異能暴露マン
「なんかお前やたらと周りから心配されてるなぁ? もぉしかして弱っちぃんじゃねぇのぉ?」
その人物は、焼けた肌に焦げ茶の頭髪、ある程度鍛えられた体に青いジーンズと黒いTシャツを着こなした、系統的には『ネイサン』に似ている様な人物であった。
彼と違うのはその舐めた態度を取る様な部分と言った所だろうか。
嫌味な程にダサい金のネックレスにサングラスをひっかけ、中指、人差し指、そして親指にまでこれまたダサすぎる指輪を嵌めている様な、非常に頭の悪そうな男であった。
「俺ってばわかっちゃうんだよねぇ。格闘技齧ってるとさぁ、相手の力量? みたいなのが瞬時に分かっちまってよぉ、そんであぁこいつよえぇなぁなんて思うと少し小突きたくなってしまってよぉ? 何発殴ったら泣きわめくかなぁ? なんて考えちまうわけよぉ。ま、これが強者の特権って奴? なははっ!」
撤回する。
頭が『悪そうな』では無い。
これは明確に『頭が悪い』と断言して構わない。
格闘技を齧ってる等言っているが、実際にやっているのだとしても本当に齧っている程度なのだろう。
恐らく形だけ入って『自分は格闘技をやっている』と言うアピールがしたいだけで、本気でやっている者のそれでは無い。
エリル自信経験した事があるのだが、自分が本当に真剣に武術を学び、ある程度自信が付く様になれば確かに彼の言う通り『相手の力量』の様なものは分かるかもしれないが、だからと言って小突きたくなるなんて思考回路は決して生まれない。
これは性格や考え方の話では無く、本当の強者と言うものは例え自分より弱そうな人物を見つけた場合にはほとんど興味を示さなくなるものだ。
心に余裕が出来るからこそ、バカな奴の相手をする必要が無いと思える様になるのだ。
……そんな心理描写等今はどうでも良い。
既に試合開始のカウントダウンは進んでいる。
エリルはそれだけに集中し、電光掲示板の様なボードに表示されている数字が0になった瞬間に試合を終わらす事だけ考えた。
「どーせ俺に敵わねぇんだから、お仲間さんの言う通りさっさと降参した方がいいぜぇ? なんなら降参する理由を増やしてやろうかぁ? 俺の異能はなぁ、『ヒット』て言う奴なんだぜぇ? 俺が意識して放ったもんは全部対象に命中するって言う面白れぇ異能だ。石なんか拾い上げて投げつければ魔物に確実に当たるし、俺が自分で直接殴りつければ急所に当たる事が多い。わかるかぁ? 格闘技を齧ってる俺がこんな強力な異能力持ってるんだぜぇ? 挙句の果てに身体強化も異能強化もどっちも2を俺は持っちまってるんだよなぁ? どうだぁ? 怖くなったろ? 降参して構わねぇんだぜぇ?」
やはり馬鹿は馬鹿か。
自分から手の内を晒すなんてとてもでは無いが賢いとは言えない。
対策してくれと言っている様なものだからだ。
異能を言わなければどんな物か分からない事から、相手が少しは警戒したかもしれないのに、明かしてしまえばそこから起こる現象にさえ気を付ければ良くなってしまう。
異能の公開は確かに脅しにも使えるかもしれないが、大抵はそれと同時に己の弱点を晒す事に繋がる事にも気づくべきなのだ。
確かにヒットの能力を聞く限りは良い能力に聞こえる。
ただこちらのメンバーの中にも『急所』を的確に狙う事の出来る異能を持つ者もいれば、それこそ『投げる』事に関しては最強とも言える『投擲』の異能を持つグランでさえいる。
ヒットの異能としては幅広く応用が出来る所に魅力が有るのかもしれないが、満遍なくいろんな事が出来る分専門の効果よりは劣ると言った所が実態なのだろう。
何れにせよ、相手が馬鹿で良かったとも思える。
おかげで殆ど考える事無く相手を制圧する算段が浮かんだからだ。
「当たるとええな」
電光掲示板の数字が1を刻んだ時、エリルは一言だけそう呟く。
「へ?」
良く聞こえなかったのか、その数字が0になったタイミングと同時に男が言葉を漏らした。
