第22話『死闘の裏の死闘』
不破たちの死闘の裏でも。また違う死闘が幕を開けていた。
「ぬぉぉぉ!!」
「──ふん」
フデロと傲慢『ルシュフェル』との戦い。二人がぶつかり合う金属音は村全体に轟いていた。
剣と大盾というシンプルな武器で迫るフデロに対し、ルシュフェルは大剣という扱いの難しい武器で難なく捌いている。
大剣の大きさは規格外。刃の部分だけでもマナや彩葉の身長を超えるほど。
パワーは見れば分かる。大きさも見れば分かる。なら大剣を操るスピードはどうだ。これほど大きい剣ならば振るのにも一苦労しそうだが──持ち主のルシュフェルも規格外であった。
常人なら持つことすらままならない大剣を、まるでナイフを振り回すかのようなスピードで動かしているのだ。
単純な剣速なら鋼剣のフデロよりも速い。まさに怪物だ。
「ぬ、ぉぉぉ!!」
だがフデロも負けてはいない。身体能力で遥かに上を取られているのなら、その差を技術力で埋める。
本来は防御目的で使う大盾をルシュフェルの前に突き出し、視界を奪いながら剣を振る。隙がなかなか出来ないのなら作るだけ。
体を右へ左へ高速移動。視界を塞ぎながら回り込み切りつける。
動きに一切の無駄がない。さすがは副団長。その他の雑兵と比べるのすらおこがましいほどの完成度だ。
フデロがルシュフェルを抑えている間に兵士たちは敵兵を止めつつ、村人たちを一点に集めていた。
「村人はこれで全員か!?」
「マナちゃんと村長以外は全員揃ってます!」
「あの二人なら大丈夫だろう! あんたたちは必ず俺らが守る! だからここを動かないでくれ!」
とりあえず一安心──じゃない。子供たちが叫んだ。
「ま、待って! 不破と飛鷹がいない!」
「彩葉お姉ちゃんも!」
「明日アドラスバースへ行く予定だった子たちか!?」
「うん!」
「冗談だろ……!」
森へ敵側の兵士が向かっているのは確認している。もし見つかれば命はないだろう。
助けに……行きたいが、助けられない理由もある。
「わ、私たちが探しに──」
「ダメだ! ここを離れられたら俺らが守れない!」
兵士の人数は限られている。少数ともなれば、たった一人の欠員が大きな失敗を招くこともある。
現在、村人たちの警備をしている兵士はたったの三人。前衛で戦っている兵士もカツカツでこれ以上は増やせない。
さらに抑えきれなくなった敵も徐々にこちらへと襲いかかってきていた。一人減ればそれだけ村人が死傷する可能性が増えてしまう。
「マナちゃんがどこにいるのか分かるか?」
「私たちが最後に見たのは……フデロと一緒に居たところだから」
「じゃあ多分まだ前線にいるのか……クソっ」
打つ手なし。無情だが、たった三人のために大勢の命を危険に晒すことはできない。
ここは生き残ってくれることを信じて待つ。それが最良の選択だ。
「ね、ねぇ。本当に大丈夫なの?」
「早く私たちを逃がしてよ!」
「怖いよぉママぁ!」
「大丈夫。フデロおじさんが絶対に助けてくれるからね」
村人の間に不安という名の伝染病が急速に蔓延していく。
燃えるような紅い空。そして絶望感を煽る『傲慢』の存在。連続で襲いかかる命の危機に村人たちの精神も徐々に追い詰められてきていた。
「なんでここから離れないのですか! 今なら敵も来ていません!」
「『領域』が貼られてるんだ! 下手に外側へ逃げれば、追い詰められてしまう!」
『領域』とは、外と内を分かつ分断魔法の一種である。
分断魔法には『領域』と『結界』の二種類が存在し、領域は内側へと対象を閉じ込め、結界は外側からの干渉を防ぐ、という特徴がある。
今回貼られているのは『領域』であり、領域は内側の生物を閉じ込める作用がある。
なので逃げようと外側へ向かっても壁に阻まれて逃げることは不可。下手すれば追いかけてきた敵に追い詰められる可能性もあった。
「じゃあ我らは……もう助からないのですか……」
「そんな……」
「いやぁ! 死にたくないぃ!」
──押しとどめていた不安が爆発。叫び、絶叫。恐怖と涙が村人たちへ広がっていく。
「──落ち着け! そんなことは無い!」
不安が広がれば混乱を招く。混沌が地獄を作り出す。そうなってしまえば敵の思うツボ。
だから不安にさせない為にも──というのもあった。
だが兵士が叫んだのは違う理由から。村人たちの間違いを正すためである。
「昨日から遠征していた他の部隊と今日の夜落ち合うことになっていた! あと三十分もすれば領域の存在に気がついて援軍に来てくれるはずだ!」
「や、やった……!」
「でも三十分もなんて……それに来たとしても『傲慢』が相手じゃあ──」
