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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第18話『弱者なりの戦い方』

 ──男は少しムカついていた。ナイトメアに入って数年。来る日も来る日も下っ端務め。やることは無垢なる民の殺害と『傲慢』のワガママを叶えることばかり。

 男はビックになる夢を持っていた。この世に手っ取り早く名を残す。そのために妻子まで捨ててナイトメアに入ったのだ。

 なのにやることと言えば雑用と無意味な殺害だけ。つまらない。ストレスも溜まる一方だ。


 だが上へのし上がるためには今は耐え続けるしかない。『傲慢』の言うことを忠実に聞き、確実に作戦をこなす。

 功績を積み上げていけば、いずれ自分にも大罪の冠位が与えられるかも──。


 それまでの我慢。それだけを希望に頑張り続ける。

 しかし希望だけじゃストレスは消えてくれない。こういうのは適度な発散が重要なのだ。


 男が最近ハマっている最高のストレス発散法──それは脅迫である。

 自分よりも弱い人間を怯えさせ、震えさせ、怖がらせる。同じ生き物の人間が、同じ種族の人間が。自分に対して恐怖を抱いている。

 男にとって、それが何よりの快楽であった。子供も大人も、男も女も関係ない。とにかく怖がらせる。

 泣かせ、許しを乞わせ、失禁させる。その時の優越感は性行為にすら匹敵する。



 ──仕事の合間にこそストレス発散は大事。命令されることを嫌う男にとって、この単独行動は何よりのご褒美であった。


「制限時間は十秒だ! 十秒以内に出てこなかったら今すぐそっちに行ってぶっ殺す!」


 どんな顔をして出てくるのだろう。泣き顔だろうか。恐怖に引きつった顔だろうか。楽しみだ。想像するだけで下腹部に血が溜まる。


「十! 九! 八──」


 命を賭けたカウントダウン。さながら男にとっては射精までのカウントダウンでもあった。

 指を一本一本出して数を数える。あえてゆっくり。じっくりと焦らすように数えた。


「七! 六! 五――」


 出てきてもいい。だが出てこなくてもいい。反抗しようとする顔を叩き潰すのも大好きだからだ。

 男は適当に殺し、女は長く楽しもう。苦しむ姿を見るのはさぞかし気持ちいいんだろうな。


「四! 三! 二──」


 出てこい。出てくるな。あぁどっちでもいい。このままズルして突撃してやろうか──いいやダメだ。

 物事は焦らして焦らして焦らした後が気持ちいいのだ。空腹が最高のスパイスと言うように。寒さに耐えた後の風呂が気持ちいいように。

 我慢して。我慢しきった後に喰らいつく。これこそが至高の楽しみ方だ。


「一! ゼロ──」



「──ま、待って待って! わかった降参! こーさん!」


 暗闇から両手を上げて出てきたのは──髪の長い儚げな美少女。伊落彩葉であった。


「あっはは。も、もうちょっと作戦を練りたかったんだけどねぇ。カウントダウンまでされちゃ、私も打つ手なしってやつだよ」


「……一人か?」


「うん。一人」


「なんでこんな夜更けに子供一人で森に来てる」


「子供って失礼だなぁ。私だって十七歳の大人だよ? 成人してるんだよ? ……してるよね?」


 男は問答を続けながら、徐々に彩葉との距離を詰めている。足が一歩進む度に彩葉の心臓の音は大きくなっていった。


「質問の答えになっていない。もう一度だけ聞いてやる。こんな夜更けに、子供一人で、何をしている?」


「そ、そんな詰めないでよぉ。……ほら。私は美少女だけど、アイドルじゃないしさ。おトイレだってしたくなることもあるし」


「村のを使えばいいだろう」


「村のは汚いんだもん。私は綺麗な場所でしかトイレできないし」


「……だから一人でここに来たと? 危険な夜の森で? お前みたいな子供が?」


「だ、だから子供じゃないよ──」


 ──拳が大木を穿つ。彩葉のすぐ横に葉をこそぎ落としながら、崩れ落ちた。


「俺は子供だからって容赦はしない。だがチャンスはあたえてやる。──他の二人はどこだ?」


「……ば、バレてたかぁ」


 すっとぼけたように彩葉は話す。


「嘘ついたのは悪いと思ってるよ。でもあんな脅し方されちゃったら庇うようなこと言っちゃうもんじゃん? 私って可愛くて優しいからさ」


「……他二人は、どこだ?」


「詰めるような言い方しないでよ……か、顔が怖いよ。ほら一緒にニコー! ……なんちゃって、えへへ──」



