一矢報いる
「君が訳わかんない事言うからしらけちゃったじゃんー。もういいやぁ、これ以上君を馬鹿にしてもあんまり面白い反応も出てきそうにないし、さっさと君の『代償』を支払って終わりにしようよぉ、なぁにが良いかなぁ?」
ロキの言う『代償』とは、今回オーディンがキングドラゴンを召喚した事に伴うペナルティの一部を差している。
裏技的に神格を犠牲にして魔物の配置する為のポイントを手に入れたオーディンだが、仮にロキのファミリーを全滅させる事さえ出来れば、ある程度の神格は戻って来る筈だったのだ。
対峙する神のファミリーを倒せば倒す程、自分の神格が上がっていく仕組みがある為、神達は如何に小さいコストで相手ファミリーを倒すかが重要なポイントとなっていた。
オーディンの場合、ギリギリまで己の神格を犠牲にする事でポイントを捻出し、本来10日目に召喚できる筈の無いキングドラゴンを配置する事に成功していた。
これはロキのファミリーが最上最高レベルの生存者数を叩き出している事も理由の一つだ。
対峙する神のファミリー達の生存者数に伴って、神達は魔物を召喚する為のポイントが付与されるのだから、例えるなら5人しか残ってないファミリーと対峙した時と、27人残っていたロキのファミリーと対峙する時とでは与えられるポイントが正に桁違いに変化する。
普通の状態でもロキのファミリーが相手であれば10日目にしては強力な個体が召喚できるポイントが手に入ったのだが、ここで確実にロキを脱落させる為にとオーディンは神格を使い果たすレベルで注ぎ込んだ。
しかし、実際にはそれでもキングドラゴンを召喚する為のポイントには足らなかったのだ。
これはオーディンの神格が元から低かった事でポイントが足りなかったと言う訳では無い。
単純に十日目にキングドラゴンを召喚すると言う行為は普段以上に必要ポイントが跳ね上がるシステムが組まれているのだ。
例えば初日で召喚できるクロウラビットは5ポイント程度の召喚ポイントが必要。
これが二日目には4ポイント、三日目には3ポイントと言った様に、日が立つに連れ魔物の召喚コストが下がっていく傾向にあるのだ。
90日後のゲリラボス戦ではわざわざ神格を犠牲にしなくともほぼ確実にキングドラゴンを召喚出来るくらいにコストは下がっている状態なのだ。
それを無理やり十日後に召喚してしまった事で、莫大なポイントの消費が必要だったと言う事だ。
そして今回、オーディンはキングドラゴン召喚の為のポイントが神格を犠牲にしても『足らなかった』事により、『後払いシステム』の様な……『借金』の様な形を取ったのだ。
皮算用とでも言うのか、キングドラゴンを召喚する事でロキのファミリーを全滅する事が出来れば支払えるだけの神格の前借をし、それすらもポイントに変換すると言う神と言うよりはただの破産する未来しか残っていないギャンブラーの様な行動をロキは取った。
しかし実際にはシアンとケヴィンの二人しか倒す事が出来なかった。
いくらその二人がロキのファミリーの中で別格だとしても、倒す事で得られる神格は別の者達の何ら変わりはない。
骨折り損のくたびれ儲けの様な状況ではあるが、オーディンは27人の全滅を目標にして戦ったのだが、結果としては二人分の神格しか入手する事が出来なかった。
ただ、オーディンは言った通りギリギリまで神格を消費しているが故に、これ以上払える神格が存在しない。
無い者は払えない債務者の様な状況だ。
だからこその『代償』だ。
神格が支出できないのであれば、『別の物』でそれを代用すると言う方法で不足分を賄うと言う状況だ。
「……それならもう用意してある」
「んー? 何かなぁ? 僕がちゃんと認められる様な物にしてよねぇ? 似た様な状況で僕はちゃんと君に『スレイプニル』を渡したんだからさぁ」
