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勝手に諦めていた

「落ちろトカゲ野郎!!」


ケヴィンの声にエリルは視線を上げた。


『ブレス』のチャージの様な物を終えた為か、今まさにその黄金の炎を吐き出そうとしていたキングドラゴン。


ターゲットとなるシアンへと放出を行おうとしていた際、開かれた大口の下顎をケヴィンが下側から蹴りつけていた。


口が強制的に半分閉じられる事となったキングドラゴン。


一瞬だけブレスの発動が中断されたが、お構いなしに己の頭部の方向へと飛び跳ねたシアンへ向けて今度こそブレスを吐こうとする。


大口の先端に存在する黄金の球が僅かに光、それがブレスの発動意味する事だと理解していたシアンとケヴィンは、そのタイミングで再びケヴィンの大地魔法の空中展開により角度を付けてシアンをキングドラゴンへと接近させる。


僅かにブレスが吐き出され、自分の目前へと向かってくるシアンへそれを浴びせ様と顔上げたキングドラゴン。


「お前の息は……臭すぎる!!」


鼻頭とでも言うのか、キングドラゴンの上顎、ケヴィンが先程『トカゲ野郎』と称した様に、蛇やトカゲの様に口元の上部に付いている鼻腔の中心部分へ、シアンは『踵落とし』を叩きこむ。


そのタイミングで同時にケヴィンが再び下顎を蹴り上げる事で、キングドラゴンは今度こそ強制的に、完全に口が『閉じられる』事となった。


ブレスを溜めに溜め込んだ状態で、口先にまだ黄金の球体が形成されたままの状態でそれを『飲み込ませる』様に口が閉じてしまえばどうなるだろうか。


大地を焦がしながらクレーターを作り上げる程のブレスが口の中で潰され、そのエネルギーが全てその瞬間『爆発』する事が起これば、キングドラゴンは発動した己のブレス攻撃によって自分の口内へ甚大なダメージを与える事となるだろう。


爆音を鳴り響かせた後、口からブレスでは無く煙を吐き出しながら地面へと落ちて来るキングドラゴン。


形状が保てなかったのか、口の一部が爆発によって完全に崩壊している。


瞬間的にエリルは駆け出した。


地面へと地鳴りを起こしながら横たわるキングドラゴンの頭部へ向かって全速力で駆け寄る。


キングドラゴンが己の自爆により怯んでいる間に、僅かでもダメージリソースを作り出す。


ケヴィンとシアンも同じ判断だったのだろう、空中から頭部に向かって急降下してくる二人。


一気に攻めるのはその瞬間だと誰もが思った筈だ。


しかし。


これだけのダメージを自滅によって喰らって、明らかに口元が崩壊している様子で地面へと横たわり、今正に暫く怯みによる行動不能状態が作り出されると言う場面であった筈なのにも関わらず。


最短距離で正確に、自分へと向かってくるシアンとケヴィンに対してキングドラゴンは己の『尾』を振るったのだ。


途端に弾け飛ぶ二人。


先程ハイポーションを使ってしまった事で、今エリルアイテムボックスに入っている回復アイテムは普通のポーションしか存在しない。


目の前で理解の追いつかない場面を目撃してしまった事で、何をボケているのかエリルの脳裏にはそう言った考えが過っている。


視界の端でキングドラゴンが既に体を起こしている状況を目の当たりにしても、お前などこの程度で十分だと言わんばかりに翼を振るわれた事で起こる突風に巻き込まれた状態でも、未だに夢見心地気分にでもなっているかの様に、ただエリルは流されるままに吹き飛ばされた。


今自分は何をしているんだったか。


キングドラゴンに向かって走っていた筈だ。


はて、シアンとケヴィンはどうしたのだろうか。


先程弾き飛ばされた様子を見た様な気がする。


その様な感覚のまま地面に叩きつけられ、体中に鈍い痛みを感じながらも何故か視線だけキングドラゴンから離れなかった。


いつの間にかレッサードラゴンを討伐したであろうグラン達が合流する様にキングドラゴンへと群がって行った。


しかし彼らは、先程のシアン達がキングドラゴンと拮抗していた事がまるで奇跡と言わんばかり、僅か一瞬で……ただキングドラゴンが地面を強く踏み込むと言うそれだけの動作で発生した衝撃波によって、無残にも血しぶきを上げながら吹き飛んでいった。