「安心しろ。その援軍には──ガイム団長がいる」
* * *
一方その頃。マナと村長は兵士たちに混じって戦っていた。
「マナ! お前フデロに逃げろとか言われてなかったか!?」
「私だって戦えるもん!」
炎魔法で敵を一掃。溢れた残党は村長や兵士たちがトドメを刺す。
実に効率的なやり方。敵も無限湧きをしてる訳じゃない。このままいけば全滅させられるかも。
──そう思っているのはマナだけ。村長と兵士たちは少し違和感を感じていた。
「元副団長様。どう思いますか」
「引退したんだ。その言い方はやめろ」
「なら村長様。どう思いますか」
「……奇妙だ。歳をとったとはいえ、全然動けない」
マナはまだ気がついていないが、前衛で戦っている兵士と村長はその違和感にいち早く気がついた。
普段は一時間走り回っても息切れすらしない兵士たちが、たった十分程度の戦いで疲労を起こしている。この戦いが初戦闘の兵士もいるにはいるが、大半が熟練した兵士たちだ。
おまけに体の動きも鈍すぎる。本来なら今戦っている敵兵くらいなら簡単に倒せるはずなのだ。しかし魔法を食らって弱った敵兵相手にも少し苦戦してしまう。
──異常だ。相手は魔法を放った形跡はなし。ならなんでこのようなことになっているのだ。
「魔道具の可能性は?」
「それらしき物は見当たりません」
「魔法は使ってないはず。だとしたら──」
「──スキル、ですかね」
相手側の誰かが発動しているスキル。誰が使ってるかは何となく予想できるが。
「フロウ・フレア! マージ・フレア!」
焼いて、焼いて、焼き尽くす。村に被害が出ないように。村人に火の粉がかからないように。精密に、正確に魔法を操り敵兵を倒していく。
戦える。父親のようにとまではいかずとも、戦うことができる。もうあの時のようなことにはならない──。
「──ギャハハ!!」
──紅い空から黒色の流星が降り注いできた。
「マナ!!」
マナよりも先に村長が反応。直線的にやってきた人間に対して剣を振るって弾く。
「俺の孫に簡単に触れられると思うなよ」
「……」
──人。美しく降り注いできたのは人であった。
どす黒い焦げ茶の髪。胸元がはだけた道着。動き回ることに特化した改造が施されている。
そして、それに見合う体つき。女性ながら筋肉質。だが肥大化してるわけでなく、女性らしさを残しながらも攻撃的な体付きだ。
顔もほどよく美形。男なら攻撃するのに戸惑いそうなほどの見た目はしている。
だが──それらを台無しにするほどの殺意、狂気が彼女の身に纏われていた。
「──いいねぇ、いいねぇ! 悪くないよお爺さん!」
紫色の毒々しい瞳を揺らめかせながら、女はドスの効いた声を震わせる。
「アタシの名前はノール! アンタは!?」
「ハリソン・ニャックス。皆からは村長って呼ばれてるぜ」
いつも通りのふざけた声。ながらも剣を構えて闘気を放っている。どのタイミングで戦闘が始まってもいいように。
それに応えるかの如く。ノールは構えて闘気を放っていた。
「ルシュフェルの旦那はつまんねぇ獲物ばっかり狩りやがるからなぁ! ひっさびさに強そうな奴だ! さぁ、戦おうぜ! 全身全霊で! 互いの命を込めてなぁ!」
「こら。女の子はもうちょっと丁寧な言葉を使いな──さい!!」
──村長の剣と女のハイキックが衝突。生身と鋼がぶつかったとは思えないほどの衝撃波がマナに降りかかった。
「村、おじいちゃ──!」
加勢しようと魔力を溜める──その瞬間。マナの眼前をナイフが通り過ぎた。
「──ズルはダメよ。お嬢ちゃん」
──また女だ。兵士の死体を踏みつけながら、マナの方へと歩いてくる。
艶のあるコケの生えたような緑髪。劣情を煽るようなセンシティブな肉体と強調するかのようなセクシーな服装。
そして──それらを台無しにするような、腰に引っさげてあるナイフ。並んでいるどれもに乾いた血の跡が付いてあった。
この台無し具合。よく考えなくてもノールの仲間。もっと言えば傲慢の部下だ。溢れ出ている魔力量からして、他の雑兵よりも実力は数段上。
おそらく……マナよりも強い。人殺しの経験も相手の方が上そうだ。
「ノールちゃんが楽しんでるところに横槍はダメよ。アナタは──私と楽しみましょう?」
「……断ることはできなさそうですね」
炎を両手に纏わせる。戦闘準備は万端。時間をかければ不利になるのはこちら。速攻で終わらせる。
──相手も同じことを思ったようだ。両手にナイフを挟み込み、投げる準備を終える。
「──アローラよ。今夜はじっくり楽しみましょうか」
「マナ・ニャックス。貴女を討伐します!」
うねりを上げる豪炎と殺意の塊であるナイフが衝突した──。




