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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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番外編 後編『夜空と油の女王』

 ──その日の夜。村の人々は中央へと集められていた。

 突然の収集命令。何かあったのか。もしかして村の解体……などと混乱の声が上がりはじめる。


「あ、そんな気にすることは無いぞ。あの三人組が『自国の料理を振る舞うから中央に集めといて』って言われたから集めただけだ」


「なぁんだよかったぁ」


「あたしゃてっきり『ナイトメア』でも来たのかと思ったよ」


 悪いことじゃないのなら安心だ。不安と恐怖が村人達からなくなり、安心感が広がっていく。

 それと同時に期待も生まれた。聞いた事のない国からやってきた三人組が、聞いた事のない国の料理を作る。果たしてどんな料理だろうか、と。


「マナちゃん何か聞いてないのかい?」


「それが私も教えてもらってないんですよね。彩葉ちゃんには『時間になってからのお楽しみ』って言われちゃって」


 もちろんマナにも詳細は隠されているようだ。こうなればますます気になってくる。


「あのへっぽこ三人組が何作るんだろうな?」


「ちょっと怖いけど楽しみよね。三馬鹿の料理」


 地味に罵倒されつつも楽しみにされている。なんだかんだ三人とも村人たちに好まれているようだ。


「不破と彩葉お姉ちゃんが料理するんだってさー」


「パンツマンも手伝うんだって!」


「ラッキーパンツマンが?」


「楽しみー!」


 子供たちも楽しみにしている様子。恐らく分かってると思うが、パンツマンとは飛鷹のことである。



 村人たちのざわめきが最高潮に達した時──家の影から村人全員に聞こえるほどの声が轟いた。


「──さぁ皆さん、遠からんものは音にも聞け、近くに寄っては目にも見よ!」


「ついでに匂いも嗅いでゆけぃ!」


 まず登場したのは不破と飛鷹。少し汚れたエプロンを身につけ、颯爽と影から現れる。


「不破だぁ!」


「パンツマンもいる!」


「ラッキーパンツマンって料理できるのぉ?」


「はっはっは、パンツマンって呼び方はやめとくれ」


 二人は子供たちの声に答えながら机を出してきた。上には包丁やフライパンなどの料理器具一式、食材まである。

 米にニンニク、卵にネギ。あとは──色の着いた肉。ただ焼いただけじゃあの色にはならない。


「あの肉なんだ?」


「うわぁ……いい匂い」


 鼻腔に突き抜ける食欲をそそる香り。脳が空腹を刺激し、空っぽの胃の中で暴れ回る。

 村人は期待に胸を高鳴らせる。──ここまでは予想通り。さらにビートを上げさせようか。


「皆さん注目。そしてご清聴。これより登場するのは『麗しき美人料理人』伊落彩葉」


「彼女が作る至極の一品は必ずや皆様の快楽中枢を破壊するでしょう」


 言ってることはちょっと分かんない。だが大きく二人の言葉に村人たちから歓声が上がる。


「大きく出るじゃねぇか! 期待してるぞ!」


「美味しい料理作ってねぇ!」


「不味いの出してきたらトカゲを食べさせてやるからなぁ!」


 ──この期待感。この雰囲気こそ最高のスパイスだ。


「では登場していただきましょう──伊落さんカモン!」



 ──伊落彩葉。あえて髪を解いての登場だ。

 机の前に立ち、美しい瞳を臆することなく前面に出す。


「どうも。ご紹介に預かりました、『絢爛(けんらん)たる美少女』こと伊落彩葉と申します。本日は、よろしくお願いします」


 スカートの裾を掴んでお上品にお辞儀。夜空の星々に負けないくらいの美しさ。その瞳の煌めきは満月にも劣らない。

 目を見張るほどの美少女ぶりに、男性女性、子供に老人と関わらず、みんなが彩葉に注目していた。


 最初は少しふざけた二人の登場。後に出てくるのは本命──このギャップ。このギャップを狙っていた。


「今宵作るのは我らの国……正確に言うと隣の国ですが、昔から続く伝統料理。はるか昔から生まれ、今まで紡がれてきた歴史の結晶」


 燦爛(さんらん)と輝き立っている彩葉の言葉に村人たちが集中する。

 上がるボルテージ。それらを受け止めながら、彩葉は料理の名を口に出した。


「その名も──炒飯(チャーハン)



