リーダー
「兎に角さぁ、君がポイントを譲渡してくれればぁ、その分早く戦いを終わらせる事が出来る訳ぇ。僕も確実にこの戦いに勝利出来るしぃ、お互いにとっていい事しか無いんだから協力してよぉ」
「あかんな、確かに結果的には得なんかもしれへんが得が弱すぎるで。しかも、俺がポイントをあんたに渡して、それを使ってあんたが他のファミリーに対して召喚する魔物の数を増やしたりするんやったら、それは間接的に俺がそいつらを殺してる様なもんやろうが。認められへんわ」
「あちゃー、やっぱりその絡繰りに気付いちゃうかぁ。良い話だと思うんだけどなぁ。まぁ今の今直ぐにくれって言う訳でもないしぃ、デスゲームはどうせまだまだ続くから、エリルが嫌気が差し始めた頃にまた提案する事にするよぉ。君はいつか必ず……僕の案に乗る筈だよぉ、僕には分かるんだ!」
分かられて溜まるか、とエリルは思ってはいるのだが、実際の所もっと条件が良ければその交渉を受けていた可能性もあるのでは無いか。
こちらにとって得になると言う言葉に対して耳を傾けてしまったのも事実だと、エリルは複雑な心境となるのだった。
「さぁさぁ! 約束だから今回も質問を受け付けないとねぇ! 何かある? もう聞く事なんて殆どないかもだけどぉ」
「前回と言い今回と言い、何で俺が一人のタイミングでそれを投げかけてくんねん。かなり大事な話なんやからもっと人が集まっとる時にしようとは思わへんのんかいな」
「うーん。結局さぁ、シアンとケヴィンが居なくなった今となってはぁ、異能を発揮する前から何故かやたらとみんなの中心に居た君がリーダーみたいなもんじゃん? 今回の功労者も間違いなく君だしさぁ、君に質問の権限を与えるのが一番君達の為になると僕は判断してるだけだよぉ」
リーダー。
……考えもしなかった。
絶対的なリーダーであるシアンと、絶対的エースであるケヴィンが居なくなった今、それを担うべき存在は誰か等考える余裕さえ無かった。
元々、グラン達とは距離を置くつもりだったからなのも有るが、そう言う立ち位置を担う存在が必要である事も頭の中からすっかり抜けていたのだ。
あくまで、ロキは戦績しか見ていない。
戦績しか見ていないからこそ、全くポイントを稼いでいなかった自分が、確かに周りから常に守られる様に過保護にされて居た状況は不思議でしか無かっただろう。
そして異能が発揮されて、力を手に入れた途端次のミッションで相手を一人で全滅させた。
自分もロキの立場であれば、確かに自分がこのファミリーでの主力に見えても不思議では無い。
完全に第三者目線のロキからしても、自分が代表に見えてしまっている状況に少しばかり驚きはあった。
グラン達からしても……そう見えてしまっているのだろうか。
……確かに、これからは自分が守ってやると一方的に誓いはしたが、だとしても彼らのリーダーをするつもりは無い。
自分はその立場にはなれないからだ。
そんな事をすれば、それこそ自分を守ろうと考える者が現れてしまうからだ。
違う。
自分が求めているのはそういう関係性ではない。
一方的でいい。
見返りなんてなくていい。
勿論彼らに協力こそすれ、もう助けを求めることはないだろう。
それでいい、いやそれ『が』良いのだ。
悲しいこと言うなと、そんな自分から突き放すような事はするなと、グランなら必ず言ってくるだろう。
エゴでも構わない……自分でそうと決めたのだから。
「もういいじゃぁん。面倒な建前なんていらないからさぁ、エリルだけで質問内容決めちゃいなよぉ」
なぜか地団駄を踏みながら急かし始めるロキ。
3メートルもある大男がそんな仕草をしたって可愛らしさなんて物はゼロであり、圧倒的に不気味さが勝っている。
だが確かに、今日に限っては今この場でエリルが質問内容を決める事が一番スムーズだろう。
ファミリーとしては悪手だが、エリル個人にとっては必要以上に彼らと会話しなくて良い為に好都合でさえあった。
ただ、質問内容に関してはすぐに閃くかは別の話だ。
ある意味で、もっとも聞きたい内容であった、このデスゲームが終わった後の自分達の扱いについては、ロキが先程口を滑らせた為に解決した。
いや、滑らせたと言うよりは彼の口ぶりからして本当は伝えておくべきだった内容だったのかもしれないが。
となれば今のエリルにとって最も知りたい情報と言えば……やはり『死者を復活させる事は出来るのか』と言う内容だろう。
ただこう言った質問を投げかけた場合には、恐らくだがロキは『イエス』か『ノー』でしか答えないだろう。
そこでノーと言われてしまえばそれまでである為その答えだけは聞きたくないが、どちらかと言えば問題は『イエス』と答えられた時だ。
きっとそれ自身が質問内容と判断され、復活の方法までは教えてくれない事だろう。
勿論次に彼が来訪してくる時にその類の追加情報を質問で投げかければ良いのかもしれないが……いつも適当なタイミングで現れる彼が都合よく近日中に来訪するのかと言う問題がある。