その衝撃はエリルの元まで届いた。


幸いにも自分は吹き飛ばされた後だった為に、距離減衰によってそこまでダメージは無かったのだが体自体は再び吹き飛ばされる。


エリルの意識が鮮明になったのはその瞬間である。


もっと詳しく言えば、グラン達と同じ様に流血を起こしながらもキングドラゴンへと飛び込んでいくシアンとケヴィンの姿を見た時であった。


一瞬にして自分の身に起こってる状況を理解し始める。


恐らく二人が弾き飛ばされた時、エリルは心のどこかで『終わった』と思ってしまったのかもしれない。


何もしていない自分が、いの一番に勝手に諦めてしまっていた事実に気づいた。


エリルは着地すると共に走り出した。


一番弱い自分が、一番役立たずの自分が、諦める権利等持っている訳が無かった。


グラン達がレッサードラゴンを素早く倒してここに駆けつけていたと言う事実も、捻くれた思考をすれば身体強化や異能を持ってるから簡単に出来たんだろうな等と考えてしまっただろう。


実際にはそんな事実等無い。


確かに、強化があってこそレッサードラゴンを倒せたこと自体は事実なのだが、その上で彼らは一秒でも早くシアン達を援護する為に全力を尽くしたと言う事だ。


それを自分は何もできないのにあいつらは戦えて良いななんて馬鹿げた思考を繰り広げてしまった自分を大いに恥じた。


一歩一歩を強く踏みしめ、今までと何ら変わりはしないが自分が出来る事を『全力でやる』覚悟を持ってキングドラゴンへと向かう。


ケヴィンは再びキングドラゴンの胸部へと氷魔法と炎魔法を交互に放ち、その上でシアンの動きをフォローする様に風魔法と大地魔法を駆使している。


キングドラゴンの本気の攻撃によってはじけ飛んでしまったグラン達は、息も絶え絶えの状態ではあるが辛うじて生きている事が分かる。


全員分のポーションを持っている訳でも無い上、その少ないポーションも恐らく満場一致でシアンとケヴィンに使うべきだと言う意見が出て来る事だろう。


だから今彼らの為にやれる事と言えば、一秒でも早くキングドラゴンを倒す事でファミリーハウスに戻る事だ。


そうすれば皆一斉に全回復を果たす事が可能だ。


生きてさえいれば後はどうにでもなる。


「シアン! ケヴィン! ここにポーションを置いとくで!!」


キングドラゴンから少しだけ離れた位置の道中に、アイテムボックスから取り出したポーションをほぼ投げ捨てる様に転がす。


彼等は必死に戦っているからこそ返事は無いが、間違いなく聞こえている筈だ。


ケヴィンがゆっくりとこちらに向かって下がり始めている事が分かり、勝手に転がっているポーションを拾って飲んでくれる事だろうとエリルは考えた。


もう少しで自分もキングドラゴンに辿り着く。


恐らくキングドラゴンは一切自分の事等眼中にない筈だ。


傷つける事すら出来ない攻撃しか出せない自分を警戒するよりも、自分へ確実にダメージを与える術を持っているシアンの方を大いに警戒している事が分かる。


だとすればこちらのその立場を利用させてもらい、腕がぶっ壊れても構いはしない腹積もりでキングドラゴンに攻撃をし続けよう。


そう考えながらレイピアを強く握りしめた時であった。


突然レイピアの持ち手がそれまでよりも大きく膨れ上がったかと思えば、確かな重みを感じる事で両手で持つ事を強制させられる。


エリルは視線をレイピアに移した時、細い刃だった筈の切っ先部分が太い『柄』に代わり、明らかに形状変化を起こしている最中である事が分かる。


レイピアだった武器を両手で握りしめ、その武器の本来の所有者である『ジェシカ』の方向へ顔を向けた。


うつ伏せで倒れこんでいた彼女だが、震える右手をこちらに向けて翳し続けている。


「……」


このデスゲームの初日にもこんな事があった事を思い出した。


自分は戦うのが今は怖いから、せめて自分の異能で作り出した武器を使ってくれと槍を渡してくれた彼女。


エリルはその槍を利用して初日の魔物の大群を屠ったのだ。


あの日と同じ様に、彼女はまた自分に己の武器を託してくれたと言う事だ。


全く役に立ってない自分の事を、まだ信じてくれる存在がいる。


そう考えるだけでも、何故か戦う勇気が湧いて来る。

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