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シアン・ローゼンクランツ

エリルは氷の刃を放ったであろう人物へと視線を向ける。


「常に周囲に気を張ってろ。どれだけ手練れでも気を抜けば一瞬でやられるぞ」


鋭い目つきのまま、こちらを睨み付ける様な表情で助言を口にするのは『ケヴィン』だ。


仮面の男に放った炎の球と言い、今回の氷の刃と言い、彼が与えられた異能は一種類と言う訳では無いのだろうか。


それとも複数の属性を操る様な異能を与えられたとでも言うのだろうか。


「すまない、助かった。……お前にも助けられたな……名前は? 何て言うんだ」


紫髪の男がこちらに視線を合わせながら質問を投げかけてきた。


助ける事ができたとは思っていないが、それでも自分の行動で彼が無事だったと言うのも事実だろう。


「……エリルや」


「その言葉使いは西の方の出身か? 俺はシアン。『シアン・ローゼンクランツ』だ」


「せやな。あんたも『日本』から来たんかいな」


こちらの言葉から地元を当てられたとなると、シアンと名乗った彼は恐らく『地球』から召集された人物なのだろう。


この自分の独特の喋り方は、地球の存在する『日本』と呼ばれる国で一部の地方の出身者が口にする喋り方だ。


日本の標準語の次と言っても良い程度には有名な言葉使いの為、それを知っていると言う事は彼も日本人である事が頷ける。


「あぁ。恐らくだが俺の死因は大災害による被害だ。ここに来た時に他の奴も何人かそれの被害に遭ったニュアンスを口にしていたから、多分他にも日本人は居るんじゃ無いか」


仮面の男が、集められた自分達は様々な場所で様々な死に方をした者の中から集めたと言っていた。


シアンが言っている災害と、自分が死んだと思ったあの災害は恐らく同じ内容の物を言っているに違いない。


彼は恐らく言葉使いから日本の東の方出身の者なのだろうが……あの災害は日本全土に及ぶ程規模がデカかったと言うのだろうか。


それにしてもシアンと言う人物は背が高いな。


自分の男性の平均以上ある方なのだが、彼の目線は少なくとも親指一つ分は高い気がする。


180程と言った所だろうか。」


「手は大丈夫か? さっきあのウサギを殴った時鈍い音を発していたが。俺もあの魔物を蹴りつけた時は正直、鉄の塊か何かでも蹴ったのかと思ったくらいだったからな」


そんな感情を彼に描いていると、シアンが視線を落としながら言葉を投げかけて来た。


不意にエリルもウサギを殴り飛ばした右手の甲に視線を向ける。


先程砂利の大きさをミスったサンドバッグなんて分かり憎い例えをしたがあれは撤回する。


自分は恐らくコンクリートレンガでも殴ったのだろう。


そう思えるくらいには結構な拳の抉れ方をしていた。


このレベルの怪我なら武術をやっている最中にも何度かやった事がある為、そこまで痛みは感じていないのだが問題はそこでは無い。


少なくとも一般人以上には己を鍛えて、自慢では無いが若くしてその武術で免許皆伝を得ている自分が、その拳に怪我を負ってでも全力で殴り飛ばした一撃が、仮面の男が『雑魚』と称したこの魔物に通じていなかった……。


これは、確かに早い所異能の効果を見つけ出さなければ、ケヴィンの言う通りに一瞬で命を持って行かれる危険がある。


「くそぉ……血が……血が止まらねぇ……」


「おい! 大丈夫か!?」


ゆっくりとシアンと話している場合じゃなかった。


こちらは先程の戦闘で被害者を出したばかりである。


勇敢にも魔物に向かって一番に異能を使ったあの男だ。


コンクリートレンガの様な硬さを有しているあの魔物に、ただの石ころで結構なダメージを与えていた投擲の異能をもつ人物。


しかしもはやその男は今の状況では投擲を続けられる状況にないだろう。


ウサギの攻撃を防ぐ為に両腕をクロスして爪を受け止めたのだ。


今彼の両腕は、手首の下あたりからごっそりと無くなっていた。


「応急処置を……」


シアンが再びどうにかして彼の出血を止めようと動きだした時であった。


「いや……そんな悠長な時間はねぇみてぇだぜ」


一同はケヴィンの視線を追った。


下手をすれば、それだけで大多数の者達が絶望した事だろう。


戦闘は一瞬で片付いたとは言え、こちらはたった二匹に被害者を出してしまった状況だ。


そしてその被害を齎した存在が、自分達の目線の先には三桁に及ぶのでは無いかと思える程の数で、刃を剥き出しにしながらじりじりとこちらに迫っている姿が見えた。


「んな……アホな」


冷静を保っていたエリルでさえその光景には動揺してしまった。


「……戦うつもりがねぇ奴は下がってろ。邪魔なだけだ」


ぶっきらぼうに言い放つケヴィンだが、言葉の使い方とは打って変わってこれは恐らく彼なりの優しさだ。


裏を返せばそれは自分が戦って守ってやると言っている様にも聞こえるのだから。


その証明になるかは分からないが、ケヴィンは先程の氷の刃の応用なのか、両手が切断された男の傷口に氷の塊を出現させていた。


「取り合えず生きてりゃ回復できる異能を持ってる奴が居るかもしれねぇし、ポイントリストの中に有ったポーションとかで回復出来るかもしれねぇ。兎に角今は生き残る事だけ考えろ。だからさっさと下がれ!!」


語気を強めながらも、ケヴィンの指示に従うかの如く一同は後方へと退避して行く。


「あの……あの! 役立つかは分かりませんがその……私はまだ……怖いので……これを……」


震えながら差し出して来た彼女の手には、いつの間にか『槍』と思われる武器が握られていた。


「こいつは?」


「多分……私の異能です……『武器』って書かれてたのでもしかしてと思って……」


彼女は、あのファミリーハウスで腕を切断された女性だ。


己の異能の効果が分かったとしても、確かにあの恐怖を起こした存在が目の前にこれだけ蔓延っていたら戦う気なんて起こる訳が無いだろう。


だがこれはチャンスだ。


エリルは未だ己の異能が判明していないが、ここで『槍』が使えるなら話は変わって来る。


己の異能の効果を見つけるよりもまずはケヴィンの言う通りここを生き残るべきだ。


「……借りるで」


エリルは女性から槍を受け取った。


「お願いします……」


女性は申し訳なさそうに頭を下げると、腕が切断された男性と共に後方へと下がっていった。


彼女の手から離れても槍が消える気配はない。


彼女の異能は『武器を具現化する能力』で間違いないだろう。


そしてそれは今の自分にとっては非常に好都合な能力であった。


投擲の異能を持つ者が、石を投げただけであれだけのダメージを与えられた。


となれば、異能によって作られたこの槍を、それに伴う『武術』を収めている自分が使えば……きっと相応の効果が期待出来る筈だ。


「来るぞ!! 構えろ!!」


シアンが叫ぶ。


この場に残った面々は自分を含め三人。


残った者達は簡単に想像が付いた。


左右に視線をくべれば、ケヴィンが既に両手から炎の球と氷の刃を発生させた状態で待機し、その反対側で腕を回しながら準備を始めるシアンの姿があった。


やはりこの三人だろうな。


そう思いながら、エリルは槍の調子を調べる様に体の周りで一回転させた後、その場から走り出した。

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