代償を支払う相手はその時戦っていたファミリーの主神だ。
つまり今回はこのロキと言う事になる。
ロキが今後このラグナロクを有利に運べる為の助けとなる様な品であれば、それをロキが『代償』として認めるのであれば、契約は成立して借金が帳消しになると言うルールが組まれている。
きっと先代の神達にも同じ様に神格を犠牲にして何かを成し遂げようとしていた者が居たのだろう。
だからこそこんな抜け道に様なルールが存在するのだ。
「……これだ」
言いながらオーディンは自身の『所有物』の中から一つの品を取り出して見せる。
「おー……君の代名詞の様な物を差し出すんだねぇ? んー……確かにそれは非常に価値がある物でぇ、代償としては十分だけどぉ……今回のラグナロクの形ではあまり意味が無いんじゃないかなぁ? 僕たちが『直接対峙』する場面がほとんど無いだろうしさぁ」
「……有効活用する方法が一つだけあるだろう。……『アレ』の報酬にすれば良いのだ。最初の一人が『アレ』を手に入れた時……その際に付与されるものが『これ』となる様にすればいい」
「なるほどぉ! 確かにそれなら『グラン』とかが上手く活用してくれるかもねぇ! いいねぇ、じゃぁその案貰ったと言う事でぇ……これで君は代償を払ったと言う事を僕が認めてあげるよぉ。よかったねぇ? これでまだ神が続けられるねぇ? 感謝してねぇ」
ウキウキ、と言っ状態でロキはオーディンから差し出された品を受け取っていく。
……彼はそれを手にする存在が『グラン』と思い込んでいる様だが……きっとそれを手に入れる者は別の存在になるとオーディンは確信していた。
「ロキ……一つだけ忠告しておくぞ」
「……何さ、折角ご機嫌だったのに水を差す様な事言わないで欲しいな!」
「……あまりファミリーを無下に扱うなよ。……『人間を舐めるな』と言う事だけは伝えておく」
「なぁんで最強の神が『駒』を恐れなきゃいけないのさぁ。君みたいに馬鹿して神格が下がった訳でもないのにぃ、僕はヘマして人間に牙を向けられる事なんてないよぉだ!」
その返答に対してオーディンは軽く首を振りながら再び口を開く。
「そんなに余裕をこいていると……足をすくわれるぞ……」
「そう言う状況になったらさぁ……『殺せば良い』じゃん。簡単な事だよ」
ロキの付けている仮面が、口端が大きく上がる様に笑みを浮かべる。
簡単に言うが、本当に人間達は一筋縄ではいかない存在だ。
事実、万全を期して仕向けたキングドラゴンですら倒されてしまったのだ。
……あの『エリル』が何かしらのきっかけで開花する事があれば……。
いや、オーディンは既にロキに渡した品が、エリルの元へ送られる事になる事を確信している。
言った通り、倍化の異能を持つ者はポイントを入手する切っ掛けが訪れれば一瞬で化ける可能性がある。
素の実力が途轍もないエリルが仮に身体強化を入手すれば……その実力はシアンやケヴィンに匹敵し得るものだとオーディンは信じていた。
ロキに渡した品はちょっとした手向けだ。
自分は失敗してしまったが、あの品を持って辿り着くところまで辿りついた時には……いっその事ロキをその手で……。
等と言う思いもあって、オーディンはわざとあの品を代償に捧げたのであった。
「……忠告はしたぞ。後は……好きにしろ……」
「そうさせてもらうよぉ! ほいじゃあねぇ!」
言いながら再びスキップを始めて室内から退出していくロキであった。
彼の言う通り、自分はほぼほぼこのラグナロクでの完全敗北が決まった。
他のファミリーの相手をすると言う役割は残っている為に参加だけは強制されるが……人間の怒りの矛先が、ロキを貫く事で収まる事を願うばかりであった。
――――……。




