キャッチ
「まぁ安心せえや。あんたはあいつらと戦う事はあらへん。俺があんたを止めたるさかい、先にやられてった仲間達と一緒におねんねしといたらええねん」
「ふ……ふふ……良いでしょう。貴方がそう言う『はったり』を使うのであれば、私は自ら体感する事でそれを否定して差し上げます。流石に考えてみれば分かる事ですよ、どう計算しても二人して3段階目の強化をどちらも習得出来る程のポイントが稼げない事くらいね!」
『そう捉えるのか』とエリルは思った。
自分がわざと憎まれ役な言葉を口走った事も原因かもしれないが、事実を理解するよりも先に彼は現実逃避を行ったわけだ。
確かに彼らのベースでのポイント取得量を考えれば、二人も同時に10000ポイント以上のBPを手に入れる事など考えられないだろう。
彼等もゲリラボスを倒した事でやっとこの男が5000ポイントを溜めれる程度の稼ぎしか出来ていない筈だ。
ロキファミリーの様に生存者が多すぎる事で魔物が強化されたり、非常に多くの配置が施されたり等の経験は無いのだろう。
だからポイントの総取得量に彼らと自分達では差が出来上がるのだ。
こちらが一度の戦いで5000のポイントが獲得できるとして、彼等が出来るのは精々2000だったりするだろう。
ポイントの配分はファミリー全員が平均的にいくら手に入るかで調整される。
人数が多くても少なくても平均は同じくらいなのだ。
今回の戦いだってそうだ。
相手選手を5人撃退する事で、自分達は一人一人に500ポイントずつ手に入れる事が出来る。
それは彼らも同じで最高で500ポイントずつになるだろう。
これが今回の戦いでの『平均値』だ。
しかし『合計値』は全く異なる。
フレイファミリーが仮に10人生き残って居たとすれば、合計獲得ポイントは5000。
打って変わってこちらは最初に言った通り12500ものポイントが手に入るのだ。
このポイント量はこちらで言えば当たり前、あちら側も5000程度があたりまえ。
そんな常識の中でこちらが既に10000ポイントを超えるBP獲得者が居ますと言っても、信じられる筈が無いと言う事だ。
だから彼の現実逃避に至る理由も理解出来る。
ただ幾ら逃げても現実は現実だ。
仮にここでエリルが負けたとしても、彼が次を超える事は決して出来ない。
その現実を叩きつける前に、彼はこちらの言動がハッタリだと思い込んでいるままで終わらせてあげる方が良いのかも知れないなとエリルは思った。
「どちらにせよ貴方には勝ちますよ。まずは一勝……そこから勢いにのって貴方達のファミリーを壊滅させて見せます。いざ! 尋常に!」
狙ったかの様にその言葉と共に0になるカウント。
キャッチの異能を持っているからか、今迄の者達と違って自ら向かってこず、受け身の様な体勢を取っている。
両手を顔や胸元辺りでキープして、急所を守ろうとしている仕草に見える。
彼のその異能がどれ程のものなのか、試すつもりでエリルは右足でハイキックを行った。
ワザと彼が防げる様に大振りで足を振り上げた為、案の定彼は右の手の平で彼の側頭部を狙った筈の右足を掴まれる。
どちらかと言うと手の平に触れた段階で『掴まれた』判定になるのだろう。
大した音も鳴らずに、一瞬にして威力が掻き消された様に……例えるならただのイメージでしか無いが、水面を蹴りつけた様な形で蹴りの挙動が止まったのだ。
直ぐに足を引っ込めるエリル。
成程、代替効果は分かった。
「ほぉ、凄い蹴りですね。もしや貴方の異能は『それ』ですか?」
「かもしれへん……な!」
残念ながら『蹴り』と言う異能はディムの物だ。
自分は身体強化の恩恵と、今迄培ってきた身体操作によってそれに近い事が出来ているだけだ。
恐らく蹴り単体ならディムに勝てる事は無い。
見た感じ彼の蹴りの使い方は格闘技のそれでは無く、何方かと言えば『サッカー』をやっている者の使い方だ。
ある意味で格闘家よりも多く『蹴り』と言う物を繰り出してきているであろう彼に、その専門分野で更に異能持ちであるのだから現状で勝てるとは思えなかった。
ただ、自分はそれだけでは無い。
寧ろこの肉体全てが凶器だと言っても過言では無い。
そう思えるだけの鍛錬は行ってきた。
だからこそこの不意を突いた『ジャブ』が男の鼻を叩いたのだ。
「くっ!」
返しに右ストレートを顔面へと叩き込もうかと考えたが、軌道を変えてボディへとそれを向ける。
だが彼の左手がほんの少しこちらの右手を撫でる様に触れただけで、敢え無くその威力は吸収される。
右手を引きながら左手で顎を狙う様にフックを仕掛けるが、それも手首を返した右手でギリギリ抑えられる。
だが抑えられる事が分かっているのだからいくらかやりようはあった。
そのまま左足で彼の足首を払う様に蹴りぬく。
バランスを大きく崩し、腰から地面へと落ちかける彼だが、先に手を『地面』へと付ける事でその転倒する威力さえも『吸収』してしまったのか、両手を地面につけたまま倒れる事無く、先に足を地面へと降ろして立ち上がってきた。
「ふぅ……貴方の異能が分からなくなってきましたね。蹴りかと思えば殴りも鋭い……私はこう言う類いの能力ですからありとあらゆる攻撃を受け続けてきましたが……貴方の打撃はどれも群を抜いています」
特に足首は今とても痛いです等とボヤきながらも、まだまだ防ぐつもりか両手を前に構えた。
動きはてんで素人だ。
やはり格闘技を学んでいたタイプでは無いが、このデスゲームの中で成長していったのか相手の攻撃に対して手を触れる事に関してはかなりの技術を持っている。
もう少し動きに変化を付けて戦うべきかとエリルは行動を変えようと試みて、フェイントも織り交ぜながら再び攻撃を仕掛けた。
幾度か攻撃が肉体に届いた事もあったが、彼の両手が上手に急所を守る様に伸びてくる為未だに急所を突く事は出来ていない。
持久戦になるかと思いながらも、それなら恐らくこちらの方が有利だ等と考えながらも、再び攻撃を仕掛けようとした時、男は右手を大振りで振るってきた。
ここに来て初めての攻撃への移行。
隙だらけだと感じたエリルは、そのままギリギリで躱しながらカウンターへと持ち込もうとした。
しかし、直前でエリルは後方へと下がる事としたのだ。




