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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第一章『神は我らに死ねと申すか』
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番外編 前編『無双はひとつに在らず』

 ──それはミカンクマとの死闘が終わり、不破と飛鷹がこの村に来てから三日後のことであった。



「……違う」


 近所の森で食べられるキノコを探していた不破たち三人。見るからに食べられなさそうなキノコを放り投げながら、不破が呟いた。


「違う……違う! 俺が求めてたのはこんなんじゃない!」


「は? どうした急に?」


 地面を叩き叫ぶ不破。それを飛鷹と彩葉は冷たい目で見ていた。


「あんまり大きな声出さないでよぉ。野生動物に見つかったらどうすんの? 私たちじゃ秒で捕まって踊り食いされるよ?」


「それが冗談じゃないのが怖いよな──って違う!」


「だから、何が『違う』んだよ?」


 ベニテングタケに似た赤いキノコ。見るからに毒々しい見た目のそれをカゴに入れる。


「君たちも思わないかね!? こんな酷い目にばかりあってるのに、俺たちゃほとんどいい思いをしていない!」


「それは……そうだな」


「私は性的にも物理的にも襲われかけたしねぇ」


「並ある異世界物じゃあいい思いをしてる人間が沢山いる。なのに俺たちと来たら、美少女とひとつ屋根の下で暮らし、養って守ってもらいながらキノコと山菜を集める日々。これじゃあダメだと思う!」


「美少女って私のこと?」


「両方」


「へへっ」


 わりといい思いをしてる気が──なんてことは置いておいて。確かに三人は異世界に来てからいい思いというのをしていない。

 村長に感謝され、村人たちからも歓迎してもらったのは数少ない『いいこと』ではある。だが現代の飽和状態にある異世界物の数々を見てきた者にとっては、こんな状況じゃ物足りない。


「つまりあれか? もっと都合よくチヤホヤされたいってことか?」


「そう! 俺は『無双』したいんだよー!」


 両手に毒キノコを持ちながら心の丈を叫ぶ。人間の欲望とはなんと醜いことか。しかし不破はまだ子供。こんな欲望くらいあってもいいだろう。


「でもさぁ。俺たちじゃ無双なんてできなくないか? ご存知の通りチート能力は持ってないし、現代知識だって正直ここで活躍できるほどの知能も持ってないし」


「そだね。私なら顔で無双できるけど」


「無双どころか宗教ができて神様になれると思うよ!」


「ツッコまないぞ、俺」


 何気にサボっている二人と違い、飛鷹は話しながらも山菜採りに勤しんでいる。


「まったく、飛鷹も察しが悪いなぁ。どう思います? 伊落さん?」


「これはバ……脳みそがスマートになってるね。私はカッコイイと思うよ」


「よかったな飛鷹。伊落さんに褒められたぞ」


「ツッコみはしねぇけど、キノコなら突っ込むぞ」


 毒キノコを両手に、二人の口へ突っ込む二秒前。受け入れる……のではなく、言葉の続きを言うため不破は口を開く。


「なにも無双ってのは『強さ』や『知識』だけじゃねぇだろ? 俺たちにもできて、なおかつ簡単に褒められるものが一つあるじゃんかよ」


「は? 何があんだよ」


 指を高く天に挙げ、宣言する。


「それは言うなれば──『異世界料理無双』だ!」



* * *



 ──料理無双。それは数ある無双系の中の一つ。

 異世界にはない現代の料理で異世界人の舌をうならせ、『きゃあすごい!』やら『こんな料理初めて見た!』などとチヤホヤされるもの。


 これらの主人公は料理人だったり主婦や主夫なことが多い。だが、料理ができるのはなにも『料理人』の名を冠するものだけじゃぁない。


「学生の俺らでもできる簡単で美味いものをみんなに食べさせる。マナや村長、村人たちからチヤホヤされ、近くに街にまで噂は広がる。そしていずれはこの世界で一番の料理人に──」


