目的
「あたしからもお願いするわ。えっと……テキートの言う通りこのポイントは貴方のお陰で手に入った。だから貴方に使う権限があると思うの」
冗談でテキートの名前を知らなかった振りをしていたのかと思ったが、今の会話で本当に忘れていた可能性が浮上した。
だが今はそんな事はどうでも良い。
「うーん、何が目的なのかなぁ?」
「うおっ!」
「いやっ!!」
二人と押し問答が始まりそうになったタイミングで、甘ったるい喋り方をする気持ち悪い男が現れる。
システムボードを開いて居た二人の目線の先に、突然彼が画面から飛び出して来たかの様に現れた為二人共尻餅を着いてしまう形となった。
『ロキ』には心底いらついた感情しか湧かないが、それでも彼女達に言い放った言葉自体はエリルも『同感』であったのも事実だ。
やたらと強引にポイントを渡してこようとしている事に対して、何か『裏』があると思ってしまうのは当然の事だろう。
彼等との接点は、蟠りこそあれどそれ以外に関しては互いに関与する事を避けていた関係性だ。
それが今更になって関わりを持とうとしている状況が気持ち悪くも感じるのだ。
「やぁエリル。元気だったかい?」
システムウィンドウから顔だけを出していたロキは、そのまま半透明の扉から存在していなかった筈の身体を次々に出して来る。
まるでシステムウィンドウからアイテムを出していた時の現象と似た様な光景だ。
そしてスラっと伸びた長身を起こし、室内に設けられているベッドに腰かけているだけのこちらに向かって見下ろす様にしながら言葉をかけて来たロキ。
何をそんなにフレンドリーに話しかけてきているのか、先日までのあの何も期待していない様な、ゴミを扱う様な態度は何処へ行ったのやら。
「一先ずおめでとうって言うべきかなぁ? 流石の僕もびっくりだよぉ。君の名前が今回のポイント取得ランキング一位に記されているのを見た時はたまげたねぇ。一体どんな絡繰りを使ったんだい? ポイント取得の方法に対して絶対にズルは出来ない筈だからぁ、今回君は自力で取った事になるんだろけどぉ、身体強化もってる人達に良く勝てたよねぇ? まぁでもぉ君が活躍した事は間違いないから今日は君を褒めに来たんだよぉ! おめでとう! 良く頑張ったねぇ!」
現金な奴とでも言うのか、昨日までの扱い等まるで無かったかの様な手の平返し。
自分にとってこっちが『価値』を証明したからこの様な態度を取り始めたと言う事なのだろう。
こんなやつに褒められた所で何も嬉しく無いが、今はこれで良い。
ヘイトを向けられるよりは、便宜を図ってくれた方が何かと都合がいいだろう。
一応こいつは自分達の『主神』なのだから、何かしらで使える時もある筈だ。
「話は戻るけどぉ、それに比べて君達はなんなのさぁ。まぁったくポイントも稼がないのに、お零れで貰えたポイントをエリルに返そうとしてさぁ。僕としては折角手に入れたポイントなんだからぁ自己強化に使って欲しいんだよねぇ」
ロキは振り返りながらカーラ達へと視線を戻す。
その突き放す様な態度、今迄自分が向けられていた威圧感がそのまま彼女達に向いている状況だ。
露骨すぎる態度の変化を見せるのだから、こいつの事は絶対に信用できない。
そもそもする気も無いが。
「あーもしかしてさぁ、君達は『寄生先』でも探してるのかなぁ? シアンとケヴィンが居なくなってぇ、守ってくれる拠り所が無くなったからぁ、今回いきなり強くなったエリルに縋ろうとでもしてるのかなぁ?」
こいつからあの二人の名が出て来ると虫唾が走る思いに駆られるが。
……だが正直な所彼の言っている事が恐らく事実だろうとエリルも思って居る。
