クリア後
「うーん。意外と律儀なのか、それともただ偽善ぶってるだけなのかぁ……。君はそう言うタイプじゃない気がするんだけどねぇ。どちらかと言えばもっと狂暴で、だけど内に秘めた狂暴性を隠すのが凄く得意なタイプに思えるんだけどぉ」
「相変わらず人を見る目は有らへん訳や。残念やったな大外れや」
「そうかなぁ? 本当は自分でも分かってるんじゃない? エリルさぁ……ちょっとこのデスゲーム……『楽しんでる』でしょ?」
「……」
エリルは不意に眉間に皺を寄せてしまう。
舌打ちを繰り出したい所だがそうはいかない。
これ以上彼の発言に対して『反応』してしまう訳には行かないからだ。
直ぐに『否定』する事が出来なかった自分に腹立たしさも感じてしまう。
楽しんでいる。
そんな訳は決して無いとは言い切れない。
勿論、あくまで自分が『戦えている』からこそ出て来る感情だ。
明確に言えば『楽しんでいる』と言うよりは、かなり早い段階でこのデスゲームを『受け入れていた』と言う方が正しい。
ならば逆に楽しいと感じているのか。
どちらかと言えばそれもノーである。
当たり前だろう。
今日の今日まで、エリルは活躍する機会はあったものの間違いなく『お荷物』として存在していた。
そのせいでシアンとケヴィンを失うと言う悲劇を起こしてしまったのに、そんな事が起こったこのデスゲームを『楽しい』なんて心から思える筈が無い。
では何故否定できなかったのか。
明確に力を手に入れた今……特に今日のミッションを完全に自分だけの力でクリアすると言う結果を叩き出した事で、このデスゲームを自分が有利に運べていると言う事を実感したからだ。
ほぼ全て思うがままにシナリオが進んだとでも言うべきか。
相手全員を掌で転がしている様な感覚だった。
この世界では力が無ければ、戦う意思を見せなければ生き残る事が出来ない。
そしてエリルは力も有れば戦う意思もある。
あの時、相手の命さえも奪える状況に、相手の人生を左右できる立場にあった事で確かに自分の中の価値観が多少変わった気もする。
今まで役立たずで戦う事ができなかった事による反動もあるのだろうが、それでも確かにあれだけ一方的に戦況を掻きまわす事が出来た事自体は『爽快』だったと感じてしまっていた。
戦う事は好きだ。
好きで武術をやっているのだから当然だ。
……だが、自分は『一方的な暴力』を振るう為に武術を始めた訳では無かった筈だ。
何かが壊れて行っている。
この世界に順応すればする程、自分の中の常識が……崩れて行っている。
「まぁどっちかって言うとぉ、君は力に目覚めたばかりみたいな所があるからぁ、これからももっとミッションを熟して勝ち続けて行けばきっと自分の本性に気づくと思うよぉ。あ、僕はそう言う感情を否定しないからねぇ? むしろそう言う正直な奴の方が僕は好きだしぃ」
「せいぜいあんたに気に入られない様に努力していったるわ」
「そう言わずにさぁ! さっさと僕の事受け入れちゃった方がお得だよぉ? 僕へのポイントの譲渡だってさぁ、君達にとっても非常に『得』になる事だってあるんだからさぁ」
精一杯の否定の言葉を、煽る様な笑みを浮かべながら言い放ったエリルだったが、続けざまに言われたロキの言葉に対して眉間に皺を寄せた。
「どういう事やねん」
「僕達のこの神格ランキングバトルはさぁ、他の神達に宛がわれた『駒』達が『0人』になるまで永遠に続けられるんだよね。例えばこのままエリル以外僕の『駒』が全滅したとするよ? だけどエリルはずっと生き残ってて、他の神達の『駒」と戦い続けても、エリルが生き残り続ける限り100日でも200日でも続くんだ。逆に言えば他の神の『駒』が明日にでも全滅したら、明日でこのゲームは終わりって事なんだよねぇ」
「それが俺らにどう得になんねん。どっちかって言うたら絶望を叩きつけてるやないかい」
エリルは今日、相手のファミリーを誰一人として殺さなかった。
例え彼らがこのデスゲームの最中に死ぬ事があったとしても、それはエリルの手によってでさえなければ良いとエリルは思っている。
残念ながらこのデスゲームに巻き込まれた時点で、足掻いても無駄に終わるこの状況の中で、他の神のファミリー達はどこまで言っても『敵対勢力』としか扱う事が出来ない。
それを完全に受け入れた訳では無いのだが、そう言うルールなのだから従わざるを得ないと言う事だ。
勿論……抜け道が有るのなら抜け出したくはあるのだが……。
こう言った考えを持ってしまっている時点で、エリルは既に『染まっている』のかもしれない。
「君なら賢いから分かるだろうにぃ。簡単な事だよぉ、君が僕に大量のポイントを預けたらさぁ、僕がそれを使って他の神の『駒』達を直ぐに全滅させてこの戦いを終わらせる事が出来るって事さぁ。そうしたら君達は晴れて解放されて自由の身になれるんだからさぁ」
「……あんた今……結構どえらい情報言わへんかったか?」
「うわぁしまった! 確かにぃ、君達が生き残った後の処遇なんて質問で聞かれた時にくらいしか答えるべきじゃない内容だったねぇ! まぁ別にいいよそんくらいぃ、禁止されてる訳じゃないし、多分他の神達は自分の駒達を勇気づける為に初日に言ってるだろうしねぇ」
つまりこいつはそんな大事な情報を勿体ぶって伝えていなかったと言う事か。
このデスゲームが終われば解放される。
解放された後で自分達は元の世界に戻るのかどうか、そう言った類いの事はまだ情報が掴めていないが、これは本当に大きな情報だ。
後でグラン達にも伝えなければならないだろう。
「てっきり俺達は最後まで生き残っても、結局あんたに気まぐれで殺されるかと思ってたんやけどな」
「僕に勝利を掴ませてくれた人達にそんな酷い事はしないよぉ。それに僕らが直接君達に手を下す事も『今』は出来ないしねぇ」
「なんだ。ゲームの最中やったらあんたは俺らを殺せへんのかいな。それやったら嫌がらせの如くこっちから攻撃しまくったってもええって事やんけ」
「やめてよぉ。今の君の力だと僕もそこそこ痛みを感じちゃうからさぁ、無駄に僕に攻撃を仕掛ける事は勘弁してくれないかなぁ? それに殺せないだけであって相応の痛みを与える事は出来るんだからさぁ」
そんな事だろうとは思っていた。
手を下せないとは言いつつも、様々な場面でロキは自分のファミリーに暴力を振るっていたシーンがあった。
だからこそ殺せないとは言っても半殺し状態には出来るのだろうなと予想は出来ていた。
何れにせよ今のエリルの力でもロキに勝ち切る事が出来ないのなら、彼の言った通り無駄に攻撃を仕掛けて今後警戒される事も避けた方がいいだろう。
エリルは握りしめていた拳を緩めた。