「飛躍しすぎだろ」


 またなんとも醜い欲望をダダ漏れにしている不破。彼の頭には皆からチヤホヤされる映像しか流れていない。どんだけチヤホヤされたいのだ。

 そんな彼をチョップ。甘い幻想世界から過酷な現実世界へと引きずり戻される。


「でも(よこしま)な思いをなしにしても、いい案だと私は思うなぁ。村の人にはお世話になったし。恩返しとして料理を振る舞うのもアリだと思うよ?」


「だろだろ? やっぱり伊落さんは分かってるんだよ! 優しい! それに比べて飛鷹はなぁ……優しさがないというか、物騒というか」


「私たちが命張ってる時にマナちゃんとToLOVEるしてただけはあるね」


「うぐっ、そのことを言うのはズルいよ彩葉ちゃん……というか、それ誰から聞いたの?」


「ヤマト君。『ヒダカがマナ姉のパンツずらしてた』だってさ」


「は? キモ。お前それが許されるのはお色気漫画の主人公だけだぞ」


「ここが異世界でよかったね。現実世界だったら刑務所転移させられてたよ」


「事実が事実だから強く言えない……!」


 ここが異世界でよかった。と、二人の冷たい視線を受けながら、飛鷹は本気で思っていたのだった。



「飛鷹君が変態なことはとりあえず置いといて、何作る?」


「もう変態が確定しちゃった」


 クラスの女子に『変態』のレッテルを貼られたことに悲しみを覚えながらも、二人の話し合いに参加する。

 村人には大変世話になった。正直、食べられそうになったとはいえ、ウォリが村まで運んでくれなければ、飛鷹は野生動物に食われていただろう。

 そうならなかったのは村の人たち、特にマナが守ってくれたことが大きい。


 だから恩返しをする。自国の料理を振る舞い、楽しんでもらう。その意見は飛鷹も賛成であった。


「どうせ作るなら日本料理がいいよなぁ。味噌汁とか、卵焼きとか」


「でも簡単すぎてもねぇ。下手したらもう作ってるかもだし」


「この村、食事に関してはやけに文明水準が高いからな。家とか野性味を感じるのに」


 この世界には味噌もあるし醤油もある。どうやら村で作っているのではなく、街から輸入してるらしい。

 そうなると簡単すぎる料理なら既に作られている可能性が高い。


「俺たちが簡単に思いつくものじゃダメだよなぁ」


「ちょっと凝りつつも私たちにできる料理か……」


「オムライスとかは? ご飯にケチャップ入れて卵焼くだけだろ?」


「それいいな! ケチャップはあるし、具は鶏肉とか使えばいいしな!」


「じゃあオムライスに決定!」


 決定した料理はオムライス。料理を舐め腐った発言だが、高校生なので許してあげてほしい。


「それじゃ彩葉ちゃん。よろしく」


「よろしく」


「? なんで?」


 キョトン顔で首を傾げる。


「え? 伊落さんって料理得意でしょ?」


「私、料理とかしないよ? 家庭科の授業の時に作るくらいだし」


「……へ?」


 ──新たな問題が発生した。この場で料理を作れる人間がいないのだ。


「嘘だろ……彩葉ちゃんは料理得意だと思ってた……」


「まさかメシマズ特性を持ってたとは……」


「人聞きが悪いね……。あんまりしない、ってだけでメシマズって程じゃないよ」


 健全な高校生なら両親のお手伝いで料理を手伝うといったこともあるだろうが、残念ながらこの三人は料理の手伝いもしていない。

 勘違いしないでほしいのが、料理の手伝いをしないというだけで、洗濯や掃除などはやっている。


「ど、どうするよ? 料理素人じゃあ卵を薄く焼く、って高等技術はできないぞ……」


「食材を無駄にはできないしな。ぶっつけ本番で失敗したら目も当てられないぞ」


 多分村の皆は失敗したとしても、責めてきたり嘲笑ったりはしないのだろうが、むしろ優しくされる方がきつい。


「料理素人でも簡単にできて? それでいて適度に凝ってるもの?」


「そんな都合のいい料理なんかないだろ……」


 そうボヤき、またお悩みモードに突入する二人──その横で何かを思いついた彩葉が手を叩いた。


「あるじゃん。私たちにもできて、簡単で、適度に凝った料理!」


「え?」


「あるの?」


「あるよ! あれだよあれ──」


 ──『あれ』の料理を聞いた瞬間、二人の顔は一気に悩みから解放される。


「──なるほどね! あった、あった! さすが伊落さん!」


「あれなら適度に凝ってるし、簡単だね……」


 男二人に褒められ彩葉の自尊心もみるみる大きくなってゆく。


「でしょでしょ? 褒めてくれてもいいんだよ?」


「最高! 天才! 天使!」


「馬鹿なことやってないで早く仕込みに行くぞ。夜になるまでに終わらせねぇと」


「「あらほらさっさー!」」


 目標ができればゴールが生まれる。三人の目的は『皆を喜ばせること』。その思いを胸に、三人は村へと戻っていった。

 ──キノコや野草のカゴを置いて。

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