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異能の威力

「行くで!」


エリルとシアンは並走する。


恐らく彼も何かしらの武術を会得しているのだろう。


体捌きが常人のそれでは無い。


ただ、先程のウサギの状態から察するに彼の持つ異能は恐らくかなり『接近』する必要が有るのだろう。


自分の様にある程度リーチのある得物がある訳でも無く、恐らくだが対象に『触れる』事で『切り裂く』様な効果のある能力なのだろう。


だからこそ自分と同じく魔物に近づく必要が有ったのだ。


二人の間をすり抜ける様に炎と氷が魔物へと突き進んで行った。


ケヴィンが後方から援護してくれているのだろう。


その上彼の魔法の様な自然現象の放出は、かなりの高精度でしっかりと対象にそれらをぶつけてくれていた。


仮面の男にミスる事なく炎の球をぶつけた事や、氷の刃を動いているウサギにぶつけた事も顧みれば……恐らく彼はそう言った能力を今迄使った事があるのでは無いかと予想が出来る。


となればケヴィンは……地球ではない別の世界から来た……?


エリルは一度その思考を手放し、目の前の魔物へと意識を集中する。


女性から預かった槍を掲げ、ウサギが飛び跳ねる前に急速に速度を上げると共に、それの顔面を槍の刃で貫いた。


ズブリと、先程コンクリートレンガと感じたウサギの肉体へ、簡単に槍が入り込んでいく。


これはあれだ。


良く使われる例えとして『バターみたいに』と言えるレベルで、まるで圧力を感じない。


遅れてウサギに到着したシアンは、飛び掛かって来たウサギの攻撃を華麗に回避すると共に再びウサギへ向かって手を伸ばしていた。


そっとウサギの胴体に手を触れた瞬間、やはり先程と同じ様にウサギが一瞬にして真っ二つに切り裂かれた。


見る限りではかなり強力な異能に感じる。


ある程度の範囲と威力が決まっているのだろうが、それでも対象を一瞬にして切り裂く様な能力なんて、下手をすれば武器要らずな能力だ。


シアンは今度はしっかりと集中していた様で、横から飛び掛かって来たウサギの攻撃を屈みながら避け、下から横っ腹を蹴り上げる様な動作で足を接触させると、その瞬間に再びウサギの胴体が切断される。


「……成程な」


その光景を見て、納得いった様な言葉を発するシアン。


視界の端では、燃え盛るウサギと氷で貫かれるウサギの姿が見える。


エリルも襲い来るウサギに対して槍を振るって一瞬で絶命に追い込むが、それ以上の速度で二人が殲滅していく様を横目で観察しながら思った。


この二人、吸収力が凄まじく早いと。


発言的にシアンは間違いなく日本人だ。


自分と同じ様に、この様なファンタジーの要素なんて物語の中でしか見た事無かっただろう。


しかしそんな状態でも己に与えられた異能力の最適な使い方を僅かな攻防の中で発見してそれを行使していく。


動きを見れば格闘センスがずば抜けている事は見てわかるが、それを一瞬にして己の異能と合わせて開花させていく様を見て、戦闘センスがズバ抜けて良い事が感じ取れた。


ケヴィンが言った通り恐らくそう言った物が存在していた世界から来た者なのだろう。


すんなりと現状を受け入れている自分の心境に多少違和感を持つが、やらなきゃやられる精神はいつも持ち合わせて来た。


だからこそ今は兎に角状況をいち早く整理する為にも、現実から目を背ける事はせずに起こったままの事を情報として取り込む事に集中している。


その上で、やはり与えられた異能をこれだけ的確に突かい熟せるのは一種の才能だとエリルは思ったのだ。


もしくは、彼はそう言った世界で努力を積み重ねて来たタイプなのかもしれないが……。


何れにせよ、エリルは現状を冷静に捉えて導き出した答えが一つある。


恐らくこの戦いはチュートリアル的な物で、敢えて仮面の男は雑魚と表現したウサギばかりの魔物をぶつけて来たのだろうが、それでもその魔物達の一撃はこちらの命を刈り取るレベルにある。


一撃を食らうだけで致命傷、神経をすり減らしながら確実に魔物の数を減らしていく。


アドレナリンでも出ているのか、酷く冷静な自分に違和感を覚えながらも、この三人なら初戦を突破出来る事をエリルは確信した。


槍が踊る。


自由自在にそれを振り回し、他人の物なのにそれでも完璧に操る事がエリルには出来た。


『無形影棍流槍の型』


エリルが修めているこの武術は、突けば槍、振るえば薙刀、持たば太刀を愚直に突き進んだ杖術の中で、特に槍の型を好んでエリルは集中的に学んでいった。


様々な武器術を取り込み続け、それらの武術から応用できる部分を抽出して己が得意とする武器に落とし込む事をモットーとした流派である為に、別段エリルは槍でなくともありとあらゆる武器を扱う事が出来る。


ただその中でこの槍が一番得意である事は変わらず、あくまで渡された武器が剣であったとしてもエリルは戦う事が出来たであろう。


変幻自在で形無し。


無形影棍流が棍を様々な武器に見立てて扱う事からそう呼ばれる事も多々あった。


勿論エリル自身も最初は棒術を学んでいたのだが、やがてその中で己の得手を見つけ出した事で槍を扱う事になったのだ。


その事に対してとやかく文句を言う存在は無形影棍流の門下生には存在しない。


寧ろ師範であり創設者でもある『テイル・クルーエル』が自ら、無形影棍流から学んだ武器術をそれぞれの武器に活かす事を推奨していたのだから尚更だ。


テイル本人が棒術ばかりを扱っていた為に、棒を扱わなければならないと錯覚してしまいがちだが、門下生の中には他にも剣の型や斧の型なんて物にまで派生させている者まで存在している程だ。


話が大きく脱線したが、確かに扱う槍には理想とする重さや長さは存在するが、武器であるならエリルは何でも扱う事が出来る。


無駄にエリルは演武の様に槍を体の至る所で回転させながら払い、突き、打ち込んでいった。


あくまでダメージ判定が有るのは矛先だけだと思っていたが、試してみた所そうでも無かった。


半端な攻撃方法ではびくともしないのも事実だが、渾身の威力を込めて槍の柄の部分で殴打すれば相応のダメージが発生している事が分かった。


単純にこの魔物は肉体が極端に硬いと言う事。


拳がその硬さに打ち勝つ事が出来ていれば、恐らく先程の殴りやシアンの蹴りでもダメージを与える事が出来たのかも知れないと言う可能性があった。

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