人のせい
「……黙れやボケナス共が……」
怒気の籠った声で呟くのはエリルである。
相手は『非戦闘組』の面々。
「黙れって何だ!? お前がシアン達を殺した癖に何様だ!!」
「ええからほんまに黙れ……これ以上お前等の口からあいつらの名前を出すな。……あいつらはお前等が口にして良いレベルの奴らとちゃう。何もしらんと適当な事抜かし続けよったら……殺すで」
「殺してみろや無脳が! 何もしてない乞食の癖にお前がそうやってシアン達に纏わりついてたからあいつらが死んだんだろ!? どうするんだよこれから!? 俺達の事は誰が守るんだ!?」
「……」
この非戦闘組の馬鹿達は、シアン達が死んでしまった事をなんとしてでもエリルのせいにしようとしていた。
それがシアン達の事を思っての発言ならまだ許せた。
彼らが心の中で思っている事は単純だ。
シアンとケヴィンと言う二人の柱を失った事で、自分達が死ぬ可能性が上がった事に対しての懸念を、そして不満をただエリルにぶつけているだけなのだ。
全てが他人任せ。
人の心配をしているのかと思いきや、自己保身の責任の所在探し。
少なくとも、シアンとケヴィンの死には彼らが何もしなかった事も要因の一つでは有る。
それだけは確実で、ミッションが始まる前にロキが言っていた発言の、そういった部分だけは……つべこべ言わずに戦えと言う発言だけは、同意せざるを得ないと思ってしまう。
……いや、元を正せばロキ達がこの戦いに自分達を巻き込んだ事が発端な為に、手放しに同意という事は出来ないが、それでもそれは結果論であって、その結果が今なのだからやらなければならない事はやるべきだ。
少なくとも、生き残りたい、死にたくないと言う意思が有るのなら、そうならない様に努力するべきであり、それをしないで他人に責任を追求すること自体間違っている。
特に彼らは、自分達が何もしなかった事が一因と言う事を少なからず理解しているのだろう。
だからこうやって自分よりも劣ると思える存在を槍玉に上げる事で、自分のせいでは無いと自分を安心させようとしているのだ。
実にくだらない。
だがそんな彼らに、お前が邪魔したからシアン達が死んだ等と言われてしまえば、確かにそうだと思ってしまう自分がいる。
これも結果論でしかないが、あの時自分がケヴィンの近くにいた事で、ケヴィンは自分を庇って死んだ。
そしてケヴィンの助力が無くなったことでシアンがあの様な猛攻を仕掛けるしか無くなった。
そして行き着いた先がシアンの死だ。
そこを言われてしまえば完全な否定は出来ないのだ。
「返せよ!」
「……何をやねん」
「俺達のシアンとケヴィンを返せ!」
「お前らほんま……何を言うてんねん。頭おかしいんとちゃうか? 誰がお前らのやねん……ふざけんのも大概にせえよ……」
本当にぶん殴ってやろうかと、エリルの脳裏には過ぎるのだが、そんな事しても意味無い上に、存在しない自分のポイントがこいつらに行ってしまう場合もある。
……こいつらが少しでも得する様な結果だけは避けたい。
何とも八つ当たり的な考えだが、エリルの中にも譲れない思いがあるのだ。
何をどう考えてもシアン達はこいつらのものでは無い。
そもそも誰のものでもないし誰も所有権など持ち得ない。
例えこの発言をロキがしたのだとしても、エリルは許しはしない。
戦いが終わった後、無慈悲にもシアンとケヴィンの居ないファミリーハウスへと戻ってきたエリル達。
戦闘を終えたと言う達成感よりも、シアンとケヴィンを失ってしまった喪失感と絶望感の方が勝り、誰もが何も言わないままその場を後にしてしまった。
いや、何方かと言えばグラン達は自分に気を使い、ただ今は黙って解散する事を選んだのかもしれない。
彼等にとってもシアンやケヴィンは大切な仲間達の筈だ。
それを失ってしまったのだから正常な心境ではいられない筈だ。
ミッション前に後で出て来ると言っていた筈のロキは姿を見せなかった事も含め、誰一人言葉を放つでも無く自室へと戻って行ったのだ。
そして状況を漸く理解した非戦闘組の者達が、シアンとケヴィンの件で文句を言うべく、部屋へと押し入って来たと言う状況である。
その自分勝手な物言いに対してエリルはキレる寸前まで来ている状況と言う事だ。
揃っている非戦闘組達は全員では無いのか、人数も15人前後と言った所だが皆が口々に何か罵る様な言葉を言い放っている為にエリルさえも聞き取り切れない程に雑音として室内に溢れていた。
防音が整っている影響か、何やら響き方も籠っている様に聞こえる事が更に不快感を増していた。
「お前がふざけんなっ!!」
「っ……」
先頭の男が突然殴りつけて来る。
ケヴィンはその攻撃のあまりの衝撃に脳が軽く揺れる事で尻餅をつく。
普通なら素人の一撃等、エリルにとっては油断していても避ける事だって出来た。
この目の前の男の攻撃も、動きだけ見れば素人のそれそのもの。
だがエリルは避けられなかった。
反応が追い付かない程に男の動きが早く、避ける動作すら許されなかったからだ。
そして食らって見てから分かったそれによって齎される殴りの威力。
……こいつは、『身体強化』を入手していると言う事実。
どう言う事だ?
こいつは……こいつらの一部は身体強化を持っていて戦える状況に有ったのに……戦う事から逃げたと言うのか?
……意味が分からない。
怒りが沸々と込み上げて来るエリル。
戦える力があって、その上で戦う事を自分達から拒否していたのに、シアン達が死んだらそれを他人のせい。
自分がその力を使って援護に入っていればシアン達は生き残っていたのかもしれないのに、それすらせず人を責める事に全力を尽くす。
……。
エリルは震える体を支えながらゆっくり立ち上がった。
我慢できない。
身体強化を持っている相手に勝てる事はないだろうが……それでも一発は殴らなければ気が済まない。
体の軸がブレている事は分かっている。
軽い脳震盪を起こしており、まともに戦える状況では無いが、拳を振り上げたエリル。
「おらぁ!!」
だが別の者から蹴りつけられ、あっけなくエリルは再び倒れ込んでしまう。
「俺にも! 俺にもやらせろ!!」
そして別の人物が腹部を蹴りつけ。
「こいつは最初から気に食わなかったんだ! 弱いくせに! 無能の癖に何故か強者側の立ち位置で振舞いやがって! 俺達を見下しやがって!!」
更にまた別の人物が頭を踏みつけて来た。
もう一人、また一人とエリルが何度か殴られ始め、最初の一撃以外はそれ程のダメージでは無いが、このまま続けられていれば死ぬ事になるかもしれないとエリルは一瞬だけ思った。
……シアンとケヴィンに助けられたのに、こんなつまらない事で死ぬのか。
そんな事許される筈が無いだろう。
……立ち上がらなければ、抵抗しなければ。
だが手足が言う事を聞かない。
身体が動かない。
最初の一撃がこれ程までに影響するとは。