 ──炒飯(チャーハン)。それは貧乏人の味方であり、主婦の味方でもある家庭のスーパーヒーロー。

 安価な食材で誰でも簡単にでき、さらにやろうと思えば徹底的に凝ることも可能。まさに異世界向けの料理と言えよう。


 今回作るのはシンプルな炒飯(チャーハン)。具材もシンプルに卵と焼豚のみ。洒落たアレンジもできたが、失敗すると怖いのでやめておいた。

 焼豚は昼間から醤油とニンニク、生姜に漬けてある。準備はバッチリだ。



 ──このタイミングで彩葉は髪を後ろに結んだ。

 女性が髪を後ろに結ぶという行為。これには誰しもが魅了される美しさがある。

 ただでさえ美しい彩葉がこの行為をすれば、村人たち全員が彩葉から目を離せなくなるのは必然であった。


「ではゆきましょう」


 まずは焼豚を細かくサイコロ状にカット。少々ぎこちない手つきだが、皆は彩葉の顔に注目している。なので気にしない。

 そしてネギも刻む。料理の基礎こそできてるが、手際が悪すぎて見ててヒヤヒヤする──のは不破と飛鷹の二人だけ。その他は彩葉の顔に注意を削がれている。


 次はフライパンに油をドボン。少し多めに入れてフライパン全体に染み渡るように腕を回す。

 お次はフライパンにニンニクを投入。色が変わるくらいに炒めて香りを放出。村人たちの唾液腺を刺激した。

 その次は解いた卵を投下。ここからは時間との勝負。両手を動かしながらのマルチタスクだ。


 炊いたお米をフライパンにドボン。冷ご飯の方が良かったが、時間が微妙だったので今回はナシだ。

 お米と卵を混ぜ合わせながら、切った焼豚とネギも入れる。──もう匂いだけで美味しい。


 最後に塩と胡椒、醤油で味付け。形を整えて皿へと盛り付ける。


「──完成!」



 茶色の飯。黄金色の卵。内蔵を昂らせる匂い。自然に喉を通り過ぎる唾液。

 おおよそ美しさからはかけ離れた一品。そして盛り付け方も微妙に汚い。──だが彩葉の顔補正で余裕で誤魔化せる。


「さぁ、ご賞味あれ──マナちゃん」


 マナへ向けてウィンク。飛ばされた星の幻影がマナの胸を撃ち抜いた。

 彼女も美形ではある。というかすごい美人だ。一流モデルすらたじろぐ顔を持っている。そして本人もそれを自覚している節がある。


 だが──そんなマナも心の中で屈服するほどの。まさしく『女神』のような少女からウィンクを飛ばされてしまっては、素直に受け取るしかない。


「……」


 村人たちが見守る中、マナは皿を手に取った。備え付けられたスプーンで盛り付けを崩し──すくって一口。口の中へと運び込んだ。



 弾ける旨味。口内がとろけるほどの油、ニンニク、油。卵の甘みが香ばしさと塩気を適度に整え、食感をも手助けしている。焼豚もジューシーで歯ごたえ抜群。噛めば噛むほど旨味が溢れ出てくる。

