いつかお前等を
……このままではマズい。
何とかしなければと体を動かそうとするが、途端にエリルは踏みつけられ取り押さえられる。
抵抗出来ない様に地面へと押さえつけられ、武術を収めていると言えど数人の大の大人にこの様にのしかかられてしまえば、エリルに出来る事は無い。
「やってやれツギシーヌ!」
そして一番最初に自分を殴りつけた身体強化持ちの男が、何を格好つけているか知らないが指をボキボキと鳴らしながら此方へ近づいてくる。
そのまま指が折れてしまえば良いと思いながらも、エリルはこの状況を打破する術を持っていない事に戦慄し始める。
グラン達が助けに来てくれる可能性は少ないだろう。
先程も言った通りそれぞれの部屋は防音されている。
ここで起きている騒音も隣にすら届いてない事だろう。
……どう考えた矢先にエリルは自分を嘲笑う。
曰く、こんな時にまで仲間に助けてもらおうとするのかと。
グラン達の助けがとか考えている時点で既に仲間に縋ってしまっている証拠だ。
それによってシアンとケヴィンを失ってしまったのに、何故まだそれでも助けを求められるのだ。
その答えに辿り着くまでの道が違っていたとしても、これではこの場にいる彼等と同じ事をしているじゃないか。
きっとバチがあたったのだ。
そんな自分に対して、同じ穴の狢だと言わんばかりに彼らから殴りつけられる。
良い気味かもしれない。
そう思いながら、嫌味の一つでも言ってやろうと口を開くエリル。
「ええ大人が寄ってたかって一人のガキを虐めぬいて……ええ度胸やなクソ雑魚共が。やるんやったらはよぉやらんかい。欠伸がでてまうわ」
敢えての挑発。
さっさと終わらせてくれと思うがあまりに出た言葉と言う事だ。
「言わせておけばこの……な!?」
見事挑発にのったツギシーヌと言う名の男が、突然青褪めた表情で後ずさりを始める。
その理由は、この『嫌な奴』が現れたからである。
同時にエリルは舌打ちを行う。
これで暴力を受ける直前『助けられた事』が『二度目』になってしまったからだ。
「おやぁ? 人が沢山集まっている所にきてみればぁ、なぁにやってんのこれぇ?」
天井をすり抜ける様に、何故かステッキを持ちながらハットのつばを抑えて降りて来るロキに、エリルを取り押さえてた人物達も皆身を翻して逃げて行った。
「あれあれぇ? 暴力にはペナルティが発生するって言った筈なのに、それを分かっててなぁんでこんな事するのかなぁ? 仲間同士が争わない為のありがたぁいルールなのにぃ……僕の事舐めてるって事ぉ?」
「う……ぐ……何でもねぇよ!!」
と、ロキに威圧されたからか、この部屋に集っていた男達は一斉に逃げ出し、エリルは倒れ込んだままその場に取り残された。
……正真正銘、ロキに助けられてしまった形になった訳だ。
「んー、結構酷くやられたねぇ? 一発屋二発じゃないねぇこりゃぁ。相当なペナルティポイントが出る筈だけどぉ、あいつらは大丈夫かなぁ」
この期に及んでも彼が心配するのはポイントの事だけなのか。
流石こちらを駒としか見て無い様な奴だ。
1ポイントも稼げない自分がどうなろうと、彼は興味すら持っていないとでも言う事だろう。
確かにロキの言う通り、先程から暴力行為を受けた事によってポイントが付与された通知が届いている。
ただ、辛うじて視線に移っているそのポイントを集計したとしても、50ポイントには辿り着いていない。
身体強化が手に入る程殴られていれば何か変わったのかもしれないが、これじゃどうにもならないなとエリルは思ってしまった。
……エリルもポイントに考えを左右されてしまっている様な気がした。
「それにしても本当に酷いよねぇ彼らぁ。君をさぁ、こんな目に遭わせてさぁ。何でだろうねぇ、どうしてだろうねぇ? あいつらは本当に……本当に……」
仮面の表情を悲しそうな物に変化させ、こちらを慰めているかの様な発言をするロキ。
そこまで仲間内のでの揉め事が嫌なのだろうか。
だったらもっと本格的にそう言った行為を禁止すれば良いだろうにとエリルは思う。
「なんでこんな役立たずをさっさと殺さなかったんだろうねぇ!!」
「……」
所詮この程度だ。
何を自分は期待していたのか。