今すぐに知りたいのにその質問を投げかけるタイミングがいつになるか分からず、その上正直言ってエリルの自分勝手でしかないこの質問内容を、次の来訪時にファミリーが集結していた場合でも質問させて貰えるのかと言う懸念がある。
二日連続でエリルだけの前で質問をするチャンスを与えられているが、この次の個人でやりとり出来るという保証はない。
となればここでする質問は、具体的な復活方法を聞く事。
ただし、ここでもう一つの懸念点である、彼が『答えるかどうか』と言う不安材料が存在する。
以前に彼は『答えられない』と返答することもあると言う旨の発言をしていた。
それとは別に『まだ早い』と言ったり『時が来たら言える』と言う様なことも言っていたのだ。
質問へ答えられる内容に制限が存在する。
その制限は時がたてば……すなわちミッションを熟し続ければ解放される場合もあるということ。
今回の様に復活の為の具体案を質問した場合、答えられない可能性だって存在している。
これも身体強化3を入手した事での弊害とでも言うのだろうか。
無駄に頭が回るからこそ考えすぎている。
石橋を叩いて渡ると言うよりは、石橋を叩きすぎて壊してしまっている様な、そんな悪循環さえも感じ取ってしまう程だ。
もっと前の様にシンプルで柔軟な思考だったら良かったのかもしれないが、一度懸念点が浮かんでくるとそれを拭いきれない。
その為に、エリルはあえて質問の内容を変更し、かつ未来への期待を担保出来る上にシアン達の復活にも関与しているであろう事を問うた。
「……今回の質問はこれや。俺のBP交換のラインナップに妙な表示がされてるんやが……これは今は入手ないが今後入手出来るそれぞれのアイテム関係の『ツリー』って捉えててもええか?」
ロキは座り込んでいるこちらに合わせて腰をかがめ、必要も無いのに右手で丸を作りながら目に手を当て、こちらのシステムボードをのぞき込んでいた。
「うわ! エリル凄いじゃん! もう『ボーナス武器』を入手してるんだねぇ!? しかも僕が僕の『駒』が有利になる様に『オーディン』から搔っ攫ってきた『グングニル』が君の手に渡るなんてねぇ! 面白い事もあるもんだぁ!」
「はよ質問に答えんかい」
「なんだよぉ、せぇっかく褒めてあげてるのにぃ」
無駄な話は要らないと、エリルはロキからの言葉にほぼ反応を見せずに話を進めた。
だが彼の言葉から得られた情報も聞き逃してはいない。
やはり先程手に入れたこの『グングニル』は、神話通り『オーディン』が持っていたもので間違いがない事。
という事はつまりそれが『本物』である事も同時に発覚したという事となる。
やはりこの武器は……いつか必ず神共の喉元に……。
「もぉ……反応が鈍いんだからぁ。答えを言うと、君の思っている通りだよぉ。今アイテム欄から空白になっているところは、本来もっと先のミッションをクリアしなければ並ばない仕様になってるんだけどぉ、まさかもうそれが表示されるまで購入できる人が現れるなんて思わなかったからさぁ、今回みたいに空白表示になっちゃったんだねぇ」
やはりそうかとエリルは胸をなでおろす。
バグでは無いが実際の所はバグの様なものだった。
ゲームで言えば未実装の物を強引に出現させた事により、本来その枠に収まるハズだった物が無い状態でグラフィックとして表示された様な物という形なのだろう。
確かにロキの言う通り、現時点でエリクサーを買ってみようと思うもの等現れないだろう。
大抵は現時点でやっと5000ポイント溜めれた者が、いち早く身体強化3か異能強化3を入手する程度のレベルだ。
エリルの様にそれさえ手に入れても有り余っている状態などあり得ない事なのだ。
今日最後に戦ったあのキャッチ&リリースの男も、グランとジェシカが強化3を両方持っている事に驚いていた程だ。
このロキファミリーの面々には色々と予想外な事が起こっているのだろう。
「まぁまぁ、これらが表示されるのはさぁ、特にこの『エリクサー』の次が表示されるのはもう少しだけ先だからさぁ、あとちょっと待っといてよぉ。グングニルの強化も期待しててねぇん。じゃぁ今日はこれまでぇ、ほいじゃあねぇ!」
言いながらロキは、胸元から取り出したハンカチで自分の顔を拭き始めたかと思えば、その部分から透明になっていき、右手で体全体を拭けば片っ端からその部分が消しゴムで消されていく様に無くなっていく。
最後多少おかしな動きをしつつも、ロキが右手で自分の右手を拭き切る事でロキは完全に消え去っていった。
毎回毎回気持ち悪い退場の仕方をするが、彼はあれがウケていると思ってやっているのだろうか。
だとしたらただただドン引きだ。
しかし、エリルは確かな情報を手にいれた。
今はこれで良い。
これでまだまだやっていける、戦い続ける事が出来る。
エリルが求める品を手に入れるまで……エリルは必ず勝ち続ける。
再度そう決心したのであった。
――――……。




