リリース
何となくだが『嫌な予感』を感じたからだ。
直後、男が強引に振り下ろした右手が、ステージの地面を大きく『抉る』程の威力を見せつけた。
防御向きの異能を持つ筈の彼が、どの様にしてこの圧倒的な攻撃力を持つに至ったのか。
エリルが警戒していたのは彼の防御力よりも、彼のこの攻撃力だったのだ。
と言うのも、この男は異能強化3を持っていると公言しており、恐らくこちらの攻撃が尽く吸収される作用が発揮されている事からそれは事実だろうとエリルは考えている。
エリルが気になったのは、『どうやって5000ポイントに届かせたか』ということだ。
シアンやケヴィンの様に圧倒的な実力と、生存者数の影響で溢れんばかりに現れる魔物達との戦いに伴って、それらが理由でゲリラボス戦の直前で4000ポイントもの貯金を作り出す事に成功していたのなら分かる。
しかし彼らはその逆で、異能自体も防御向きのものである事から、どちらかと言えばリアムの様に援護ボーナスでポイントを取得していくやり方が主流の筈だ。
となればゲリラボス本体を倒した本人が居るはずだが、今まで戦った4人の中でそれらしき人物は居なかった。
自分が経験した相手の強さと、シアンとケヴィンの強さから勝手にそう判断してるだけで、実はあの馬鹿4連戦の中にゲリラボスを倒した存在が居たのかもしれないが、そうだとすれば今度は逆にこの男が異能強化を手に入れる為のポイントが足らない形になるだろう。
結果的に言えば、この男がゲリラボスを倒して大量のポイントを手に入れた事は間違いない。
だとすれば、最初に浮かんだ疑問点である『どうやって』と言う言葉が浮かんで来る。
確かに身体強化2を持っているのだから、出来ないことは無いはずだ。
何も持っていなかった自分と比べれば、間違いなく彼の方がゲリラボスにトドメをさせる可能性がある。
しかも、キングドラゴンの様な魔物が相手ならまだしも、恐らく通常のファミリーの相手はどちらかと言えばそれのお供で出てきたレッサードラゴンレベルが相手になるだろう。
実際にあの時レッサードラゴンを倒した人物はネイサンとディムだった。
当人達には2500ポイントもの討伐ポイントが入っており、そのクラスが仮にこの男達の敵として現れたのなら、それと同レベルの魔物が現れたとして、異能強化3を手に入れる為には必ずこの男がトドメを刺さなければ、それを手に入れる為のポイントには届かなかった筈だ。
そしてそれが出来る、ゲリラボスを倒せる何かしらの攻撃方法をこの男は持っている。
エリルはそこまで予想を立てて戦っていたからこそ、この不意打ちの如く振り下ろされた男攻撃を避ける事が出来たのだ。
「おや? 避けられましたか。余程勘が良いのか、凄まじい反射神経を持っているのか。どちらにせよ私の異能の『もうひとつの力』が見られてしまった様ですね」
奥の手の様な言い方をしているが、それがバレた所で大した事とは思ってない様子のセリフ。
それだけ自信があるからこその発言なのだろう。
「こんな非科学的な世界に来といて何言うてんねんって話やけどな、あんたがキャッチで『吸収』したエネルギーは何処に行ったんか考えてたんや。そのまま消え去るんやったらそれで良し。せやけど逆に消えんとあんたの中で何かしらの形で残ってるんやったら……どうにかしてそれを『放出』する絡繰があるんとちゃうか思ったんや」
「凄いですよ。そこまで考えながら戦えるなんて、やはり人と魔物とでは違うと言うことですね。貴方の予想通り、私は吸収したエネルギーを吐き出す手段を持っています。簡単な話ですよ、『キャッチ』が有るなら同時に『リリース』だって存在するのです。ワザとらしくヒントの無い異能名から、様々な現象を推理しなければならない状況で、私は名称のままの意味以外にも何かしら作用する物は無いかと考えていました。そしてたどり着いたのがこの『リリース』です」
確かに、キャッチアンドリリースと言う言葉が存在する様に、二つの言葉が意味する物は表裏一体の様な存在だ。
掴んだ後は離すと言う行動が起こるように、彼はキャッチで吸収したエネルギーをリリースで放出した。
地面を抉るほどの威力から考えられる作用は、キャッチを行う事で今まで吸収したエネルギーを蓄積して、放出する際には溜めたエネルギーを一度に放てる様な原理が存在しているのだろう。
だが、これは今後の大きなヒントになるだろう。
自分の異能にはほとんど関係のない話だが、与えられた異能には別の形での副作用が存在している可能性がある。
リアムも彼と同じ様に、防御から攻撃に展開出来る事が有るのかもしれない。
物を投げるグランが、もし物を『引き寄せる』なんて事が出来たら?
