一番手
「エリル!! 直ぐに『降参』しろ! 後は全部俺に任せればいい! お前が……傷付く必要なんかない!」
グランは『舞台』の外からエリルへ説得する様に言葉を連ねている。
11日目のミッションが開始され、今迄経験した事の無かったタイプのミッションが始まった事により、今エリルは一人で戦闘の会場となる舞台へ立っている。
その日初めて体感するミッションは『対人戦』であった。
仲間同士?
そうでは無い。
『ファミリー対ファミリー』の……正にロキが言っていた神の代理戦争の代名詞の様な展開で、相手は魔物では無く自分達と同じ『人間』だと言う事だ。
10日目まではそれぞれが魔物を倒す事でポイントを溜めて、各々が自己強化をする様に商品のラインナップから取捨選択をしていく。
そうやって力を付けた段階で切りの良い10日目にボス戦を行い、それまでの集大成をそこで披露する。
そこで生き残る事が出来れば次の日へ進む事が出来、逆に敗れればそこで全滅と言った展開となる。
これらは恐らく何人いるか分からない神達の数だけ存在するファミリー達全員に施されているものだろう。
つまり今この舞台でエリルの前に立っている見知らぬ人物も……あの十日目の激戦を乗り越えた存在と言う事だ。
自分達ロキのファミリーは生存者数が異常に多い事から、対峙する魔物の数や魔物の強さが他のファミリーより上がっていると言う話を聞いた。
……先日のあのキングドラゴンを倒せた事は、今思えば奇跡としか思えない。
シアンとケヴィンと言った存在自体が異端な強さを持った二人が居たからこそ乗り越えられたのだとエリルは思っている。
何が言いたいかと言えば、同じく十日目を乗り越えた存在と言える目の前の相手も、恐らくはこちらの様な激戦を制した訳では無い筈だと考えていると言う事だ。
勿論甘く見るつもりなんてさらさら無いが……正直に言うと『負ける気がしない』のも事実だ。
「安心せぇやグラン……俺ももう……ちゃんと戦えんねん。せやからそこで黙って見とき。俺が全部倒したるさかい」
「……エリル? どう言う……」
先日、ツギシーヌ達に襲われた事でポイントが手に入った事はグランにも伝えていない。
そんな暇が無かったと言うのも事実だが、それ以上彼等との関わりを極力避けたいと思い始めたケヴィンの考えが行動に出てしまった影響だ。
……シアンとケヴィンは自分のせいで死んだ。
これはキングドラゴンが強すぎたからとか、誰が一緒でも同じ展開になったとか言い訳等幾らでも出来るしそれこそが事実だと言う事も分かっているが、誰が何と言おうがエリルにとってはそれこそが真実なのだ。
自分が強ければ彼らを助けられた。
少なくとも庇護対処として扱われる事等無かった。
シアンもケヴィンも自分を守る事で死亡せず、今もここにどちらかが立っていた筈だとエリルは考えている。
二度とあんな事は起こさない。
二人の柱を失ってしまって、ただでさえファミリー達の関係性もギクシャクし始めている所で、更にグランや元シアンチームの者達の誰かが失われ様ものなら、もう誰も立ち直れなくなってしまう筈だ。
グランやディム達がやたらと自分を気にかけている事も知っている。
だからこそこれ以上彼等との関係性を続けていれば、いつか彼等もケヴィンと同じ様に自分を何かと守ろうとする筈だ。
現状だってそうだ。
グランは今の状況で自分へ『降参』を投げかけている。
彼が今エリルに起こっている状況を知らない事も理由の一つだが、それでも彼が自分を守ろうと言う思考になっている証拠だ。
そんな考えを彼に思わせる時点でダメだ。
いつか必ずシアン達の二の舞が起きる。
グランかエリル、何方かしか助からないと言う場面が起きた時、彼は迷う事無く自分を助けようとするだろう。
有り得ない、有ってはならない。
彼を信用しているからこそ必ずそうなってしまう事が容易に想像出来る。
ならどうするか。
彼との関係性を限りなく薄くして、彼等と距離を置く事でそう言った思考が生まれない様にするのだ。
何より今の自分は一人で戦い抜ける力がある。
これが有るから心配しなくてもいい。
今回の戦いは、それを見せつける為にここに立っていると言っても過言では無い。
ミッション内容は、対峙したファミリーと5対5の勝ち抜き戦を行う事。
