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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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第15話『どこの世界も親子は大変』

「──お父さん? 久しぶり」


「……おぅ」


 村を出発するのは明日。今日は騎士団の人たちも、この村で休息を取ることになった。

 そんなわけでフデロは久しぶりにマナへの挨拶をしていた。


「元気にしてたか?」


「してたよ。今回はどれくらいいるの?」


「明日には……ここを出る」


「……そっか」


 二人が会うのは実に二年ぶりのこと。フデロは仕事が忙しく、マナも用事があり会う機会がなかった。

 親子で久しぶりの再開となると、少し気まずくなってしまうのは異世界でも同じなようだ。


「不破さんたちとは話した?」


「あぁ。礼儀正しい、いい子たちだ」


「でしょ。ちょっと変で無茶するのはやめて欲しいけどね」


「はは、そうか」


「うん」


「……」


「……」


 気まずい。すごく気まずい。話が全然続いてくれない。口下手にも程がある。


「……そ、そうだ。私子供たちと遊ぶ約束があるんだ。だから……もう行くね」


 耐えかねたのか、本当に急いでいるのか。マナは自宅へと戻ろうとしている。

 話したい。もっと話をしたい。フデロは去ろうとするマナの背中に向かって話しかけた。


「マ、マナ──」



* * *



 ──時間にして十分ほど前。フデロは三人にとあることを聞いていた。


「マナとの接し方が分からないんだ。君たちは同じ歳頃だろう? どうやって話しかければいいか教えてくれないか?」


「どうやって?」


 全国の子供を持つお父さんの悩みだろう。特に娘を持つ父親なら誰しもが持ってる悩みのはずだ。

 二年ぶりに会う娘とどんな話をすればいいのか。類稀なる剣技で騎士団の副団長にまでのし上がった男でも、その難題につまづいていた。


「どうやってって……普通にでいいと思いますよ?」


「その普通にというのが私には難しくてな……」


「近況報告とかでいいんじゃないですか?『最近は何があった』とか『元気にやってるか』とか」


「それはやめといた方がいいよ。私とパパの会話はそれで気まづくなるから」


 実体験に基づいた話なら受け取らざるおえない。となると、ここは同性でなおかつ父親のいる彩葉が適任だ。


「どうしたら気まずくならないのか教えてくれないか? 聞いたらダメなこととかはあるか?」


「そうですね。思春期だったら何を話しても気まずくなりますが、マナちゃんはもう過ぎてるでしょう? マナちゃん何歳だっけ?」


「そういや俺聞いたこと無かったな……」


「俺も。女性に年齢は聞くなって婆ちゃんから言われてたし」


「フデロさんは知ってます?」


「十九……か十八だったような。二十は超えてなかったかと思います」


「じゃあ思春期過ぎてますね。だったら多少プライベートなことを聞いてもいいでしょう。マナちゃん優しいし」


 かなり責任感のない発言、ということに気がついているのは不破と飛鷹の二人。フデロは現役女子高生である彩葉の言葉を一言一句聞き逃さずに集中していた。


「話題に困った時はこう聞くんです──」



* * *



 呼び止められたマナは不思議そうに父親のほうへ向く。


「? どうしたの?」


 心臓が鳴り響く。緊張が体を強ばらせる。嫌われはしないだろうか。引かれやしないだろうか。

 ──父親がそんなのでどうする。覚悟を決めろ。堂々と聞くのだ。



「──好きな人とか、いるのか?」


 ……。数秒に及ぶ静寂。消え去った音の中、フデロはいくつもの後悔を心に並べていた。

 しかし。そんな静寂を打ち切ったのは──他でもないマナであった。


「……ふふ」


 頬を緩ませ。口に手を押さえて。父親の放った言葉を笑う。


「ははは! お父さん、好きな人って……ははは!」


「そ、そんなに笑うことはないだろう。俺だって勇気を出して聞いたんだぞ?」