「あんたの異能がちゃんと発動して、俺に当たったらええなって言ったんや」
自信があった為か、カウントが無くなると言うのに全く構えすら見せなかったこの男。
まさに『隙だらけ』と言う状況であった為に、エリルは試合が始まると同時に瞬時に踏み込んで男の鳩尾へ真っすぐ肘を減り込ませた。
相手が身体強化2を持っていたとしても、自分も同じく身体強化2を持っているのだから、そうなれば純粋な肉弾戦になった時に物を言うのは個々の身体能力や技術だ。
片や達人の域に達しているエリルと、本当にただただ格闘技を『齧っているだけ』の男の間には雲泥の差が有るのは明らかな事だ。
だから一瞬で終わる。
異能の効果が警戒するまでも無いと分かった時、エリルはただ一撃で急所を突いて終わらせる事を決めた。
ヒットの異能があったとしても、その異能が発動する前に終わらせれば、異能なんて有って無い様な物だ。
次の対戦相手から多少警戒される様にはなるかもしれないが、それでもこちらの実力を見せつけるには十分なデモンストレーションとなっただろう。
電光掲示板からブザー音が鳴り響き、再び文字を刻み始めた時、『勝者:エリル』と言う表示がされ、そのまま男の名も知らぬまま対戦相手は退場となった。
「エリル……お前……」
相手チームよりも、エリルの強さに驚きを見せるのは『グラン』だ。
それはそうだろう。
彼は現在、エリルを最も心配している者の中の一人だ。
寧ろ彼が一番エリルの事を気にかけていると言っても過言では無く、なんの強化も齎されてないと思い込んだままだった筈だ。
「安心せぇ。俺はこの通り……もうめっちゃ強いんや。せやからもう心配すんな。そこでミッションが終わるのをアホ面晒して見学しとりゃええねん」
「……大丈夫……なんだな?」
状況を理解出来ないと言った風だが、それでも無理やりにでも納得しようとしているのか、最後の確認の様に言葉を掛けて来るグラン。
「大丈夫や」
断言する様に返答するエリル。
難しい表情をしながら、その言葉に頷きを見せたグランを一瞥した後、ステージへと上がって来た相手選手へと視線を向ける。
「……俺はよく雑魚がやる様なスピード自慢等した事は無い。だが敢えて言わせて貰おう……俺の足は……最高には――」
「ええからかかってこんかいスピード自慢の雑魚さんとやら」
「……」
まだ何か言いたげな男ではあったが、その後は黙って戦闘開始のカウントダウンに向けて準備を始めていた。
流石スピード自慢をする様な男だ。
やはりそう言った系統の異能なのだろう。
構えが正に今から走り出しますと言う様な体勢だ。
それこそクラウチングスタートをやろうとしている状況だ。
そこから予想出来る異能は『ダッシュ』の様な名称か。
恐らく足の速さで翻弄しつつ、隙をついて攻撃をしたり、その速さのまま対象へ突進を行う様なスタンスだろう。
ダッシュによる恩恵だけでなく身体強化による恩恵もそこに重なって来るのだから中々厄介な能力だろう。
だが攻略法ならある。
相手がスピード自慢をする様な単純であればある程にシンプルな解決方法だ。
カウントが0を刻んだ時、相手の男は真正面に走り出して来た。
確かにこの距離を一瞬にして詰めるその速度には目を張るものがある。
だが物理法則で対象が早ければ早い程、それが『停止』するには時間が掛かるものだ。
相手はスーパーヒーローでも、ましてや『ブレーキ』なんて類いの異能を持つ存在では無い。
だからこそなんの考えも巡らせずに、ただ真っすぐ向かって来る様な男に対しては、こちらがタイミングを合わせてカウンターの如く相手の『顎』を蹴り飛ばすだけで終わりだ。
エリルは男と接触するタイミングで彼の顎を膝で蹴りぬいた。
意識の糸が断ち切られたのか、男はそのまま前のめりになって地面へと寝そべっていった。
己の前進するエネルギーが全て己の顔面に帰って来たのだから、当然の結果と言えるだろう。




