100倍
徐に蓋の空いてない500mを手に取る。
そして力任せにそれを握りしめると、当然かなりの抵抗力を感じられたのだが信じられない事にペットボトルの『破裂』が起こった。
どれだけの握力を持っていたとしても、人がペットボトルを破裂させる程の力を発揮出来る事は絶対に無い。
中に入っていた水によってエリルの衣類は濡れてしまうが、それよりも破裂によって襲い来る筈の痛みもエリルは殆ど感じる事は無かった。
エリルの濡れた手を見つめながら理解した。
『身体強化』は、間違いなくこの身に宿ったと。
一瞬夢かとも考えた。
自分が身体強化を求めるがあまり、今自分は本当は寝ていてポイントなんてものは手に入って無いのではとも考えた。
だが……エリルはポイントの入手経路が何となく理解できた。
……『計算が合う』のである。
エリルは先程、ツギシーヌ達から合計『21回』暴行を受けた。
システムメッセージも同じく21回表示されており、彼等から受けた暴力と同数の回数が表示されている。
そして言った通り、その中で『身体強化』持ちのツギシーヌからは一度しか攻撃を受けていないが、それでも彼は身体強化越しに殴った事で10ポイントこちらに付与された形となった。
他に便乗してこちらに暴行を振るってきた者達から受けた攻撃が合計20回。
それぞれからは1ポイントの付与が発生した。
これで合計21回。
単純なポイント表記とすれば、ツギシーヌの10ポイントを含んだ30ポイントだ。
全然計算が合わないと思えるが、エリルには『これ』が有るのだ。
そう……『100倍』と言う『異能』が。
30ポイントの100倍。
それは3000になる。
その上で、先程の『自傷行為』によるマイナスとなった10ポイント。
全てを計算すれば、最初にエリルのステータス表示に表記されていた2990のBPの証明が出来る。
「アホかいな……こんな事やったんか……俺の異能は……」
エリルの異能はつまり……『取得ポイントの100倍化』と言う効果を持つ物だったのだ。
消費ポイント、現象ポイントには100倍化は起こらず、あくまで取得するポイントのみ100倍化する効果を持つ。
……成程、確かにこの系統の異能を持った者は悉く死んでいくしか無かっただろうなとエリルは思った。
ポイントが倍加される事は確かに凄いかもしれないが、その大事なポイントを手に入れる事が出来ないのだから持っていたって意味はない。
あれだけ故意的なポイントの譲渡にしつこい程対策を施されていたのだから、仲間によるポイント譲渡も出来なければ、戦闘中にワザと被弾して暴力ポイントの取得なんて事も出来る訳が無かったのだ。
そもそも自分の様に身体強化も異能も無しで生き残り続けていた方が奇跡だったのだろう。
だから今回の様に長い間生き残った事で、意味不明な反感を買って暴行を振るわれる事すら無かったのだ。
本当にクソなシステムだとエリルは思った。
今迄全ての異能が戦闘に関係する物だと思っていたし、実際にこの100倍化も間接的には戦闘に直結する物だった。
ポイントが多く手に入れば、その分自己強化も何倍も速く出来る。
だけど誰がこんな抜け穴に気付くと言うのだ。
魔物を自力で倒せない者が、ファミリーの誰かから『悪意のある暴力』を受ける事で初めて発生する異能なんて馬鹿にしているにも程があるだろう。
「……何で今更こんな事に気付くんや……ほんま……何でもっと早く発生してくれへんかったんや……」
確かに念願のポイントは手に入れる事が出来た。
しかしエリルにとっては、『遅すぎ』だと感じる程にその異能の判明のタイミングに苛立ちばかりが先行してしまった。
もっと早くこれが判明していれば、シアンもケヴィンも助ける事が出来た。
言ってしまえば、自分がとっくに身体強化3をゲットして活躍する事だって出来た筈だ。
最も欲しかった物を手に入れて、最も知りたかった効果を実感したのに、エリルの心は全くと言って良い程優れない。
自暴自棄気味に、勢いでそのままエリルは『身体強化2』もタップする。
商品のラインナップから身体強化2が消えて、ステータス表示から500ポイントの消費が発生する。
それと同時に暗転した『身体強化3』が表示され、必要ポイント数である5000も同時に掲載される。
今はそれを手に入れる事が出来ない。
ポイントが足りないからだ。
だが……遅すぎた異能の発見によって、次に魔物を数体でも倒せばすぐにそれらは溜まるだろう。
異能の『100倍』に強化要素が存在しない為か、身体強化3の隣に表示されている『異能強化』の項目は、ポイントを持っていた所で暗転している。
「……とことん異能に嫌われてるみたいやな俺は」
意味がないのなら何故表示されているんだと文句を呟きながらも、エリルは再び商品ラインナップをスライドさせて……一つの項目で指先を止めた。
ポイントの入らない自分には全く関係ないからと気にも留めなかった『???』の表記となるその商品。
必要ポイントだけ5000と表示され、それが何を示すのか全く理解できない状態でただただ暗転しているそれ。
……物は考えようだ。
『エリクサー』なる物が5000で売っているのなら、この様な全てを回復する様なアイテムが存在するのなら。
……もしかして『復活用アイテム』なんて物も存在するのでは?
それがこの隠された『???』が意味するアイテムなのでは?
だとしたらどうなる。
シアンとケヴィンが……復活出来るのか?
自分のこの異能なら、5000なんて軽く稼ぐ事が出来るだろう。
やれるのか?
いや、やるに決まっているだろう。
エリルの手は再び震えた。
これは……武者震いと言う物か。
「やったるで……」
エリルは未来に希望を持ち始める。
簡単に縋って良い物では無いのかもしれないが、それでも魔法のが存在するほぼ何でも有りな世界だ。
復活アイテムの一つや二つ存在していた所で何も驚かない。
「待ってろや……シアン……ケヴィン」
エリルは覚悟を決めた。
このデスゲームに全てを捧げても良い。
何をどうやってでも必ずシアン達を助けると。
「俺があんたらを必ず生き返らせたるからな……何度でも……そう、何度でもや」
エリルの下剋上が……始まるのであった。
――――……。




