第20話『VSザコモブ②』
痛い。動かすだけで痛い。灼熱のマグマを腕に垂らされているかのようだ。
痛い。止血しようと傷の部分を握っているが、それでも痛い。これほどの大怪我は初めてだ。骨も半分くらい切れてると思う。
痛い。泣き叫びたい。逃げたい。泣き喚いて走り回って『この傷は痛いんだよ』とみんなに慰めてもらいたい。
みんなに──みんなに、って誰だ。
村人か。村長か。マナか。クラスメイトか。飛鷹か。彩葉か。兄貴か。母親か。──全員にだ。
「ぐ、ぬぅぅぅ……!!」
動けない理由は『痛み』だ。痛みを無視すれば動くことはできる。
服を引きちぎり、負傷部に強く縛り付ける。白い服が患部に当てた途端に熱を持ったかのように真っ赤になった。
「ぐそぐそ……絶対生きてやる……死んでたまるか、ごんぢくしょう!」
どうせ傷は後から回復させてくれる。多少バイ菌が入ったとしても、数分で全身に回るなんてことは無い。はずだ。
ならば動け。動いて戦え。二人も戦ってるのだ。自分だけ動かないなんてのは道理にならない。
戦え。戦うのだ。戦って帰るのだ。生きて帰るのだ。元の世界に──。
──不破が戦線復帰。地面の石を掴んで振りかぶる。
「あぁぁぁぁ! 瞬間移動ォ!」
気合一閃。自身が振りかぶったパワーと瞬間移動による反発。組み合わさった石の弾丸が手から発射された。
まさしく超速。その速度は発射された銃弾にも匹敵するレベルだ。それを──。
「──あぁ!?」
──振り向きざまに片手で受け止められる。
流石に頭おかしい。目測ではあるが銃弾の速度だぞ。いくら異世界でも限度ってものがあるだろう。
男は目をギラつかせながら斬りかかってきた。まずは唐竹割りの一閃。
「っぅお!?」
これは下がって避ける。スピードは常軌を逸しているが避けられないほどじゃない。ちゃんと見てれば夜蹴られる範疇だ。
しかし連撃となると厳しいものがある。続く横一閃も回避はするが、体勢を崩して地面に転んだ。
「チッ、やば──」
襲いかかってくる不可避の斬撃。あれだけ自分に発破をかけてもこの程度。やはりこの異世界は現代人に厳しすぎる──。
──なんて思いを馳せていた。そのタイミングで突如、男の後頭部に石が叩きつけられた。
「ぉ──!?」
飛鷹だった。必死の形相で石を振り抜いていた。
飛鷹も思いは同じ。痛いし辛い。背中はまだ妙な感覚に襲われている。
だが戦う。血まみれだろうと、なんだろうと。戦って、生きて、元の世界に帰るのだ。
男は少し怯むが、すぐに視線を飛鷹へと移した。
「気絶っしろよっ!」
そんな思いも虚しく。振り向きながらの一閃。後ろに下がって致命傷は避ける。──しかし胸と両方の二の腕が軽く裂けてしまった。
「いってぇ……!」
「このっ──」
体勢を崩した飛鷹に斬りかかる──ところへすかさず不破の攻撃。手にした石で男の側頭部をぶん殴る。
「っ──邪魔なんだよ!!」
怒りのまま裏拳。石を捧げるようにガードするが、軽く貫通して殴り飛ばされる。
木を薙ぎ倒して停止。石で軽減はされたが、防御した前腕にヒビが入った。
「ぐ……折れて──ないっ!」
言い聞かせるようにして踏み込む。脳内麻薬は二人ともドバドバ。痛みと興奮でテンションまで上がっている。
魔力は剣に集約し始める。
「させるか!」
不破たちには魔力を視認することはできない。だがなんとなくで魔力が動いているのは分かる。これが第六感と言うものなのだろうか。
ともかく魔法攻撃をしようとしている。阻止しようと動いたのは飛鷹だ。
近くに武器になるものがなかったので肘で男の側頭部をぶん殴る。
「てめっ、頭ばっかり狙いやがってクソガキ共がぁ!!」
「いっでっ、嫌ならとっとと気絶しろや!!」
