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何とかしてくれる

ジェシカの異能によって形状変化の終わった武器へと再び視線を落とす。


異能強化2によってまた一段階と強くなった彼女の異能。


初日に作り出せる最高の武器は槍であった。


初期の異能強化を手に入れた時に作れたのは、スケルトンジェネラル戦で与えられた薙刀だ。


そして今回、異能強化2を持っている事で作りだされた武器は、槍よりも太い柄を持ち、薙刀よりも分厚い刃を持つ武器。


斧と槍のいい所どり……と言うよりは、無理やりその二つを合わせた事でただ振るうだけでも爆発的な威力をたたき出す事の出来る長物。


槍斧(そうふ)』と呼ばれる、英語圏では『ハルバード』と称される大きな武器だ。


特別この武器を扱った事がある訳では無いエリルだが、様々な武器を扱う無形影棍流で学んできた技術を総動員して応用する事で、直感的にその武器の使い方を理解するエリル。


先程言った通り、ただ振るうだけでも爆発的な威力を叩き出すこの武器であれば、この武器本来の重さを十分に利用する事で効果的なダメージが期待できる筈だ。


ゆっくり寝てろ。


最後の大仕事を果たしたジェシカが気絶する様に手を下した事で、心の中でつぶやいたエリル。


彼はそのままキングドラゴンを見上げ、ケヴィンの魔法によって再び縦横無尽に空中を飛び回っているシアンに夢中となっている様を確認する。


そのまま無警戒でいろ。


無警戒で居るからこそこの攻撃は通用する。


エリルはこっそり……とは言えない程に大胆に走り出す。


そしてあと数歩でキングドラゴンの『脚部』が間合いに入ると言うタイミングで跳躍し、槍斧を大きく掲げる。


キングドラゴンの足元、指の一本一本でさえ己の体躯を越える程の大きさを持つそれらの中から、人間で言う『小指』の位置に当たる一番外側のそれに向かって、エリルは力任せに槍斧を振り下ろした。


瞬間、エリルが攻撃した左足を急速に下げるキングドラゴン。


痛覚が反応したのだろう。


深くは攻撃が入らなかった物の、例えるのなら箪笥の角に軽く小指をぶつける程度の激痛は走った筈だ。


……言い過ぎか。


いずれにせよ、エリルが狙ったのは小指の『関節』に当たる部分だ。


いくら鱗が固く、非常に防御性能が優れているドラゴンであったとしても、関節が存在する限り体の曲がる部分は柔らかく出来ている筈なのだ、


出なければ構造として曲がる筈が無いのだから。


舐めていたからだ、無視していたからだ。


だから手痛いしっぺ返しを食らうのだ。


ギロリと片目で睨みつけてくるキングドラゴンを睨み返しながら、エリルはそう考えていた。


それと同時に、『こっちを見てていいのか?』という思考も巡らせる。


どうせ言葉等分からないのだから口にする事は無い。


ただ、小指が僅かに居たんだからと言ってこっちに視線を向けてしまえば、『もっと強烈な』攻撃を喰らう事になるぞと忠告する意味で笑みを浮かべたエリル。


キングドラゴンの視界の外側から、シアンが傷ついた下顎を強く蹴りつける様を見つめながら、エリルは再び槍斧を振り上げた。


一度傷つけた指の傷を中心に、エリルは幾度も槍斧を振り下ろす。


傷口を広げる様に、傷口をより深くする様に。


意識がキングドラゴンの意識が僅かにでもこちらに向かえば、シアンとケヴィンが戦いやすくなる。


いくらキングドラゴンからの被害を気にしたところで、どうせ自分はキングドラゴンの攻撃が掠っただけで瀕死……いやもっと言えば即死だ。


それにここまで奥深く入り込めば、それこそ前の様にケヴィンの援護が無ければ回避すら出来ない。


そんな状況ならもはやキングドラゴンの攻撃に怯えて、攻撃を仕掛ける事が億劫になるくらいなら最初から死ぬ気で攻撃に全ての意識を集中する。


一回でも多く手数を増やす、僅かだとしても重く強い攻撃を加える。


これが自分の出来る事を『全力』でやると言う事。


しかし、そんな自分の意思とは裏腹に、周りの人々は自分を放っておいてはくれない。


キングドラゴンがシアンから受ける攻撃を顧みずに、先のこちらを始末しようと意識を切り替えたのかエリルが先程攻撃し続けていた左足を軽く上げる。


勿論エリルの攻撃はそれだけで届かなくなってしまうのだが、振り上げた足をエリルの位置も確認しないままそのまま降ろしてきた。


恐らく踏みつけ様としていたのだろう。


直後にシアンの殴り込みと切断の影響によって大きく体を傾けるキングドラゴンだが、それでも自分は大きな足の踏みつける範囲にまだ入っている状況となった。


走って回避しても、先程グラン達がやられた衝撃波の様な物に巻き込まれて自分の身体は雲散してしまうだろう。


元より覚悟の上だ。


こちらに少しでも意識が向けば後はシアン達が何とかしてくれる。


そう思っての行動なのだから後悔など無い。


何方かと言えば最後に何か少しでも一矢報う事が出来ないだろうかと思い立ち、槍斧の刃を上に向けて地面に突き立てれば、キングドラゴンは自らそれを踏む事になるのではないかと考えたのだ。


もしかしたらキングドラゴンの大きさから考えれば画鋲を踏んだ程度の認識しか無いかもしれないが、それはそれでいてぇぞとニヤけるエリル。


これは諦めとは違う。


前向きに犠牲になるだけだ。


そう思って居たのに、そう決心していたのに、突然自分は襟首を掴まれて後方へと思いっきり投げ飛ばされる。


しかも風魔法のおまけつきで、突風にあおられたレベルでは済まない程に吹き飛ばされる。


何故だ。


何故こんな自分を守ろうとするのか。


一宿一飯の礼か?


ただ飲料とゆで卵を食わせただけだろう。


何故それなのに自分を強引に助け、最大戦力と自負している筈の彼が自らキングドラゴンの攻撃から発生する衝撃波をその体で受けるのか。


幸いにも風の膜を発生する事でダメージを和らげているのだろうが、ダメージがない訳では無い。


その僅かな時間の間にも攻撃は続けられただろう。


なのに大事なその時間を、その体を、ただ『エリルを助ける為だけ』に使うのは何故なんだ。


そう思いながらエリルは遠ざかって行くケヴィンの背中に向けて右手を伸ばす。


くそ……また自分は助けられた。


自分から起こした行動によって結局彼等に迷惑を掛けて、むざむざケヴィンがダメージを受ける隙を作ってしまった。


大したダメージでは無かったのだろう事は、瞬時に攻撃に戻っていったケヴィンの様子を見れば分かるが、それでも彼に無駄な労力を使わせてしまった。


……いや、思考を切り替えろ。


何れにせよケヴィンは無事だ。


それなら助けられた分のコストをなんとか巻き返す方法が無いかを模索する。


恐らくだがそう簡単にはキングドラゴンには近づかせて貰えない。


奴も自分を……と言うよりはこの槍斧を既に警戒の対象として扱っている筈だ。

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