いや、期待すらしていなかったかもしれないが、何方かと言えば読み誤った方が正しいか。
こいつが如何に自分達の事を考えているのか。
考えていないのだ何も。
「あいつらの言う通りじゃん! お前がさぁ! 弱すぎるせいでさぁ! 僕のシアンとケヴィンが死んじゃったじゃないかぁ! 全く何て事くれたんだ君はぁ! 全部台無しじゃないかぁ! お前がシアン達の代わりに死ねば良かったじゃんかぁ! 何をいけしゃあしゃあと生き残ってるんだよぉ! 本当に無能は自分が無能だって理解してくれないから困るよねぇ!?」
「うるせぇわボケが……」
「んー? なんか言ったかぁい?」
恐らくいつもの様に顔近づけて、威圧感でも放っているのだろう。
そんな事今更どうでもいい。
いくら殺気を向けて来た所で、今の自分には正直全く効果が無いと言える。
こいつの発言から、こいつは自分がこうなる直前の出来事を見ていた事が伺える。
助けに来たように見せかけて、あえて偶然でやってきたかの様に振舞って、だが全てを見ていてワザと自分がこの様な状況になるのをほくそ笑んで見てたのだろう。
捻くれていると言う言葉では片づけられないレベルの意固地の悪さだが、それでも彼の発言に今回も同調する部分が少なからずある。
「そんなこと分かってんねん……あいつらの代わりに俺が死ねば良かったんやって俺自身も思っとるわアホ……」
「はぁ……何だ自覚持ちの方か。それはそれでしつこく生き残るから面倒臭かったりもするんだよねぇ。でも本当に、シアン達が死んだせいで僕の予定も大幅に狂っちゃったなぁ。シアンとケヴィンに匹敵すると言えばぁ……グランもそこそこだけどぉ、他の奴らがなぁ……」
何やらブツブツと己の中で計算しているのか。
シアン達の死に本気で残念がっているならまだしも、やはり発言は全て自分にとっての損得でしか推し量れていない様に感じ取れる。
……。
エリルの中でツギシーヌ達の行動への怒りが薄れて行った。
彼の中で元凶がはっきりしたからだ。
やはりこいつだと。
全てはこいつが原因だと改めて実感したからだ。
「んー、どれもこれもシアンとケヴィンが生きている前提のプランだったからなぁ。全部練り直しだよぉ。彼らが居なければ暫くここにも来る必要ないかなぁ。……でもぉ約束だけは熟しておくかぁ。これも『ルール』だしねぇ」
再びルールを口にするロキ。
やはり訪れる度に何かをしなければならないルールが存在しているのだろうか。
「大した質問が出て来るなんて思わないけどぉ、何か君から僕に聞きたい事あるぅ?」
……成程、それも『ルール』なのか。
こちらに譲歩している様に見せかけて、訪れる度に一回質問を投げかける事を許したその発言も、結局は『ルール』で決められている事だったと言う事。
恐らく他の神達の元に集った者達も、少ない質問回数を利用してそこから様々な事を考察して戦いを有利に進める様な手段を取っているのだろう。
そのルールを利用してロキは自分がこちら側に優しくしていると言う口実を作り上げたと言う事か。
全く本気でムカつく奴だとエリルは思い立つ。
なら……自分が聞きたいのはこうだ。
「俺が仮にこのまま生き残り続けて……異能も発揮して強くなり続けたら……いつかお前等を殺せるんか?」
上体だけ起こしながらロキを睨み付ける様にして質問を投げかけるエリル。
その質問に、何か満足する事でもあったのか、ロキは仮面の表情を満面の笑み……と言うよりも口端を大きく上げた不気味な笑みに変えながら応える。
「まぁ……シアンやケヴィンだったら出来ただろうけどぉ。君には無理だとだけ言っておくよぉ! 下らない質問をありがとう! じゃあねぇ!!」
言うと、ロキはステッキの持ち手の部分を持ってクルクルと回し始める。
するとこちらから見たロキがある一定の回数の回転をステッキが終えたあと、車のワイパーでこすり取られる雨水の様に、ステッキが通り過ぎた部分のロキが消えて行き、そのままステッキが一回転してロキが完全に消えた後、パッとステッキも消え去るのであった。
エリルは確信した。
シアンとケヴィンだったらできた。
これは裏を返せば……自分達の力は神達に届かせる事が出来るのだろうと。
それを成し遂げる可能性が高い存在が……彼等二人だったと言う事も。