自分達の今迄の態度を改め、付与されたポイントも渡そうとしてきている事からそう言う考えがあると思って疑うのが普通だ。
「……」
ロキが来てからと言う物の、やはり恐怖感が強いのか二人共口を紡いでしまう。
「まだ分かんないのかなぁ? さっさと答えろよ。僕って気が短いのもう知ってるよね?」
やはりと言うべきか、自分にとって価値が感じられない相手には途端に横暴な態度を取るのがこのロキと言う存在だ。
「……そ……うよ」
ゆっくりとだがカーラが口を開く。
肯定する様な口ぶりに、エリルもただ『やはりか』と思うだけなのだが。
「どうせあれでしょぉ? ミッションにも碌に参加する意思を見せない君達だったけどさぁ、シアンとケヴィンが居れば守ってもらえると思ってたのに、あんなに強い二人が死んじゃったもんだから焦ってるんでしょ。安全圏だと思ってたところが安全じゃ無くなってぇ、自分にも死の危険が迫って来たからどうにかしないとって考えた結果が今の状況でしょぉ? 全くぅ、人を当てにしてないで自分でどうにかしろってんだよぉ。ねぇエリルぅ?」
「俺に意見を求めんなやボケが」
「あぁ! その言い方! 君はシアンよりケヴィンタイプって事かぁ。まぁ別にいいけどぉ」
強気な態度を取っても、こいつに価値があると認めさせる事が出来れば反感を買わない事をエリルは知っている。
本当に気持ち悪くてムカつく存在の為に、もっと口汚く罵ってやりたいのだが……非常に残念だが彼がカーラ達に向けて言っている言葉は同意せざるを得なかった。
「仕方ないじゃない……怖くてたまらないから……どうしていいか分からないから……強い人に縋るしか……守ってもらう事でしか助かる方法が考えられないのよ……」
恐らくだが、彼女はその見た目からして今迄何もしなくても勝手に周りの男性が動いてくれる様な存在だったのだろう。
彼女にとっては守られるのは当たり前、周りの男性が自分の為に動くのは当たり前。
そんな人生を送っていた結果、今の様にそれが通じない状況になってしまった事でどういう立ち回りをしていいのか分からなくなっているのだろう。
シアンもケヴィンの彼女には一切靡かなかった。
だがそれでも彼らは結果的にファミリー全員を守っていた。
カーラの周りに集まる存在は揃いも揃って非戦闘組ばかりで、体を張って彼女を守ろうとする根性なんて持ち合わせていない者ばかり。
唯一戦いの場に身を費やしていたライアンでさえあの様な死に方をしてしまったのだ、万策尽きたと言った所だろう。
テキートに関しては良く分からない。
どうにかしようと言う意思はここ数日で読み取れたが、彼本人が自分でどうなりたいのかはっきりしないからただカーラに付き添って来たと言う所だろうか。
「まぁそう言う事だからさぁ、僕はエリルと大事なお話があるからどっか言ってくれない? 君達みたいな役立たずには用は無いんだよぉ。ほら、しっしっ!」
野良犬を追い払う様に手を振るロキ。
どうにも出来ない事を悟ったのか、カーラとテキートは伏し目がちになりながら背をすぼめ、室内から出て行こうとしていた。
基本的にロキと同意見だ。
人を当てにしてないで自分でどうにかしろとエリルでさえ思ってしまう。
散々人の事を煽り、安全圏から文句ばかり一丁前に口にする彼女らにむかっ腹だって立った事は幾度もあった。
……だが、そもそもだ。
そもそもそれら全ての原因はこの『ロキ』自身にある。
エリルはそれだけは決して忘れない。
だからこそ、ロキの思い通りにならない様に少しばかりの反撃を繰り出す。
「あんたらがこれから……ちゃんと自分で『戦う』って言うんやったら、グラン達の中に放り込む事ぐらいはやったってもええで」
あくまで、交換条件付きだ。