 飲み込みたくない。もっと味わいたい。この油を楽しみ尽くしたい。あと十回は咀嚼して──などと思ってる内に、いつの間にか体が炒飯を飲み込んでいた。


「──」


 飲み込んでも味が残っている。内頬にも味の残滓が漂っている。飲み込んだ後でも楽しめる料理など生まれて初めてだった。


 感想がある。言いたいことが沢山ある。言おうと思えば、捻った言葉の感想も出てくるのだろう。

 しかし彼女の口から発せられたのは実にシンプルなもの。たった一語の言葉であった。


「──美味しい」


 この料理を表すのに、これ以上の言葉は存在しない。

 マナの言葉によって村人たちから歓声が上がるのに、そう時間はかからなかった。



* * *



 炒飯の魅力の一つは『短時間でできる』ことだ。

 マナの飯テロを見て空腹にうなされる村人たちも、そう苦しむことなく炒飯を手に入れられる。

 すぐに炒飯は全村人に渡り、村には炒飯の香ばしい香りに包まれていた。


「美味しい! これ美味しいよ!」


「あぁん、なにこれ口がとろけちゃう!」


「美味いぞぉ……こんなに美味いものを食ったのは久しぶりじゃあ……」


 各々から飛び出る賞賛の嵐。褒め言葉を一身に受けた彩葉は内に飼っている強大な自尊心に飲み込まれようとしていた。


「ふふふ……私こそ『天国の創造主』伊落彩葉。この炒飯を武器に異世界を我が物に──」


「異名多いな」


「多くていいんだよ。伊落さんを表すのに言葉がひとつじゃ足りないだろ?」


 そんな言葉を言うから彩葉は増長する。ほれみろ、無い胸を張ってパフォーマンスをしだした。


 村長とマナ、ウォリが炒飯を食べながら二人の元へ歩いてくる。


「お疲れさん。これほんと凄く美味しい。なんだっけ、チャハーン? だっけ?」


「チャーハンですよ。炒めるに飯って書いて炒飯です」


「美味しいです……こんなの食べたの初めてで……!」


「美味しいよーヒダカ!」


「はは、感想なら彩葉ちゃんに……今はやめといた方がいいかも。さらに調子に乗っちゃう」


 これ以上、調子に乗らせると嫌な予感がする。飛鷹はそんな気がしていた。


「お前らには驚かされてばっかりだよ。色んな意味で、だけどな」


「少しくらいは見直しましたか?」


「まだ見直すには足りねぇな。お前の国のもっと美味いものを作ってくれよ。そしたらちょっとくらいは見直してやってもいいかもな?」


「はいはい。任せてくださいよ。この村、いやこの世界に俺らの国の料理を盛大に広めてやりますから──!」



* * *



 視点は変わり彩葉の方へ。増長して調子に乗りまくっている彼女に一人の男からクレームが入った。


「彩葉ちゃん。これ美味しいんだけどさ、なんか髪が入ってて……」


「……へ?」


 続いておばちゃん。子供。複数名から同じようなクレームが入ってくる。


「おかしい……料理の前には髪を括ったし、ご飯にも髪が入ってないことは確認し──」


 ──気がついた。それよりも思い出した、の方が言葉としては適切か。


「──まさか」


 余った炒飯をかき分けてみる。するとそこには──なんと髪の束が。

 思い出してほしい。彩葉の保有するスキルは『触れた場所に髪を生やす』ものだ。


 食事の前にはフライパン、食材に触れてある。つまり能力の発動条件は満たしていたのだ。

 ならなんで誤爆したのか。──彩葉は料理中にこう思った。


『──スキル使ったらクレーム付けてご飯をタダにできるかも』


 ──と。実践などする気はサラサラなかった。ただ頭で思っただけ。誰だってこれくらいの妄想はするだろう。

 しかし逆を言えば思ってしまったのだ。料理に髪を生やす妄想を。無から髪が生えてくる想像を。


「い、彩葉ちゃん。こういうのには気おつけないと、ね?」


「そうよ彩葉ちゃん、せっかく美味しい料理なのに……」


 優しい言葉で苦言を呈される彩葉。自分が作った料理で初めてクレームを出されてしまった。

 さっきまでの自尊心はどこへやら。彩葉は出されるクレームに涙目になりながら対応するのだった。


「なんでこうなるのー!?」

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