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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第1話『1日目リバーシ』

 不破はごく普通の一般高校生だ。身長は平均より少し上の百七十二センチ。体重も筋肉をつけてちょい重めの七十キロ。

 顔は特別イケメンでもなく、ブサイクでもない。塩顔ではなくソース寄りなので改良の余地はあるかも。とりあえず普通だ。


 そんな『普通』の人間になら──好きな人がいるのは当然のこと。

 彼にも好きな人がいる。甘酸っぱい青春の妄想をするような。果物のように甘く好意を寄せる女の子が。



 現在地は沖縄。不破が森まで飛ばされる少し前の時間まで遡る。


 不破とクラスメイト一同はバスに乗っていた。

 砂利や小石の振動を感じながらエンジン音を堪能する。窓からの景色は美しく、まさに日常から離れたと実感させてくれた。

 これぞ旅の醍醐味。修学旅行の楽しみ。狭いバスの中はザワザワとざわめいていた。


 不破が通う『風鈴高校』の治安はそこまで悪くない。なのでゴミやヤジが飛び交うような物騒な道のりにはなっていないが、みんなの上がりきったテンションは黙ることを知らず。

 前に立って話そうとしているバスガイドさんには目もくれない。耳も傾けない。なんたる礼儀知らず。だがバスガイドさんもテンションが上がる気持ちは知っているので、『黙って私の話を聞け』などとは言えない様子だ。


 不破もその一員──ではない。不破は集中していた。勉強?こんなとこまで来て勉強するほど頭が狂ってはいない。

 集中──そう、好きな女の子を見るのに集中していた。


「だよね──私も──だと思う!」


 ほのかに青みがかった光沢のある長い髪。黒色に混ぜられた青色の瞳は宝石のような輝きを持っている。

 顔にはどことなく幼さが残っており、体つきも引っ張られるように未熟な部分がある。

 それが不破が恋焦がれている少女──『伊落(いおち)彩葉(いろは)』である。


 見てるだけで飯が進むとはこのことか。コンビニで購入したフルーツジュースを片手に、美人の肴を目で味わう。

 彩葉で酒を飲めば、最高の酔いを体験することができるだろう。バスの揺れでもう既にちょっと酔ってるが。



 いい感じのキメ顔で彩葉眺めていた時、不破の後頭部に衝撃的な痛みが走った。

 頭痛か。偏頭痛は持っているが、その痛みじゃない。まるで誰かに殴られたかのような──。


「──お前。見すぎだ」


 殴りつけたのは友人の『梶原(かじわら)飛鷹(ひだか)』だった。


「見すぎって?」


「彩葉ちゃんのことだよ。さすがに気持ち悪いぞ」


「馬鹿だなぁお前。見るのはタダなんだぞ? 伊落さんを見れば見るほど、俺の心は満たされる。これほどコスパのいいことは他にあるか?」


「『タダほど怖いものはない』って言うのをよく聞くぞ」


「金持ちの戯言を真に受けんなよ」


 軽口ドッチボールの応酬。二人は幼稚園からの幼馴染だ。だからこれくらいの言い合いならしても絆にヒビは入らない。

 たまに『絆』で首の絞め合いもするが、それも幼馴染の特権だろう。


「せっかく沖縄に来たんだぞ? 沖縄でしか味わえない景色とかを楽しもうぜ」


「はぁ……お前は分かってない。全然分かってない。馬鹿だよ。大馬鹿だ。だから俺に定期テストで負けるんだぞ?」


「それ関係ないだろ」


 怒りのこもった攻撃──が飛んでくる前に先制口撃。


「いいか? 大事なのは伊落さんが沖縄にいるってことだ。可愛い可愛い伊落さんは、俺たちが住んでいる故郷から離れ、常夏の島である沖縄にやってきてるんだ」


「……それで?」


 漫才師のように強弱をつけ、巧みな話術で相手を黙らせる。幼馴染の扱い方は心得ているようだ。


「──いつも以上にテンションの高い伊落さんが見れる」


「……うん。で?」


「バッカだなお前! テンションの高い可愛い伊落さんを見れるのはここだけだぞ!? 沖縄でしか楽しめない景色がそこにある!」


「くっだらな」


 不破の力説を一蹴。先程の罵倒の仕返しにデコピンをくらわせて背もたれに寄りかかった。


「お前ストーカーにはなるなよ。ニュースに出るのはごめんだからな」


「そん時はよろしく。『そんなことするようなやつじゃなかった』って言っといてな」


「『やると思ってました』って言っとくわ」


 そう言って不破は観察を再開。その様子を飛鷹は呆れたように見つめていた。



 バスがトンネルに差しかかる。日中の日差しが消え去り、オレンジ色の薄暗い世界へと切り替わった。

 音がこもる。車のエンジン音が反響して耳の中を走り回っている。


 長さは二百メートルほど。ここから出るのに、そう時間はかからない。明るい光へバスは向かう。


「ふんふふーん」


「はぁ……ったく」


 真っ白にまで光るトンネルの出口へ。バスは一直線に向かう。淡い光は煌々の光の波に飲み込まれてゆき。やがては塗りつぶされた──。




 ──身に降かかる浮遊感。座っていた椅子が、まるで液体……というより気体に置き換わったかのように柔らかくなる。


「……あ?」


 ……。うん、違う。これは違う。柔らかいなんてものじゃない。


「は──ぁ!?」


 腰から背中へ。背中から頭へ。体が逆さまになり、猛スピードで移動する。

 これはまさか──落下しているのか。


 パニックになりながら周りを見渡すと、同じく落下しているクラスメイトたちが。その中には飛鷹、そして彩葉までもが。


「嘘嘘嘘嘘嘘だろぉ!?」


 叫んで暴れても現状は変わらず。はるか天空から体は超高速で落下を続ける。

 顔が潰れるほどの風圧。弾丸のように落ちる体を止める手段はない。


「ま、ちょっと、ちょちょちょ!?」


 自由落下は最高速度へ。ほとんど変わらない景色の中に見たことの無い鳥や動物が入ってくる。

 虹色のサイ。翼の生えた蛇。そして目の前を通過する空飛ぶクジラ。

 困惑と疑問が駆け巡りながらも時間は止まらることはない。


 迫ってくる地面。大地に芽吹く緑の木々。木の上に落下できれば衝撃は分散されるだろうか。

 淡い希望を抱きながら、不破の意識は黒く染っていくのだった。

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