やけくそ気味に振り回した剣が飛鷹にヒット。右肩から左脇腹までを袈裟斬りにする。
「ぐぁっ……」
切断。分解──まではいかないが重症だ。血を噴射しながら地面に倒れる。
このままじゃ気が収まらない。それに生きていたら必ずコイツらは邪魔してくる。必ず滅殺しなければ──。
──そんな考え事をしてはダメ。考えて隙を晒してしまえば不破たちの思うツボだ。
角張った石を手に入れた不破がジャンピングアタック。尖った石を後頭部へと食い込ませた。
「ぐ、ぉ、あああ!!?」
反射的に振り向いた際に男の肘が不破の頬を貫いた。
「ぶっ──!?」
歯を数本。そして頬骨が砕かれ、割れた歯が口の中をズタズタにしてくる。
「ぶっ、ぷっ!」
気持ち悪い感触だ。歯が割れる時っていうのは、どうしてこうも不快な感覚になるのだ。
割れた歯を地面に吐き捨てる。なんか頬の辺りの骨も割れた気がするが今は無視無視。
「あぁあぁああああ!! 調子に乗る──」
罵声と怒号を浴びせる──前に飛鷹が近くに落ちてた木の棒を男のアキレス腱に突き刺した。
「っづぁああ!?」
「──飛鷹!!」
不破は手にしていた石を飛鷹に投げ渡す。飛鷹は石をキャッチ。不破は地面から柔い土をすくい取り、男の目元へと投げつけた。
「っらぁ!!」
「ぁ!?」
土により視界は暗転。一瞬にして暗闇へと包まれる。
突然、目の前が暗くなった時、人間がする行動パターンは主に二つ。体を丸めるか、周りに対して攻撃的になる。
この男の場合は──後者であった。
また攻撃されることを嫌い、飛鷹のいる方へと剣を振るう──。
──しかしそこは少し前に飛鷹が居た場所。既に飛鷹は反対側へと移動していた。
「っだらぁ!!」
三度目、四度目……何度目かの正直。男の側頭部に石を叩きつけた。
「──」
──男の目が白く変化する。
「やった──」
──すぐに復帰。瞬時に魔力を両手に込めて地面を叩く。
「──アース・ヒートデット!!」
瞬間、地面から八方向に岩柱が勢いよく飛び出してきた。
「なっ──!?」
「はぁ──!?」
飛鷹は当たる直前に石でガード──するが、衝撃は分散しきれずに吹っ飛ばされる。
不破は既にヒビが入っていた片腕でガード。飛鷹と同じくぶっ飛ばされる。
「はぁはぁ……クソが……ザコの癖にイキリやがって……」
男は重症だ。度重なる頭へのダメージで頭部からおびただしい出血。普通に立っていることすらできていない。
だが重症なのは不破と飛鷹も同様だ。
魔法を素手でガードした代償は大きく。不破の片腕は青紫色に痛々しく染まり、完璧にへし折れていた。
飛鷹は防御こそしたものの、ダメージは大きく。地面への落下時に背中をまた強打してしまった。
まさに満身創痍。全員がボロボロの瀕死状態。誰がいつダウンしてもおかしくない状況だ。
だが──忘れてはいないだろうか。あと一人、この場には存在している人間がいる。
「でも……これで……最後だ……」
足元がおぼつかないままフラフラと飛鷹の場所まで剣を引きずる。
逃げないと。逃げないとだが、背中を強打したせいか動けない。
「クソ……」
「まて……こら──」
言うことを聞くわけもなく。男は剣を振り上げる。
「お、らぁ──!」
重量でユラユラと揺れながら、剣は飛鷹に振り下ろされた──。
「──てりゃぁ!!」
──顔面を石でぶん殴られる。
「ぶでぅ──!?」
男は後ろへ海老反りになりながら地面へと堕ちた。
飛鷹のピンチに駆けつけたのは、もちろん彩葉。口元に血を残しながらの参戦だ。
気が抜けたのか、ヘニョヘニョと力が抜けて地面に座り込む。
「ふ、わぁぁ……」
「……大丈夫?」
「なんとかね……」
この中では比較的に軽傷な部類の彩葉。それでも内蔵の一部が潰れるほどの重症ではある。