人の異能ではあるが、想像が膨らむ。
ただ、出来るとしても皆の努力次第ではあるが。
自分は前と同じ様に何かしらのアドバイスしか出来ることはないだろう。
「さて、私がとても素晴らしい異能を持っている事が判明した後でも、まだ同じ様に貴方は戦えますか? 貴方は素晴らしい身体能力か異能をお持ちの様ですが、貴方の攻撃力がそのまま貴方へ倍返しされる恐怖で……貴方は攻撃を躊躇するへぶっ!!」
「勝手に人の行動決めてんとちゃうぞお喋りマン」
うだうだと如何に自分が優位な状況かを語り出した男の顔面に、エリルは右拳を叩きつける。
お喋りマンと名付けた様に、語る事に集中し続けてくれたお陰で、隙だらけの顔面へ攻撃をお見舞いする事が出来た。
ただ、当てる事に注力したせいか体重が乗っておらず、それこそジャブに近い牽制の攻撃になってしまったのも事実だ。
「ふふ……勇気を持って攻撃してきたのに、最大のチャンスを失ってしまいましたね? もう僕は油断する事なんかありまいったぁ!!」
お次は正面から堂々と脛を蹴りつける。
あくまでキャッチの有効範囲は両手が『届く範囲』である。
その手が届かない場所への攻撃なら、そもそもキャッチされる事を警戒する必要も無かった。
向こう脛を摩りながら片足で跳びのき、後方へと下がっていった男へエリルが追撃をしかける。
左手を突き出すがそれに対し伸びて来た相手の右手。
エリルはその手を払いのける様に右手で彼の右手首を掴みながら下方向へと押す。
そして自由になった左手でもう一度顔面へ攻撃を仕掛けるが、今度は左手を差し伸べられた事で動きを変える。
相手の左手首を右手で掴み、それを解除しようと伸びて来た相手の右手首を左手で掴む。
そして左手で上から抑える様に両手を彼の腹部辺りまで誘導した後、右手を離してそのまま彼の顔面へ今度こそパンチを減り込ませる。
相手は軽く仰け反るが、掴んでいた左手は離さずに右手で再び相手の左手を掴むと、自分の方へと引き寄せると共に喉元を右足で蹴りぬく。
そのまま左足で跳ね飛び、両足を抱える高さまで体を浮かせた後、彼の胸部に向けて両足を突き出し、ドロップキックの要領で相手を弾き飛ばした。
それらの攻撃をキャッチ出来ずに直撃してしまった男だが、妙に攻撃を受け慣れているのかやたらタフな為にそれだけでは気絶していない。
エリルはここで勝負を決めるべく、仰向けで舞台へと倒れ込む男に馬乗りになり、そのまま彼の頭部へと拳を何度も何度も叩きつけた。
半分以上、その状態でも彼はこちらの攻撃をキャッチしてくるが、反撃する余裕は無いのかほぼ防戦一方となっている。
段々と被弾が増え、男の顔の至る所が腫れ上がって来たところで彼は突然叫んだ。
「半リリース!!」
言いながら左手を振るう男。
多少のダメージは覚悟の上で攻撃を仕掛けたと言う事だろう。
そして彼が言い放った言葉を額面通りに受け止めるのであれば、キャッチして溜まりに溜まったエネルギーの半分を使ってこちらに攻撃を仕掛けて来たと言う事。
つまりこの攻撃を回避できても、まだ同レベルのエネルギーが彼の中に残っていると言う事だろう。
てっきりリリースは全てのエネルギーを一斉に解放する物だと思っていたが、中々面白い使い方が出来るんだなとエリルは感心しながら男の攻撃を避けた。
自分の攻撃による影響でしか無いのだが、彼が振るった右手はとてつも無い風を巻き起こし、突き出された手の平から衝撃波の様にこちらへ空気圧が飛んできた。




