃんも……私たちからしたら──ヒーローなんだもん……!」


 ──子供たちが。泣いて頭を下げている。泣いて頼み込んでいる。泣きじゃくりながら懇願している。

 なのに自分たちは何をしているんだ。何を立ち止まっているんだ。


「……そうだな」


 弱いからなんだ。絶望がなんだ。絶対的な壁など、とうの昔に分かっていたはずだろう。

 ハズレスキルを持った時から。まともに戦えない、なんて分かりきったことじゃないか。


「……あぁ、そうだ」


 弱い。最弱。クソザコ。子供にすら負けるフィジカル。

 魔法なんて使えない。唯一使える権能はゴミみたいな特殊能力。

 神様はどれだけ自分たちを痛めつけたいのだ。まったく。難易度ハードはゲームでのみ楽しめるものだぞ。


「私たちはヒーローなんだもんね」


 弱い弱い。弱い。力もないし。頭も足りない。何も足りない。自分たちは足りないものだらけだ。


 ──だから何だ。


 弱くても。強くなくても。チートスキルなんかなくても。──自分たちは子どものヒーローなのだ。

 戦え。戦って、勝つのだ。ヒーローなんだから。悪が栄えることなんて、あってはならないのだから。


「やってやるよ……」


「最後に勝つのはヒーローだからな……!」


「私たちに──任せて!」


 やるのだ。やってやる。ヒーローの力を。英雄の輝きを。子供たちに見せつけてやるのだ──。

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