だが比較的に軽傷なのはやっぱり変わらず。なので余裕のある彩葉が飛鷹を支えながら立ち上がらせる。
「……その石」
立ち上がる瞬間、飛鷹は彩葉が持っていたであろう石に目をつけた。
その石には黒くて長い毛が生えていたのだ。
「スキルを使って生やしたの。それで遠心力使ってぶん殴った。どう、頭いいでしょ?」
「いいとは思うが……あんな長い髪を生やせたの? 二十センチくらいしか髪の毛生やせないと思ってたんだけど」
生えている髪の長さは甘く見積っても四十センチ。下手すれば一メートルを超える長さの髪が石から生えている。はっきり言って気味が悪い。
「ふふふ。言ったでしょ? 私は頭がいいの。ちょいと考えを捻れば分かる事だよ」
「捻る? ……ダメだ分からん。答えを教えてちょ」
「──髪に髪を生やしたの」
* * *
ここで彩葉のスキルの説明をしよう。
彩葉のスキルは『触れた場所に髪の毛を生やす』というもの。内容はそのまま。生やしたいと思った部分に二十センチ程度の髪の束を発生させることができる。
髪を生やす条件は二つあり、『触れること』と『生物以外であること』だ。
触れることは当然として、生物以外というのは哺乳類や鳥類、昆虫や魚もダメ。ただし植物はオーケーという判定らしい。
さて──ここまでの説明で勘づいた人もいるだろう。
髪を生やせるのは生物以外。植物にも生やせるというガバガバ判定から彩葉はあることを思いついた。
「これ……髪に髪を生やすことってできるのかな……?」
──結果はご覧の通り。二十センチしか伸ばせなかった髪の毛にプラス二十センチを生やすことを可能とした。
彩葉はこの仕様を使って石に髪を生成。そこから髪を伸ばして振り回せるように改造。そのまま男の顔面に向かって遠心力をつけて──ボン。
これなら非力な彩葉でも大の男をぶっとばすことが出来るのだ。
「ふ、ふふ……土壇場でスキルの新たな使い道発見、これで私も不破君と同じ主人公の仲間入りだね」
「はいはい。彩葉ちゃんは偉いですよ……それに助かったよ」
「もっと褒めていいんだよ?」
「調子に乗るなら褒めるのはお預けだな」
「ちぇ」
「──おい」
寝転んだままの不破から酷く低い声が聞こえた。
「俺を差し置いてイチャイチャするな」
「してねぇよ。早く立ち上がれ」
「俺の両腕見てみろよー。何を支えにして立ち上がれば良いのでしょうかー」
「もう。ほら、私が支えてあげるから、立ち上がってくれる?」
「──んっすぅぐ立ち上がりますっ!」
とは言いながらもグラグラ安定せずにゆっくりと不破は立ち上がる。
口ではテンションが高いように装ってはいるが、どれだけ取り繕っても体はボロボロ。半生半死だ。
彩葉に肩を貸してもらいながら歩く男二人。重症人なので仕方ないが、本人たちは恥ずかしいようだ。
「あー情けねぇ……」
「面目ないです……」
「いいってことよー」
恩を売れて満足そうにしている彩葉。傷が治ったら褒めてやらねば。じゃないと拗ねてしまう。
「……村が心配だね」
「俺たちだったからこんなに苦戦したんだ。あっちの人たちなら大丈夫だよ。多分」
「逆に言えば、俺たちあんな下っ端兵士一人に三人がかりで辛勝したのか……」
「……そう言うとダサいからやめてくれ」
まぁとりあえず危機は去った。あとは帰るだけ──。
──ちょっと待て。
「……なぁ、俺たちアイツのこと、そのままにしてなかったっけ?」
「アイツ? あぁ、あの男か。気絶してるし別に──」
「そうだよ。ちゃんと私が……ぶん殴って……気絶させた……」
……はず。気絶させたはずだ。
こういう時は決まって嫌な予感がする。なんでちゃんとダウンしたか確認しなかったのだ。
しかし後悔してももう遅い。三人は瀕死の体を動かして後ろを振り向いた──。