「どうせあれでしょ? 不破君か飛鷹さん……いや、この感じは彩葉ちゃんだね。もうあの子ったら……ふふ」


 ──そのように言って笑うマナの姿は、フデロが初めて妻と出会った頃の姿にそっくりであった。


「……」


 やっぱりこの子は自分の娘だ。そして愛する妻の、愛する娘だ。

 分かりきっていたことを再確認する。この再確認がフデロにとって極上の幸せなのだった。



「……まぁ……いない、って言うと嘘になる」


「──へ?」


 顔からは想像できない、気の抜けた声だ。マナは顔をリンゴのように赤らめながら答える。


「いる……のか。好きな人……いるのか!?」


「あ、あんまり大きい声で言わないでよ! 恥ずかしい……」


「すまん……取り乱してしまった」


 どうやら知らず知らずのうちに村人たちが集まってきていたようだ。周りの人だかりにフデロも小っ恥ずかしくなる。


「だ、誰だ? その好きな人というのは」


「言うわけないでしょ」


「ほら、俺だって父親だ。もし結婚とかになったら知っておかなくちゃだし」


「結婚は早いよ! まだ相手が私のこと好きなのかも知らないし……」


 マナは恋する乙女のような反応をしている。父親としては嬉しいのもあるが、悲しいのもある。……いや悲しい方が大きい。あと寂しさもある。


「そうか……お前にも好きな人が……そうか……」


 好きな子ができるのは複雑な心境だが──子供が成長するのは嬉しい以外の何物でもない。

 あの小さかった愛娘が見ないうちに、ここまで成長していたとは。思わず涙が出そうになった。


「こ、こんなところで浸らないでよ! みんな見てるでしょ!」


「あ、すまんな……」


 マナに怒られて、またションボリとするフデロ。

 ……不器用ながらも父親は歩み寄ってきてくれた。このままツンツンしているのは不公平だ。だから自分もデレることにする。


「……今日はさ。私がご飯作るんだ」


「ご飯……そうか。お前がか」


「だから……一緒に食べよ。部下の人も連れてきていいから」


 ──フデロの顔が一気に明るくなる。


「いい、のか?」


「お父さんの話とか聞きたいし。それに私も最近のこととか話したいもん。特にここ一週間くらいのことはね」


「……そうか。そうか」


 楽しそうに。嬉しそうに。フデロはマナの言葉を噛み締めていた。


「俺も手伝おう」


「お父さん料理とかできるの?」


「これでも若い頃は野戦食料の担当だったんだぞ? 一時期は『麗しきイケメン料理人』と言われていてだな」


「それ彩葉ちゃんと一緒のこと言ってる」


「そ、そうなのか?」


 二人の会話はまだぎこちなさがある。でも先程まで間にあった壁は無くなっていた。

 親子を知る村人たちは二人のたどたどしい会話を嬉しそうに見つめていた。



 ──そして村人だけでなく、不破たち三人も。


「及第点ってところかな」


「上から目線」


 村長の家の影に隠れながら親子の会話を盗み聞きしていた。


「どこの家庭も変わらないもんだねぇ」


「彩葉ちゃんもギクシャクしてたの?」


「あの時は若かったからねぇ。パパと話すのも嫌だった時期があったよ。今思うとなんて親不孝なことをしたんだろうって思うけど」


「あー俺もあったわ。母さんと毎日のように喧嘩してた。中学生ってほんっと馬鹿だよなぁ。……はぁ、母さんには迷惑かけっぱなしだわ」


 中学生時代の多感だった時期を二人は思い出していた。あの頃はヤンチャで迷惑ばかりかけていたな……と今になって思う。

 異世界に来て。帰れないかもしれなくて。そんな状況になって振り返っても、もう遅いのだが。


「不破君はどう? そんな時期とかあった?」


「俺は無かったよ。お父さんは産まれる前に死んじゃったし。お母さんが女手一人で俺と兄貴を育ててくれたから、あんまり迷惑とかかけられなかったもん」


「あ……」


「そ、そうなんだ……」


 ……重い。マナとフデロが気まずくなっていた時よりも、冷たい空気になるのであった。

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