相手が戦闘不能になったり、降参をするまでが試合内容であり、勿論その中で相手が死んでしまっても構わない。
むしろ今後こういったファミリー同士の戦いも何度か起こって来るから、出来る時に相手を殺す事も手段の一つだと銘打たれている程だ。
メンバーの選出はファミリー達の『多数決』で行われた。
この五人の選出はルールを決めれば非常に重要な要素であり、何故かと言えば互いの勝利数×100ポイントがそれぞれに与えられると言う形式になって居るのだ。
今迄のミッションと比べれば五人全員倒しても500ポイントにしかならないと考えがちだがそうでは無い。
……勝利した側のファミリー『全員』に100ポイントなのだ。
つまりロキ側のファミリーが相手の五人全員に勝てば、500×25で12500ポイントがファミリーの総獲得ポイントとなる。
それだけ聞けばかなり美味しいポイントになるだろう。
何よりこれは全勝しなければ手に入らない物では無い。
相手チームを一人倒せば100ポイント、二人倒せば200ポイントとその時点で手に入る事が確定している。
五勝四敗であれば自分達に500ポイントずつ、相手にも400ポイントずつと死にさえしなえれば互いにとってメリットしかない勝負内容だったのだ。
では何故そんな大量のポイント獲得が期待出来るミッションで、表向きには未だ無能だと思われているエリルが『一番手』として選出されたのか。
ここはグランやジェシカ、元シアンチームから五人を選抜して確実に勝つ事こそが大事では無いのか。
それは『常識的な考えを持つ者』が導き出す答えであって、『非常識な者』が出せるものでは無かった。
この試合の唯一の問題点は、試合の決着結果が『生死を問わない』部分にある。
これだけで非戦闘組はまず己が戦う事を拒否する。
これは想像が出来る行動だ。
そして第二に考えたここが、やはり人数が多すぎる事で今後も生存出来る可能性が減る事を考えた結果、この『生死を問わない』と言うルールを利用して相手側に『エリル』を殺して貰おうと考えた事が要因だ。
ここでエリルという無能を口減らしする。
そう言った意見で一致団結した結果、選抜選手が『多数決』と言うルールを利用して、エリルが一番最初にステージへと立つ事となったのだ。
あわよくば無駄死にせず、次に続く他のファミリー達の有利に立ち回れよと言う有難い要望付きで。
まぁどうでも良い。
エリルはどっちみち、こういうルールで有った場合一番最初に選抜で出るつもりしか無かった。
グランが非戦闘組がエリルを一番に選出した事に対して、半ギレ状態で自分を二番手に選出しろと言った事でその通りになった事により、彼が直ぐにこちらに降参を促して自分が残りの対戦相手を一人で片づける旨を言い放っていたが、エリルはもう既に自分一人でどうにでも出来ると考えている。
確かに……現状ではグランが戦った方が戦いは早く終わるかもしれない。
グランは現在、『身体強化3』と『異能強化3』の両方を抱えている。
正確には『ジェシカ』も同じ状況にあり、やはり彼等二人のキングドラゴン戦での行動はしっかり『援護ボーナス』が取得できる程の活躍であった為か、二人にはキングドラゴンの援護ボーナスだけでも『10000ポイント』もの頭の可笑しいレベルのポイントが入っていたのだ。
平均で5000程度手に入ると思われていた10日目のゲリラボス戦で、援護ボーナスですら10000だ。
……どれだけあのキングドラゴンが異常なレベルだったのかが想像出来る。
いずれにせよ、そのポイントを使って二人は現状無敵な存在へとなっている。
追い打ちを掛けるかの如く、続けざまにアイテムリストには身体強化4と異能強化4が立ち並んだみたいだが、いずれそこへ辿り着くつもりでしかないエリルにとってすれば、そう言う存在があると言う情報が手に入っただけで充分であった。
ともかく、ロキファミリーとしては間違いなく現状グランが最強だ。
だからこそこの戦いにグラン登場すれば勝ちは確定なのだろう。
だがエリルはそれを良しとしない。
ここで自分の力を見せつける事で、彼らにもう自分を守る必要が無いと思わせる事が一番大切だと思い、その上でわざわざグランの手を煩わせる必要は無いと考えた。
そう言った強い意志を持って、エリルは対面上で立ち尽くしている相手選手を睨んだ。




