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侵入者

エリルは槍の調子を確認する為に、幾度かクルクルと回転させながら準備運動をしている時だった。


『ハンターが入室しました』


エリルの目の前に、システムメッセージが表示される。


早速お出ましか。


とエリルは自室の扉の方へと振り返る。


そこには確かに頭部をフードでしっかりと隠したローブ姿の人物が立っていた。


確率は十の二……五分の一の確率で誰もが狙われる状況にあった。


エリルはこのミッションのルールを理解した時、そして自分が役職を持たない一般人だと分かった時、『自分が狙われれば良い』と考えてしまった。


これは何も自分が一番に追放される事が効率的だ等と考えた訳では無い。


ここで殺されるならそれでいいと言う自虐的な考えでも無い。


単純に、『一般人枠』の自分が、平均化された能力よりも1.5倍の強さを持っている『ハンター』を『たった一人で返り討ち』にしたら……このゲームの構成が崩れてしまうだろうと思ったからだ。


「いつでもええで、さっさと掛かってこんかい」


挑発する様に槍の先端を相手に向けるエリル。


この世界に訪れてしまった事で、デスゲームに強制的に参加させられた。


それを仕方なしに受け入れ、段々とこのゲームに順応していった。


もはや積極的に参加していると言っても良いほどだ。


だがその最中で力を手に入れ、自分にはある程度ミッションの展開をコントロール出来る力があると悟ったエリルは、それらのミッションを神々の思い通りのままには進まない様に、『小さな足掻き』を行っていこうと企んだ。


相手の人物はエリルの挑発に乗ったのか、その場から強く地面を踏み込んで接近を行ってきた。


大きく右手を振りかぶり、手のひらをこちらに翳しながら突っ込んできた相手を見て、エリルは体を軽く横へ向けながらそれを回避する。


エリルは注意深く相手が翳していた手のひらを観察していたところ、何かが一瞬『光輝いた』様に見えた。


それと同時に、妙に『焦げ臭い』様な、何かが『燃えた』様な匂いを感じ取った事でエリルは相手と大きく距離をとる。


その瞬間に、相手の手の平の先から大きな爆発音が聞こえ、大きく膨れ上がる火炎を纏った風圧が溢れて消えた。


相手と多少距離は離れたが、それでもお構いなしに相手はこちらに向けて手を翳してくる。


エリルはそのままバックステップを行い、先程までエリルが居た場所に両手拳程度の大きさの爆風が起こり、着地と共にエリルがバク転を繰り出すとエリルの足があった場所に、今度は一握り程度の爆発が起こる。


そしてそのまま続けてエリルがバク宙を繰り出せば、今度は僅かな……卓球の玉程度の大きさの爆発が起こった。


相手の人物は舌打ちする。


声が分からない様に本当に舌を弾いただけの為、その状況では性別はまだ分からない。


だが異能はすぐに分かった。


異能名は単純に考えれば『爆発』と言ったところなのだろう。


手の平の先から爆風を起こす事が出来る異能だが、手のひらから離れれば離れる程に威力減衰が起きる。


相手が先程舌打ちしたのは、恐らく今まではこの距離でも十分に効果を発揮していた筈の己の異能が、能力の一律化によって『弱体化』してしまっているのだろう。


恐らくこの人物は異能強化2……下手をすれば3を持っている様な人物だったのかもしれない。


だがその感覚で戦ってしまった事により、距離を見誤って当たっても大した事の無い爆風しかエリルに向けて放出出来なかったという事だ。


むしろそれはエリルにとって好都合なのかもしれない。


自分以外の大抵の人物達は、もはや異能強化や身体強化の2や3での動きに慣れてしまっている状況だろう。


しかしエリルは本当に先日まで強化の恩恵を受ける事は無かった。


むしろ身体強化3を手に入れている現状でも、能力の一律化によって身体強化1程度の能力の向上しか起こっていない今の方が、まだ『自然体』に近い感覚で動ける程だ。


思ったよりも……今回のミッションのルールはエリルに有利に出来ているのかもしれないと思いながら、彼は反撃を始める。


ただ油断はしていられない。


少なくとも相手は身体強化でさえこちらの1.5倍化されている状況だ。


加えてあちらには先程『爆発』の様な異能が存在している。


こちらは身体強化されているだけで、異能なんてあってないようなものだ。


唯一の利点と言えば、今手に持っているこのグングニルがエリルの異能的ポジションに収まるかもしれない。


恐らく身体強化2と対峙する様な感覚まではいかないが、それでも単純に相手の方が二倍は強いと思って動いた方がいいのは事実だ。


ハンターは再びこちらへ向かって接近してくるが、先程と違って今度は腕を上げずにそのまま握り拳を作りながら向かってきた。


今まで異能に頼りきって戦っていたのかどうかは分からないが、ここまで生き延びている事を踏まえれば、少々肉弾戦のセンスは低いらしい。


やたらと脇を締めすぎていると言うのか、恐らく体術を扱う際にどこに拳を置いておけば良いのか分からないのだろう。


その為に相手が不格好の体勢から突き出してきた拳を後方へ回避しながら槍をふるえば、相手の右頬を簡単に打ち抜く事が出来た。


感触的に、やはり肉体強化レベルの差の影響か、少々固い物へ刃をぶつけた様な感覚はあったが、それでも恐らくだが相手も無傷ではいられない筈。

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