 ──太陽のような美しく明るく可愛い笑顔も、殺意のある人間の前じゃ通用しない。彩葉はここに来て学びを一つ得た。

 男の手が彩葉の首を乱雑に掴む。そのまま片手でタオルのように振り回され、大木へと叩きつけられた。


「──次はないと言ったはずだ」


 潰れる。握り潰される。これは──ダメだ。ギブアップだ。

 男の前腕を叩いて降参宣言。聞き入れた男は首から手を離した。


「かはっ──」


 膝から地面に落ち、遮られた分の酸素を取り返すように吸い込む。


「はぁはぁ──や、やりすぎ……私、魔力無いの分かってるでしょ? ミジンコみたいな強さなんだから手加減してくれないと」


「だから手加減した。本当に次はないぞ。──言え」


「……」


 呼吸を整える。これ以上は無理だ。時間は稼げない。──ま、稼がなくてもいいのだが。


「……上」


「あ?」


「──上。気が付かなかった? 意外と抜けてるんだね。おじ様♡」



 扇情的な表情と声。小さく舌が出ると同時に男の後頭部に強い衝撃が走った。


「──あぁ!?」


 重い。痛い。数瞬、視界が揺らぐ。これは──打撃だ。拳による打撃じゃない。何らかの武器による打撃と理解した。


「なんっ──」


 振り向くとそこには少年が一人。不破だ。両手で持てるサイズの石を振り抜いている。

 体勢とさっきの彩葉の言葉から察するに──木の上から落下し、その衝撃を使って後頭部をぶん殴ったのか。


 ただ単に殴るだけじゃあ、どう足掻いても不破じゃ力不足。だから重力の力を借りての攻撃でダメージを与えたのだ。

 これぞ『S(すっごい)U(上から)N(殴る)作戦』である。作戦は見事にハマり、男に大ダメージを与える──と予想していたのだが。



「てめぇら……!!」


 驚くことに、ちょっと怯んだだけでダメージはほとんどない。後頭部が多少ズキズキする程度だ。


「おいおい……殺す気でやったぞ俺は……」


「許さねぇ……手足を切り落として川に投げ落としてやる……」


 男は怒りのままに剣を抜こうと手をかける──。


「怖いねぇ。そんな怖い人にはお仕置きだよ。一発は耐えれても、二発目は耐えられるかな?」



 ──第二撃。今度は飛鷹が上から落下。石を男の後頭部に叩きつける。


「が──」


 石は砕け、飛鷹の手の中から転がり落ちた。

 男の意識はシャットダウン。白目を剥いて地面へと落下した──。



 一撃で終わる、なんて甘い妄想をする三人ではない。一発目を耐えられることは前提として二発目を用意しておいたのだ。

 作戦は見事成功。危ない場面もあったが結果オーライ。三人はピンチを切り抜けることができた。


「「「──イッエーイ!」」」


 三人でハイタッチ。このまま祝賀会でも開きたいところだが、村の方が心配だ。こんなのが村に押し寄せていれば、村人たちが危ない。

 行っても三人じゃどうこうすることはできないだろうが……それでも行かないよりマシだ。


「じゃあ早く行こう」


「だね」


「レッツゴ──」



 ──背筋が凍りつく。ついさっき。三人が味わったばかりの殺意が刃となって心臓を貫いた。


「……」


 ──男は完全に気絶はしていなかった。一瞬、意識が離れただけ。それもすぐに立ち上がれるくらいの軽さだ。

 頭を殴られても記憶は残っている。子供に。しかも魔力も持たないような人間に。──コケにされた。バカにされた。


「……許さねぇぞ」


 煮えたぎった熱湯のような『怒り』は一定のラインを超えると氷のように冷たくなる。

 怒鳴り散らかしている体育教師より、静かに怒っている数学の教師の方が怖いように。三人の悪寒は、男の怒りによって発生させられていた。


「お前らは──絶対にぶっ殺してやる」



 今までに感じたことの無い第六感が。謎のエネルギーの流れが男の手に収縮されていくのを感じる。

 魔法を使っている姿を見たのはマナのみ。マナは自分たちを守るため、助けるために魔法を使ってくれていた。だから魔法に対して一歩引いた目線で見ることができていた。


 だが今は違う。男は魔法を三人に対して放とうとしていた。マナとは違う。揺るぎない殺意を持って。

 目を逸らしてきた事実。『そんなことは起こらないだろう』と考えることを怠った想像。

 現代の技術とは全く違う。超常現象が三人に襲いかかってきた。


「──ロック・ブラスト(強烈なる岩石)

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