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我武者羅に

……?


エリルが得物に視線を落としていた時、僅かに耳に何かが『割れる』音が届いた。


瞬間、ケヴィンの攻撃の手段が変わった。


氷と炎を浴びせ続けていた彼の魔法が、硬く鋭い大地魔法へと切り替わったのだ。


まさか、本当に出来たのだろうか。


あのキングドラゴンの鱗に対しての『温度割れ』が。


そしてその瞬間、エリルの脳裏に活路が過った。


今回も仲間の力を借りる事になるだろう。


ボロボロの状態で、呼吸をする事さえままならない『彼等』を叩き起こして無茶をさせる事になるが、それでもエリルが思いついた作戦には必要不可欠な存在だ。


この方法に必要な異能を持っている存在は『二人』いる。


と言うよりも、やる事は以前の『スケルトンジェネラル戦』でやった事と似た様な事だ。


つまり、必要な存在は『グラン』と『マーロン』だ。


「悪いグラン……しんどいとこ申し訳あらへんが……手伝って欲しいんやわ」


「……俺で……出来る……事なら……」


樹木に背を預け、口元から出血を催しているグランが、体に鞭を打ちながら立ち上がる。


傍らで荒い呼吸をしながらも肩と顔だけは上げながらこちらを見ているマーロンにもエリルは目配せをした。


そしてやって欲しい事の説明を開始するエリル。


勿論前回同様、二人は何の躊躇も無く首を縦に振った。


「こんな事なら……ポーション類を買っておくべきだったか……」


「そうですわ……このイクサが終わり申したら……皆で揃えるでやんす」


お嬢様の様な言葉使いを始めたかと思えば、武士の様な事まで使いだした事でもはやそれは『方言』の類いに入っていないのだが、マーロンはそれで良い。


しかしグランの言う通り、確かに自分達は回復アイテムの所持を疎かにしていた。


攻撃は最大の防御と言うべきか、己の能力を上げる為に少しでもポイントを無駄にしまいと皆食事以外には殆どポイントを割く事は無かったのだ。


今回の戦いは自分達が想定していた時よりも遥かに異常な強さの魔物が現れてしまっただけだが、それでも回復アイテムを取りそろえていれば状況は違っていただろう。


それを後悔していた二人が、二度とこの様な状況を起こすまいと学んでいるのだろう。


「まずはここを乗り切るで……せやから、頼んだで!」


言いながら、エリルはグランへ槍斧を手渡した後、何も持たずにキングドラゴンへと走り出した。


何も持っていない自分は警戒されない。


これは二日目で戦ったフォレストウルフでも立証された結果だ。


実際にキングドラゴンは槍斧を恐れているだけであり自分自身等には見向きもしない筈なのだ。


予想通り、徐々に徐々に近づいているのだがキングドラゴンはこちらを見向きもしない。


寧ろ自分の胸部が砕かれた事によってケヴィンにもより一層警戒を向け始めている状態だ。


いいぞ、その二人に集中してろ。


今から飛んでもない一撃がお前を襲うぞ。


エリルはそう確信しながら、耳をつんざく様な風切り音が後方から聞こえ、駆け出すスピードをさらに上げた。


己の遥か上空を過ぎ去る『槍斧』を確認し、それがエリルの目的通り真っすぐキングドラゴンへと向かっていく様を見つめた。


グランの『投擲』によって投げ出された槍斧。


後方で無理が祟ったか、投げやりの動作を行った後に再びを少なく血を吐き出しながら倒れ込んだ。


無理させて本当に悪かった。


だがお陰で……勝利が掴めそうだ。


そしてエリルは大地を強く蹴り抜き高く飛翔した。


瞬間、強い浮遊感に包まれながらエリルの身体は高く高く浮かび上がる。


マーロンの念力によってエリルは操作してもらい、キングドラゴンの『胸部』の位置まで浮かび上がる事に成功したのである。


「グエェエエアアアアアアアアッッ!!」


キングドラゴンは悲鳴の様なものを上げた。


己の胸に、先程まで大地魔法で延々と攻撃を食らい続けていた鱗の部分に、深々と槍斧が刺さっていたからだ。


ジェシカが現時点で作り出せる最高の武器を、身体強化も異能強化も何れも二段階目を所持しているグランが投げつける。


単純にエリル自身が振り回すよりも、遥かに威力がある事が分かっているその方法で、確実にキングドラゴンへとダメージを与えた。


そこに恥もプライドも存在しない。


自分は勝つ為だけの道具になったって構わない。


シアンが翻弄して造り出した隙を、鱗の強度を弱める事で攻撃が通用するチャンスを作ったケヴィンの行動を、自分は最大限に利用する。


そして己の行動を、周りに最大限に利用してもらう。


それがエリルの戦い方だ。


マーロンの念力によって、見事の槍斧が刺さったキングドラゴンの胸部まで辿り着いたエリル。


そして柄を掴み一度それを引っこ抜くと、再びエリルは槍斧を高く掲げた。


「うぉおおおおおおおおおっ!!」


強く雄叫びを上げながら、自分を鼓舞しながら、エリルは槍斧を振り下ろした。


我武者羅であった。


無我夢中で攻撃を仕掛けるエリル。


鱗を貫いてキングドラゴンの筋繊維に辿り着いているのか、それともまだ表面で止まっているのかエリルには分からない。


キングドラゴンの叫びから判断するのであれば、異能と異能を掛け合わせた状態で放った最高火力を加味するのであれば、恐らく肉体へのダメージは発生している筈であろう。


エリルが槍斧を突き刺して引き抜く度に様々な反応を見せるキングドラゴン。


キングドラゴンにとっては小さな槍斧だろうが、奥深くまで突き立てればきっとそれは急所に届く筈だ。


その結果だけを手繰り寄せる為に、何度も何度も突き刺し続ける。


それを繰り返していた所で漸くキングドラゴンが抵抗を見せ、己の胸部にいるエリルを引き剥がそうとする。


胸元に付いた埃を払う様に、それこそ虫を追い払う様に胸部をはたく。


たしかにただそれだけでエリルは簡単に押しつぶされてしまうだろう。


いくら槍斧が驚異的な切れ味を持っているとしても、扱うエリル本人の能力はなんの強化も施されていない生身の状態だ。


それを分かっているからこそ、キングドラゴンはただ『払う』だけと言う仕草を見せた。


それだけでエリルを倒せると思ってるから、その程度の認識しか無いから。


だからエリルはそれを『回避』出来た。


予めマーロンと打ち合わせていた事で、エリルがキングドラゴンの胸部から飛び立てば、そのタイミングで念力を掛けて貰いキングドラゴンの腕から逃れる事が出来る。


槍斧は突き刺したままで構わない。


キングドラゴンの攻撃が通り抜けた後、再びエリルはキングドラゴンの胸部へと戻って攻撃を続けるのだから。

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